32 / 89
第1章
第32話 会議
しおりを挟む政府の関係者が集まる防音設備の整った会議場で、首相をはじめ外務大臣や外務省の官僚、そして防衛省の主要たるメンバーが集まって会議をしていた。
その中に竜宮寺家の当主である竜宮寺将道と雲仙家の当主である雲仙総一郎もいた。
「彼の国は何と言ってる?」
首相の多田総理は安藤外務大臣に状況を尋ねた。
「領海侵犯であると、それに軍港に我が国の護衛艦が着岸した事に対して軍事機密に関する多大な損害を受けた事に対する損害賠償を請求されています」
「ふざけるな!我が国の国民を攫っておいて、その事には触れず賠償を要求するなど言語道断だ」
そう発言をしたのは菅原防衛大臣だ。
「着岸の際にあさぎり護衛艦が、彼の国から機銃攻撃を受け船体に損傷を受けております。事前通達がなされていたと聞き及んでおりましたが?」
海上自衛隊藤倉幕僚長が部下からの報告を受け怒り気味で言葉を発していた。
「その件に関しましては、首相自ら相手国の首相に緊急用のホットラインで話し合いは済んでいます。一定の理解を得られてあさぎり護衛艦の領海侵入と着岸を許可されています。ただし、彼の国に対しての破壊行動は容赦しないと通達されておりました」
湯沢官房長官が返答をした。
「通達ミスか一部軍部の暴走か?それともあの忌々しい研究施設に与する者の仕業かもしれんな」
「多田総理、それでは彼の国から要求のあった賠償金を払うのですか?」
峯岸財務大臣は、その事に関して気が気ではない。既に予算は決まっている。予備費で払うにしても野党に何に使ったのかと突っ込まれるのがオチだ。
「賠償金は払う必要はない。その要求を言ってきたのは彼の国の大使館の連中だろう?ゴルディー館長は、軍司令長官の甥だと聞く。つまり、あの研究施設に関わっていた可能性がある。それに、彼の国の軍部はどうもきな臭い。今回の件も彼の国の首相は知らなかったと言っていた」
総理の返答に名家の一人が言葉を発した。
「知らないとは、それも嘘くさい話じゃ。国民を攫って置いていちゃもんをつけて金をせびる。まるでチンピラの所業じゃな」
そう言ったのは九州地方の名家として知られる永善家の当主である永善泰造であった。
「まあ、奴らの言い分もわかるわあ。人間誰しも病気や怪我がつきものや。それを治せる人物がおったら是が非でも欲しいと思うのは言い過ぎやろうか?なあ、竜宮寺将道はん?」
関西、主に京都を代表する神代院鈴音の言葉には、少しばかり竜宮寺家に対しての嫌味がこもっていた。
「私は自分の身内を安否を心配したにすぎん。誰しも自分の身内が攫われたらどんな手を使ってでも取り戻そうとするのではないか?神代院殿」
信州、甲州地方の名家である竜宮寺将道がそう答えた。
「私も身内が攫われたら相手が誰であろうと容赦はしない」
東北地方の名家である雲仙家当主雲仙総一郎が追随した。
この日本帝国は、かつて各々の地方を古くから名家と呼ばれる家が納めていた。
その影響力は今でも政治や経済に大きな影響力を持つ。
それと、昔のことだが首都を京都から東京に移したのは、日本帝国の国土の中心に近いという理由と、竜宮寺家の主導で湿地帯を埋めたて整地が済んだからでもあった。
首都を東京に取られたと積年の怨みを持つ神代院家は、事あるごとに竜宮寺家に嫌味を言うのが日常となっていた。
「なあ、竜宮寺はん、その治癒能力を持つ少年をうちに譲る気はあらへんか?」
「既に拓海君は当家縁の者だ。その答えはNOだ」
「その拓海はんというのは、高校一年生の男子と聞いております。うちのところにも同じ歳の娘がいてはる。そして、うちのところは女子しか後継がおらん。恋愛は自由やろ?その拓海はんがうちの京香の婿にくる未来もあるはずでは?」
長年の怨みよりも実利をとる神代院鈴音だった。
「その事に関しては本人に任せるしかないと返答しておく。だが、拓海君を籠絡するようなことは謹んでほしい」
「ふははは、そんなことしやしまへんって。だが、うちの京香は、えらい別嬪さんやから、拓海はんが惚れてしまうのは仕方のないことでっしゃろう?」
白熱した会議はまだまだ終わらない。
話し合いの一定の決着がついたのは、日を跨いだあとだった。
☆
俺は、なぜか結城さんと霧坂さんと一緒に登校している。
「昨夜は楽しかったね」
「ただ騒がしかっただけですわ」
「お料理美味しかったね。どうだった、うちのお母さんの料理は?」
「素直に美味しかったですわ。でも、楓さんのお料理もまけてませんでしたわ」
いつの間にか料理勝負になってる2人なのだが、間に俺がいる事を忘れてないか?
「結城さん、ノートありがとう。昨夜見させてもらったけど、とてもわかりやすく書いてあったよ。大変だったんじゃないか?」
「そんな事ないよ。私の復習にもなってるし」
「それなら良いのだが、助かるよ。今度何かお礼をさせてほしい」
「お礼なんていらないよ」
断られることはわかってたけど、今度何か買ってお返ししよう。
ノートも新しいものだったし、文房具が良いのか?
「この変態駄猫!」
霧坂さんにお尻を蹴られた。
何故に?
「暴力反対!」
「そういう時は、相手の欲しい物をさりげなく用意して渡すんですよ、この駄猫」
そういうことらしい。
でも、お尻蹴ることないよね?
「でも、こうして拓海君や柚子ちゃんと学校に行けるなんて夢みたい」
「夢でしたら、どんなに良かったことでしょう、おほほほ」
こいつの猫かぶりは、健在らしい。
まあ、女子2人が仲良くなっているのは良いことだ。
以前は険悪だったし、それはそれで気が気じゃなかったし。
そんな通学風景も学校に近づくにつれて、暗雲が垂れ込めてきた。
俺にだけだが……
『誰、あれ?』
『学校休んでた奴じゃねえ?』
『学園の三大美女の二人を独占って、前世どんな徳を積んだんだ?』
『あいつ、ガチで殺す』
そんな会話があちこちから聞こえてきた。
隣を歩く二人にも聞こえているはずなのだが、今度は朝食はパンかご飯かで盛り上がっている。
(食えればいいじゃん)
と、思うのだがそうはいかないらしい。
「楓先輩の焼いたパンは、それは、それは美味しいんですよ」
「朝は、やはりご飯だよ。お米食べないとダメだと思う」
(うん、周りの声は聞こえてませんね……)
そして、教室に入ると、騒がしかった教室内が一瞬静かになった。
その視線が全て俺に集中している。
「おはよう」
「おはようございます」
結城さんと霧坂さんの挨拶でクラスの静寂は元に戻ったけど、一部分の視線が俺から外れない。
「なあ、蔵敷。俺言ったよな、変なフラグ立てんじゃねえってよ」
席に着いた途端、前の席の海川君から絡まれた。
「そういえばフラグって何?」
フラグなんて言葉『旗』以外の意味を知らない。
変な旗とは何だろう?
絵柄が変わってるのか?
「はあ?お前、マジで言ってんのか?ダセー」
呆れたように、友人のところに行ってこちらをチラチラ見ながら笑っている。
こういう時は恭司さんに聞いてみれば早い。
【フラグってなに?】
すると、早速返信がきた。
【こういうことだ】
その文面と共に、女子が食パンを咥えて男性にぶつかるシーンの漫画の一部分が送られてきた。
(………意味がわからん!それより旗はどうした!)
霧坂さんとも結城さんともそんな状況に陥ったことがない。
何故にそれが旗と関係するのか謎だけが残った。
それから朝のホームルームで担任から呼び出された。
職員室近くにある予備室で俺は受けれなかった中間テスト今日一日でやる事になってしまったのだが、旗のことが気になってモヤモヤしながらテストを受けたのだった。
41
お気に入りに追加
227
あなたにおすすめの小説


もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる