闇治癒師は平穏を望む

涼月 風

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第1章

第55話 闘争

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その晩、勉強をして薬を飲みベッドに横になると枕を抱えたルミがやってきた。

「一緒に寝ていい?」
「構わないけど、何かあった?」
「パソコン借りていろいろ調べているけど私には分からないことが多すぎる」

確かにわからないことは多い。
特殊な施設で育った俺も特殊な環境で育ったルミもわからない事だらけだ。
でも、それって当たり前のことだと思う。
だから、少しづつ勉強して知識を得ているんだ。

「そうだよね。でも、多くの人がそんな感じだよ。ルミだけがそうなわけじゃないから。俺だってわからないことばかりだ」
「そうなの?」
「ああ、だからさっきまで勉強してたしね」
「そうか……」

そう言って同じベッドに入って来た。

「ルミは何か焦ってる感じがする。ゆっくりでいいんだ。急いでみんなと同じようになる必要はないんだぞ。それぞれのペースでいろいろ知ればいい」

「うん、じゃあ、たくみは恋愛って知ってる?」

突飛な質問がきてしまった。
俺はそれの答えを知らない。

「恋愛!?すまん、俺には経験がない。全くの未知だ」
「私と同じ。やはりタクミだ、あの時と同じ」

病院の屋上でもこんな話をした事がある。

「そうか、この間アンジェと話したんだがルミと一緒に何処かに行こうと思うんだ。ルミは何処に行きたい?海、山?」

「海は日差しが強いから山がいい」

そういえば、病院の屋上でも日差しは避けてたな。

「じゃあ、山にするか」
「うん」
 
信州の山しか知らないけど、他にも近場で
良いところがあるはずだ。
探してみよう。
 
「そろそろ寝るか、電気消すぞ」 
「電気はつけたままがいい」
「わかった、おやすみ」

こうして朝までルミと一緒に眠るのだった。



学校では、教室の隅で男子3人組が小声で話あっている。

「なあ、どうするんだ?」
「仕方ねえだろう?ヤバい人に目をつけられちまったんだから」
「蔵敷は気にくわねえから構わねーけど、霧坂はどうする?あいつ空手やってて強いらしいけど」
「蔵敷と霧坂は登下校一緒にしてるし、結城がいない時を見計らって、連れ出すしかねえだろう?」
「じゃあ、俺が上手いこと言って結城を別行動させるよ」

「それにしたって葛垣学園の奴等、なんだってあんな人知ってんだ?」
「あの人、大陸系のマフィアだろ?俺達まんまと美人局に引っかかっちまったな」
「野球部の先輩もグルなんて聞いてねえぞ。海川どう責任とるんだよ」
「俺だって知らねえよ。俺と同じポジションだから優しくしてくれてたけど、それは俺をハメる為らしかったようだし、二度とあいつとは話しねえ」

「じゃあ、放課後またな」
「ああ、わかった」

こうしてヒソヒソ話は終わったのだった。





放課後、帰ろうとすると海川くんが話しかけて来た。

「蔵敷、少しいいか?」
「構わないが、何かよう?」
「おり言って話があるんだ。途中まで一緒に帰らないか?」

珍しいこともあるものだ。

「いいけど、話ならここで聞くけど?」
「ここじゃ、ちょっとまずい話なんだ。帰りながら話をするよ。それと、霧坂さんにも聞いてもらいたいんだ」

柚子にもねえ……

「わかったよ」

こうして、海川くんと沼川くんと一緒に帰ることになった。
渚は友達と図書館で勉強するらしい。

柚子は護衛なので誘わなくてもついてくるだろう。
そして、アンジェなのだが早速友人とカラオケに行くようだ。
少しづつだが、クラスに馴染んできているアンジェを今はそっとしておいた方が良いだろう。

海川くん達と校門を出て、いつもとは違う道で帰宅する。
住宅街を通る道だが海川くん曰く、駅にはこっちの方が駅に近いらしい。

しばらく進んで公民館のような公共施設の隣に併設されている公園にたどり着いた。

「そこのベンチで話そうぜ」
「そうだな、俺達ジュース買ってくるよ」

海川くんと沼川くんは二人してジュースを買いに出かけた。
残った俺と柚子は一緒にベンチに座って話し出した。

「たくみ、何故あいつらの誘いにのった?」
「何か企んでいそうな感じがしたからな」
「それを知ってついて来たのか?バカだな」
「アンジェや渚に手を出されても困るし、柚子と俺ならそれなりに対応できるだろう?」
「ふん、そういうことか、せいぜい期待に応えるとするか。お目当ての奴らが来たようだしな」

制服を着崩した男達が10人ほどバットや鉄パイプを持ってこちらに来た。

「安っぽい不良漫画のようだな」
「柚子は余裕だな。できればその漫画を貸してほしい。今後の参考にするよ」
「ははは、たくみこそ余裕じゃないか」

俺は、不良達の他に不穏な気配を感じている。
おそらく、そっちが本命だ。

「おお、マブいじゃねえか。こいつはしばらく遊べそうだぜ」
「俺が先だ。こいつには駅前で蹴られた借りがある」

柚子とこいつらは。何らかの関係があるらしい。

「柚子、こいつらに何かしたのか?」
「覚えてないな。クズのことなど」

この場所は、通りからは見えずらいし、裏には公民館があり住宅街からは死角になっている。
それでも、昼間の街中だ。
こんな格好でここまで来たのなら、警察にでも通報されそうなもんだが?

ここまで運んできたやつがいるってことか?

遠くて見ずらいが黒いスーツを着た男が電子タバコをふかしている。
おそらく、その他にも公園の出口や物陰に隠れて見ている奴らも仲間だろう。

能力を使えば簡単だが、あの黒いスーツのやつが気になる。
ここは、素手で対応するか。

「流石にビビって何も言えねえか。いいぜ、あとでヒーヒー言わせてやるからよ」

「俺はこいつの相手をする。生きてればどんな状態でも構わねえって言われてるからよ。気晴らしがてらにボコるのも悪くねえ」

相手が決まったらしい。

「俺、手加減苦手なんだが柚子は平気か?」
「ああ、慣れてるしな」

うっかり殺してしまったら、マズい。
俺に蘇生能力はないのだから。





「何だ。何がどうなってる?」

所詮ガキの集まりだ。
女を与えてやりゃあ安くてすむ、そう思ってた。
護衛の女はそれなりにやるだろうと思ってたが、ターゲットのあいつは治療能力しかない三流の能力者のはずだろう?

何であんな動きができるんだ?
あれは、殺しを生業としている奴等の動きだ。

最初はヘルガイドに頼んだが、『無理』と言われて断られた。
裏の世界きっての暗殺者もやきが回ったと思ったが、奴はこいつのことを知ってたのか?

これは、マズい。

俺の他二人いるが、手を出せる相手ではない。
退散するしか……

『どこに逃げるつもりなの?』

女の声が間近に聞こえた。
は!?幻覚か?俺の腹から手が出てるのだが?

『私のたっくんに何してるの?襲ったんなら殺してもいいよね?』

すると、今度は腹に穴が空いた。
私の意識はそこで途絶えた。





「もうお終いか?」

「待て、俺達が悪かった……ぐはっ!」

「誰が口を開いていいと言った。

柚子が腹部に思い切り蹴りを打ち込んだ。
その男は、そのまま意識を失った。

そして、立ってるのは誰もいない。
かろうじて意識のある奴の髪の毛を掴んで持ち上げた。

「誰の指図で私達を狙った?」
「待て、待ってくれ。劉さんだ。劉さんに言われてあの男を連れ出して痛めつけろと言われた。その後役に立つとかなんとか言ってたけど詳しいことは知らないんだ」

「そうか、じゃあそこで寝ていろ!」

柚子の拳がその男の顔面に炸裂した。
男はそのまま吹っ飛び気絶した。

「柚子、殺してないだろうな?」

「知らん、そっちは終わったようだな」

「ああ、修造さんの鍛錬のおかげでな」

一応そう言っておく。

「さて、そろそろ出てこい。そこで震えているのは知ってるぞ」

柚子は、木の陰に隠れてこちらの様子を伺っていた海川くんと沼川くんに向かって言葉を放った。

「待て、待ってくれ。俺達もはめられたんだ」
「そうなんだ。女の後をついて行ったら脅されてこうするしかなかったんだ」

震えながら二人は木の陰から出てきてそう言った。

「脅されてビビったから仕方なしにクラスメイトを売る?見下げた奴だな」
「これは一線を超えている。私で無かったらどうなっていたと思う?」

「それは……」
「俺は悪くねえ。全て海川がいけねえんだ」

「クズはどこまでもクズだな」

柚子の言葉に反論もできないでいる二人。
そして、その後警察がやってきて俺達は一緒に警察署まで連れて行かれたのだった。
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