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第1章
第50話 名古屋
しおりを挟む日曜日の朝、久しぶりに楓さんに起こされた。
「すみません、朝早く起こしてしまって」
「構わないけど、懐かしいな。楓さんに起こされるの」
「そうですね。最近は私より早く起きて走ってますものね」
楓さんがわざわざ、目覚ましが鳴る前に起こしたのには、個人的な依頼を受けてほしいという話だった。
別に予定はないので承諾すると、着替えを用意してくれた。
それに着替えて、パンとコーヒーだけの朝食を食べて楓さんと二人で出かけた。
「どこまで行くの?」
「名古屋です。新幹線に乗って行きます」
場所と地名は知ってるけど実際に行った事はない。
少しだけどんなところかワクワクしていた。
そして、新幹線に乗り、指定席を探して座った。
そこはツーシートの席で俺の席は窓際だった。
「楓さん、俺が窓際でいいの?」
「構いませんよ。私はどこでも大丈夫ですから」
そう言った楓さんは鞄から資料を取り出して読み始めた。
法律用語が頻繁に出てくることから弁護士の仕事の資料だと思う。
そう言えば依頼の内容を聞いていない。
楓さん個人の依頼らしいが聞いても良いのか?
「楓さん、今日はどんな内容なの?」
「そうでしたね。お話ししないといけませんね」
資料をしまい少し小声で語り出した。
………[回想]………
高校時代
「楓、私好きな人ができたんだあ」
「そうですか、おめでとうございます」
「そうじゃなくって、楓はどうなのさ」
「私は興味ありません」
「本当、楓って堅物だよね~~」
「なになに、好きな人ができたんだって?」
「あ、香織。そうだよ、剣道部の副部長の男子なんだ」
「知ってる。峰崎先輩でしょう。イケメンだもんね」
「そうなの。この間先生に授業で必要な副教材を頼まれて持ってきた時があったでしょう。その時、少し教材を落としちゃってそれを峰崎先輩が拾ってくれたんだ。その時運命的なもの感じちゃったんだよ」
「ベタねえ。それって勘違いじゃない?」
「そんなことないよ。だって『君、大丈夫?』って言って拾ってくれたんだよ。その時の顔がカッコよかったんだよね~」
…………
「そんな学生時代を送った私なのですが、その時の子がその峰崎先輩とお付き合いされまして、2年前に結婚しました」
楓さん、最初しか登場してませんが?
それに清水先生もキャピキャピしてますね。
それを口真似する楓さんって何者?
「それから、二人は愛を育み子供を授かったのです」
「それはよかったですね」
「はい、それで昨夜久しぶりに連絡を受けたのですが、どうやらその子供は心臓に欠陥があるようで、心臓移植しないと長く生きられないとお医者様に告げられたようなのです」
「それが、今回の治療相手なんだ」
「はい、電話中ずっと泣いてばかりでしたので、ウザったい……可哀想なので拓海様にお願いしようと思いました」
今、ウザったいとか言ったよな?
「うん、わかったよ」
「はい、子供には罪はありませんので」
何があった?
確かに子供には罪がないけど、その母親と楓さんの関係が気になる。
「そうだよね。わかったよ」
「はい、よろしくお願いします」
そう言って楓さんはまた資料を読み始めた。
俺は、依頼内容がわかったので、スマホを取り出してイヤホンを付ける。
恭司さんが『今度ライブ行くぞ』と言って勝手にダウンロードした曲が入っている。
恭司さんがいれてくれた曲だけどノリが良いのはいいけど、何言ってんのか早口でわからない。
もっと、静かな曲の方が俺は好みなのに。
イヤホンを外して、今度は投稿サイトの小説を読み始めた。
すると、前の席の女子達がどこかのイベントに行ってたらしくその話で盛り上がっている。
聞いてはいけないと思いつつ聞こえてくるので仕方がない。
…………
「昨夜のホテルの食事はどうでしたか?」
「おいしかったどすえ。それよりやっと@ぷらん様とのツーショット写真をゲットできたわ」
「私もです。見て下さい。この角度が良いんですよね」
「皐月もなかなかやりはりますなあ」
「お嬢様こそ、抜け目がないですね、これって24話の決めポーズですよね。よくこんな注文出せましたね」
「これも@ぷらん様の優しさどす」
…………
イベント行って楽しめるなんて良いもんだな。
俺も何か熱中できるようなことができれば、楽しく思えるのかな?
もう一回、恭司さんの入れてくれた曲を聴いてみるか。
少しは理解出来るかもしれない。
そして、イヤホンをまた付けたのだった。
~~~
「拓海様、そろそろ名古屋です。降りる準備を」
「うん、わかった」
…………
「皐月、うちおトイレに行ってくるわ」
「はいお嬢様、お気をつけて」
…………
新幹線が名古屋に着いた。俺は楓さんの後をついていく。その時前から来た女子とすれ違いざま肩がぶつかってしまった。
「あ、すみません」「うほぉ、こちらこそ」
そして、俺は名古屋の駅に降りたのだった。
…………
「お嬢様、大丈夫でしたか?」
「大丈夫どす、さっき肩がぶつかった男性、後ろ姿しか見えへんでしたけど、どこかで会った気がします」
「そうですか、東京の別宅の改修進捗を見に行くという口実でコスプレイベントに行ってたなんて鈴音様に知られたら怒られますし、お嬢様に怪我でもされたら私はクビになってしまいます」
「そんなことうちがさせまへんから、気にすることはあらしまへん」
…………
さっき肩がぶつかった女性、後ろ姿しか見えなかったけどどこかで会った気がする。
「拓海様、こっちです」
楓さんの後を着いて行って大きな駅を出てタクシー乗り場に行く。
タクシーに行き先を告げてその子供が入院している病院に直行した。
☆
病院の一階の受付で面会の手続きをする。
そして、訪れたのは入院患者のいる病棟でその子がいるのは個室らしい。
「『トントン』陣開です」
ドアの前で楓さんが声をかけると、ドアが開いて中から茶髪でショートボブの可愛らしい女性が出てきた。
「かえで~~~~~ぐすん、ぐすん」
「会ったそうそう泣かないで下さい。中に入りますよ」
抱きついてきた女性を引き剥がして中に入る。
そして、俺を招き入れた。
「かえで~~~~」
そして、部屋に入ったのはいいけど、またその女性は楓さんに抱きついて泣き出した。
「椿、髪を切ったのですね。似合ってますよ」
「うん、長いと子育てに邪魔だから~~」
しばらくそのままでいた二人だが、
「そろそろいいですか?紹介したい人がおりますので」
「うん、わかったあ」
「こちらが蔵敷拓海様です。そして、こっちが峰岸椿です」
「どうも」「うん、こんにちわ」
なんだろう。楓さんはサバサバしてるし、椿さんは甘えん坊の子供みたいだ。
「椿、いろいろ話はありますが、この書類に目を通してサインして下さい」
「うん、わかった」
椿さんは、書類をろくに読まずにサインをし出した。
「あの~~もっと良く読んだ方がいいと思いますよ」
危なっかしいので思わず声をかけてしまった。
「大丈夫、楓が用意したものだから」
そこには俺にはわからない二人の絶対的な信頼を感じた。
「これでいい?」
「はい、構いません。料金なのですが友達価格にしておきました。差額は私から拓海様にお支払いします」
「楓さん、俺は受け取れないよ」
「拓海様にとってはこれはお仕事です。私にとっては私的な行為ですが」
「大丈夫だよ、ゆー君が治るなら頑張って払うから気にしないで」
「楓さん、じゃあ5割引きでどう?」
「既に友達価格として3割引いてますけどよろしいのですか?」
「うん、そこから5割引いてくれる。それに差額はいらないから。じゃないと俺帰るから」
「わかりました。それでは書類を修正しますから少しお待ちください」
楓さんは、金額のところを修正して契約書を作り直した。
その間、俺は寝ている子供というか赤ちゃんを見る。
備え付けのベッドの柵にネームプレートがあり、そこには『ゆきとくん 8ヶ月 B型』と書かれていた。
ゆきとくんの状態は見た目では特に問題なさそうだ。
点滴などの処置はされておらず、指先にクリップのようなものが挟んでありそれがそばにあるモニターのついた機械に繋がっている。
「これなら、そのまま治療できそうだ」
俺は寝てる子の胸に手を当てて能力を発動した。
確かに心臓に欠陥がある。
何という病名なのかわからないが、成長するにつれてマズい状態になる事は明らかだ。
そして1分ほどで治療を終えた。
今回は赤ちゃんなので記憶の負担はほとんどないし、治す時の心臓の痛みもほとんど感じられなかった。
「楓さん、これで大丈夫なはずだ」
「お疲れ様です」
「ねえ、楓、もうゆー君は治ったの?」
「はい、拓海様の能力は国家の保証済みです」
「わかった。楓を信じる。それと拓海くんありがとう、ゆー君を治してくれて」
「普段お世話になってる楓さんの依頼ならできる事はなんでもするつもりです」
俺はそう答えたのだった。
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