九龍懐古

カロン

文字の大きさ
上 下
324 / 396
両鳳連飛

麻と火龍果・後

しおりを挟む
両鳳連飛9





タイミングを──まぁかなりいい加減に──はかり、再度射線に出る燈瑩トウエイ。鼻先を弾丸が抜ける。撃ち返しながら歩き、途中、側頭部に突き刺さる視線を感じて廃品の脇に隠れた。チラリと振り返るとこちらをガン見している看護師イツキと目が合う。強い眼力がんりき。襲撃者は怖くないが看護師これは怖いな…ケガしないようにしよう…ひっそり決意しぎこちない笑顔で手を振った。

患者トウエイに釘を刺した看護師イツキは屋上の反対側を見やる。階段。距離はここから30メートル程度、俺とマオはいいとして。

アズマ階段あそこまで走れる?」
「アタクシ50メートル2桁ふたけた秒よ」
「蜂の巣だな。ま、それなりに悪い奴じゃあなかったぜテメェも」
「まだ生きてるよ!!…ん?ていうか高評価じゃない、それ?マオにゃん何だかんだ俺のこと好きっゴフッ」

マオの批評にドヤるアズマ鳩尾みぞおちに鉄下駄の一撃いちげきを喰らい倒れ込んだ。このネコちゃん…いつもは木製なのにどうして今日に限って鉄製を…!?地べたに顔がくっつき視界の半分をコンクリートが占めるなか、その隅のほうに何やらうごめいている人影を認めて顔を向ける。

イツキがいつのまにかプレハブへとよじ登り、バリバリとトタン屋根を剥がしていた。

看護以外でもパワープレイ。剥がし終えるやいなやトタンの上に乗って、拾った傘のを端に引っ掛けシャフトを握る。
盾───じゃないな、まさかソリ・・のつもりかしら…?簡易的にも限度がある、それでこっから降りる気ぃ…?アズマが予想を立てつつ見ているそばから‘行くよ’とイツキの声。滑り出す鉄板、素早く乗り込むマオ。当然乗り遅れるアズマのフードをマオは非常に嫌そうに掴んだ。屋根から屋根へ傾斜をスルスルと滑るソリ、建物にゴンゴンぶつかるアズマの頭。

「痛い痛い痛い!!」
「いちいちうっせぇな眼鏡」

‘テメェのためのソリだろ’と舌打ちするマオの横からイツキも手を伸ばし、アズマをトタンの上に引きあげた。

聞こえる銃声を置き去りに、急斜面で加速しソリは疾走。屋根、手摺てすり、室外機、屋根、屋根…密集し隣接している家屋かおくを下へ下へと辿っていく。時折ときおり数階分バコッと転落、かじにしている傘およびしがみついているアズマから止めどない悲鳴。アズマってジェットコースター苦手だったっけ…?お化け屋敷だけじゃないっけ…?イツキは先日のテーマパークを思い返す。記憶にチラつくチュロス、唐突に減る小腹。

相当な高さをくだり、眼下に大通りが見えてきた。チュロスから意識を戻したイツキはそちらへハンドル・・・・を切る。現在地上まで4階分ほどの距離。これなら柔らかそうな場所に落ちればアズマでもどうにかなんとかなる…周囲を確認してフルーツ屋のテントに目を付けた。マオに合図、アズマの腕を取り、ソリを捨てテントめがけて跳躍。壁から飛び出た看板を数回足場にして勢いを殺し布張りの天蓋へと着地、そのままワンタッチでフワリと地面に降りる。ワンタッチとはいかずに天蓋でひっくり返っていたアズマも起き上がりかけたが、遅れて落ちてきたマオに腹を踏まれてテントを貫通した。果物棚へ突っ込むアズマには目もくれず、軽々とイツキの隣に降り立つマオ

いたかな」
「じゃね?あとは燈瑩トウエイが片付けんだろ」

来た道を見上げるイツキへ甚平の汚れを払いながらマオが返していると、アズマがモサモサとフルーツから這い出てきた。
ビルにしこたま打ちつけた後頭部をさすり、てのひらをみてギョッとする。ベッタリ付着する真っ赤な液体。あわてふためき両手で首裏をまさぐれば、フードの中で転がる割れた火龍果ドラゴンフルーツ。なぁんだ、こいつの仕業か…良かった、割れたの頭じゃなくて…ホッとしたのでとりあえずかじった。甘い。何を食べているのかと覗き込む大食漢イツキ、唐突に減る小腹。

マオが袖からバサッと札束を出し、オロオロしている青果屋の店主に握らせた。詫び金。

わりぃオッチャン、これで勘弁しといてくれると助かる」

相当イイ額。アズマがヒュウと口笛を吹く。

「あら、さすが。太っ腹じゃないの」
「馬鹿か?テメェのツケだよ」
「ヤダぁ!?」

ピィピィ鳴くアズマに、‘おめーのせいでこんな逃げ方になったんだろ’と吐き捨てる城主。金を払ったならとイツキ火龍果ドラゴンフルーツを山から頂戴していてかじった。甘い。ムシャムシャやりつつ頭上を指差す。

ー待?」
「待たねぇ、微信チャットしとけ。ズラかるぞ」
「どこに行くのよ」
「【宵城ウチ】。お前んと違って奇襲かけづらいからな」

アズマの疑問にマオは苦虫を噛み潰したような顔で答えた。

原因不明な現状、【東風】よりは【宵城】のほうがポジションからセキュリティまで色々好都合なのは確かだ。有り難いことは有り難い…が…。‘ありがとマオ’と火龍果ドラゴンフルーツをわけるイツキの横で、アズマは‘今の札束に上乗せで飲み代もツケられたらどうしよう’と、1人静かにビクついていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

人違いで同級生の女子にカンチョーしちゃった男の子の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

処理中です...