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第1章
第6話 襲撃
しおりを挟む「少し遅くなりましたね」
陣開楓は、腕時計を見て駅からの道をいつもより早い足取りで歩く
今日は、霧坂柚子が拓海の護衛としてついているが何だか胸騒ぎがする。
楓達の住むマンションは駅から10分、駅前通にエントランスを構えている。
そのエントランスに入ろうとした時、黒塗りの車が楓の側に横付けされた。そして、車の中から数人の黒尽くめの男達が降りてきた。
「陣開楓だな」
少し訛りのある日本語は、この者達が外国人である事を物語っていた。
「大陸系のマフィアでしょうか?それとも軍人ですか?」
男達は楓を囲むような位置に立っている。
その素早さは訓練された者達の動きだ。
(狙いは拓海様ですね。私を人質にですか。そんな情報は入ってきてませんでしたが……)
服の下には防弾チョッキを着込んでいるようですね。ピストルも所持しているとなると少し本気を出さないとマズいですね。
「質問してるのはこっちだ。お前達の素性は知ってる。既に別働隊が対象を捕獲している頃だ」
(柚子では荷が重いかもしれませんね。ならば、出来るだけ早く拓海様のところに向かわないと)
その時、楓の背後にいる者が動いた。
手にはスタンガンらしき物を持っている。
楓は、動作もなく一気に回し蹴りをその男の首筋に打ち込んだ。
「うっ……」
「あと3人」
目を見開いて右隣の男が襲いかかってきた。
楓は、その者の腕を取って懐に入り背負い投げでコンクリートの床に叩きつけた。正面の男は驚き懐に手を入れる。
楓は、素早く左隣の男の背後に回り込み腕を首に絡めた。
そして、その男を盾にして正面の男が拳銃を牽制する。
「日本帝国では、そのような物は御法度ですよ」
「お、お前はなんなんだ。ジャパニーズ・ニンジャか」
「私は、拓海様の保護者で弁護士でもあります」
そう言って男の首を絞めて拳銃を構えている男の方に気を失った男を突き飛ばす。
体当たりされた男は引き金を引いた。サイレンサーのついた拳銃は「プスッ」っと軽い音を立てて楓の傍を通りすぎる。
体制が崩れた正面の男に向かって突き出している腕を両手で交差するような動作で拳銃を叩き落とした。
そして、顎に向けて拳を走らせる。
「ううっつ」
短い呻き声を上げてその男は崩れ落ちた。
(マフィアというより、こいつらは軍人みたいですね)
その時、大通りから数人の男女がこちらに向かって走ってきた。
(後処理はあの者達に任せましょう。先ずは拓海様の身の安全を)
走ってきた人達の中に見知った顔を見て、楓はマンションの中へ走って行く。
その時、ふとマンションを見上げると雷のような光が一瞬見えた。
☆☆☆
破れた窓から侵入して来た者達は4人。
いずれも戦闘に特化した格好をしている。
「土足で上がり込むなんて無粋な奴達だ」
手で合図しながら、その者達は俺を確認した。
「蔵崎拓海だな。悪いが一緒に来てもらおう」
訛りのある日本語。
組織の連中ではなさそうだ。
「お前らを招いたはずはないが」
「貴様の能力は知っている。その力が必要だ。黙ってついてくれば、お前の関係者には何もしない。だが、陣開楓という女は既にこちらで預かっている」
(楓さんが人質ってわけか……うむ、楓さんがねえ~~)
「わかった、おとなしくしておこう」
既に、奴等は拳銃をこちらに向けいつでも引き金を弾ける状態だ。
「物分かりのよいのは高評価だ。上に丁重に扱うよう進言してやろう。有り難く思うんだな」
(こういう奴らって、なんでお喋りが好きなんだ?俺なら速攻で捕縛するのに)
「それはありがたい。だがその前に夕食と部屋をめちゃくちゃにした精算が済んでいない」
その瞬間、『パチッ』という音と共に部屋に眩い光が立ちこめた。
侵入者はその一瞬で崩れ落ちた。
さすが、エースナンバーの能力。確かあいつはAー16だったっけ。能力が暴走して自分が黒焦げになったのを俺が治療したんだよな。
「こいつら死んでないよな?」
(まずは、何かで拘束しなくては)
部屋にあったガムテープで、4人の男達をグルグル巻きにする。
そして、部屋に立ち込めている煙を窓を開けて吹き散らす。
風の能力は、Bー38だったな。
悪態をつくいけすかない奴だった。
それから気絶してる霧坂さんを納戸から引っ張って手にスタンガンを持たせる。
スタンガンは、家にも用意してあるが敵さんが持っていたのを拝借した。
その作業が終わったタイミングで楓さんが汗をかき息をきらしてやって来た。
「拓海様、大丈夫ですか!」
結構焦ってたようで、こんなに慌てている楓さんを見るのは初めてだ。
「俺は大丈夫だよ。霧坂さんが守ってくれたから。疲れて寝ちゃったけど霧坂さんも無事だよ」
楓さんは、周囲に倒れている男達と霧坂さんを見て
「……そうですか、柚子が」
その時の楓さんは、少し寂しそうだった。
「それより楓さんは大丈夫?こいつらが楓さんを拉致したって言ってたけど」
「ええ、確かに襲われましたが私は無事です。エレベーターが止まってなかったらもう少し早く来れましたのに」
その汗って、もしかして非常階段を駆け上ってきたの?ここ30階建ての28階だよ。
「拓海様、今夜はホテルに泊まりましょう。今、連絡を入れておきますので」
楓さんはスマホを取り出し、関係各所に連絡を取り始めた。
時間がかかりそうなので冷蔵庫から取り出した麦茶を入れて楓さんに渡した。
そして、俺も乾いた喉に麦茶を流し込んだ。
しばらくすると、いろいろな人達がこの部屋にやって来た。
霧坂さんは、気絶していた為、救急車で運ばれて行った。
きっと目が覚めたら『知らない天井だ』状態になるだろう。
黒尽くめの男達は、スーツを着た人達がやってきて連行して行く。
楓さんが言うには、明日の午前中に事情聴取があるらしく、俺と楓さんは警察本部に行かなければならないらしい。
(そろそろマズいな。楓さんは気づいてるようだし)
しかし、俺の能力を明かすわけにはいかない。
幼い頃から、この能力だけは知られてはいけないと危機感を持っていた。
姉にも、絶対しゃべっちゃダメって言われてたし。
(最悪の場合はアンジェみたいに逃げるか)
今までいろいろな人達にお世話になった。
その人達を、蔑ろにするような事は出来るだけしたくない。
それは、俺がまだ人間であるという証明にもなるのだから。
「さあ、行きましょうか?」
楓さんは、そっと俺に手を差し出した。
☆☆☆
「何であそこまで情報を流したのに失敗するかなぁ」
高層ビルの上から拓海達を見つめる人影があった。
「所詮、無能力者だ。限界がある」
「Cー46は治癒能力者でしょ。あの光は何だったのかな」
「煙が充満しててよく見えなかったが、Aー16の能力に似てた気がする。おそらくただの閃光弾だろう」
「BOSSに直接手を出しちゃダメって言われてるけど、接触したらダメかな?ちょっと、興味あるんだけど」
「BOSSの言葉は絶対だ。今は時期ではない。だが、監視は続けよとおっしゃった」
「それってどうなの?BOSSはあいつに甘くない?」
「Aー18、それはBOSSに対する不敬だ。それ以上言うならここでお前を始末する」
「はあ、全くAー24はBOSSのこと好きすぎてちょっと引くわ。でも、BOSSに逆らうつもりはないよ。だって、私達を救ってくれたのはBOSSだけなんだから」
「それがわかってるなら、素直に言うことを聞いておけ」
「へい、へい。でも、今回みたいに搦手はいいんだよね。こちらの情報が漏れなければ」
「確かに、その件についてはBOSSも認めていると思われる。完全に敵対することを避けているようだった」
「確かに治癒能力者は貴重だからね。私達が怪我しても嫌ってたら治してくれないかも」
「人質や薬で、というのは旧組織の時だけだ。今のBOSSは、我々の自主性を重んじてる」
「でも、それって最強能力者であるBOSSだから統率がとれているんだよね。怒ったらおっかないしけど無茶苦茶優しいし」
「うむ、異論はない。だが、それがいい」
「じゃあ、今度はあっちを利用しようか」
「あまり無茶はするな」
「わかってるって、今度は失敗しないよ」
ふたつの人影はそっと闇に溶け込んでいった。
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