九龍懐古

カロン

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両鳳連飛

ハングアウトとナイトオウル・前

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両鳳連飛10





マオの部屋に着きダラダラ──おもにお腹をすかせたイツキへ菓子を与えたり──していると、1時間もしないうちに燈瑩トウエイが帰宅。曲奇クッキーを頬張りつつケガなど無いか確認作業をおこな看護師イツキに四方八方触られまくる患者トウエイへ、マオは煙を吹く。

「何人居た?」
「5人くらい。一応いちおう色々いてきた」

近隣のビル内や屋上からの狙撃だったため、比較的容易に敵の配置が割れたので1人ずつ追いかけ捕まえたところ…攻撃してきた連中はスラムによくいる有象無象のチンピラ達と判明。組織としてまとまりがあるわけでもなく、依頼主は誰なのか尋ねてみたものの全員の回答がとっ散らかった。共通していたのはターゲット、それから、仕留めればそれなりの金が貰えるという部分。クライアントに関しては人物像があやふやなうえにバラバラ、誤魔化しているわけではなく本当に詳しくは知らないといった具合。
なのでさしあたり拾える情報は拾い、用が済んだあとの死体は拾わず、申し訳程度に端によけて現場に置いてきた。あの区域であれば別段しっかり処理する必要もない、‘外傷の少ない身体の需要’はそれなりに高いのだ。

「やっぱアタクシ狙いだった?」
「んーん、みんなみたい」
「みんな?」

首を傾げるアズマ燈瑩トウエイイツキにグッシャグシャにされた髪をかきあげ煙草に火を点けた。

「狙ってるのはデカい眼鏡、人民帽で小柄な奴、着物の金髪…あとストールのポッチャリって言ってた」

特徴をみるにアズマイツキマオ、そしてなぜかカムラであろう。マオが眉根を寄せる。

「饅頭もかよ。つうかそのメンツでなんで燈瑩テメェが漏れてんだ」
「俺も考えたけど…‘デカい眼鏡’が1番初めにがってたから、直近ちょっきんで【東風】に居る頻度が高い人…とか?」
「結局おめぇのせいか眼鏡アズマ
「えぇ?何もしてないってばぁ?」

マオにすごまれ唇を尖らせるアズマ、‘ただの予想だよ’と付け足す燈瑩トウエイイツキはイジけるアズマ曲奇クッキーをわけてあげた。

「だからさ、念の為しばらく【東風】に集まるのはやめといたほうがいいかもね」
「じゃあ【宵城ここ】に集まろっか」
「そーゆーことじゃねんだわイツキ

燈瑩トウエイの言葉を受け、閃いた!とばかりに案を提示するイツキへ即座に切り返すマオ。溜り場だけは絶対に回避したい…キョトンとするイツキの陰で笑いを噛み殺している燈瑩トウエイを鋭く睨む。

「集まる場所は置いといて。とりあえずカムラのところには俺がお邪魔させてもらっとくよ、中流階級エリアから出なければ平気だと思うし」

閻魔の視線をかわし、含み笑いのまま続ける燈瑩トウエイ。襲撃が今回のみなのか継続されるのか…及び、原因が明らかになるまでは周囲を警戒する必要がある。
非戦闘員のカムラへ差し向き燈瑩トウエイが付いておき、アズマは普段通りイツキと動けば、戦力面のカバーは可能。有事の際に被害を最小限で抑えられるだろう。他のメンツへどう伝えるかや対策について大雑把に話をしていると、アズマの携帯が震えた。インから微信チャット

「あら、宝珠ホウジュちゃんが‘明日【東風みせ】開いてるか’って。そういえば漢方飲み切っちゃったんだったわね」
「俺達が行く?」

メッセージを読んで渋い顔をするアズマは、イツキげんに‘そうしましょっか’と肯く。【東風】に呼ぶよりは確実に安全。それにイツキアズママトをかけられてはいるが、中流階級側で真っ昼間から派手なドンパチをカマされる可能性というのはさほど高くないように思えた。入手した工芸茶をお土産に、イン達の方へ出向く事にしよう。アズマはひとまず詳細を伝えず‘明日は俺らがそっち行くよ’とだけ返信を打った。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「で、このキャラクターが人気なんだけど…なかなか日本からグッズが入って来ないの」
「自分は此方こちらの人物が好きだな」
「あーその人!ワザがカッコいいよね、日本語わかんなくてタクミに意味教えてもらった!」


翌日、中流階級エリア。


おやつの鶏蛋仔エッグワッフルを食べ歩きながらスマホを見詰める、はたからみればいささか異色の組み合わせ…キャアキャアはしゃぐ大地ダイチとそこそこ真剣に相槌を打つインだ。
慣れた様子の宝珠ホウジュかたわら、スイは液晶画面で流れるアニメを眺めて溜め息混じりに質問。

アンタも必殺技撃てるんだっけ」
「それが撃てないんだよ残念ながら」
「わかんないじゃん!練習すればワンチャンあるかも!」
「したんだが…それなりに…」
「は?したの?」

やれば出来ると励ます大地ダイチへ、無念そうに息を吐くイン。その返答にスイは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をし、聞き流していた宝珠ホウジュは足元に寄ってくる鳩へと鶏蛋仔エッグワッフルを千切って撒いた。

一行いっこうが目指しているのは、富裕層地域近くにある日本式カフェ。現在なにやら人気漫画とコラボレーションイベントをしており、注文ごとに1つオリジナルマグネットやシールがもらえるとかなんとか。
アズマイツキがこちらへ出向くというのでお茶でもしようかと計画した宝珠ホウジュ、それならばくだんのカフェへ行ってみよう!と張り切る大地ダイチにキャラ物好きのスイも加わり──保護者、という名目で同行しているイン大地ダイチとの会話で1番盛り上がっているのはさておき──楽しそうに大通りを進む子供達。

大地ダイチの携帯を見ていたインは、ユラユラ揺れるストラップに目を留める。やたらとポッチャリした大仏…大仏だろうか?これは?すこぶふくよか。

「愛らしいな、この…なんだ、なにがしかは」
「これ?天仔てんちゃんだよ、前九龍ここにあった宗教のマスコット!この子は香港で新しく産まれたほう!」

大地ダイチはストラップをクルクル回し、ふと思い付いたように呟く。

「こーゆー神様モチーフのキャラもいっぱいいるけど…神様ってほんとに居るのかなぁ」
「居るんじゃないか?」
「えっ、インは信じてるんだ」
「信じているというか…見えないからとて居ないと断ずるのも早計な気がして。まなこえいじる物が一切いっさいとは限らないだろう。たまに見えることもあるのかな、ゆえに世の中にはこれほど多くの像が存在するのかも知れないな」

言いながらキーホルダーをつつく。カプカプ笑う天仔てんちゃん

「学校で朝のお祈りとかしてる人いるんだけど、インもそーゆーのやるの?」
「いや、自分は神仏かれらが何かをぎょうずると思わないから祈りはしないよ。挨拶はすれどな」

‘隣人なので’と微笑むインへ、‘なんじ隣人に挨拶せよか!’と膝を叩く大地ダイチ。惜しい。寺子屋の宗教学、1歩及ばず。
インは斜め上のあたりに視線を投げた。少し記憶を辿る仕草。

「まぁでも…そういった慣習に親しんでいないということもないな…家族は信心深いほうであったから」
「じゃ宝珠ホウジュって信心深いそうなんだ」
「ううん。私は別に」

首を振る宝珠ホウジュ大地ダイチはあれ?といった表情をし、スイが若干眉を動かした。
そのとき、ちょうど通りの反対側から歩いてきたアズマイツキが皆の視界に入る。話を中断して駆け寄る大地ダイチ

「おはよぉ!2人とも早かったね!」
「おはよ。中流階級こっちは道広めだしわかりやすいから…宝珠ホウジュ、これお土産」

挨拶を返すやいなや、イツキは鞄をあけて工芸茶のパックを取り出し宝珠ホウジュに手渡した。覗き込んだスイが‘あっこれ超綺麗な花びらのやつじゃん’と興味を示す。来てもらったうえにわざわざすまないと礼を述べるインへ、アズマはドッサリ持ってきた薬膳や漢方を持たせつつ耳元に口を近付けた。

「いや、俺らも都合良かったのよ。昨日ちょっと襲撃に合っちゃって」
「襲撃?誰が誰に?」
「俺とかイツキとかマオにゃんとか。それで今日は【東風】に集まんのやめといたって訳、相手は目下もっか調査中デス。内緒ね」

肩を竦めるアズマは、インの目付きが途端に剣呑な雰囲気に変わったのを認めパタパタてのひらあおぐ。

イン宝珠ホウジュちゃんには迷惑かかんないようにするから心配しないで!なるべく早めに解決させるし」

その台詞にインは逡巡し、唇を薄く開いたが────ただ、‘そうか’と発して小さく顎を引いた。工芸茶の話題に花を咲かせる子供達の輪の中からイツキもそっとインへ目配せ。お互い軽く頷き、適当に談笑しつつ目的地のカフェへと向かった。
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