九龍懐古

過日残夜

ピースとおもたせ

過日残夜５





数日して。

「まぁ評判の悪い建設会社やな」

新宝公司について話題を仕入れてきた上カムラが、ボヤきながらパリパリと笹の葉を剥く。

テーブルにはてんこ盛りの粽ちまき。数多あまたの店から連日連夜、樹イツキがせっせとテイクアウェイしてくる多種多彩な餅米もちごめ達。今日は途中で上カムラ並びに燈瑩ミリオネアと合流した為、視界に入った食べ物を買いたい放題購入しまくった結果【東風】には恐ろしい量の土産が持ち込まれていた。

「ゴルフ場やらキャンプ場やらちょいちょい作っとるっぽいけど、仕事めっちゃ適当やねんな。依頼主とも就業者ともトラブって名前何回か変えとるはずやで」

唸って葉っぱを千切る上カムラ。仕事が適当なのは雇った労働者の怠慢ではない、会社側がロクな材料や環境を揃えないせいで現場での作業がままならないのだ。資材削減、給料削減、ちょろまかしたお金は懐ふところへ。多々ある話。

「亞牛建設って会社、前に広州にあったヤツかな」

言って粽ちまきをつまんだ燈瑩トウエイが、小さく‘美味しい’とこぼす。聞き逃さなかった上カムラは燈瑩トウエイの皿に全種類を山盛りに。

「えっ？ちょっと上カムラ、乗せ過ぎだよ」
「買こうてばっかやのうて食べやんと」
「俺もうご飯食べてきたから」
「何食くうたか言ゆうてもろてええですか」
「…熊猫曲奇パンダクッキー」
「あかん！！！！」

カッと両眼を見開く上オカン、‘食べろ’の圧。燈瑩トウエイは数回パチパチとまばたきをして、チロッと樹イツキへ目配せ。救援要請。無言で承うけたまわる樹イツキ。
亞牛の情報に東アズマが眉をあげる。

「広州から九龍ここに流れてきたってこと？」
「多分。大陸のほうでもお金の事とか従業員消えた消えないで揉めてたみたい、あっちは城砦と違ってウルサいし」

ウルサいっていうか普通だけどと笑って粽ちまきの包みをとく燈瑩トウエイ。樹イツキもその葉っぱを開くのを手伝う…振りをして、上カムラの目を盗み、剥いた途端に光速で自分の口へ放り込んだ。ナイスアシスト。

建設系の人間には半グレやチンピラも多い。亞牛建設の社長も元々は広州で暴れていたギャンググループの一員いちいんらしく、以前グループがマフィアとドンパチをかました際に多方面から武器をかき集めていたのを聞いたことがあると燈瑩トウエイ。後のちにグループは解散、そこからポコポコと何人かが土建業で独立していったようだ。血の気の多い若造達。

上カムラの粽ちまきへの監視を気にしつつ、燈瑩トウエイは話を続ける。

「で、消えた従業員なんだけど…そのあとに見付かってはいるんだよね」
「あら？なら良かったじゃない」
「土の下からだけど」
「なんにも良くないわね」

即座に前言撤回する東アズマ。

死体は会社所有の土地から出たらしい。それがバレたのもあって九龍へ逃げてきたのか？雲行きが途轍もなく不穏になってきた。

「もう１個ん土地とこ怪しいんとちゃうか」

上カムラがいくらか重たいトーンで言った。地図に記載されていた新宝公司管理の謎の土地、いずれは開発していくつもりなのかもわからないが…さしあたり、モノ・・を埋めるにはうってつけ。

「劉帆リュウホって奴、その…会社側の人間になんやかんや意見しよって、そんあと…移動・・？しててんやろ」

千切った葉っぱをさらに細かく千切る上カムラ、含みがある物言い。東アズマは口元に手を当てて少し目を伏せた。

裏社会出身の社長。大陸でのトラブル。消えて、見付かった従業員。改名された会社。破けた履歴書。現場移動した労働者。隠されている土地。

残念ながら────ピースがそこそこ揃ってしまった。しかもメインの絵柄部分。こりゃ答えが出てるようなもんだな…頬杖をついてスマホの液晶を眺める東アズマ。‘なるべく早く’は達成されたが、‘良い方向に’は向かう気配が無い。陳チャンにどう伝えるべきだ？いや、まだ、何も確定してはいないけれど。けれど…。
電話帳の陳チャンの名前をタップしてはフリックして閉じ、タップしてはフリックして閉じる。報告しづらい。非常に。

「行ってみる？もうひとつの場所」

樹イツキが頭を傾け提案。例の見取り図の土地、位置はだいたい把握済み。１回訪おとずれてみるのもいいか、案外普通のキャンプ場とかだったりするかも知れないし──絶対そんなはずはないけど──決めつけるのは尚早しょうそう。と思いたい。東アズマは‘そうね’と応え、また陳チャンの名前をタップ。今度はコールした。

劉帆リュウホの事がわかったのかとウキウキしている陳チャン。かも知れない、とりあえず見取り図にあった別の現場へ深夜に行くが同行するか？と東アズマが打診すれば陳チャンは二ふたつ返事で了解。

好ましくない結末になりそう…電話を切って息を吐く東アズマ。燈瑩トウエイの粽ちまきをほぼ片付けて任務完了していた樹イツキが東アズマの粽ちまきを剥き始める。こちらは食べる為ではなく、心境を慮おもんぱかっての気遣いだ。クスリと笑った東アズマが‘陳チャンにもわけてあげようか’と訊くと、樹イツキは颯爽とおもたせ・・・・をお土産袋に詰めだした。
それを微笑ましく見守る燈瑩トウエイの皿が上オカンの手により再び山盛りになっていた──樹イツキが食べたのがバレてたみたい──のに東アズマは気付いたが、陳チャンへのお裾分けになんら影響は無さそうだったので、放っておいた。