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紫電一閃
パワープレイと999・後
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紫電一閃8
やべ、コケる。
思いつつ頭上を仰ぐ匠の顔面スレスレを、なにかが走った。ゴッ!と先程聞いたような鈍い音────男の肩口へ材木がめり込んでいた。辿った先には、材木を小太刀よろしく構えた蓮。寧を道の端に避難させ戻ってきたのだ。蓮は1度得物を引くと後ろへ倒れ込む匠を庇うように立ち、ひとつ息を吐く。
匠は地べたに仰向けのままで、ニット帽を脱いだ。投げた。男の顔にパスッと当たる。払おうと男が反射的に腕を上げ、そのせいで空いた脇腹に蓮がまた横薙ぎに角材をめり込ませる。上体を曲げる男。頭が下がった。
傍の死体のナイフを掴んだ匠は、大の字の姿勢からコロンとでんぐり返しをして男の懐へ潜り込む。立ち上がりざまに、刃先を相手の喉に下から刺した。‘キュゥ’と可笑しな声。匠が身を翻すと男は前のめりに崩れ落ち、突っ伏して動かなくなった。ポケットからハミ出ている拳銃。
あれ?こいつ銃持ってる。何で使わなかったんだ、最初の奴も初手は鉄パイプだったし…俺らみてぇなチビなら余裕でボコせると思ったのかな?あんまり傷付けないほうが色々売れるから?思案しつつ匠はピストルを拝借して、路地の突き当りに居た残りの敵とおぼしき男達を撃った。1人、2人、終いか?倒れた身体にさらに弾をブチ込む。売るわけじゃねーからなこっちは…んなことより起き上がられた方が困る。
全弾撃ち尽くし、さしあたり全員片付けた事を確認するとフゥと溜め息をつき蓮の背を叩いた。
「サンキュー蓮。やるじゃん」
「いやいやいや、お礼は僕でして!!匠さんお怪我です!!大丈夫で!?」
「んー…とりあえず…」
とは返したものの脳ミソがグワングワンしていた。死体散らかっちゃったし蓮テンパってるし、誰かに手ぇ貸してもらわなきゃどうしようもないな────匠は側頭部を押さえながら‘樹呼んで’と要請。首をブンブン縦に振る吉娃娃。
物陰で縮こまっている寧の手を引き、まずは食肆へ。道中で〈十分〉と樹からのレス、迅速。
「た、匠さん、あの…ごめんなさい…」
「何が?寧のせいじゃねぇだろ」
まだ暗い店内。腰を落ち着けるやいなやオロオロと謝る寧に答えて、鼻先を拭う匠。血も止まってる…そんなに心配するほどじゃ多分ない。それよりも、心配なのは奴らの目的。誰が目当てだ?銃やナイフを使わなかった所を見るとベーシックに子供の誘拐?にしては───狙ってきた感もあった。判然としないが。訊かずに殺しちまったな、しょっぱなで1撃喰らってて余裕が無かった。くそ。
思考を巡らせる匠のズボン、膝の辺りに水滴が落ちた。寧が泣いている。
「どした?」
匠が顔を覗き込むと寧はキュッと固く瞼を閉じ、‘悔しいんです’と呟いた。
毎回、毎回、誰かに護られてばかり。自分が幼いからだと理解してはいる。いるけれど。
頭が回る訳でもない、喧嘩が強くなるなんて到底無理だし────彗ちゃんだったら、匠さんにケガ、させなかったんだろうか。みんながこんなに良くしてくれているのに、私はみんなに何も出来ない。
歯痒さを噛み締めている寧の頭をポンポン撫でる匠。眉尻を下げて笑むと、言った。
「んなことねーよ。寧だって俺らにしてくれてんじゃん、色々」
極論を言えば、寧が居るだけでもいい。九龍城での寧や大地といった光は、いつだって皆の心を明るく照らす存在なのだから。
────だったら、出来てるのよ。何か。
寧は彗の科白を反芻する。出来ていると…皆そう言ってくれる。だけどもっと、もっと返していきたいのだ。
「ちょっとずつやりゃあ良いんじゃね?俺にだって教えてくれただろ、変えられるって。変わりたけりゃさ」
匠は黙り込む寧に再び笑いかけ何度か頭を撫でた。寧は微かに顎を引く。
程なく、路地裏をうまい具合に掃除してきてくれたらしい樹が食肆に現れた。
「悪ぃ、樹。急に呼んで」
「え?匠のせいじゃなくない」
首を捻る樹。匠は礑と、自分が寧に同じ台詞を言ったばかりだったことに気が付く。
確かに、そっち側だと謝罪が口をついて出てしまうな。でもそうか…こういう時は…‘来てくれてありがと’と言い直す匠。
樹は頷き、トコトコと匠に近寄って、頭を抑えている手を掴んでどかした。隠れていた部分は腫れ、うっすら血も滲んでいる。
「怪我してるね。東呼んで診てもらおう」
「タンコブだろ?平気だよ冷やしときゃ…」
「駄目」
ピシャリと両断。匠がその顔を見上げると、樹は‘駄目’と再度強調。
嫌なのだ、もう…誰かが居なくなるのは。
口に出してはいなかったが、察した匠が頬を緩めて‘じゃあ頼むわ’と診察依頼。そこへ桶いっぱいに氷を持ってきた蓮、受け取った樹がそれを大きめのポリ袋にガッサガッサ詰めドスッと患者の額に乗せる。
ありがたいんだがデカいし重い…コブにモロ当たって痛い…匠が控え目に意見を述べるも聞く耳を持たない樹は、鼻にもガスガスとティッシュを突っ込んでこようとする。どうにかガードし凌ぐ匠、始まる謎の攻防戦。
「鼻はいいから!止まったから鼻血は!」
「駄目。まだ危ない」
「なにが!?」
「なにか、なにか…危ない…」
「危ないのは樹だよ!先生に治療してもらうから先生に!」
パワープレイな看護助手を押し退けて、匠は寧に電話の仕草。寧は慌てて目元を拭い、人命救助の為に急いで999をコールした。
やべ、コケる。
思いつつ頭上を仰ぐ匠の顔面スレスレを、なにかが走った。ゴッ!と先程聞いたような鈍い音────男の肩口へ材木がめり込んでいた。辿った先には、材木を小太刀よろしく構えた蓮。寧を道の端に避難させ戻ってきたのだ。蓮は1度得物を引くと後ろへ倒れ込む匠を庇うように立ち、ひとつ息を吐く。
匠は地べたに仰向けのままで、ニット帽を脱いだ。投げた。男の顔にパスッと当たる。払おうと男が反射的に腕を上げ、そのせいで空いた脇腹に蓮がまた横薙ぎに角材をめり込ませる。上体を曲げる男。頭が下がった。
傍の死体のナイフを掴んだ匠は、大の字の姿勢からコロンとでんぐり返しをして男の懐へ潜り込む。立ち上がりざまに、刃先を相手の喉に下から刺した。‘キュゥ’と可笑しな声。匠が身を翻すと男は前のめりに崩れ落ち、突っ伏して動かなくなった。ポケットからハミ出ている拳銃。
あれ?こいつ銃持ってる。何で使わなかったんだ、最初の奴も初手は鉄パイプだったし…俺らみてぇなチビなら余裕でボコせると思ったのかな?あんまり傷付けないほうが色々売れるから?思案しつつ匠はピストルを拝借して、路地の突き当りに居た残りの敵とおぼしき男達を撃った。1人、2人、終いか?倒れた身体にさらに弾をブチ込む。売るわけじゃねーからなこっちは…んなことより起き上がられた方が困る。
全弾撃ち尽くし、さしあたり全員片付けた事を確認するとフゥと溜め息をつき蓮の背を叩いた。
「サンキュー蓮。やるじゃん」
「いやいやいや、お礼は僕でして!!匠さんお怪我です!!大丈夫で!?」
「んー…とりあえず…」
とは返したものの脳ミソがグワングワンしていた。死体散らかっちゃったし蓮テンパってるし、誰かに手ぇ貸してもらわなきゃどうしようもないな────匠は側頭部を押さえながら‘樹呼んで’と要請。首をブンブン縦に振る吉娃娃。
物陰で縮こまっている寧の手を引き、まずは食肆へ。道中で〈十分〉と樹からのレス、迅速。
「た、匠さん、あの…ごめんなさい…」
「何が?寧のせいじゃねぇだろ」
まだ暗い店内。腰を落ち着けるやいなやオロオロと謝る寧に答えて、鼻先を拭う匠。血も止まってる…そんなに心配するほどじゃ多分ない。それよりも、心配なのは奴らの目的。誰が目当てだ?銃やナイフを使わなかった所を見るとベーシックに子供の誘拐?にしては───狙ってきた感もあった。判然としないが。訊かずに殺しちまったな、しょっぱなで1撃喰らってて余裕が無かった。くそ。
思考を巡らせる匠のズボン、膝の辺りに水滴が落ちた。寧が泣いている。
「どした?」
匠が顔を覗き込むと寧はキュッと固く瞼を閉じ、‘悔しいんです’と呟いた。
毎回、毎回、誰かに護られてばかり。自分が幼いからだと理解してはいる。いるけれど。
頭が回る訳でもない、喧嘩が強くなるなんて到底無理だし────彗ちゃんだったら、匠さんにケガ、させなかったんだろうか。みんながこんなに良くしてくれているのに、私はみんなに何も出来ない。
歯痒さを噛み締めている寧の頭をポンポン撫でる匠。眉尻を下げて笑むと、言った。
「んなことねーよ。寧だって俺らにしてくれてんじゃん、色々」
極論を言えば、寧が居るだけでもいい。九龍城での寧や大地といった光は、いつだって皆の心を明るく照らす存在なのだから。
────だったら、出来てるのよ。何か。
寧は彗の科白を反芻する。出来ていると…皆そう言ってくれる。だけどもっと、もっと返していきたいのだ。
「ちょっとずつやりゃあ良いんじゃね?俺にだって教えてくれただろ、変えられるって。変わりたけりゃさ」
匠は黙り込む寧に再び笑いかけ何度か頭を撫でた。寧は微かに顎を引く。
程なく、路地裏をうまい具合に掃除してきてくれたらしい樹が食肆に現れた。
「悪ぃ、樹。急に呼んで」
「え?匠のせいじゃなくない」
首を捻る樹。匠は礑と、自分が寧に同じ台詞を言ったばかりだったことに気が付く。
確かに、そっち側だと謝罪が口をついて出てしまうな。でもそうか…こういう時は…‘来てくれてありがと’と言い直す匠。
樹は頷き、トコトコと匠に近寄って、頭を抑えている手を掴んでどかした。隠れていた部分は腫れ、うっすら血も滲んでいる。
「怪我してるね。東呼んで診てもらおう」
「タンコブだろ?平気だよ冷やしときゃ…」
「駄目」
ピシャリと両断。匠がその顔を見上げると、樹は‘駄目’と再度強調。
嫌なのだ、もう…誰かが居なくなるのは。
口に出してはいなかったが、察した匠が頬を緩めて‘じゃあ頼むわ’と診察依頼。そこへ桶いっぱいに氷を持ってきた蓮、受け取った樹がそれを大きめのポリ袋にガッサガッサ詰めドスッと患者の額に乗せる。
ありがたいんだがデカいし重い…コブにモロ当たって痛い…匠が控え目に意見を述べるも聞く耳を持たない樹は、鼻にもガスガスとティッシュを突っ込んでこようとする。どうにかガードし凌ぐ匠、始まる謎の攻防戦。
「鼻はいいから!止まったから鼻血は!」
「駄目。まだ危ない」
「なにが!?」
「なにか、なにか…危ない…」
「危ないのは樹だよ!先生に治療してもらうから先生に!」
パワープレイな看護助手を押し退けて、匠は寧に電話の仕草。寧は慌てて目元を拭い、人命救助の為に急いで999をコールした。
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