358 / 396
神韻縹渺
スニッチとトレモロ・後
しおりを挟む
神韻縹渺13
突如飛び込んできた樹、出口を塞いでいる──つもりは無いんだけど配置がそうなっちゃってるねヤダぁ──東、裏切った十。誰から片付けるべきなのか迷った半グレ連中だったが、その迷いはもはや致命的。流れるような動作で敵を殲滅していく樹が沈めた人数は既に片手以上、男達がこの小柄な襲撃者から倒したほうが賢明と判断をつけた時にはとうに手遅れ…さりとて、即決していたところで結果が覆ったのかどうかは別の話だが。
狼狽した末に十へと拳銃を向けた者も、トリガーを引く前に東が投げたナイフ──さっきのチンピラから数本拝借しましたサンキュです──を胸元に生やす羽目に。迎撃しつつ東はクルッと周りを見渡す。地味に人数が多い、このまま応戦するには武器が足りない…俺も日頃から投げモン常備しといたほうがいいのかしら?ハーブバッグとか?いや、ありゃ攻撃力低いな。大麻撒いちゃうの割高だし。じゃなくて現状現状!樹が引き付けてくれているとはいえ、どうしましょ…思ううちにも別の銃口がこちらを向いた。
十が尾を身体の後ろに隠し、その十を自分の後ろへ隠した東は、ピストルを眺めて何か考える素振り。‘東!’と2人が揃って声をあげるも、東は‘平気平気’と笑って宣言。
「当たんないよ」
黒光りするブローニングが火を噴く。マズルフラッシュ、吐き出された弾丸は東を貫き────は、しなかった。かすかな金属音ののち真っ二つに割れたので。
山吹色の着物がはためく。
「へぇ、ちゃんと弾除けやってんなぁ眼鏡」
東の前に現れた人影───脇差しを握った猫が振り返った。ポカンと口を開けた十と尾が、一拍おいて、斬ったのですか!?弾を!?と騒ぎ立てる。その猫の後ろ、発砲した輩が樹に踏み潰されているのが見えた。
「キャァァ最高!!マオマンったらヒーロー過ぎ!!」
「はぁ?なんだマオマンって」
東の黄色い声援に、心底鬱陶しそうに首を回す城主。尾が着物の裾を引いた。
「猫…来てくれたのですね…」
「絵の礼してなかったからな。ほら、ガキは向こう行ってろ」
尾と十の背を倉庫の外へと押して追い払う仕草。心配そうな2人へ‘猫様は眼鏡と違って強ぇんだよ’と目尻を下げる。ほんと子供にはよく笑うよねと呟いた東をひっぱたき、付き添いに任命するとまとめて閉め出した。お子様に事故現場を見せない為の配慮。
つまみ出された3人は空き地に腰をおろし、仕事が片付くのを大人しく待った。時間稼ぎの甲斐があったな、思いつつ東は頬を擦って星空を見上げる。
銃声。悲鳴。銃声。銃声。断末魔。中は地獄絵図だろう。地獄絵図…閻魔にピッタリ…東が零すと尾は‘猫はエンマなのですか’とヒソヒソ囁く。手を繋ぐ十が‘バケネコじゃなかったね’と答えた。クシクシと互いの涙を袖で拭きあうアーティスト達の頭を柔らかく撫でるアズマン。
ヤマネコや半魚ヤギの話をポツポツ交わすうち、騒音は収まり、静寂が辺りを包む。いくらか経つと扉を開けて樹と猫が出てきた。十に‘何か持ち出したいものはあるか’と尋ねる樹、十が‘特に無い’と返せば迷わずピシャッとドアを閉める。ズラかんぞと猫の令。
「マオマン、ヒーローっぽい登場だったね」
「狙ってやった訳じゃねっつの。さっきから何だその変な名前」
背中に尾を乗せて走る樹の感想へ、同じく背中に十を乗せている猫が、思ったより遠かったせいであんなタイミングになっちまったと渋面。
ということは…本当はもっと早くに着こうとしてくれていたのか。なんだかんだで優しいマオマン───樹がそう顔に書いた途端、不機嫌な調子で‘違ぇわバカ’と訂正が入った。多分違わないが。
「てかお前、何が平気だったんだ?あんとき俺が来んのわかってなかっただろ」
後ろからついてくる東へ声を飛ばす猫。この眼鏡、何も背負っていないくせに1番鈍足。
「えー?賭けよ賭け」
東はペロッと舌を出した。今回樹が賭けていたせいもある。が、以前【東風】でインターネットカジノに興じていた際、横から見ていた藍漣に言われたのだ。
───お前の賭けっぷりが気持ちいいな。
向こう見ずといえば向こう見ずなだけだが。張る時は張る、金だろうと命だろうと。昔からずっとそういう生きかたをしてきた。そしてここまでの成果を鑑みる限り、‘それなりの場面’では、まぁ、それなりの勝率を誇る気はした。
「だからね、賭けたの」
死なない方に。聞いていた尾がハッと何かを思い出し、ポケットをまさぐると取り出した月餅を十へ渡した。樹のBET。受け取った十は包みを開いて半分に割ると片方を尾にわける。全部十のぶんだと慌てる尾に十は微笑んだ。
「半分こしよ。一緒に食べたら、もっと美味しいから」
てゆーか勝ちだし月餅倍になったよと樹、倍もなにも帰れば【東風】には山ほどあるのだけれど。‘また勝ち越しなのですよ♪’と便乗して巫山戯た東は、‘うるせぇ’と猫に脛を蹴られ、走る速度を余計に落とした。
突如飛び込んできた樹、出口を塞いでいる──つもりは無いんだけど配置がそうなっちゃってるねヤダぁ──東、裏切った十。誰から片付けるべきなのか迷った半グレ連中だったが、その迷いはもはや致命的。流れるような動作で敵を殲滅していく樹が沈めた人数は既に片手以上、男達がこの小柄な襲撃者から倒したほうが賢明と判断をつけた時にはとうに手遅れ…さりとて、即決していたところで結果が覆ったのかどうかは別の話だが。
狼狽した末に十へと拳銃を向けた者も、トリガーを引く前に東が投げたナイフ──さっきのチンピラから数本拝借しましたサンキュです──を胸元に生やす羽目に。迎撃しつつ東はクルッと周りを見渡す。地味に人数が多い、このまま応戦するには武器が足りない…俺も日頃から投げモン常備しといたほうがいいのかしら?ハーブバッグとか?いや、ありゃ攻撃力低いな。大麻撒いちゃうの割高だし。じゃなくて現状現状!樹が引き付けてくれているとはいえ、どうしましょ…思ううちにも別の銃口がこちらを向いた。
十が尾を身体の後ろに隠し、その十を自分の後ろへ隠した東は、ピストルを眺めて何か考える素振り。‘東!’と2人が揃って声をあげるも、東は‘平気平気’と笑って宣言。
「当たんないよ」
黒光りするブローニングが火を噴く。マズルフラッシュ、吐き出された弾丸は東を貫き────は、しなかった。かすかな金属音ののち真っ二つに割れたので。
山吹色の着物がはためく。
「へぇ、ちゃんと弾除けやってんなぁ眼鏡」
東の前に現れた人影───脇差しを握った猫が振り返った。ポカンと口を開けた十と尾が、一拍おいて、斬ったのですか!?弾を!?と騒ぎ立てる。その猫の後ろ、発砲した輩が樹に踏み潰されているのが見えた。
「キャァァ最高!!マオマンったらヒーロー過ぎ!!」
「はぁ?なんだマオマンって」
東の黄色い声援に、心底鬱陶しそうに首を回す城主。尾が着物の裾を引いた。
「猫…来てくれたのですね…」
「絵の礼してなかったからな。ほら、ガキは向こう行ってろ」
尾と十の背を倉庫の外へと押して追い払う仕草。心配そうな2人へ‘猫様は眼鏡と違って強ぇんだよ’と目尻を下げる。ほんと子供にはよく笑うよねと呟いた東をひっぱたき、付き添いに任命するとまとめて閉め出した。お子様に事故現場を見せない為の配慮。
つまみ出された3人は空き地に腰をおろし、仕事が片付くのを大人しく待った。時間稼ぎの甲斐があったな、思いつつ東は頬を擦って星空を見上げる。
銃声。悲鳴。銃声。銃声。断末魔。中は地獄絵図だろう。地獄絵図…閻魔にピッタリ…東が零すと尾は‘猫はエンマなのですか’とヒソヒソ囁く。手を繋ぐ十が‘バケネコじゃなかったね’と答えた。クシクシと互いの涙を袖で拭きあうアーティスト達の頭を柔らかく撫でるアズマン。
ヤマネコや半魚ヤギの話をポツポツ交わすうち、騒音は収まり、静寂が辺りを包む。いくらか経つと扉を開けて樹と猫が出てきた。十に‘何か持ち出したいものはあるか’と尋ねる樹、十が‘特に無い’と返せば迷わずピシャッとドアを閉める。ズラかんぞと猫の令。
「マオマン、ヒーローっぽい登場だったね」
「狙ってやった訳じゃねっつの。さっきから何だその変な名前」
背中に尾を乗せて走る樹の感想へ、同じく背中に十を乗せている猫が、思ったより遠かったせいであんなタイミングになっちまったと渋面。
ということは…本当はもっと早くに着こうとしてくれていたのか。なんだかんだで優しいマオマン───樹がそう顔に書いた途端、不機嫌な調子で‘違ぇわバカ’と訂正が入った。多分違わないが。
「てかお前、何が平気だったんだ?あんとき俺が来んのわかってなかっただろ」
後ろからついてくる東へ声を飛ばす猫。この眼鏡、何も背負っていないくせに1番鈍足。
「えー?賭けよ賭け」
東はペロッと舌を出した。今回樹が賭けていたせいもある。が、以前【東風】でインターネットカジノに興じていた際、横から見ていた藍漣に言われたのだ。
───お前の賭けっぷりが気持ちいいな。
向こう見ずといえば向こう見ずなだけだが。張る時は張る、金だろうと命だろうと。昔からずっとそういう生きかたをしてきた。そしてここまでの成果を鑑みる限り、‘それなりの場面’では、まぁ、それなりの勝率を誇る気はした。
「だからね、賭けたの」
死なない方に。聞いていた尾がハッと何かを思い出し、ポケットをまさぐると取り出した月餅を十へ渡した。樹のBET。受け取った十は包みを開いて半分に割ると片方を尾にわける。全部十のぶんだと慌てる尾に十は微笑んだ。
「半分こしよ。一緒に食べたら、もっと美味しいから」
てゆーか勝ちだし月餅倍になったよと樹、倍もなにも帰れば【東風】には山ほどあるのだけれど。‘また勝ち越しなのですよ♪’と便乗して巫山戯た東は、‘うるせぇ’と猫に脛を蹴られ、走る速度を余計に落とした。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる