394 / 409
悠々閑々
鶏蛋仔と萬屋・前
しおりを挟む
悠々閑々5
「助かるよ樹くん!わざわざどうもね!」
「んーん、全然。ヒマはっはひ」
お馴染みワッフル屋店内。キッチンから礼を言う店長へ、ドシドシ焼き上がる鶏蛋仔を次々に口へと運びつつ答える樹。
本日の萬屋への依頼は新作商品の開発協力、要は試作品の味見とお片付け係。なんとも素敵でテイスティー。
若者人気を獲得する為に日々仁義なき戦いを繰り広げているスイーツ店。流行りの映えるワッフルにひと工夫加えた新作を生み出そうとこちらの店長も試行錯誤、その過程で量産される山程のお試しワッフル群を平らげ感想を述べるのが大食漢の仕事。開発が上手く行って儲けが増えたら新店舗も出店したいと店長は意欲的。
「どうかなぁ?ここまででは、どれが美味しかったかな?」
「んー…アッサムチョコチップ」
「なるほど!それは結構こだわった1品でね、チョコだけの物はよくあるしアクセントで紅茶をプラスしてみたんだよ!」
「うん」
「しかしアールグレイというのもありきたりだから上へたっぷりのせた生クリームとよりマッチするようにミルクと合うアッサムにして、トッピングもクッキーではなくショートブレッドを採用してみたのさ!」
「うん」
「オマケでロンドン風バスや近衛兵のマシュマロをくっつけて、見た目の可愛さとカラフルさもアップ!仕上げにチョコスプレーもたっぷりまぶしてね!」
「うん」
「さらに生地へチョコチップを溶け込ませることで時間が経っても普通のものより柔らかくて食べやすいんだ、ってそれは樹くんの食べる速度なら関係ないか!ははっ!」
─────よく喋るお祭り男。
しかもやたらと元気がいい。ズモズモと鶏蛋仔を吸い込み首肯する樹。蓮も料理の話になると口数が多いが…店長も負けてないな、これがコック…考えている傍から配給される鶏蛋仔。ココアチョコチップ生クリームカカオパウダーがけ、ジンジャーマンクッキーとサンタ風カラフルマシュマロにラムレーズンアイス添え。
「これはクリスマス限定にするかも知れないんだけどね!やっぱり季節ごとのメニューは大事だし盛り上がるから!旧正月に販売してみた‘獅子舞レインボー’の売れ行きも好調だったし、イースターや端午節のお祝い商品も作りたいね!あっそういえば樹くん今年も饅頭大食い大会に出るのかい?」
「んー、俺前回で殿堂入りしちゃってるし…どうかな…」
棚に飾ってある優勝トロフィーを指差す店長へ樹は首を傾げる。今回もおそらく、出場すればトロフィーは獲れる。獲れるが。
「主催者側が声掛けてきたら出る。あんまりいっぱい食べちゃっても悪いし」
「いいんだよ、そういう趣旨の大会なんだから!樹くんは優しいねぇ!」
「店長は饅頭争奪戦どうするの」
「それがねぇ、もちろん挑戦したいんだけどいかんせん腰が…寄る年波には勝てなくて…また上くんが出てくれたりしないかな?あの戦いぶりは最高だったよ!彼、リングでも人気選手だしね!」
目を輝かせる店長、‘上に打診してみよう’と頷く樹。上に言ったらゲンナリされそうだが…多分、何だかんだで来てくれる。付き合いの良い平安饅頭。そうしたら新たに彗も呼んで匠も呼んで、みんなで長州島へお出掛けだ。前より賑やかで楽しくなるだろう。
ちなみに‘リングでも’、のリングは、ご存知地下格闘技。紅のカムラは時折試合に顔を出す。相変わらず全くもって強くはないが、地下格闘だというのに一切のズルもファウルも無く実直なファイトスタイル、些か及び腰ながらもめげずに戦う不屈の精神、そもそもおよそ喧嘩に向いていなさそうなポチャっとした体型、されどその出で立ちで泥臭く相手に喰らいつく姿などが観客達の心を揺さぶる模様。十中八九勝てないと誰しもが予想しているにも関わらず、オッズは常にめちゃくちゃ低い。
「上くんってば試合のオファー滅多に受けてくれないからさ。お客さんが待ち侘びているんだよ、そっちの件もほんのちょこっと頼んでおいてくれないかい?」
ウインクを飛ばすお祭り男に樹もウインクを返す。此度は奇跡的に、どうにかこうにか数ミリ程、片目の開きを残すことに成功したような気がした。
「助かるよ樹くん!わざわざどうもね!」
「んーん、全然。ヒマはっはひ」
お馴染みワッフル屋店内。キッチンから礼を言う店長へ、ドシドシ焼き上がる鶏蛋仔を次々に口へと運びつつ答える樹。
本日の萬屋への依頼は新作商品の開発協力、要は試作品の味見とお片付け係。なんとも素敵でテイスティー。
若者人気を獲得する為に日々仁義なき戦いを繰り広げているスイーツ店。流行りの映えるワッフルにひと工夫加えた新作を生み出そうとこちらの店長も試行錯誤、その過程で量産される山程のお試しワッフル群を平らげ感想を述べるのが大食漢の仕事。開発が上手く行って儲けが増えたら新店舗も出店したいと店長は意欲的。
「どうかなぁ?ここまででは、どれが美味しかったかな?」
「んー…アッサムチョコチップ」
「なるほど!それは結構こだわった1品でね、チョコだけの物はよくあるしアクセントで紅茶をプラスしてみたんだよ!」
「うん」
「しかしアールグレイというのもありきたりだから上へたっぷりのせた生クリームとよりマッチするようにミルクと合うアッサムにして、トッピングもクッキーではなくショートブレッドを採用してみたのさ!」
「うん」
「オマケでロンドン風バスや近衛兵のマシュマロをくっつけて、見た目の可愛さとカラフルさもアップ!仕上げにチョコスプレーもたっぷりまぶしてね!」
「うん」
「さらに生地へチョコチップを溶け込ませることで時間が経っても普通のものより柔らかくて食べやすいんだ、ってそれは樹くんの食べる速度なら関係ないか!ははっ!」
─────よく喋るお祭り男。
しかもやたらと元気がいい。ズモズモと鶏蛋仔を吸い込み首肯する樹。蓮も料理の話になると口数が多いが…店長も負けてないな、これがコック…考えている傍から配給される鶏蛋仔。ココアチョコチップ生クリームカカオパウダーがけ、ジンジャーマンクッキーとサンタ風カラフルマシュマロにラムレーズンアイス添え。
「これはクリスマス限定にするかも知れないんだけどね!やっぱり季節ごとのメニューは大事だし盛り上がるから!旧正月に販売してみた‘獅子舞レインボー’の売れ行きも好調だったし、イースターや端午節のお祝い商品も作りたいね!あっそういえば樹くん今年も饅頭大食い大会に出るのかい?」
「んー、俺前回で殿堂入りしちゃってるし…どうかな…」
棚に飾ってある優勝トロフィーを指差す店長へ樹は首を傾げる。今回もおそらく、出場すればトロフィーは獲れる。獲れるが。
「主催者側が声掛けてきたら出る。あんまりいっぱい食べちゃっても悪いし」
「いいんだよ、そういう趣旨の大会なんだから!樹くんは優しいねぇ!」
「店長は饅頭争奪戦どうするの」
「それがねぇ、もちろん挑戦したいんだけどいかんせん腰が…寄る年波には勝てなくて…また上くんが出てくれたりしないかな?あの戦いぶりは最高だったよ!彼、リングでも人気選手だしね!」
目を輝かせる店長、‘上に打診してみよう’と頷く樹。上に言ったらゲンナリされそうだが…多分、何だかんだで来てくれる。付き合いの良い平安饅頭。そうしたら新たに彗も呼んで匠も呼んで、みんなで長州島へお出掛けだ。前より賑やかで楽しくなるだろう。
ちなみに‘リングでも’、のリングは、ご存知地下格闘技。紅のカムラは時折試合に顔を出す。相変わらず全くもって強くはないが、地下格闘だというのに一切のズルもファウルも無く実直なファイトスタイル、些か及び腰ながらもめげずに戦う不屈の精神、そもそもおよそ喧嘩に向いていなさそうなポチャっとした体型、されどその出で立ちで泥臭く相手に喰らいつく姿などが観客達の心を揺さぶる模様。十中八九勝てないと誰しもが予想しているにも関わらず、オッズは常にめちゃくちゃ低い。
「上くんってば試合のオファー滅多に受けてくれないからさ。お客さんが待ち侘びているんだよ、そっちの件もほんのちょこっと頼んでおいてくれないかい?」
ウインクを飛ばすお祭り男に樹もウインクを返す。此度は奇跡的に、どうにかこうにか数ミリ程、片目の開きを残すことに成功したような気がした。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ルナール古書店の秘密
志波 連
キャラ文芸
両親を事故で亡くした松本聡志は、海のきれいな田舎町に住む祖母の家へとやってきた。
その事故によって顔に酷い傷痕が残ってしまった聡志に友人はいない。
それでもこの町にいるしかないと知っている聡志は、可愛がってくれる祖母を悲しませないために、毎日を懸命に生きていこうと努力していた。
そして、この町に来て五年目の夏、聡志は海の家で人生初のバイトに挑戦した。
先輩たちに無視されつつも、休むことなく頑張る聡志は、海岸への階段にある「ルナール古書店」の店主や、バイト先である「海の家」の店長らとかかわっていくうちに、自分が何ものだったのかを知ることになるのだった。
表紙は写真ACより引用しています
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜
逢汲彼方
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】
姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。
だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。
夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。
CODE:HEXA
青出 風太
キャラ文芸
舞台は近未来の日本。
AI技術の発展によってAIを搭載したロボットの社会進出が進む中、発展の陰に隠された事故は多くの孤児を生んでいた。
孤児である主人公の吹雪六花はAIの暴走を阻止する組織の一員として暗躍する。
※「小説家になろう」「カクヨム」の方にも投稿しています。
※毎週金曜日の投稿を予定しています。変更の可能性があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる