316 / 389
両鳳連飛
新チームと初仕事
しおりを挟む
両鳳連飛4
眼下に広がる不格好なマンション群、灯り始めた綺羅びやかな花街のネオン。彗の自宅バルコニーから景色を眺める宝珠はポツリとこぼす。
「やっぱり、街の中心は華やかだなぁ…」
「壁際も壁際で小ざっぱりしてて良くない?閑静な住宅街ってヤツでしょ。可樂いる?」
「あっ彗、俺百事がいい!」
「無いわよ百事は」
冷蔵庫を開く彗が大地のリクエストを秒速却下。‘彗は瓶の可樂が好きなんだもん’と付け足すと、なるほどと頷いた大地が人差し指を立てる。
「じゃあ、今度彗にお土産で瓶の百事買ってくるね」
「いや瓶ならいいってわけじゃ…てかアンタ百事推しなの?」
言いながら、冷えた可樂の瓶底を大地の頬に押し当てた。冷たい!とハシャぐ大地、彗は続けて宝珠と寧の分もカチャカチャ取り出し栓を抜く。ポンと爽快な音が響いた。
大地は可樂をグビグビ呷りつつパチンコをいじる。窓枠によりかかって、壁に貼られたポスターをさし示す彗。
「あれ、的にしてみてよ。おデコに当てたら100点ね」
例の黄色いツナギを身につけた香港スター…を模した、ぽっちゃり熊猫のイラスト。的にされても李小龍さながらの凛々しい表情は崩さない。燃えよ熊猫。
大地は彗がいくつか寄越してきたピンポン玉を受け取り、熊猫へショット。ポヨンと腹へ当たって跳ね返る。もう1度ショット、肩にヒット。数回試すがなかなか狙いが定まらず頬を膨らませる。
「この前、東と哥が的当てメッチャうまくてさぁ!ナイフと銃だったけど」
テーマパークで景品を取ってもらった際の話だ。俺もバシッと決めたいのに!と再びゴムを伸ばす大地。
「目線の高さまで腕をあげてみたらどうかな。それで、真っすぐ垂直に引っ張るの」
室内へと戻ってきた宝珠がにこやかにアドバイス。こんな感じ?とポーズをとり弾を撃つ大地…すると若干、熊猫の顔の中心へと狙いが寄った。
「わ、良くなった!宝珠もしかしてこーゆーの上手?」
やってみせてよと大地は道具を宝珠に渡す。宝珠は軽く身体を傾けて斜めに構え、立て続けに3連続で玉をショット。全て熊猫の額へコココンッと軽快に当たった。300点。
「え!?うっま!!」
「私、よく兄様と狩りに出掛けていて」
長く続けていた田舎暮らしで、食料や毛皮を得るため短弓で野山の動物を獲っていたらしい。驚く大地に、‘弓は兄様より私のほうが得意なの’と少し胸を張る。彗が小首をかしげた。
「宝珠達って中国寄りの村の方に居たんだっけ?これからは九龍に住むわけ?」
「どうかなぁ。とりあえずお家は借りたけど、まだ本当にとりあえずだし」
兄様がどうするかによる、と答え、寧の隣に腰掛ける宝珠。大地は返却されたパチンコのゴムに指を引っ掛けクルクル回し、勘案。
「殷がわざわざ猫とか探して来てくれたなら、殷も九龍城に居るつもりなんじゃん?」
「でも宝珠は病気がちじゃない。九龍城は空気も衛生状態も悪いし、だったら近隣の山あたり行ったほうが環境いいと思うけど」
「動物狩って自給自足ってこと?」
「それだけじゃなくて。これまでだって殷も普通に仕事してたでしょ、田舎でもさぁ」
だよね?と宝珠に確認する彗。宝珠が一瞬だけ表情を翳らせたように見えて、寧はまばたきをした。
「そうだね。兄様の仕事は、どこに居たって出来るものだから」
普段と変わらない調子で微笑む宝珠の服の裾を、テーブルの陰でつまむ寧。‘寧も宝珠に居てほしいよね’との大地の言にコクコク頭を縦に振る。
「とにかく…兄様が決めたことに私は従うの。お父様とお母様を早くに亡くしてから、兄様がずっと独りで私を育ててくれて…沢山迷惑かけてきちゃって。これ以上は足手纏になりたくないの」
兄に恩を返して手助けをしたい。力は尽くすつもりだが、けれどもしも、もしもこの先───自分が邪魔になるようなことがあるのならば、万が一の事態も覚悟をしていると。
「もともと身体も弱いし」
眉尻を下げる宝珠に反して、彗はピクッと眉を吊った。
「宝珠ね、そういう覚悟はもっと役に立つ方向で使いなさいよ。殷がせっかくアンタを守ろうとして頑張ってんのに、当のアンタが投げやりでどうすんの。それだけ想ってるんなら何でも出来るでしょ」
命賭ける!っていう意気込みはイイけどさぁ、とコキコキ首を鳴らす。宝珠は背中を丸めて申し訳無さそうに笑んだ。
「彗ちゃんはしっかりしててカッコいいね。私と歳、変わらないのに…すごいな…」
「今さらぁ?そうよ、彗はすご───…」
顎をあげた彗が途中まで言いかけ、やめて、ペロッと舌を出した。
「くないよ、別に。彗も前にそーゆー感じのことあって。そん時、猫目と垂目が言ってただけ」
…猫目と垂目かな?思いつつ、大地は窓際の椅子の上で片膝を抱える。
彗が両親の仇を討った時の件については耳にしていた。そして皆が僅かずつ、力を貸したということも。‘覚悟を決めている’と発した彗を猫が窘め、哥が上手い具合に責任を持っていったとか。一部始終を掻い摘んで語る彗は態度こそプンスカしていたが、瞳には怒りとは全く違う色が見えていた。
「宝珠も話してみたら?アイツら伊達に年食ってないわよ。ほら、300点の景品あげる」
土産の月餅──樹御用達!品質保証!──を宝珠へ手渡す彗。朗らかに頷く宝珠が寧と半分こしはじめる横で、大地はヒソヒソと彗の脇腹をつついた。
「彗がゆった、って事にしといてもよかったのに」
「馬鹿ね。誰かから教えてもらっといて自分の手柄みたいにしちゃダサいでしょ」
またペロッと舌を出す彗に、大地はシシッと笑って指先でハートを作る。
「カッコいいじゃん♪」
「そぉ?」
彗はそれをチラリと見やり素っ気なく答えてから、‘でも’と悪戯な顔。
「もっと褒めてもいいよ」
その台詞にケラケラ笑う大地。しかしふと、寧が身体を縮こませているのに気が付いた。
「どしたの寧」
「あ、ううん…えっと…みんなは、いろんなことが出来て羨ましいなぁ…って」
モゴモゴと呟いて、俯く。俺は何かが出来てる訳じゃないと大地が場を繕い、てゆーか何か出来なきゃいけないってこともないわよと彗が述べるも、寧は依然どこか落ち込んだ様子。
と。彗が出し抜けな提案を次いだ。
「そしたらさぁ。寧も仲介屋、手伝ったら?彗が用心棒してあげる」
ここん家事務所に使っていーよ、普段けっこう姐姐居ないし。と続ける彗に、大地の心臓が高鳴った。輝く双眸。
「ほんと!?いいの!?」
「面白そうだしね♪アンタもメンバーよ?宝珠」
彗は宝珠を指でバンッと撃つ真似をした。同時に玄関から聞こえたノック、寧が駆け寄り扉を開くやいなや満面の笑みで飛び出す吉娃娃。
「お待たせしましたぁ!!」
お宅訪問で集合していると聞きつけデザートを運んできたのだ。彗は照準を宝珠から蓮へとズラし、‘ついでにアンタもね’と微笑。‘何がでしゅか’と吉娃娃はキョトン。
これは───楽しいことになってきた。もはや仲介屋に留まらず、万屋ができるのでは?そりゃ樹みたいにとまではいかないけど…大地はニンマリし、口元に拳を当てて咳払い。注目を集めると仰々しく言った。
「諸君、諸君。それではさっそく、ひとつ…依頼解決といこうか?」
眼下に広がる不格好なマンション群、灯り始めた綺羅びやかな花街のネオン。彗の自宅バルコニーから景色を眺める宝珠はポツリとこぼす。
「やっぱり、街の中心は華やかだなぁ…」
「壁際も壁際で小ざっぱりしてて良くない?閑静な住宅街ってヤツでしょ。可樂いる?」
「あっ彗、俺百事がいい!」
「無いわよ百事は」
冷蔵庫を開く彗が大地のリクエストを秒速却下。‘彗は瓶の可樂が好きなんだもん’と付け足すと、なるほどと頷いた大地が人差し指を立てる。
「じゃあ、今度彗にお土産で瓶の百事買ってくるね」
「いや瓶ならいいってわけじゃ…てかアンタ百事推しなの?」
言いながら、冷えた可樂の瓶底を大地の頬に押し当てた。冷たい!とハシャぐ大地、彗は続けて宝珠と寧の分もカチャカチャ取り出し栓を抜く。ポンと爽快な音が響いた。
大地は可樂をグビグビ呷りつつパチンコをいじる。窓枠によりかかって、壁に貼られたポスターをさし示す彗。
「あれ、的にしてみてよ。おデコに当てたら100点ね」
例の黄色いツナギを身につけた香港スター…を模した、ぽっちゃり熊猫のイラスト。的にされても李小龍さながらの凛々しい表情は崩さない。燃えよ熊猫。
大地は彗がいくつか寄越してきたピンポン玉を受け取り、熊猫へショット。ポヨンと腹へ当たって跳ね返る。もう1度ショット、肩にヒット。数回試すがなかなか狙いが定まらず頬を膨らませる。
「この前、東と哥が的当てメッチャうまくてさぁ!ナイフと銃だったけど」
テーマパークで景品を取ってもらった際の話だ。俺もバシッと決めたいのに!と再びゴムを伸ばす大地。
「目線の高さまで腕をあげてみたらどうかな。それで、真っすぐ垂直に引っ張るの」
室内へと戻ってきた宝珠がにこやかにアドバイス。こんな感じ?とポーズをとり弾を撃つ大地…すると若干、熊猫の顔の中心へと狙いが寄った。
「わ、良くなった!宝珠もしかしてこーゆーの上手?」
やってみせてよと大地は道具を宝珠に渡す。宝珠は軽く身体を傾けて斜めに構え、立て続けに3連続で玉をショット。全て熊猫の額へコココンッと軽快に当たった。300点。
「え!?うっま!!」
「私、よく兄様と狩りに出掛けていて」
長く続けていた田舎暮らしで、食料や毛皮を得るため短弓で野山の動物を獲っていたらしい。驚く大地に、‘弓は兄様より私のほうが得意なの’と少し胸を張る。彗が小首をかしげた。
「宝珠達って中国寄りの村の方に居たんだっけ?これからは九龍に住むわけ?」
「どうかなぁ。とりあえずお家は借りたけど、まだ本当にとりあえずだし」
兄様がどうするかによる、と答え、寧の隣に腰掛ける宝珠。大地は返却されたパチンコのゴムに指を引っ掛けクルクル回し、勘案。
「殷がわざわざ猫とか探して来てくれたなら、殷も九龍城に居るつもりなんじゃん?」
「でも宝珠は病気がちじゃない。九龍城は空気も衛生状態も悪いし、だったら近隣の山あたり行ったほうが環境いいと思うけど」
「動物狩って自給自足ってこと?」
「それだけじゃなくて。これまでだって殷も普通に仕事してたでしょ、田舎でもさぁ」
だよね?と宝珠に確認する彗。宝珠が一瞬だけ表情を翳らせたように見えて、寧はまばたきをした。
「そうだね。兄様の仕事は、どこに居たって出来るものだから」
普段と変わらない調子で微笑む宝珠の服の裾を、テーブルの陰でつまむ寧。‘寧も宝珠に居てほしいよね’との大地の言にコクコク頭を縦に振る。
「とにかく…兄様が決めたことに私は従うの。お父様とお母様を早くに亡くしてから、兄様がずっと独りで私を育ててくれて…沢山迷惑かけてきちゃって。これ以上は足手纏になりたくないの」
兄に恩を返して手助けをしたい。力は尽くすつもりだが、けれどもしも、もしもこの先───自分が邪魔になるようなことがあるのならば、万が一の事態も覚悟をしていると。
「もともと身体も弱いし」
眉尻を下げる宝珠に反して、彗はピクッと眉を吊った。
「宝珠ね、そういう覚悟はもっと役に立つ方向で使いなさいよ。殷がせっかくアンタを守ろうとして頑張ってんのに、当のアンタが投げやりでどうすんの。それだけ想ってるんなら何でも出来るでしょ」
命賭ける!っていう意気込みはイイけどさぁ、とコキコキ首を鳴らす。宝珠は背中を丸めて申し訳無さそうに笑んだ。
「彗ちゃんはしっかりしててカッコいいね。私と歳、変わらないのに…すごいな…」
「今さらぁ?そうよ、彗はすご───…」
顎をあげた彗が途中まで言いかけ、やめて、ペロッと舌を出した。
「くないよ、別に。彗も前にそーゆー感じのことあって。そん時、猫目と垂目が言ってただけ」
…猫目と垂目かな?思いつつ、大地は窓際の椅子の上で片膝を抱える。
彗が両親の仇を討った時の件については耳にしていた。そして皆が僅かずつ、力を貸したということも。‘覚悟を決めている’と発した彗を猫が窘め、哥が上手い具合に責任を持っていったとか。一部始終を掻い摘んで語る彗は態度こそプンスカしていたが、瞳には怒りとは全く違う色が見えていた。
「宝珠も話してみたら?アイツら伊達に年食ってないわよ。ほら、300点の景品あげる」
土産の月餅──樹御用達!品質保証!──を宝珠へ手渡す彗。朗らかに頷く宝珠が寧と半分こしはじめる横で、大地はヒソヒソと彗の脇腹をつついた。
「彗がゆった、って事にしといてもよかったのに」
「馬鹿ね。誰かから教えてもらっといて自分の手柄みたいにしちゃダサいでしょ」
またペロッと舌を出す彗に、大地はシシッと笑って指先でハートを作る。
「カッコいいじゃん♪」
「そぉ?」
彗はそれをチラリと見やり素っ気なく答えてから、‘でも’と悪戯な顔。
「もっと褒めてもいいよ」
その台詞にケラケラ笑う大地。しかしふと、寧が身体を縮こませているのに気が付いた。
「どしたの寧」
「あ、ううん…えっと…みんなは、いろんなことが出来て羨ましいなぁ…って」
モゴモゴと呟いて、俯く。俺は何かが出来てる訳じゃないと大地が場を繕い、てゆーか何か出来なきゃいけないってこともないわよと彗が述べるも、寧は依然どこか落ち込んだ様子。
と。彗が出し抜けな提案を次いだ。
「そしたらさぁ。寧も仲介屋、手伝ったら?彗が用心棒してあげる」
ここん家事務所に使っていーよ、普段けっこう姐姐居ないし。と続ける彗に、大地の心臓が高鳴った。輝く双眸。
「ほんと!?いいの!?」
「面白そうだしね♪アンタもメンバーよ?宝珠」
彗は宝珠を指でバンッと撃つ真似をした。同時に玄関から聞こえたノック、寧が駆け寄り扉を開くやいなや満面の笑みで飛び出す吉娃娃。
「お待たせしましたぁ!!」
お宅訪問で集合していると聞きつけデザートを運んできたのだ。彗は照準を宝珠から蓮へとズラし、‘ついでにアンタもね’と微笑。‘何がでしゅか’と吉娃娃はキョトン。
これは───楽しいことになってきた。もはや仲介屋に留まらず、万屋ができるのでは?そりゃ樹みたいにとまではいかないけど…大地はニンマリし、口元に拳を当てて咳払い。注目を集めると仰々しく言った。
「諸君、諸君。それではさっそく、ひとつ…依頼解決といこうか?」
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる