闇治癒師は平穏を望む

涼月 風

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第1章

第56話 裏話

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……蔵敷拓海の監視者……

「はあ、何が悲しくて高校生の監視をしなきゃいけないんですかね?」
「そうボヤくな。これも立派な仕事だ。国から支給されるにしては結構な額のお金が入るんだぞ」

万年人手不足の警察では、たまに『辞め警』と呼ばれる警察を辞めて民間の探偵業務に就く者達にこうして仕事の斡旋がくる。

主に表に出せない案件や事件性の少ない場合が多いが、今回は高校生の監視業務の仕事だ。
本来はSP対策本部の仕事なのだが、会議の結果蔵敷拓海の警戒度は緩くなっており、護衛として霧坂柚子や学校内では教師に扮した者達もいるので、こうして民間の探偵会社に監視員として外注されたのだった。

「武田さんは、なんで警察を辞めたんですか?」

「ああ、現場の事を何も知らねえ若いエリート様がよ、署長になったんだ。威張りクソって俺達なんかゴミみたいに扱われてなあ、文句を言ったら移動させられそうになったんでね、その前に啖呵切って辞表を叩きつけてやった」

「それってパワハラですよね?証拠集めて訴えれば勝てましたよ」

「そうなんだが、どこぞの名家の親戚って話しで訴えても握り潰されるのがオチだ」

「いますよね~~家や親の威厳を自分の実績だと思ってる勘違い野郎が」

「まさに、そんな感じだ」

「今回の高校生は竜宮寺家の親戚ですけど、嫌だったんじゃないですか?」

「仕事に私情は関係ねえ。それに、竜宮寺家はあのエリート署長の親戚である神代院とは仲が良くないと噂だ。だから、引き受けた」

「その名家って神代院だったですか。あそこは、警察関係に親戚が多いですからねえ」

「そういうコッタ。そう言う椎名は何で俺んとこみたいな小さな探偵事務所に入ったんだ?二代目は優秀だけどまだ大学生だしそれに女だ。将来がある場所じゃねえぞ」

「まあ、そうなんですけど実はこれは所長しか話してないんですが、私の友人が高校時代に自殺しまして、その時の私は何もできなかったんです。散々男達に弄ばれたようなんですが、その子の両親はその子の為と言って世間体を気にして事件にしなかったんですよ。だから、思い悩んだ挙句に校舎の屋上から飛び降りたんです。
私は最初、警察官になろうと思って勉強してたんですけど、警察は事件が起きないと本格的に動かないじゃないですか?
事前に相談しても、その子のように両親に阻まれれば動きも出来なくなる。
だから、警官を辞めて探偵事務所に入ったんです。
探偵なら証拠を集めて、そういう子たちの力になれるんじゃないかと考えました。だけど、実際は浮気調査ばかりで辟易してたんですけどね」

「そうか、それは悪かった。辛い事思い出させちまって」

国産の一番売れていると言われる車で待機してた男女の監視員は、ターゲットである蔵敷拓海が校門から出てきたのを確認した。

「いつもならハーレム状態なんですが、今日は趣向が違いますね。もしかして、男色に目覚めた?」

「おい、馬鹿な事を言ってないで仕事するぞ。いつも通り、車を頼むぞ。俺は歩いて行くから」

「わかってますよ。出来るだけ見つからないように動きます。駅のロータリーで待ってます」

熱血漢で情に熱い元刑事の武田健一は、静かに車を降りて蔵敷拓海の後をついて言った。

「何か雰囲気が良くねえな。まあ、霧坂柚子がいるから問題ねえと思うが……」

霧坂の爺さんには若い時にしごかれた。
警察の道場に度々来ては若い警察官に武術を教えていたのである。

「この先に公園があったな。もしかするとそこで何かが起きるか?」

その公園は、夜になるとガラに悪い人達が酒盛りしてると度々通報があった場所だ。

道路からいい具合に死角になる場所があって若いカップルやそういう連中にとって使い勝手の良い公園らしい。

「おっと、あの男子高校生二人は、どこかに行ったぞ。もしかして呼び出し役か?」

ここまでの流れは全て動画に撮っている。
もし、そうならあの男子高校生も共犯だ。

「はあ~~あの制服は葛垣高校の生徒か、よくもまあ堂々とバットや鉄パイプ、それにチェーンも持ってやがる。隠しているがナイフも所持してるだろうな。今日はガキ達の喧嘩かよ」

この監視の仕事について最大の危機は能力者と呼ばれる者達との接触だった。あの時は、スマホ片手に実況放送している。

「相手の人数が多いが、どうするか?助けに入るのはご法度という話だし」

あくまでも監視が仕事。
わかっているが、心が熱く燃える。

「いかん、いかん。またやっちまうところだった。俺はこれで警察辞めたようなもんだしな」

スマホを取り出して、相棒の椎名に連絡を入れる。

【丸少、〇〇公園で葛垣のガキ共と交戦するようだ】

椎名はこれを受けて上にかけ会うだろう。

俺は……

「あ、アイツは……劉新明」

大陸系のマフィアで、度々地元の暴力団と抗争しているヤバい奴だ。

「まさか、ガキ操って丸少の確保に乗り出したのか?」

【背後に劉新明の姿あり。緊急時には参戦する】

こうして連絡を入れておけば後で問題になることはない。

「他にも手下が公園の出口を見張ってやがる。こりゃあ、ヤバいぜ」

【緊急時の参戦OK】

そうメッセージが届いた。

日本人なら唯の監視者に留まる。
だが、外国人なら国外に連れ出される危険がある。

蔵敷拓海は、一度国外に攫われたらしい。
その時は、海自まで出張って国際問題にまで発展しかけてた。
一歩間違えば戦争状態になってたという。

だから、そのようなことの無いように監視者である俺達にも参戦する権利が超法規で与えられている。

武田健一の顔は何故か笑っていた。
  




……アンジェ……

今日の放課後、本当なら最近仲良くなった森元莉里ちゃんと二人きりでカラオケに行くはずだった。

しかし、どこから聞きつけたのか、あざとい男子が参加をしてきた。
そして、最終的にはクラスの大半が参加する一大行事となってしまった。

しかし、今は期末試験の短縮授業期間だ。
テストが終わってから改めてカラオケに行くことになったのだ。

「最初からたっくんと帰れば良かった」

そう呟きながらはひとり帰り支度をした。
教室の窓からたっくんが見えた。
柚子さんはいるけど、珍しく男子二人と一緒だ。

「たっくん、ボッチ脱出した?」

あとでからかってやるかな。
そう思って、人気のないところで姿を消してたっくんのあとをついて行った。

あれ、なんか雰囲気悪!

どうみてもたっくんの友達ではなさそうだ。
傍目からは気づかないが柚子さんが二人を警戒している。

『何かありそうね。ほんとたっくんといると飽きないわ』

巻き込まれて体質のたっくんにはトラブルがつきもの。

退屈な学校生活に潤いを与える清涼剤みたいな人。

『あ、あの公園に行くんだあ』

たっくんと接触する前に、よく潜んでた場所。

たまに不良やカップルが来て騒がしかった。

だから、旧校舎の空き教室を暇つぶしの場所にした。
たまに生徒が来たから驚かして遊んでた。

『やっぱりたっくんね。今度は不良とバトルかあ。ほんとたっくんは面白い』

だが、その場所に不似合いな男達がいる。

『あれが指図してるのね。公園の出口の二人は、たっくんを監視してる元刑事さんが狙ってる。じゃあ、私は本命ね』

そして、そのスーツを着た電子タバコをふかしているオールバックのおじさんの背後に近づく。 

何やらひとりでぶつぶつ言ってるけど、要は痛めつけたたっくんを回収して利用するつもりらしい。

『昔ならともかく、今のたっくんを利用しようなんてバカな大人』

悪意を持ってたっくんを利用しようとする人はこの世界に必要ないよ。

そして、私はその男の背後から能力を使って腕を突き刺した。



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