九龍懐古

カロン

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紫電一閃

雑談と立候補

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紫電一閃15





「今回の予定なんだけど」

数日後、【東風】。

カムラの情報を元に例のグループに接触し‘九龍で活動・・をしていると噂で聞いた。もしルートが必要なら喜んで分ける、今ちょうど自分も大陸に新しいツテを探していたので…特別な・・・儲け話がしたい…’などと甘言を並べ立てたらしい燈瑩トウエイが、テレビの天気予報を見ながらのんびり概要説明。
水害の映像を背景に流れるキャスターの声───此度こたびの台風‘鴛鴦インニョン’が各地に残した爪痕は激しく…新たな暴風‘小狗コイヌ’が半島に迫っております…香港天文台。

「車とか武器とか積んだ船用意して、‘大陸むこうさばこう’って誘っといた。沖に出たら適当な場所で全員まとめて沈没させちゃおう」

燈瑩トウエイは人差し指を顔の前でクルクル回し下に向けた。ドボン。九龍城から出航た船が1隻2隻沈んだ所で誰もキッチリ調べない、台風の中で航海し事故を起こした不運なタンカー…しかも大陸側の領域でやってしまえば、片付けは向こうに任せられる。当局は魔窟にノータッチ。無法地帯から生まれた厄介事を好んで探ったりなど国家権力とてしたくないのだ。

「あの半グレ連中、結構アッサリ話に乗ってきてんすか?」
「うん。重機じゃなくて高めの乗用車くるま見せたから、新規ルートには良いし。俺と繋がりもできて移動費も浮いて金も入って…断る理由無いでしょ」

カムラの問いに頷く燈瑩トウエイ。アンバーと友好的な関係を築けば周辺のルートを無理に奪うより簡単で安全に採算が取れる。どう見ても賢明な選択───提示された計画が、本当にそのままの意味であるなら。

「船沈めたら燈瑩トウエイが損しちゃわない?」
「しねーよ。処分船舶に事故車積むんだろ。あと不要武器ゴミ。廃棄費用ガッポリ貰うくせして後始末は警察サツに任せんだから、プラマイプラだわ前みてぇに」
「前?」
「同じ手口で儲けてんだ、この悪徳業者は」

疑問を投げたスイへ、老酒をあおマオが返す。

「じゃあ、あの桑塔納サンタナも事故車か」

藍漣アイランが何の気無しに訊いた。どころ不明の‘みんなの桑塔納サンタナ’。事故って、き殺したとかそういうこと?と首を傾げるイツキに茶をいでいたアズマの喉がヒュッと鳴る。オバケコワイ。茶が少しこぼれた。

「いや、死亡事故限定ではないから…それにあれはキレイなやつ。今システムうるさくて、香港市内走るのに盗難パクったのとか傷アリだとバレちゃうし。マオなんて飛ばすからすぐ引っ掛かるよ」
「運転なんかしねぇっつの。ダリィ」

あからさまにホッとした様子のアズマを横目に、燈瑩トウエイから名指しでツッコまれたマオがコキコキ首を鳴らした。言う通り、マオは面倒事は基本的に人任せ。運転は面倒に入るのでしない、しないが、するとなったら3桁以下の速度では走らない。付き合いの長い人間なら誰もが知っている。

「タンカーなにで沈めるのよ」
C4シーフォー
「あ、粘土ね」
「んだよ薬物中毒ジャンキー、喰うのか?つうか燈瑩トウエイこないだ上水スンスイの事務所もそれでフッ飛ばしただろ」

火薬が気になるジャンキーこと、アズマ──花火作るからですよ花火!邪推はして下さい!あぁちなみにC4シーフォーは食べると甘いです──へ答える燈瑩トウエイは、マオの言葉にクスクス笑う。

あの時のニュース、燈瑩トウエイか…それでマオにツッつかれてたんだ…考えながらその日に行った尖沙咀チムサーチョイの店の熊猫パンダ饅頭を思い出すイツキ。あの時の饅頭、小豆餡あずきあんが…とても美味しかった…余計なことにれる意識。

いささか話題が寄り道したものの、大まかなプランを把握したスイは口元に手を当てしばらく思案し───小さく言った。

スイが、ちゃんと…落とし前つける」

九龍での発端は広場のストリートファイト、そして更に遡れば両親が関わっていた1件もある。それとは別に新たな人身売買やルート略奪等の問題も生じているにせよ、とにかく自分にまつわる事柄の比重が大きかった。

マオがハッと顎をしゃくる。

「ガキんちょになんて任せられっか。欲張ってんじゃねーよ」
「はぁ!?欲張ってるとかじゃなくて…覚悟決めてんの!!」
「あそぉ。じゃ他ん所で使え、その覚悟は」
「なんなのよ偉そうにぃ!!」

ペロッと舌を出すマオに、シャーシャーと毛を逆立てるスイ。ネコ2匹。しかしスイのポニーテールにあわせてなびいているのは新品の虹色の組紐だ。事情を耳にし、気を遣ってわざわざ髪を結いに来てくれたくせに…どうにも口の悪い城主。
含み笑いであいだに割り入った燈瑩トウエイが、当日のスイの同行を了承。グループメンバーの入れ替わりは激しいものの、龍頭ボス自体はバス事故の頃から変わらずに、いまだ同じ人間のはず。過去に決着をつけたい───そう願うスイの気持ちを汲んだ形。

「そうすると、んー…俺はもちろん船に乗るんだけど…」

燈瑩トウエイは紫煙を流して、勘案かんあん。単純に片付ける・・・・だけであれば自分1人でも良かったが…スイが来るなら一緒に動いてくれる人員が欲しい。スイの腕は立つけれど、それなりの荒事が予想される現場では彼女の後ろ盾になってくれる者が居れば安全性が増す。思索する横でイツキが控え目に手をあげた。

「俺、ついて行ってもいい?」

うかがうように許可を求める最高戦力。非常に謙虚。いい?も何も、いい以外の回答は無いだろう。ありがたい申し出に燈瑩トウエイふたつ返事で礼を述べる。
タンカーを沈めたあと、帰りの足はどうするかとの議題に‘ウチが迎えに行くよ’と藍漣アイラン

「クルーザーかなんか貸してくれれば」
藍漣アイラン、船動かせるんだ」
「あんまデカくなけりゃな。免許ねぇけど」

感心するイツキ藍漣アイランは悪戯にむ。とはいえ免許など持っているほうが珍しい、乗用車ですらアズマカムラしか取得していないのだ。藍漣アイランが愉しげにアズマの頬をつまむ。

「そうかおまえ、免許あるのか!ちょっとID見せてみろよ!」
「えー写真?やだぁ犯罪者ヅラだから…」
「証明写真なんてみんなそうだろ?てか犯罪者じゃんお前普通に」
「やめてぇ!?」
「ははっ、可愛いな♪」

ワチャワチャとはじまった、イチャイチャ。白目のスイイツキは月餅を差し出した。



決行は週末、九龍灣。スイの胸元にイツキが──月餅と共に──こぶしを掲げる。それを認めるとスイは表情を崩し、‘よろしくね’と言って、コツンと自分のこぶしを合わせた。
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