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紫電一閃
架電とアイスピック・前
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紫電一閃11
晴天から曇天、俄か雨、雷鳴、翳る雲影。目まぐるしく変わる城塞の天気。ぐずついた空模様、さりとて────恋人達にはあまり関係のない話だが。
「起きろよ東、客が来るぞ」
晴朗な声音に瞼を開くと、ベッドの横にしゃがみ込んで縁に肘を付く藍漣と目が合った。ダボダボのシャツ。あら、また勝手に俺の服着てる…素敵…思いつつ東はサラサラしたショートカットに指を伸ばす。普段より少しだけ散らかった部屋。
【東風】の表には‘休業’の札を掛けてある、誰が来ることもないはずだけれど。
「客ぅ?てかもう朝ぁ?」
「昼」
「マジか」
そうだった…寝たのが朝方だった…。首を回す東、藍漣はベッドにあがりその仰向けの身体の上にボスッと倒れ込んだ。しなやかな細い腰を抱き止めながらボヤく店主。
「今日は【東風】休業ですよ」
「饅頭が来るって」
「えぇ?何で上が来るの」
「なにか目星ついたんじゃねぇか、こないだ揉めたチンピラの」
「微信とかでよくなぁい?」
藍漣の髪を撫で肩口に顔を埋めると、お返し──お返し?──に耳を齧られた。痛い。どうして来るの知ってるのと尋ねる東に、【東風】の電話が鳴ったから出たと藍漣。そうなのか、まったく気が付かなかった…東はピコピコ光る携帯にチラッと視線を投げる。不在着信、上。1件、2件、3件。多っ。
「真面目だよな、上」
藍漣が耳元でクスクス笑う。東が‘俺も結構真面目だけど’と返せば再度耳を齧られた。痛い。同じ箇所ばっかり噛んで、まったく…反対側もお願いします。
「上が来る前にさ?飯でも買いに行こうぜ」
言って身体を起こし、藍漣は東の腕を引く。それにつられて東も起き上がり────そのままパタンと藍漣を後ろに押し倒した。
「おい東…」
「いいじゃない、5分くらいなら。変わんないでしょ」
聞き覚えのある文言。藍漣は頬を弛めて、そうだなと頷き、東の唇に指を添えた。
路地裏をポテポテ歩く上は、東への連絡を終えて燈瑩の携帯を鳴らす。
まぁ、東の応答が無くて最終的に【東風】にかけたら藍漣が出たのだが。藍漣、朝方寝たからさっき起きたって言うとったな。東んとこ泊まっとったんか…ほんで朝方寝たんか。朝方…そうか…。モヤモヤと思案しているとふいにコール音が途切れる。あ、燈瑩さん出よっ────
「はーい。喂?」
「!?」
女の声。えっ?俺、番号間違っててん?アタフタする上に電話口の相手は‘彗だけどぉ。燈瑩、珈琲淹れてるよ’と続けた。
「あ、彗ちゃん?ビックリしてもたわ」
驚いた。燈瑩さん、手ぇ離されへんかっただけか。…ん?…何で彗ちゃん?
よくわからなかったがとりあえず燈瑩の家に居るらしい事を把握した上は、東に連絡をつけ【東風】に行こうとしているので皆も来て欲しい旨を告げる。
「えー今すぐ?もうちょっとあとがいいな、彗達さっき起きたばっかだから」
‘寝たの朝方でさぁ’と欠伸。
彗達?達、って、彗ちゃんと燈瑩さん?燈瑩さんとこ泊まっとったんか…ほんで朝方寝たんか。朝方…そうか…。はい?そっちも!?脳内で疑問符を連打する上に、ってゆーか!と彗は不機嫌な調子。
「アンタね、朝っぱらからモサメガネの電話鳴らしたの?」
「え…朝っぱらではないけど…鳴らしたで。こないだの件のこと、はよ伝えたろ思て」
しどろもどろな上へ、ハァァァと大きく息を吐く彗。
「そーゆーの野暮っていうのよ」
その言葉に上は面食らう。野暮?野暮だったのか、俺は?そりゃあ確かに電話には藍漣が出たが。藍漣が‘東まだ寝てるぜ’って───いや野暮だな、そうなると。そうだな。でも知らなかったから…泊まってるの…考え込む上の耳に届く‘燈瑩ありがと’という彗の声。珈琲か。続けて‘じゃプーさん拜拜’との台詞を最後に通話は終了。暗くなった液晶画面をスンとした表情で眺める上。
切られたわ。何…え?なんなん…?俺が駄目やってん…?どこ電話しよっても女が出よるし…これ、もしかして大地にしよっても寧が出るんかな?出そうやな…。野暮、か…。
遠い目のまま【東風】へ足を向け───思いとどまった。きっとすぐに行ってしまったら野暮なのだ。上はさしあたり、いくばくかの時間を稼ぐ為、茶でもしばこうとノロノロと茶餐廳を目指し歩き出した。
晴天から曇天、俄か雨、雷鳴、翳る雲影。目まぐるしく変わる城塞の天気。ぐずついた空模様、さりとて────恋人達にはあまり関係のない話だが。
「起きろよ東、客が来るぞ」
晴朗な声音に瞼を開くと、ベッドの横にしゃがみ込んで縁に肘を付く藍漣と目が合った。ダボダボのシャツ。あら、また勝手に俺の服着てる…素敵…思いつつ東はサラサラしたショートカットに指を伸ばす。普段より少しだけ散らかった部屋。
【東風】の表には‘休業’の札を掛けてある、誰が来ることもないはずだけれど。
「客ぅ?てかもう朝ぁ?」
「昼」
「マジか」
そうだった…寝たのが朝方だった…。首を回す東、藍漣はベッドにあがりその仰向けの身体の上にボスッと倒れ込んだ。しなやかな細い腰を抱き止めながらボヤく店主。
「今日は【東風】休業ですよ」
「饅頭が来るって」
「えぇ?何で上が来るの」
「なにか目星ついたんじゃねぇか、こないだ揉めたチンピラの」
「微信とかでよくなぁい?」
藍漣の髪を撫で肩口に顔を埋めると、お返し──お返し?──に耳を齧られた。痛い。どうして来るの知ってるのと尋ねる東に、【東風】の電話が鳴ったから出たと藍漣。そうなのか、まったく気が付かなかった…東はピコピコ光る携帯にチラッと視線を投げる。不在着信、上。1件、2件、3件。多っ。
「真面目だよな、上」
藍漣が耳元でクスクス笑う。東が‘俺も結構真面目だけど’と返せば再度耳を齧られた。痛い。同じ箇所ばっかり噛んで、まったく…反対側もお願いします。
「上が来る前にさ?飯でも買いに行こうぜ」
言って身体を起こし、藍漣は東の腕を引く。それにつられて東も起き上がり────そのままパタンと藍漣を後ろに押し倒した。
「おい東…」
「いいじゃない、5分くらいなら。変わんないでしょ」
聞き覚えのある文言。藍漣は頬を弛めて、そうだなと頷き、東の唇に指を添えた。
路地裏をポテポテ歩く上は、東への連絡を終えて燈瑩の携帯を鳴らす。
まぁ、東の応答が無くて最終的に【東風】にかけたら藍漣が出たのだが。藍漣、朝方寝たからさっき起きたって言うとったな。東んとこ泊まっとったんか…ほんで朝方寝たんか。朝方…そうか…。モヤモヤと思案しているとふいにコール音が途切れる。あ、燈瑩さん出よっ────
「はーい。喂?」
「!?」
女の声。えっ?俺、番号間違っててん?アタフタする上に電話口の相手は‘彗だけどぉ。燈瑩、珈琲淹れてるよ’と続けた。
「あ、彗ちゃん?ビックリしてもたわ」
驚いた。燈瑩さん、手ぇ離されへんかっただけか。…ん?…何で彗ちゃん?
よくわからなかったがとりあえず燈瑩の家に居るらしい事を把握した上は、東に連絡をつけ【東風】に行こうとしているので皆も来て欲しい旨を告げる。
「えー今すぐ?もうちょっとあとがいいな、彗達さっき起きたばっかだから」
‘寝たの朝方でさぁ’と欠伸。
彗達?達、って、彗ちゃんと燈瑩さん?燈瑩さんとこ泊まっとったんか…ほんで朝方寝たんか。朝方…そうか…。はい?そっちも!?脳内で疑問符を連打する上に、ってゆーか!と彗は不機嫌な調子。
「アンタね、朝っぱらからモサメガネの電話鳴らしたの?」
「え…朝っぱらではないけど…鳴らしたで。こないだの件のこと、はよ伝えたろ思て」
しどろもどろな上へ、ハァァァと大きく息を吐く彗。
「そーゆーの野暮っていうのよ」
その言葉に上は面食らう。野暮?野暮だったのか、俺は?そりゃあ確かに電話には藍漣が出たが。藍漣が‘東まだ寝てるぜ’って───いや野暮だな、そうなると。そうだな。でも知らなかったから…泊まってるの…考え込む上の耳に届く‘燈瑩ありがと’という彗の声。珈琲か。続けて‘じゃプーさん拜拜’との台詞を最後に通話は終了。暗くなった液晶画面をスンとした表情で眺める上。
切られたわ。何…え?なんなん…?俺が駄目やってん…?どこ電話しよっても女が出よるし…これ、もしかして大地にしよっても寧が出るんかな?出そうやな…。野暮、か…。
遠い目のまま【東風】へ足を向け───思いとどまった。きっとすぐに行ってしまったら野暮なのだ。上はさしあたり、いくばくかの時間を稼ぐ為、茶でもしばこうとノロノロと茶餐廳を目指し歩き出した。
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