九龍懐古

カロン

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紫電一閃

B級グルメとボッコボコ・後

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紫電一閃6





スイが素早く腕を振ると連結した棒は軌道を変え、今度は下顎へとヒット。大の字になる男を踏みつけてまた腕を振り、勢いをのせて隣の輩の肩口に1発。続けて鳩尾みぞおちと金的に1発ずつ、なめらかな動作。こいつも呻いてしゃがみ込んだ。
後ろで大柄な男がパンチを振りかぶるのが見えて、スイは軽快なステップでそれをかわす。力自慢か?ありきたりなストレート…動きがバレバレ、こんな攻撃当たる筈ない…2歩ほど踏み込んで背面をとった。風切り音と共に数回三節棍を回して、振り向いた相手の横っツラをはたき、足を払って地面に倒す。片頬を吊り上げたスイはハッと小馬鹿にしたようにわらった。

「ダっサ!図体と態度がデカいだけじゃん」

ネイは目をパチクリさせて広場を見回す。あっという間の出来事…これならあれだけ強気な態度なのも納得だ。
と、ドタドタと足音がして、通路から新たに数人の男がやって来る。仲間だろうか?首を向けたスイは‘うへぇ’とへの字口。

「やっぱし居るのね、変なゴロツキも。前言撤回しよっかな」

九龍城砦このまちって思ってたのと違う’のくだり…やはり姐姐ジェジェの知り合いにイイヤツが多かっただけか。魔窟は魔窟以上でも以下でもない…思いながら三節棍を回転させるスイの目線の高さを、ヒュンッと小柄な影が通り過ぎた。

影は先頭の男の顎に飛び膝蹴りを入れると、崩折れていくその身体を足で押して横の輩にぶつけた。重なり合って倒れる連中。残ったもう1人が繰り出したこぶしも着地しがてら軽くいなし、側頭部へカウンターのハイキック。巻き込まれて倒れた男が起き上がる前に脳天に踵を落として沈め、スイへと顔を向ける。

大丈夫はいひょーふ?」



口いっぱいに鶏蛋仔エッグワッフルをくわえたイツキだ。



スイの足元に転がるヤツらにもスパンスパンと追撃の蹴りを決めていく。鮮やかな手際とモキュモキュ頬張っているスイーツの対比がどうにもシュール…というか、ここまで散々食べ歩きをしてきたじゃないか、この男まだ腹ペコなのか…スイは呆れ顔を作る。

「アンタどんだけおやつ買ってんのよ。それに鶏蛋仔エッグワッフル、レフェリーおじさんの店が1番美味しいんじゃなかったの」
「ひになっひゃっへ」
「なんて?」

肩をすくめるイツキ。遅れてのんびり歩いてきたタクミが‘何これどうしたの’と首をかしげた、両手にタピオカミルクティー。よっつ。スイは三節棍をホルダーへ戻すと‘ありがと’と礼を述べ、とりあえずひとつ受け取った。



地に伏すチンピラを横目に一行いっこうは急ぎ足で広場を後に。
喧嘩の原因を尋ねるタクミへ、‘座ってただけなのにイチャモンつけてきた’と不機嫌なスイ。仕事がどうだとか言ってましたとネイが補足、ドラッグとか受け渡す待ち合わせ場所にでもしてたのかなとタクミは呟く。

そこはかとなく瞳を輝かせスイを見つめるネイ

スイちゃん…強いんだね…」

その賛辞にスイは得意満面、言ったでしょ!爸爸パパがすっごかったって!と鼻高々。そしてチロリとイツキに視線を投げる。

「てかさ?イツキはちょっと、爸爸パパっぽいね?」

鶏蛋仔エッグワッフルかじっていたイツキはフリーズ。爸爸パパ、っぽい…?老けているつもりはなかったが、俺もひとのこと言えないんだろうか…?
ショモショモする背中をタクミさすり‘オヤジが若かったんじゃねぇの’とフォロー。

「違う違う、見た目じゃなくて動き方!」

慌てて手をパタパタ振るスイ

あっ…そっちの話…。確かに体捌きのベースは幼い頃に習っていた格闘術だ、スイの父親が武道家だというなら似通っている部分は垣間見えるのかも知れない。良かった老けてる訳じゃなくて───ホッと胸を撫で下ろすイツキ

それにしても、あの辺りはああいうチンピラは見掛けないゾーンのはずだったけど。最近新たに出てきたグループが縄張りを主張しているとか?とにかくトラブルは避けるが吉、今日は早目に引き上げて大地ダイチにはレンの新作デザートを奢るとしよう。B級グルメ探索は日を改めて…なにせ時間はいくらでもある。4人は満場一致で食肆レストランへと足を向けた。



食肆みせに帰り着くと、不思議そうな表情の藍漣アイランに出迎えられる。予想外の帰宅時刻。

「あれ、早かったな。どうだった?」
「バッチリ!ボッコボコにしてやった!」
「…B級グルメを?」

スイの返答にユルユルと煙草の煙を吐きつつ疑問符を浮かべる藍漣アイランネイがたどたどしく──だが、どこかワクワクした様子で──経緯いきさつを説明。藍漣アイランは苦笑いで溜め息。

おまえはまたそうやって暴れて…」
「だって、ムカついたんだもん!ネイのことも脅かすしさ!」
「はいはい。強い子だな」

藍漣アイランが頬を膨らますスイの髪を撫でる。‘強い子’と褒められご満悦のスイは、お茶を持ってきたアズマの顔を見上げた。

アズマ姐姐ジェジェと何してたのよ」
「お喋りだけですぅ」
「ほんと、姐姐ジェジェ?」

その質問に藍漣アイランが意味深な笑顔で黙り込むと、ヤダぁ!!と声を上げたスイアズマの脇腹をガスガス殴った。両手で顔を覆い爆笑する藍漣アイラン、痛い痛いとわめアズマ

「ほんとになにもしてないってば!!誤解よ誤解!!」
「うるさいモサメガネ!!ってゆーかねぇ、いっとくけど、アズマよりスイのほうが姐姐ジェジェのこと好きだからね!!」


ライバル宣言。


とんだ強敵の出現である。待てよ、俺の方が新参なのか…?ポッと出なのは俺…?アズマは唇をすぼめていじけた表情をしてみせた。

「俺も負けませんけど」
「モサメガネがスイに勝てる訳ないでしょ」
「勝てなくても負けないもんね」
「はぁ!?意味わかんない!!」

やり取りを見ていた藍漣アイランは口元をほころばせ、ギャアギャアやっている2人の頬をつつく。

「仲良くしろよ、お前ら」
「しない!!」
「してよ!?」

勢いよく否定するスイアズマが嘆く。藍漣アイランはいっそう楽しそうに笑い、もう1度、2人の頬をつついた。
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