九龍懐古

カロン

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紫電一閃

昔日とナンバーナイン・中

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紫電一閃17





波とは別の衝撃で船体が揺れた。チンピラ達は戸惑いののち、慌てて方々ほうぼうへ原因を探りに行く。燈瑩トウエイも驚きの表情を作り──眉毛を上げただけなんだけどそれくらいでもいいかなって──数名に声を掛け操舵室の機器のチェックを頼んだ。操縦パネルの下部などを点検してくれる、親切なマフィア。多謝ありがとう

「どこか異常ありそう?」

質問しつつ、燈瑩トウエイは上着の内側をまさぐる。

「いや…ここは特に…」
「でもこのあたりからな気はしたな。まさか機関室か?」

返事をする男2人の後頭部を、ポケットから出した両手の拳銃で同時に撃った。パシュンと静かに消音器サプレッサーが鳴く。入り口付近に居た男が振り返ったが、なにかを言う前に眉間に穴があいた。燈瑩トウエイは死体を操舵室へと引き摺り込み、何事もなかったかのように扉を閉じる。階段を降りて貨物庫へ。エンジンルームに繋がる通路に何人かが向かっていったな…考えながらそちらの方面のドアを閉め錠前をかけた。おまけでワイヤーロックも。反対側の貨物室へ進むとまた数人のチンピラが姿を現したので、出会い頭に鉛玉を見舞う。
この部屋はここが突き当り───他に行くには1回甲板うえに戻ってくだる感じか。きびすを返すと今鍵をかけたエンジンルーム方面の扉がうっすら開いており、ワイヤーにはばまれた隙間から男共が必死でギャアギャア叫んでいる。

あれ?あのドア、向こう側からは動かないと思ったんだけど…ワイヤーロックおまけつけといて良かった…燈瑩トウエイはトコトコ近付き質問。

「エンジン燃えてた?」

酷く呑気な声音の燈瑩トウエイに、外へ出ようとモゾモゾ身体を動かす半グレが怒号を浴びせる。開けろ、燃えてる、消火、助けろ…などなど単語が聞こえ、C4シーフォーがキチンと仕事をこなしてくれたと納得した燈瑩トウエイは、‘今助ける’と言い手前の1人の下顎に銃口を当て引き金を引いた。脳天から血を噴きズリッと滑り落ちる身体。
奥に居た輩が状況を理解出来ず呆然と燈瑩トウエイを見ると、笑顔で向けられるピストル。男が掠れた声を出す。

「えっ…助…」
「けるってば」

返答と共に1発。脳ミソが飛んだ。

火達磨よりはいいだろ、との配慮による助け・・だったが、伝わったかどうかはわからない。奥にもまだ誰か居るのかな?しっかり鍵かけ直しとこ…挟まっている死体を中に押し込み再度施錠。
しかしこうなるとあの時の火達磨、ちょっと悪いことしたかも…后座の裏通りで起こした火災を今さら若干反省する。脳内でリピートされるマオの‘そういうとこだぞお前’という声を聞きつつ、ゆっくりと、デッキへの階段を上がった。







「あ、爆発した」

言うなり腰をあげたイツキは、コンテナの扉をそっと押して外の様子を確認。この爆破は合図・・───状況開始ということ。

ソロソロと足を踏み出す。小雨こさめ。続いて出てきたスイの手を取り、積み上がったコンテナをいくつか乗り越え甲板の前方へ。
と、ちょうど貨物庫の階段から燈瑩トウエイが上がってくるのが見え、その正面の操舵室で死体を発見し騒いでいる男達も見えた。
イツキに気付いた燈瑩トウエイが手を振り、男達もイツキへと視線を───向けた時には既に一足いっそく飛びで距離を詰めたイツキが、1番手近な輩の顔面へ膝をめり込ませていた。倒れていく男の頭を掴み、着地と同時に半回転させる。ゴキンと鈍い音。低い体勢のまま横の1人に足払いをかけ転がし、隣で銃を構えかけた男の手首を蹴り上げピストルを弾き飛ばす。間髪入れずパスパスッと控え目な銃声がふたつして、男達の額に風穴があいた。燈瑩トウエイの手元でフワリと硝煙が舞う。

「これで何人?」
「ん?10…人、とかかな…?」

死体に目を据え発するイツキへ、数などは全く数えていなかった燈瑩トウエイが自信なさ気に回答。ここの亡骸は3体、操舵室にもいくつか…10人ってことは…‘燈瑩トウエイもうけっこうったね’と言いながら帽子をかぶり直すイツキ。‘焦げてるだけでまだ生きてる人が機関室に居るかも’と燈瑩トウエイ。焦げてるだけとは?追い付いたスイいぶかしげな顔をする。

「そしたらあと半分くらい───…」

言いかけて、船首の方から銃を手に向かってくる男を見付けたイツキは少し背中を反らせた。燈瑩トウエイスイの肩を下に押して伏せさせる。男が発射した数発の弾丸はイツキの鼻先を抜け、スイの頭上を通り過ぎた。
着弾時にはイツキの脚はうに床を蹴っており、その姿は一瞬で男の眼前へ。敵の照準が定まるより早く回し蹴り。顎に食らった男が崩折れ、またも倒れていく途中に頭を掴んだイツキは即座に半回転させた。再びゴキンと鈍い音。

同じ方向から立て続けに幾人かの足音。それを視認しつつ、ぼんやりと、遠い日の記憶を掘り起こすイツキ

どんな感じだったっけ、あの人────スイのお父さん。こう…かわしてからのカウンターがすごく滑らかだったような?あと、蹴撃か。手は三節棍持ってるんだもんな…思い返して動きを摸倣もほうする。摸倣もほう、というか、自分の中に残っているものでもあるのだが。

その様子をスイは食い入るように見ていた。

そうだ。爸爸パパもこんなふうに…柔らかくて、だけどつよくて…自慢の爸爸パパで…懐かしいな。懐かしい、ほんとに────しゃがみ込んだままジッとイツキを見詰めるスイ
横で燈瑩トウエイが銃を下げた。イツキに手を貸そうかと悩んだけれど、なぜかなんとなくそれは、今この場では…野暮・・な気がしたので。
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