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両鳳連飛
麻と火龍果・後
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両鳳連飛9
タイミングを──まぁかなりいい加減に──計り、再度射線に出る燈瑩。鼻先を弾丸が抜ける。撃ち返しながら歩き、途中、側頭部に突き刺さる視線を感じて廃品の脇に隠れた。チラリと振り返るとこちらをガン見している看護師と目が合う。強い眼力。襲撃者は怖くないが看護師は怖いな…ケガしないようにしよう…ひっそり決意しぎこちない笑顔で手を振った。
患者に釘を刺した看護師は屋上の反対側を見やる。階段。距離はここから30メートル程度、俺と猫はいいとして。
「東、階段まで走れる?」
「アタクシ50メートル2桁秒よ」
「蜂の巣だな。ま、それなりに悪い奴じゃあなかったぜテメェも」
「まだ生きてるよ!!…ん?ていうか高評価じゃない、それ?猫にゃん何だかんだ俺のこと好きっゴフッ」
猫の批評にドヤる東は鳩尾に鉄下駄の一撃を喰らい倒れ込んだ。このネコちゃん…いつもは木製なのにどうして今日に限って鉄製を…!?地べたに顔がくっつき視界の半分をコンクリートが占めるなか、その隅のほうに何やら蠢いている人影を認めて顔を向ける。
樹がいつのまにかプレハブへとよじ登り、バリバリとトタン屋根を剥がしていた。
看護以外でもパワープレイ。剥がし終えるやいなやトタンの上に乗って、拾った傘の柄を端に引っ掛けシャフトを握る。
盾───じゃないな、まさかソリのつもりかしら…?簡易的にも限度がある、それでこっから降りる気ぃ…?東が予想を立てつつ見ているそばから‘行くよ’と樹の声。滑り出す鉄板、素早く乗り込む猫。当然乗り遅れる東のフードを猫は非常に嫌そうに掴んだ。屋根から屋根へ傾斜をスルスルと滑るソリ、建物にゴンゴンぶつかる東の頭。
「痛い痛い痛い!!」
「いちいちうっせぇな眼鏡」
‘テメェのためのソリだろ’と舌打ちする猫の横から樹も手を伸ばし、東をトタンの上に引きあげた。
聞こえる銃声を置き去りに、急斜面で加速しソリは疾走。屋根、手摺、室外機、屋根、屋根…密集し隣接している家屋を下へ下へと辿っていく。時折数階分バコッと転落、舵にしている傘及びしがみついている東から止めどない悲鳴。東ってジェットコースター苦手だったっけ…?お化け屋敷だけじゃないっけ…?樹は先日のテーマパークを思い返す。記憶にチラつくチュロス、唐突に減る小腹。
相当な高さをくだり、眼下に大通りが見えてきた。チュロスから意識を戻した樹はそちらへハンドルを切る。現在地上まで4階分ほどの距離。これなら柔らかそうな場所に落ちれば東でもどうにかなんとかなる…周囲を確認してフルーツ屋のテントに目を付けた。猫に合図、東の腕を取り、ソリを捨てテントめがけて跳躍。壁から飛び出た看板を数回足場にして勢いを殺し布張りの天蓋へと着地、そのままワンタッチでフワリと地面に降りる。ワンタッチとはいかずに天蓋でひっくり返っていた東も起き上がりかけたが、遅れて落ちてきた猫に腹を踏まれてテントを貫通した。果物棚へ突っ込む東には目もくれず、軽々と樹の隣に降り立つ猫。
「撒いたかな」
「じゃね?あとは燈瑩が片付けんだろ」
来た道を見上げる樹へ甚平の汚れを払いながら猫が返していると、東がモサモサとフルーツから這い出てきた。
ビルにしこたま打ちつけた後頭部をさすり、掌をみてギョッとする。ベッタリ付着する真っ赤な液体。あわてふためき両手で首裏をまさぐれば、フードの中で転がる割れた火龍果。なぁんだ、こいつの仕業か…良かった、割れたの頭じゃなくて…ホッとしたのでとりあえず囓った。甘い。何を食べているのかと覗き込む大食漢、唐突に減る小腹。
猫が袖からバサッと札束を出し、オロオロしている青果屋の店主に握らせた。詫び金。
「悪ぃオッチャン、これで勘弁しといてくれると助かる」
相当イイ額。東がヒュウと口笛を吹く。
「あら、さすが。太っ腹じゃないの」
「馬鹿か?テメェのツケだよ」
「ヤダぁ!?」
ピィピィ鳴く東に、‘おめーのせいでこんな逃げ方になったんだろ’と吐き捨てる城主。金を払ったならと樹は火龍果を山から頂戴して剥いて囓った。甘い。ムシャムシャやりつつ頭上を指差す。
「ほーへー待ふ?」
「待たねぇ、微信しとけ。ズラかるぞ」
「どこに行くのよ」
「【宵城】。お前ん家と違って奇襲かけづらいからな」
東の疑問に猫は苦虫を噛み潰したような顔で答えた。
原因不明な現状、【東風】よりは【宵城】のほうがポジションからセキュリティまで色々好都合なのは確かだ。有り難いことは有り難い…が…。‘ありがと猫’と火龍果をわける樹の横で、東は‘今の札束に上乗せで飲み代もツケられたらどうしよう’と、1人静かにビクついていた。
タイミングを──まぁかなりいい加減に──計り、再度射線に出る燈瑩。鼻先を弾丸が抜ける。撃ち返しながら歩き、途中、側頭部に突き刺さる視線を感じて廃品の脇に隠れた。チラリと振り返るとこちらをガン見している看護師と目が合う。強い眼力。襲撃者は怖くないが看護師は怖いな…ケガしないようにしよう…ひっそり決意しぎこちない笑顔で手を振った。
患者に釘を刺した看護師は屋上の反対側を見やる。階段。距離はここから30メートル程度、俺と猫はいいとして。
「東、階段まで走れる?」
「アタクシ50メートル2桁秒よ」
「蜂の巣だな。ま、それなりに悪い奴じゃあなかったぜテメェも」
「まだ生きてるよ!!…ん?ていうか高評価じゃない、それ?猫にゃん何だかんだ俺のこと好きっゴフッ」
猫の批評にドヤる東は鳩尾に鉄下駄の一撃を喰らい倒れ込んだ。このネコちゃん…いつもは木製なのにどうして今日に限って鉄製を…!?地べたに顔がくっつき視界の半分をコンクリートが占めるなか、その隅のほうに何やら蠢いている人影を認めて顔を向ける。
樹がいつのまにかプレハブへとよじ登り、バリバリとトタン屋根を剥がしていた。
看護以外でもパワープレイ。剥がし終えるやいなやトタンの上に乗って、拾った傘の柄を端に引っ掛けシャフトを握る。
盾───じゃないな、まさかソリのつもりかしら…?簡易的にも限度がある、それでこっから降りる気ぃ…?東が予想を立てつつ見ているそばから‘行くよ’と樹の声。滑り出す鉄板、素早く乗り込む猫。当然乗り遅れる東のフードを猫は非常に嫌そうに掴んだ。屋根から屋根へ傾斜をスルスルと滑るソリ、建物にゴンゴンぶつかる東の頭。
「痛い痛い痛い!!」
「いちいちうっせぇな眼鏡」
‘テメェのためのソリだろ’と舌打ちする猫の横から樹も手を伸ばし、東をトタンの上に引きあげた。
聞こえる銃声を置き去りに、急斜面で加速しソリは疾走。屋根、手摺、室外機、屋根、屋根…密集し隣接している家屋を下へ下へと辿っていく。時折数階分バコッと転落、舵にしている傘及びしがみついている東から止めどない悲鳴。東ってジェットコースター苦手だったっけ…?お化け屋敷だけじゃないっけ…?樹は先日のテーマパークを思い返す。記憶にチラつくチュロス、唐突に減る小腹。
相当な高さをくだり、眼下に大通りが見えてきた。チュロスから意識を戻した樹はそちらへハンドルを切る。現在地上まで4階分ほどの距離。これなら柔らかそうな場所に落ちれば東でもどうにかなんとかなる…周囲を確認してフルーツ屋のテントに目を付けた。猫に合図、東の腕を取り、ソリを捨てテントめがけて跳躍。壁から飛び出た看板を数回足場にして勢いを殺し布張りの天蓋へと着地、そのままワンタッチでフワリと地面に降りる。ワンタッチとはいかずに天蓋でひっくり返っていた東も起き上がりかけたが、遅れて落ちてきた猫に腹を踏まれてテントを貫通した。果物棚へ突っ込む東には目もくれず、軽々と樹の隣に降り立つ猫。
「撒いたかな」
「じゃね?あとは燈瑩が片付けんだろ」
来た道を見上げる樹へ甚平の汚れを払いながら猫が返していると、東がモサモサとフルーツから這い出てきた。
ビルにしこたま打ちつけた後頭部をさすり、掌をみてギョッとする。ベッタリ付着する真っ赤な液体。あわてふためき両手で首裏をまさぐれば、フードの中で転がる割れた火龍果。なぁんだ、こいつの仕業か…良かった、割れたの頭じゃなくて…ホッとしたのでとりあえず囓った。甘い。何を食べているのかと覗き込む大食漢、唐突に減る小腹。
猫が袖からバサッと札束を出し、オロオロしている青果屋の店主に握らせた。詫び金。
「悪ぃオッチャン、これで勘弁しといてくれると助かる」
相当イイ額。東がヒュウと口笛を吹く。
「あら、さすが。太っ腹じゃないの」
「馬鹿か?テメェのツケだよ」
「ヤダぁ!?」
ピィピィ鳴く東に、‘おめーのせいでこんな逃げ方になったんだろ’と吐き捨てる城主。金を払ったならと樹は火龍果を山から頂戴して剥いて囓った。甘い。ムシャムシャやりつつ頭上を指差す。
「ほーへー待ふ?」
「待たねぇ、微信しとけ。ズラかるぞ」
「どこに行くのよ」
「【宵城】。お前ん家と違って奇襲かけづらいからな」
東の疑問に猫は苦虫を噛み潰したような顔で答えた。
原因不明な現状、【東風】よりは【宵城】のほうがポジションからセキュリティまで色々好都合なのは確かだ。有り難いことは有り難い…が…。‘ありがと猫’と火龍果をわける樹の横で、東は‘今の札束に上乗せで飲み代もツケられたらどうしよう’と、1人静かにビクついていた。
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