九龍懐古

カロン

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神韻縹渺

スニッチとトレモロ・後

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神韻縹渺13





突如飛び込んできたイツキ、出口をふさいでいる──つもりは無いんだけど配置がそうなっちゃってるねヤダぁ──アズマ、裏切ったシイ。誰から片付けるべきなのか迷った半グレ連中だったが、その迷いはもはや致命的。流れるような動作で敵を殲滅していくイツキが沈めた人数は既に片手以上、男達がこの小柄な襲撃者から倒したほうが賢明と判断をつけた時にはとうに手遅れ…さりとて、即決していたところで結果が覆ったのかどうかは別の話だが。

狼狽ろうばいした末にシイへと拳銃を向けた者も、トリガーを引く前にアズマが投げたナイフ──さっきのチンピラから数本拝借しましたサンキュです──を胸元に生やす羽目に。迎撃しつつアズマはクルッと周りを見渡す。地味に人数が多い、このまま応戦するには武器が足りない…俺も日頃から投げモン常備しといたほうがいいのかしら?ハーブバッグとか?いや、ありゃ攻撃力低いな。大麻クサ撒いちゃうの割高だし。じゃなくて現状現状!イツキが引き付けてくれているとはいえ、どうしましょ…思ううちにも別の銃口がこちらを向いた。
シイウェイを身体の後ろに隠し、そのシイを自分の後ろへ隠したアズマは、ピストルを眺めて何か考える素振そぶり。‘アズマ!’と2人が揃って声をあげるも、アズマは‘平気平気’と笑って宣言。

「当たんないよ」

黒光りするブローニングが火を噴く。マズルフラッシュ、吐き出された弾丸はアズマを貫き────は、しなかった。かすかな金属音ののち真っ二つに割れたので。


山吹色の着物がはためく。


「へぇ、ちゃんと弾除けやってんなぁ眼鏡」

アズマの前に現れた人影───脇差しを握ったマオが振り返った。ポカンと口を開けたシイウェイが、一拍いっぱくおいて、斬ったのですか!?弾を!?と騒ぎ立てる。そのマオの後ろ、発砲した輩がイツキに踏み潰されているのが見えた。

「キャァァ最高!!マオマンったらヒーロー過ぎ!!」
「はぁ?なんだマオマンって」

アズマの黄色い声援に、心底鬱陶しそうに首を回す城主。ウェイが着物の裾を引いた。

マオ…来てくれたのですね…」
「絵の礼してなかったからな。ほら、ガキは向こう行ってろ」

ウェイシイの背を倉庫の外へと押して追い払う仕草。心配そうな2人へ‘マオ様は眼鏡コイツと違ってつえぇんだよ’と目尻を下げる。ほんと子供にはよく笑うよねと呟いたアズマをひっぱたき、付き添いに任命するとまとめて閉め出した。お子様に事故現場・・・・を見せない為の配慮。

つまみ出された3人は空き地に腰をおろし、仕事が片付くのを大人しく待った。時間稼ぎの甲斐があったな、思いつつアズマは頬をさすって星空を見上げる。
銃声。悲鳴。銃声。銃声。断末魔。中は地獄絵図だろう。地獄絵図…閻魔にピッタリ…アズマが零すとウェイは‘マオはエンマなのですか’とヒソヒソ囁く。手を繋ぐシイが‘バケネコじゃなかったね’と答えた。クシクシと互いの涙を袖で拭きあうアーティスト達の頭を柔らかく撫でるアズマン。

ヤマネコや半魚ヤギの話をポツポツ交わすうち、騒音は収まり、静寂が辺りを包む。いくらか経つと扉を開けてイツキマオが出てきた。シイに‘何か持ち出したいものはあるか’と尋ねるイツキシイが‘特に無い’と返せば迷わずピシャッとドアを閉める。ズラかんぞとマオの令。

「マオマン、ヒーローっぽい登場だったね」
「狙ってやった訳じゃねっつの。さっきから何だその変な名前」

背中にウェイを乗せて走るイツキの感想へ、同じく背中にシイを乗せているマオが、思ったより遠かったせいであんなタイミングになっちまったと渋面じゅうめん
ということは…本当はもっと早くに着こうとしてくれていたのか。なんだかんだで優しいマオマン───イツキがそう顔に書いた途端、不機嫌な調子で‘ちげぇわバカ’と訂正が入った。多分違わないが。

「てかお前、何が平気だったんだ?あんとき俺が来んのわかってなかっただろ」

後ろからついてくるアズマへ声を飛ばすマオ。この眼鏡、何も背負しょっていないくせに1番鈍足。

「えー?賭けよ賭け」

アズマはペロッと舌を出した。今回イツキが賭けていたせいもある。が、以前【東風みせ】でインターネットカジノに興じていた際、横から見ていた藍漣アイランに言われたのだ。

───お前の賭けっぷりが気持ちいいな。

向こう見ずといえば向こう見ずなだけだが。張る時は張る、金だろうと命だろうと。昔からずっとそういう生きかたをしてきた。そしてここまでの成果を鑑みる限り、‘それなりの場面’では、まぁ、それなりの勝率を誇る気はした。

「だからね、賭けたの」

死なない方に。聞いていたウェイがハッと何かを思い出し、ポケットをまさぐると取り出した月餅をシイへ渡した。イツキBETベット。受け取ったシイは包みを開いて半分に割ると片方をウェイにわける。全部シイのぶんだと慌てるウェイシイは微笑んだ。

「半分こしよ。一緒に食べたら、もっと美味しいから」

てゆーか勝ち・・だし月餅倍になったよとイツキ、倍もなにも帰れば【東風いえ】には山ほどあるのだけれど。‘また勝ち越しなのですよ♪’と便乗して巫山戯ふざけアズマは、‘うるせぇ’とマオすねを蹴られ、走る速度を余計に落とした。
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