九龍懐古

カロン

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身辺雑事

オロオロと相談事・前

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身辺雑事2





雑談しながら九龍の街を抜けるカムラタクミ


アズマって前はそんなに女のケツばっかり追っかけてたの?」
見境みさかい無いで。飲み方汚いとかやないけど」
「へー、あんま女好きのイメージねぇわ」
「今はあらへんかも。タクミ藍漣アイランさん来よったあとにうててんから知らんわな」
「あーね…つうかおまえは彼女サンいいのかよ、ピンサロ来て」
「いやこれ仕事やねんから!!サービス受ける訳ちゃうし話すだけやし!!」
「うわっ顔こえぇって、圧すごいな」
「すまん」


中興楼はあまり品の良くない・・・・・・エリアの陰気臭い路地に面した建物だ。ゴロゴロと転がるジャンキーを跨ぎ裏通りを近道、辿り着いたのは古ぼけたビル。壊れた水道管から滴る水がビチャビチャに濡らす階段を上がる。錆と腐食。どう見てもリンが居たピンクカジノより稼ぎが上回りそうな環境ではない…思いつつカムラは垂れてくる汚水を避けようとし、避けられず、ばっちりストールにかかった。反射神経ゼロ。タクミが壁から剥いだ大判のチラシを傘代わりに渡してくれた。赤文字のキャッチコピー、‘梅毒ばいどく及早治療可以完全痊癒はやめのちりょうでかんぜんちゆ!’

数階登って目に入る、ボロい扉にさがった【楽山】の看板。ドアを引くとすぐ小ブース、中に座るヤル気のなさそうなスタッフがアクリル板越しに人数と希望のプレイを訊いてくる。‘初回の方は指名無料’とアルバムが出された。パラパラめくりリンの写真を探す。あった。谷間を強調して甘えたポーズ、下に書いてある名前はキャンディ。タクミは‘キャンディちゃんイイね’と片頬笑かたほえみ、指名をしてコースをオーダー。利用料金は各人500香港ドル、2人合わせてピッタリ千。‘新人のでオススメですよ’とスタッフはニッコリ。歯抜け。

「ルームは1番奥の左側です、オプションや延長の交渉は女の子に直接どうぞ」

リンの部屋の位置を告げるとスタッフは事務作業に戻っていく。こなれた様子のタクミの耳元に口を寄せる、狼狽うろたえた様子のカムラ

「慣れとるん?」
「まぁ」
「よく来るん?」
「うん」

そういうタイプには見えないが…カムラが思っていたそばから、‘今は来てねぇけど。金回収する必要無いもん’とカラッとした声。昔のグループでの仕事か。やんな、そうやんな。1人でやたらとウンウン頷くカムラタクミはキョトンとした。

内扉をくぐり、狭く薄暗い廊下を進む。両側にビッシリと並んだ目隠しのカーテン、簡素に仕切られている小部屋たち。音はダダ漏れ。会話とか、あとまぁ…会話とか…。これ以上なく気まずそうなカムラ
後ろのタクミは、とあるピンク色のカーテンの前ではたと足を止め───指を引っかけるとチラッと小部屋を覗いた。床の上からマットレス、テーブル、天井まで視線を這わせた。閉めた。
廊下の突き当りでカムラが振り返り、ベロア素材のカーテンをさす。こっちは深紅。タクミがトコトコ近付くとカムラは咳払いをし、失礼しますとかしこまった。

室内に入ると、下着姿でベッドに腰掛けるリンが驚きの表情。おさえた声で尋ねてくる。

カムラくんとタクちゃんじゃん!!なんで!?」
「なんかトラブってるってきいて」

タクミの返答に、リンは‘マオくんか…気にしなくて良かったのに…’と小さくこぼし、ササッとシーツを整えた。

「3P60分コース?」
「それ。リンの取り分いくらなの」
「100」
「は?中抜きヤバイな」
「ヤっバいよ!在籍の達は超かわいそう!アタシは、んっと…内情、探りに来ただけだからいいけど…」

言い淀みはしたが話してくれそうだ。小声で会話をしつつ、煙草に火を点けたタクミはマットの端に腰を下ろした。リンが差し出した灰皿を‘サンキュ’と受け取る。
カムラはまだ入り口で突っ立っていた。カムラとてこういった店にはよく来る、スカウトした女の子を紹介したり、その後の面倒を見たり、スタッフと相談したり、色々する。するが…仕事部屋・・・・の中まではあまり踏み込まない。ましてやキャストが仕事着・・・の時などは。

リンに‘座らないの?’と訊かれ、壁と睨めっこしていたカムラはどうにか、‘タオルとか羽織ってもらってええ?’と一言ひとこと絞り出した。‘いいけどカムラくんは脱いでもらえる?’とリン

「え、何で!?」
「シッ!声が大きいよ!変でしょピンサロで服着てたら。せめてシャツくらいとってよ」

唇に人差し指を立てるリンカムラは慌てて謝り、オロオロとタクミに視線で助けを求める。視界に映ったタクミは既に上裸だった。

「早ない!?」
「シッ!声デケェって!いいよとりあえず俺が脱いだから、まだおまえは着てても」

唇に人差し指を立てるタクミカムラは慌てて謝り、オロオロとリンの横に腰を落ち着ける。
良かった、脱ぐのは色々と厳しい。色々と…ん?まだ・・?ということは、やっぱりいずれ脱ぐんか…俺も…?思いながらさしあたり、申し訳程度にストールをはずした。
タクミは自分のシャツやパーカーを廊下にハミ出る程度の位置へと雑に放る。外向きのアピール・・・・。煙草で灰皿のフチを叩いた。

「で、なにがあったの」
「んー…巻き込んじゃうみたいで悪いな…」
「ええねん。俺の紹介した中でも他の店から【楽山ここ】に流れたりしとる女の子ってな、ちょぉ情報欲しいねん」
「俺も薬の話は個人的に気になるから。ドラッグ絡んでんだろ?」

2人のげんを聞いたリンは少し考えてから‘ありがと’と笑い、明るいセミロングをかきあげフゥと息を吐く。気の強そうなの瞳に宿る憂いの色。

「アタシの友達で…桂子カコっていうんだけど。その子のこと、助けたいの」
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