闇治癒師は平穏を望む

涼月 風

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第1章

第32話 会議

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政府の関係者が集まる防音設備の整った会議場で、首相をはじめ外務大臣や外務省の官僚、そして防衛省の主要たるメンバーが集まって会議をしていた。

その中に竜宮寺家の当主である竜宮寺将道と雲仙家の当主である雲仙総一郎もいた。

「彼の国は何と言ってる?」

首相の多田総理は安藤外務大臣に状況を尋ねた。

「領海侵犯であると、それに軍港に我が国の護衛艦が着岸した事に対して軍事機密に関する多大な損害を受けた事に対する損害賠償を請求されています」

「ふざけるな!我が国の国民を攫っておいて、その事には触れず賠償を要求するなど言語道断だ」

そう発言をしたのは菅原防衛大臣だ。

「着岸の際にあさぎり護衛艦が、彼の国から機銃攻撃を受け船体に損傷を受けております。事前通達がなされていたと聞き及んでおりましたが?」

海上自衛隊藤倉幕僚長が部下からの報告を受け怒り気味で言葉を発していた。

「その件に関しましては、首相自ら相手国の首相に緊急用のホットラインで話し合いは済んでいます。一定の理解を得られてあさぎり護衛艦の領海侵入と着岸を許可されています。ただし、彼の国に対しての破壊行動は容赦しないと通達されておりました」

湯沢官房長官が返答をした。

「通達ミスか一部軍部の暴走か?それともあの忌々しい研究施設に与する者の仕業かもしれんな」

「多田総理、それでは彼の国から要求のあった賠償金を払うのですか?」

峯岸財務大臣は、その事に関して気が気ではない。既に予算は決まっている。予備費で払うにしても野党に何に使ったのかと突っ込まれるのがオチだ。

「賠償金は払う必要はない。その要求を言ってきたのは彼の国の大使館の連中だろう?ゴルディー館長は、軍司令長官の甥だと聞く。つまり、あの研究施設に関わっていた可能性がある。それに、彼の国の軍部はどうもきな臭い。今回の件も彼の国の首相は知らなかったと言っていた」

総理の返答に名家の一人が言葉を発した。

「知らないとは、それも嘘くさい話じゃ。国民を攫って置いていちゃもんをつけて金をせびる。まるでチンピラの所業じゃな」

そう言ったのは九州地方の名家として知られる永善家の当主である永善泰造であった。

「まあ、奴らの言い分もわかるわあ。人間誰しも病気や怪我がつきものや。それを治せる人物がおったら是が非でも欲しいと思うのは言い過ぎやろうか?なあ、竜宮寺将道はん?」

関西、主に京都を代表する神代院鈴音の言葉には、少しばかり竜宮寺家に対しての嫌味がこもっていた。

「私は自分の身内を安否を心配したにすぎん。誰しも自分の身内が攫われたらどんな手を使ってでも取り戻そうとするのではないか?神代院殿」

信州、甲州地方の名家である竜宮寺将道がそう答えた。

「私も身内が攫われたら相手が誰であろうと容赦はしない」

東北地方の名家である雲仙家当主雲仙総一郎が追随した。

この日本帝国は、かつて各々の地方を古くから名家と呼ばれる家が納めていた。
その影響力は今でも政治や経済に大きな影響力を持つ。

それと、昔のことだが首都を京都から東京に移したのは、日本帝国の国土の中心に近いという理由と、竜宮寺家の主導で湿地帯を埋めたて整地が済んだからでもあった。

首都を東京に取られたと積年の怨みを持つ神代院家は、事あるごとに竜宮寺家に嫌味を言うのが日常となっていた。

「なあ、竜宮寺はん、その治癒能力を持つ少年をうちに譲る気はあらへんか?」

「既に拓海君は当家縁の者だ。その答えはNOだ」

「その拓海はんというのは、高校一年生の男子と聞いております。うちのところにも同じ歳の娘がいてはる。そして、うちのところは女子しか後継がおらん。恋愛は自由やろ?その拓海はんがうちの京香の婿にくる未来もあるはずでは?」

長年の怨みよりも実利をとる神代院鈴音だった。

「その事に関しては本人に任せるしかないと返答しておく。だが、拓海君を籠絡するようなことは謹んでほしい」

「ふははは、そんなことしやしまへんって。だが、うちの京香は、えらい別嬪さんやから、拓海はんが惚れてしまうのは仕方のないことでっしゃろう?」

白熱した会議はまだまだ終わらない。
話し合いの一定の決着がついたのは、日を跨いだあとだった。





俺は、なぜか結城さんと霧坂さんと一緒に登校している。

「昨夜は楽しかったね」
「ただ騒がしかっただけですわ」
「お料理美味しかったね。どうだった、うちのお母さんの料理は?」
「素直に美味しかったですわ。でも、楓さんのお料理もまけてませんでしたわ」

いつの間にか料理勝負になってる2人なのだが、間に俺がいる事を忘れてないか?

「結城さん、ノートありがとう。昨夜見させてもらったけど、とてもわかりやすく書いてあったよ。大変だったんじゃないか?」

「そんな事ないよ。私の復習にもなってるし」

「それなら良いのだが、助かるよ。今度何かお礼をさせてほしい」

「お礼なんていらないよ」

断られることはわかってたけど、今度何か買ってお返ししよう。
ノートも新しいものだったし、文房具が良いのか?

「この変態駄猫!」

霧坂さんにお尻を蹴られた。
何故に?

「暴力反対!」

「そういう時は、相手の欲しい物をさりげなく用意して渡すんですよ、この駄猫」

そういうことらしい。
でも、お尻蹴ることないよね?

「でも、こうして拓海君や柚子ちゃんと学校に行けるなんて夢みたい」
「夢でしたら、どんなに良かったことでしょう、おほほほ」

こいつの猫かぶりは、健在らしい。
まあ、女子2人が仲良くなっているのは良いことだ。
以前は険悪だったし、それはそれで気が気じゃなかったし。

そんな通学風景も学校に近づくにつれて、暗雲が垂れ込めてきた。
俺にだけだが……

『誰、あれ?』
『学校休んでた奴じゃねえ?』
『学園の三大美女の二人を独占って、前世どんな徳を積んだんだ?』
『あいつ、ガチで殺す』

そんな会話があちこちから聞こえてきた。
隣を歩く二人にも聞こえているはずなのだが、今度は朝食はパンかご飯かで盛り上がっている。

(食えればいいじゃん)

と、思うのだがそうはいかないらしい。

「楓先輩の焼いたパンは、それは、それは美味しいんですよ」
「朝は、やはりご飯だよ。お米食べないとダメだと思う」

(うん、周りの声は聞こえてませんね……)

そして、教室に入ると、騒がしかった教室内が一瞬静かになった。
その視線が全て俺に集中している。

「おはよう」
「おはようございます」

結城さんと霧坂さんの挨拶でクラスの静寂は元に戻ったけど、一部分の視線が俺から外れない。

「なあ、蔵敷。俺言ったよな、変なフラグ立てんじゃねえってよ」

席に着いた途端、前の席の海川君から絡まれた。

「そういえばフラグって何?」

フラグなんて言葉『旗』以外の意味を知らない。
変な旗とは何だろう?
絵柄が変わってるのか?

「はあ?お前、マジで言ってんのか?ダセー」

呆れたように、友人のところに行ってこちらをチラチラ見ながら笑っている。

こういう時は恭司さんに聞いてみれば早い。

【フラグってなに?】

すると、早速返信がきた。

【こういうことだ】

その文面と共に、女子が食パンを咥えて男性にぶつかるシーンの漫画の一部分が送られてきた。

(………意味がわからん!それより旗はどうした!)

霧坂さんとも結城さんともそんな状況に陥ったことがない。
何故にそれが旗と関係するのか謎だけが残った。

それから朝のホームルームで担任から呼び出された。
職員室近くにある予備室で俺は受けれなかった中間テスト今日一日でやる事になってしまったのだが、旗のことが気になってモヤモヤしながらテストを受けたのだった。



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