九龍懐古

カロン

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陰徳陽報

ガルバとミノムシ

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陰徳陽報1





「ちょっと栄和一期のガルバ行ってこいよ」



ヘルスじゃなくてよかった。



「ツケ減らしてくれるんなら喜んで」

ソファで酒瓶を傾けて素敵な提案・・・・・をしてきたマオへ、条件つきでOKするアズマ。以前のヘルスと比べて大分だいぶハードルの下がった依頼…ん?ピンサロだったか?まぁとにかく。

我が物顔で【東風みせ】の酒を飲み散らかすマオアズマの返答にククッと喉を鳴らす。

テメェ、好きだろが。あの辺の店」
「そんな昔の話しないでもらえます?ジジィじゃないんだから」
「ほんっと、女が帰って来た途端に付き合いわりぃなモサメガネ」
「途端ってことないでしょ!藍漣アイラン居なくても【宵城】以外には行かないじゃない!」

モサメガネは手をパタパタさせ否定。確かに数日前、藍漣アイランが上海から九龍へと戻ってきていたが…この男、それとは関係無しにそういった店でフラフラ飲み歩く事はあまりない。今は・・。またぞろ喉を鳴らすマオ、若干気恥ずかしそうなアズマはカウンターに頬杖。

「クスリ関係?」
「じゃなきゃテメェに振らねぇよ薬中やくちゅう

‘当然’といった声音のマオを見やり、‘ですよね’と返す薬中は勘案。まったくもう…モサメガネだの薬中だの豊富なアダ名のバリエーションだわ…じゃなくて。
このネコちゃんが俺をパシる時は、十中八九じゅっちゅうはっくドラッグ関連のなにがしか。喧嘩方面ならイツキを、裏社会のイザコザなら燈瑩トウエイを、ちまたの情報収集ならカムラを当たればいいのだ…適材適所。別に訊く必要もなかった。
そういえば鶏蛋仔ワッフル屋もドーピングがどうとか言っていたとイツキより報告があった。しかし現時点でこの辺りに転がるジャンキーに変わった様子は無い、となると、新規で出回っているのは割かしライトな薬物やつと予想がたつ。パーティー系ファーストフードかな?花街のキャストにも飛び火したのだろうか。

「フツーにテンション上げる系統の薬じゃない?死んでんの?」
「死んでるかは知らねぇ、ちょいちょい消えてる。あとトラブルが増えた気ぃすんな」

アズマの疑問にマオは軽くため息、パイプへ火をいれる。アズマも紙巻きに手を伸ばした。
消えているは死んでいるとほぼ同義…トラブルが増えたのはそのブツを摂取した奴らのせいか。地下格闘技の件しかり、やはり高揚感の出る興奮剤?いや、けれど…バカスカ死人が生まれるたぐいの麻薬ならもっと噂が入ってきていてもいい。消える理由は別件?

検討中のアズマへ、ポポッと煙を吐くマオ

「ルート割れりゃいーから。ブラ下げろとは言ってねぇだろ」
なつぅ」
はひほへなにそれ

月餅の仕分け──復活節イースター限定品をたくさん買ってきたのでみんなにもお裾分けです──を終えたイツキが、キッチンからトコトコやって来て疑問符。ウサギ柄の小振りな袋をアズママオへ差し出す。口がモゴついているのは既に自分の分を食べているからだが、それはさておき、ブラ下げたとは?

「前に半グレの売人連中と喧嘩になってね、マオにゃんそいつらボコして興発楼でミノムシにしたのよ」
「ミノムシにしたのはテメェじゃねぇか。んな重労働、マオ様がするわきゃねっつの」
「やらせたのはマオにゃんじゃぁん」

要は───揉めごとを起こし、相手グループを1人残らずして簀巻すまきにしたマオが、アズマを呼び付け全員を手近なビルの屋上からミノムシよろしく吊り下げさせた、というほのぼのストーリー。‘ってねんだからメチャクチャ優しいだろ’と首を回すマオへ、‘いいバイトでしたね’とアズマ。その時もお手伝いでツケを減らしてもらったようだ。
いつの話だろう…あったっけなそんなこと…思いつつイツキは月餅を吸い込む。アズマもお裾分けをかじり、ペロッと指を舐めた。

「ガールズバーだっけ?栄和一期の」
「そ。薬流してる女がいるみてぇ、どいつかはわかんねぇけど」

瞼を細めてパイプを振るマオ、どうも情報が曖昧らしい。さしあたり然程さほど大きな事件でも無い…耳に届くネタが少ないのは必然。

「したら、周りの遊び場も覗いてみよっか」
「まーいーよ何でも。お前に任せるわ」

アズマの言葉にマオは再度パイプを振る。月餅をもうひとくちかじアズマは‘美味しいか’と視線で窺ってくるイツキへサムズアップ。

「夕方には開くよね?ガルバだし。口あけで行ってくる」
「んだよモサメガネ、夜は予定・・あんのか」

あると答えかけてやめたにも関わらず、‘女に奢る前にツケ返せ’の台詞と共に飛来した酒瓶を額に喰らいフロアへ倒れるモサメガネ。この猫ちゃん、言ってもいないのに藍漣アイランとデートだと決めつけないでいただきたい!正解ですけどね!2発目を回避するためなるべく存在感を消したまま床に突っ伏しているアズマと、お構い無しで追撃を叩き込むか迷っているマオ。生殺与奪。
いつものやりとりを眺めながら、イツキは自分も夜ご飯は外食──といってもレンの所に行くだけ──をしようと決め、復活節イースター用に開発されているであろう新メニューへホクホクと想いを馳せた。
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