九龍懐古

カロン

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飽食終日

午餐と大食漢

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飽食終日2





お届け物を数件済ませて、休憩で鶏蛋仔エッグワッフルを買い食いして頬張り、道端の野良猫と遊び、屋上で檸檬茶レモンティーを飲み、さらに何軒か配達を終わらせ、お昼時。イツキは木陰のベンチで腸仔包ソーセージパンを噛り思案。八爪魚タコさんの悲鳴。

どこで昼食摂ろう?二巷に出来た新しい茶餐廳チャーチャンテーンにまだ行ってない、行ってみようか?朝に通粉マカロニ食べながら叉燒チャーシューの話したから叉燒湯意粉チャーシュースパゲッティ食べたくなってきた。けど麺類なら撈麵もいいな。両方食べちゃおうかな。うん、決まり決まり。

路地を抜けて、広場を横切り、脇目も振らずに二巷へ向かう。時刻は正午きっかり…ランチタイムには若干早い、多分お店も混んでいないはず…到着したイツキが中を覗くと、予想通り人はまばらだった。

隅の席に腰を下ろし、配られたオーダー票を見る。卓上POP‘所有套餐均奉送飲品どのメニューもドリンクつき!’
壁にペタペタと貼られたお品書き。けっこう種類あるな、メイン何品頼もう?初めてだし様子見で3?デザートは別で。
ひとつめは早々に決めていた叉燒湯意粉チャーシュースパゲッティ。ふたつめは撈麵…蔥油乾撈拉麵ねぎラーメンにしよ。みっつめは米にするか。煲仔飯、窩蛋牛肉飯ひきにくとタマゴのやつ。

すぐに出て来た叉燒湯意粉チャーシュースパゲッティ──要はチャーシュー麺──をモニュモニュ食べる。周りがパリパリに仕上がった叉燒チャーシューは綺麗に赤みがかっていて、口に運ぶと香ばしくほんのり甘い。スパゲッティは柔らかく喉越しマル
続けて蔥油乾撈拉麵ねぎラーメンもサーブされた、こちらは汁なしの麺なのでオマケにスープが付属。麺の底には味付き油が入っている、よくかき混ぜていただきます。広がるネギの風味。スープと交互に食べるとイイ感じ、というか、じゃないとちょいちょいパサつく。アッサリしていた叉燒湯意粉チャーシュースパゲッティとは対極な濃い目の味付けが食欲を促進。
食べ切る頃に煲仔飯が満を持して登場。ホカホカの土鍋、挽き肉の上に落とされた煌めく生卵。こちらもよくかき混ぜて…あっ、底からお楽しみのおコゲが…。ミンチの塩っけを滑らかに中和する黄身と白身。

美味しいな、このお店。これはデザートにも期待大。メインを平らげたイツキ雑果賓治フルーツジュースを流し込み、オーダー票を再び貰うとクルクル鉛筆を回す。どれにチェック入れようか?いっそ全部にチェック入れようか?うーん。
悩んだ末に香滑豆腐花トーファ芒果布甸マンゴープリンを選択。無難過ぎる気がしたので、蓮子百合紅豆沙ハスおしるこも付け足した。それもメジャーではあるけど。

トントンと目の前に並ぶ甘味たちへ片端からスプーンをつける。全て甘さが控え目で食べやすい。砂糖の塊みたいなイカツい一品いっぴんも無論好きだが、サラサラ胃に収まる穏やかなスイーツも乙である。というかツルッといけ過ぎて一瞬いっしゅんで消えた。食べたのか俺は…?本当に…?朝食に続き本日2回目の西多士フレンチトーストを追加。砂糖の塊。

料理を堪能しつつ小1時間。大満足で退店、会計も手頃だった。リピート確定。スマホを確認すれば微信チャット1件、ネコの起床。イツキはのんびり花街へ歩を進める。燦々と照らす太陽、快晴。時折日差しをさえぎるジャンボジェット。



イツキが部屋に着くと、マオは手土産の煙草葉を無表情で見詰め低い声を出した。

「なんだこれ」
アズマから預かった」
「あいつ居たの?」

居ないって言って居ないって言って、というアズマの声が脳裏をよぎり、イツキは答えた。

「居…っ…」
「居?」
「…………」

置き物のごとく固まってしまった姿をシゲシゲ観察し、マオは‘あそぉ’と呟く。イツキはどうも嘘が下手だ。正解は恐らく‘居た’なのだろうが───アズマを庇おうと試み、しかしやはり誤魔化せず、結果フリーズと閻魔は推測。
つうかイツキ…前みてぇに‘居た’って即答しねーのか。アイツも随分と地位が上がったな…?思いながら愉快そうに引き笑いをするマオイツキはまだ固まっていた。

「あの眼鏡、タバコ持たせんなら金持たせろよな。どーせ払うんだから」
「またツケてんの」
「ツケてねぇ時あるか逆に?あとおまえ大地ダイチんとこ行くんだろ。これ持ってけ。ジジィが送ってきたヤツ」

言うなりマオは部屋の角の段ボールから曲奇クッキー缶を出す。旧正月仕様のおめでたい金龍柄と赤色。‘十と尾チビたちから美味うめぇってお墨付きらしいぜ’と補足が入った。もちろん【東風】へのお持ち帰り用もある。予想外の土産が増えホクホクするイツキの背を叩き、二度寝するからもう帰れと城主は欠伸。
だから【宵城みせ】に寄らせたんだ…しかもわざわざ起きてくれたのか、大地ダイチの寺子屋が終わる前に俺に渡す為に…今日も今日とて優しいマオマン。イツキがそう顔に書いた途端、不機嫌な調子で‘たまたまだよ’と訂正が飛ぶ。多分たまたまではないが。



ベッドに戻るマオを見送り寺子屋へ。入り口でいくらか待つと、授業を終えた大地ダイチが出て来た。後ろにはスイ

「え、マオがお菓子くれたの!?」

喜ぶ大地ダイチは‘みんなにわけてくる!’と曲奇クッキー缶を抱えて教室へユーターン。鞄からミニロールパンの袋を出すイツキ

スイ、食べる?」
多謝ありがと。アンタいっつも食料持ってるわね…あれ、今日は珍しくしょっぱい系だ」

スイは小分けの袋をひとつつまむ。八爪魚タコさん腸仔ソーセージに上がるテンション。
言われてみれば甘い食べ物ばかり持ち歩いているかも…これは一大事いちだいじだ、バリエーションを増やさねばバランスがよくない…謎の決意を胸に秘めた大食漢グルメは、八爪魚タコさんをでるスイに‘魷魚イカさんもいる’と主張。

曲奇クッキーを配り戻ってきた大地ダイチにもパンをあげて、3人は新校舎を覗きに向かう。

「へは、今日はフイも学校ひへはんは」
「ん?あー、そうそう。毎日は来てないけどさ。ちょっと面白いから」

口にパンを詰めたイツキの質問をギリギリ理解したスイが頷く。以前からちょこちょこ顔を出していた寺子屋の授業、ぶっちゃけ興味がある科目しか出席しないというワガママ通学だが、教師陣のふところは広い。元が教会なせいもあるのだろう。

「新校舎も教会だよね。普通のビルの1部屋だけど」
「そりゃ九龍城ここにはそーゆー建物無いじゃない、大聖堂とか」
「はひょへはいほんへ」
「なんて?」

大地ダイチに相槌を打つスイの横からイツキが言葉を挟んだが、今度は解読してもらえなかった。大地ダイチが得意気に人差し指を立てる。

「でもね、教会と大聖堂は違うんだよ。教会は神様を信じてる人達が集まる場所のこと。大聖堂は、司教さんが座る椅子がある場所のことなの」
「司教さんって先生でしょ?スイ達の学校にもいるじゃん」
「あの人は司祭さん。司教さんは、司祭さんたちをまとめてる人なんだって」
「へー!詳しいわね!大地アンタ、信心深いわけじゃないのに」
「まぁ…祈りはしないけど…挨拶はするよ!隣人だから!」
「あ、それインがゆってたやつのパクリだ」

悪戯いたずらに笑うスイ大地ダイチも笑い、てゆーか教会と大聖堂の豆知識もインからの受け売り!とはにかむ。イツキがまた何やら口を挟んだ。

「パンはべる?無くなっひゃう」
「ほんとだ!あんないっぱい居たのに!」
「ヤバ、アンタお昼食べてないの?」

慌てて袋をまさぐ大地ダイチ、残りはもはや数個。居た・・とは八爪魚タコさん魷魚イカさんのことだろう。スイの質問にイツキは首を振り、パンを飲み込んでから返答。

「食べた。鶏蛋仔と檸檬茶、叉燒湯意粉と蔥油乾撈拉麵と窩蛋牛肉飯、あと香滑豆腐花と芒果布甸と蓮子百合紅豆沙」
「はぁ?」
「追加で西多士」
「呪文?」

魔道士イツキ蛋治たまごサンドを差し出す。ラスイチ半目はんめスイは、何も答えず、それを受け取った。
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