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第5章

第95話 御曹司の隣の席

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「へ~~そんな事があったんですね」

バスの中で駒場先輩の話を聞いていた俺は、ルナが密かに調査している時に偶然に駒場先輩に出くわしたのだと思った。

「ああ、本当にあの時はこれでお終いだと思ったぜ。菅原には足を向けて寝られねえくらい感謝してるよ」

駒場先輩はそう言って、バスの後ろで楽しそうに騒いでる女子達を見た。

「それよりも話を聞いて駒場先輩の幼馴染が元メンバーだったんですね?」

「ああ、同じ学校の3年だよ。まあ、腐れ縁だわな……ぶっちゃけ、あれから凛花と話をしたんだわ。まあ、付き合っている彼氏の事とか聞いて、もう無理だと確信したってわけさ。だから、新しいバンドメンバーを探す気になったわけだが……」

それが、この間の路上ライブで歌っていた初台ルミネさんなのか?
駒場先輩はおそらくその幼馴染の事が好きだったのだろう。
話し合って諦める踏ん切りがついたのかもしれない。

しばらく駒場先輩と話をして、彼は「じゃあ、俺は戻るわ」と、女子達の方を向いてから自分の席に戻りヘッドホンをして目を閉じた。

俺も、空港に着くまで寝ようと思ったのだが……

「ねえ、ねえ、白鬼さん」

神泉さんから声をかけられた。

「何でしょうか?」

「あの~~図々しいお願いで申し訳ないんだけど、またアレをもらえないかしら」

「もしかして、髪の毛ですか?」

「うん、そうなの」

「構いませんけど、今じゃなくっていいですか?ここでは取りづらいので……」

「ジュネーブについてからでいいわよ。予備にもらっておこうと思ったんだけど、白鬼さんに迷惑かけちゃうし頼みずらかったの」

「遠慮しなくていいですよ。俺には見えないけど責任の一端があるようですし。因みにこのバスは平気そうですか?」

「うん、白鬼さんが来る前は、バスの中にもいたんだけど、来たらみんな逃げちゃったわ。だから、今は大丈夫」

えっ、バスの中にいたの?
怖いんだけど……

「見えるって大変そうですね」

「私は慣れちゃったから~~でも、以前は時々物凄く怖いのが出てきたのよ。でも、白鬼さんと出会ってからその怖いのもいなくなっちゃったし、私にとっては白鬼さんは神様みたいな存在なの」

何で幽霊が俺を避けるのかはわからないけど、神様ってのは勘弁してほしい。

「どんな風に役に立ってるのかはわかりませんが、神泉さんとこうして一緒に旅行に行けて俺は嬉しいですよ。それとさっき女子達でジャンケンしてたみたいですけど、何の勝負してたんですか?」

すると、神泉さんは顔を赤くしながら笑って、

「ふふ、さすが白鬼さんね。下北沢先輩が言ってた通りだった。ジャンケンの勝負の事は白鬼さんには教えてあげない。じゃあ、私は戻るわね」

そう言って神泉さんは早歩きでバスの後ろに戻って行った。

何だったんだ?

疑問に思っていると、ふと目の前に手が出された。
見上げてその手の持ち主を見ると、霧峰美里さんがそこにいた。

「これ、食べますか?」

そう言いながら隣の席に座る。
美里さんの手には、飴が握られていた。

「あ、うん、もらおうかな?」

手渡された飴の包みを解いて口に頬張る。
レモンの味が口一杯広がった。

「美里さんと2人で話すなんて久し振りだね」
「ええ、前の学園以来です」
「ところで、相変わらずルナとは仲が良いの?」

「光彦さん……貴方は眼科に行く事をお勧めします。基本的に菅原の者とは仲良くありませんので」

バスの後ろでもルナとは美里さんは正反対の方向に座っていた。

「そうかな?俺には仲良く見えるんだけど」
「はあ~~光彦さんの観察眼は異常をきたしているようです。私が治療してあげましょう」

そう言って顔を押さえつけられて指で目を広げさせ、ポケットから取り出した目薬をポタポタと俺の眼球に垂らしたのだった。

「うわっ!何で目薬なんて持ってるんだよ」
「護衛官の嗜みです」

そんな嗜み聞いたことねえ!

しばらく、美里さんとそんな格闘して気が済んだのか、バスの後ろに戻って行った。

全く、何なんだ!

「ふふふ、こっ酷くやられたみたいね?」

ハンカチで目を拭いていると、セリカ先輩の声が聞こえた。

「もう、さっきから何なんですか?取っ替え引っ替え女子達が来て~~」

「あら、聞いてないの?なら私も教えてあげない」

そう言って隣の席に座り、いきなり腕を組んできた。

「ち、近くありませんか?」
「何が?」

ダメだ。この人のペースにのってしまっては……

「この間は随分眠そうでしたけど、今日はスッキリしてますね?顔にクマもないです」

「光彦くんは私の事をよく見てるのね?それって興味があるってことよね?」

さらに身体を密着させるセリカ先輩。
いろいろ当たって気まずいし、良い匂いがするので落ち着かない。

「まあ、心配してたのは本当ですけど、何でいつも眠そうなんですか?」
「それはね~~秘密よ。謎多き乙女なの、私……」

教えてくれるとは思ってないので、構わないのだが……

「セリカ先輩、少し離れませんか?制服皺になっちゃいますよ」
「嫌よ。私、光彦くんが困ってる姿を見るのが何だか楽しいのよね」

俺は全然楽しくねえ!

「先輩はSっ気があるんですか?」
「自分の性癖なんて考えてみたこともないけど、光彦くんをいじめるのは楽しそうね」

勘弁してくれ~~

「そうだ。これ貸してあげるわ。後で感想聞かせてね」

手渡されたのは、『小豆ぽっち』さんのラノベだ。
前借りたものとは別物らしい

「それは嬉しいですけど、『小豆ぽっち』さんの作品を読む度いつも思うんですよね。『小豆ぽっち』ってどんな意味なのかって?」

「それは……きっと、作品を書き出した時は小豆みたいだったからじゃない?きっと今は大豆だと思うわ」

「大豆ですか?全く意味がわからないのですが……」

「光彦君はラノベ道の深淵に触れてないのね?もっと、精進した方がいいと思うわ」

そう言って組んでた腕を離して席を立ち女子達の席に戻って行った。

ラノベ道の深淵って何だよ?

意味がわからず、悶々としていると隣にいきなり熊坂さんが座った。

「水瀬君は大変ね」
「熊坂さんまで……何でさっきから女子が来るのか誰も教えてくれないんですよ」
「そうなの?女子達でジャンケンして水瀬君の席の隣に誰が座るか勝負してたのよ。結局、時間制になって、今度は私の番ってわけ」

何してんの?

「熊坂さんも参加したんですか?」
「うん、こういうのはノリだから。ひとりだけ参加しないと空気がしらけるでしょ?」

まあ、そうだろうけど、無理に参加しなくても……

「水瀬君は優しいからね。女子に人気なのよ」
「揶揄われているだけだと思うますけどね?」
「そんなことはないわよ。それに気を許した男性にしか女子は揶揄わないわよ」

そう言われてもピンとこない。

「そうだとしても、女子が何を考えているのかわからないですよ」
「う~~む。水瀬君を攻略するのは骨が折れそうね。みんなにそう伝えておくね。じゅあ、また」

そう言って熊坂さんは、後ろの席に戻って行った。
こうして、空港に着くまで、俺の隣には女子達がひっきりなしに出入りしてたのだった。





空港に着いて、出国手続きを済ませて飛行機に乗り込む。
飛行機内は、豪華な造りで一般的な飛行機ではなかった。

「うわ~~何この飛行機」「凄い、豪華」「これに乗っていいのかな?」

そんな声があちこちから聞こえてくる。

「これって貴城院家の飛行機じゃん」

海外に行く時に利用している馴染み深い飛行機だ。
確かに、セキュリティーの面とか考えればこの飛行機の方が安心だが……

機内には一般的な飛行機と違いエコノミー席などない。
全てゆったりと過ごせるようにと豪華椅子が置かれている。
しかも、個室も何室かありベッドやシャワー室まで完備してある。

取り敢えず空いてる席に腰掛けて、窓の外を眺めていると搭乗口から別の団体さんが搭乗してきた。

「皆さんの席は、一階になります。こちらの階段から降りて好きなところに座って下さい」

どこかで聞いた声が聞こえてきた。
俺は席を立って搭乗口に向かうと、何と楓さんがそこにいた。
そして、入って来た団体さんを見ると……

「あ、会長!」

俺に気づいた女性が声を上げる。
近藤商事の元営業2課で現在は『社内環境課』の上井草薫さんだ。
そう声をかけられてみんなに囲まれてしまった。

「いったいこれってどういう事?」

すると、楓さんがやって来て、

「驚かそうと光彦様には黙っていましたが、『社内環境課』の慰安旅行です。行き先はスイスのジュネーブですけど」

マジか……まあ、みんなが楽しければそれでいいけど……

「ご家族も一緒なんだね?」
「ええ、ゴールデンウィーク中の慰安旅行ですので、社員のご家族も一緒にお誘いしました」

楓さんはニコニコ笑いながらそう答えた。
その笑顔はどこか楽しげだ。

「会長さん、今回はありがとよ。会社の旅行で家族サービスもできちまう。最高のゴールデンウィークになるよ」

そう言って俺の肩をポンポンと軽く叩いたのは井荻課長だ。
井荻課長の家族らしき人達がその後ろに控えていた。

「そろそろ出発の時間ですよ」

楓さんの声がけでみんなは飛行機の一階に降りて行った。
一階部分も2階ほどではないが豪華な造りになっている。

その場に残った楓さんに、

「楓さんも来るなら事前に言ってほしかったよ」
「私は光彦様の驚く顔が見られて楽しかったですよ。では、後ほど一階に来て下さい。皆さん、ご家族ともども光彦様に挨拶したがっておりましたので」
「うん、わかった」

楓さんは一礼をして一階に降りて行った。

はあ~~クラスの中には俺の事を知らない人もいるし……どうしよう……。

俺の悩みは尽きないのだった。
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