55 / 89
第1章
第55話 闘争
しおりを挟むその晩、勉強をして薬を飲みベッドに横になると枕を抱えたルミがやってきた。
「一緒に寝ていい?」
「構わないけど、何かあった?」
「パソコン借りていろいろ調べているけど私には分からないことが多すぎる」
確かにわからないことは多い。
特殊な施設で育った俺も特殊な環境で育ったルミもわからない事だらけだ。
でも、それって当たり前のことだと思う。
だから、少しづつ勉強して知識を得ているんだ。
「そうだよね。でも、多くの人がそんな感じだよ。ルミだけがそうなわけじゃないから。俺だってわからないことばかりだ」
「そうなの?」
「ああ、だからさっきまで勉強してたしね」
「そうか……」
そう言って同じベッドに入って来た。
「ルミは何か焦ってる感じがする。ゆっくりでいいんだ。急いでみんなと同じようになる必要はないんだぞ。それぞれのペースでいろいろ知ればいい」
「うん、じゃあ、たくみは恋愛って知ってる?」
突飛な質問がきてしまった。
俺はそれの答えを知らない。
「恋愛!?すまん、俺には経験がない。全くの未知だ」
「私と同じ。やはりタクミだ、あの時と同じ」
病院の屋上でもこんな話をした事がある。
「そうか、この間アンジェと話したんだがルミと一緒に何処かに行こうと思うんだ。ルミは何処に行きたい?海、山?」
「海は日差しが強いから山がいい」
そういえば、病院の屋上でも日差しは避けてたな。
「じゃあ、山にするか」
「うん」
信州の山しか知らないけど、他にも近場で
良いところがあるはずだ。
探してみよう。
「そろそろ寝るか、電気消すぞ」
「電気はつけたままがいい」
「わかった、おやすみ」
こうして朝までルミと一緒に眠るのだった。
☆
学校では、教室の隅で男子3人組が小声で話あっている。
「なあ、どうするんだ?」
「仕方ねえだろう?ヤバい人に目をつけられちまったんだから」
「蔵敷は気にくわねえから構わねーけど、霧坂はどうする?あいつ空手やってて強いらしいけど」
「蔵敷と霧坂は登下校一緒にしてるし、結城がいない時を見計らって、連れ出すしかねえだろう?」
「じゃあ、俺が上手いこと言って結城を別行動させるよ」
「それにしたって葛垣学園の奴等、なんだってあんな人知ってんだ?」
「あの人、大陸系のマフィアだろ?俺達まんまと美人局に引っかかっちまったな」
「野球部の先輩もグルなんて聞いてねえぞ。海川どう責任とるんだよ」
「俺だって知らねえよ。俺と同じポジションだから優しくしてくれてたけど、それは俺をハメる為らしかったようだし、二度とあいつとは話しねえ」
「じゃあ、放課後またな」
「ああ、わかった」
こうしてヒソヒソ話は終わったのだった。
☆
放課後、帰ろうとすると海川くんが話しかけて来た。
「蔵敷、少しいいか?」
「構わないが、何かよう?」
「おり言って話があるんだ。途中まで一緒に帰らないか?」
珍しいこともあるものだ。
「いいけど、話ならここで聞くけど?」
「ここじゃ、ちょっとまずい話なんだ。帰りながら話をするよ。それと、霧坂さんにも聞いてもらいたいんだ」
柚子にもねえ……
「わかったよ」
こうして、海川くんと沼川くんと一緒に帰ることになった。
渚は友達と図書館で勉強するらしい。
柚子は護衛なので誘わなくてもついてくるだろう。
そして、アンジェなのだが早速友人とカラオケに行くようだ。
少しづつだが、クラスに馴染んできているアンジェを今はそっとしておいた方が良いだろう。
海川くん達と校門を出て、いつもとは違う道で帰宅する。
住宅街を通る道だが海川くん曰く、駅にはこっちの方が駅に近いらしい。
しばらく進んで公民館のような公共施設の隣に併設されている公園にたどり着いた。
「そこのベンチで話そうぜ」
「そうだな、俺達ジュース買ってくるよ」
海川くんと沼川くんは二人してジュースを買いに出かけた。
残った俺と柚子は一緒にベンチに座って話し出した。
「たくみ、何故あいつらの誘いにのった?」
「何か企んでいそうな感じがしたからな」
「それを知ってついて来たのか?バカだな」
「アンジェや渚に手を出されても困るし、柚子と俺ならそれなりに対応できるだろう?」
「ふん、そういうことか、せいぜい期待に応えるとするか。お目当ての奴らが来たようだしな」
制服を着崩した男達が10人ほどバットや鉄パイプを持ってこちらに来た。
「安っぽい不良漫画のようだな」
「柚子は余裕だな。できればその漫画を貸してほしい。今後の参考にするよ」
「ははは、たくみこそ余裕じゃないか」
俺は、不良達の他に不穏な気配を感じている。
おそらく、そっちが本命だ。
「おお、マブいじゃねえか。こいつはしばらく遊べそうだぜ」
「俺が先だ。こいつには駅前で蹴られた借りがある」
柚子とこいつらは。何らかの関係があるらしい。
「柚子、こいつらに何かしたのか?」
「覚えてないな。クズのことなど」
この場所は、通りからは見えずらいし、裏には公民館があり住宅街からは死角になっている。
それでも、昼間の街中だ。
こんな格好でここまで来たのなら、警察にでも通報されそうなもんだが?
ここまで運んできたやつがいるってことか?
遠くて見ずらいが黒いスーツを着た男が電子タバコをふかしている。
おそらく、その他にも公園の出口や物陰に隠れて見ている奴らも仲間だろう。
能力を使えば簡単だが、あの黒いスーツのやつが気になる。
ここは、素手で対応するか。
「流石にビビって何も言えねえか。いいぜ、あとでヒーヒー言わせてやるからよ」
「俺はこいつの相手をする。生きてればどんな状態でも構わねえって言われてるからよ。気晴らしがてらにボコるのも悪くねえ」
相手が決まったらしい。
「俺、手加減苦手なんだが柚子は平気か?」
「ああ、慣れてるしな」
うっかり殺してしまったら、マズい。
俺に蘇生能力はないのだから。
☆
「何だ。何がどうなってる?」
所詮ガキの集まりだ。
女を与えてやりゃあ安くてすむ、そう思ってた。
護衛の女はそれなりにやるだろうと思ってたが、ターゲットのあいつは治療能力しかない三流の能力者のはずだろう?
何であんな動きができるんだ?
あれは、殺しを生業としている奴等の動きだ。
最初はヘルガイドに頼んだが、『無理』と言われて断られた。
裏の世界きっての暗殺者もやきが回ったと思ったが、奴はこいつのことを知ってたのか?
これは、マズい。
俺の他二人いるが、手を出せる相手ではない。
退散するしか……
『どこに逃げるつもりなの?』
女の声が間近に聞こえた。
は!?幻覚か?俺の腹から手が出てるのだが?
『私のたっくんに何してるの?襲ったんなら殺してもいいよね?』
すると、今度は腹に穴が空いた。
私の意識はそこで途絶えた。
☆
「もうお終いか?」
「待て、俺達が悪かった……ぐはっ!」
「誰が口を開いていいと言った。
柚子が腹部に思い切り蹴りを打ち込んだ。
その男は、そのまま意識を失った。
そして、立ってるのは誰もいない。
かろうじて意識のある奴の髪の毛を掴んで持ち上げた。
「誰の指図で私達を狙った?」
「待て、待ってくれ。劉さんだ。劉さんに言われてあの男を連れ出して痛めつけろと言われた。その後役に立つとかなんとか言ってたけど詳しいことは知らないんだ」
「そうか、じゃあそこで寝ていろ!」
柚子の拳がその男の顔面に炸裂した。
男はそのまま吹っ飛び気絶した。
「柚子、殺してないだろうな?」
「知らん、そっちは終わったようだな」
「ああ、修造さんの鍛錬のおかげでな」
一応そう言っておく。
「さて、そろそろ出てこい。そこで震えているのは知ってるぞ」
柚子は、木の陰に隠れてこちらの様子を伺っていた海川くんと沼川くんに向かって言葉を放った。
「待て、待ってくれ。俺達もはめられたんだ」
「そうなんだ。女の後をついて行ったら脅されてこうするしかなかったんだ」
震えながら二人は木の陰から出てきてそう言った。
「脅されてビビったから仕方なしにクラスメイトを売る?見下げた奴だな」
「これは一線を超えている。私で無かったらどうなっていたと思う?」
「それは……」
「俺は悪くねえ。全て海川がいけねえんだ」
「クズはどこまでもクズだな」
柚子の言葉に反論もできないでいる二人。
そして、その後警察がやってきて俺達は一緒に警察署まで連れて行かれたのだった。
41
お気に入りに追加
231
あなたにおすすめの小説
素質ナシの転生者、死にかけたら最弱最強の職業となり魔法使いと旅にでる。~趣味で伝説を追っていたら伝説になってしまいました~
シロ鼬
ファンタジー
才能、素質、これさえあれば金も名誉も手に入る現代。そんな中、足掻く一人の……おっさんがいた。
羽佐間 幸信(はざま ゆきのぶ)38歳――完全完璧(パーフェクト)な凡人。自分の中では得意とする持ち前の要領の良さで頑張るが上には常に上がいる。いくら努力しようとも決してそれらに勝つことはできなかった。
華のない彼は華に憧れ、いつしか伝説とつくもの全てを追うようになり……彼はある日、一つの都市伝説を耳にする。
『深夜、山で一人やまびこをするとどこかに連れていかれる』
山頂に登った彼は一心不乱に叫んだ…………そして酸欠になり足を滑らせ滑落、瀕死の状態となった彼に死が迫る。
――こっちに……を、助けて――
「何か……聞こえる…………伝説は……あったんだ…………俺……いくよ……!」
こうして彼は記憶を持ったまま転生、声の主もわからぬまま何事もなく10歳に成長したある日――
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。
ファンタスティック小説家
ファンタジー
科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。
実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。
無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。
辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる