九龍懐古

カロン

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紫電一閃

百日紅と喋々喃々・後

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紫電一閃4





会ったばかりなのにどうしてバレたのか!?この前テーマパークで丸わかりになってしまったので、今やそんなに必死で隠そうとしているということも無いけど…それにしても…目を白黒させるネイ

大地ダイチ、イイヤツそうじゃん。まぁ、みんなイイヤツそうだけど。九龍城砦このまちって思ってたのと違うね」

ネイの心情をよそに、スイは頬杖をついて考える仕草。偶々たまたまなのかも知れないが、とにかく、現状出会った人々は気のいい面々ばかり…姐姐ジェジェの知り合いなのだから、当然といえば当然だが…これならもはや上海のストリートの方がクソみたいな人間であふれかえっているのでは。仁義なき裏社会。

ネイも顎に指を当てた。

「それは、でも、私も思ったかも…香港も…良くないこと多かったし」
ネイ、香港にいたの?どのへん?」

その質問にネイは回答を言い淀む。数秒沈黙が流れ、スイが‘色々あったってことね’と小首をかしげた。

「えと…あの…」
「言いにくいなら、言わなくていいよ。言いたくなったら言って」

あっけらかんと放つスイに小さく頷くネイ大地ダイチが新しく淹れた花茶を手に、レンを連れてホールへ戻ってくる。

「うわ!別の種類?これも綺麗!」
「こちらもですね、美麗メイリイさんが送っヴェァ」
「泣くな鬱陶しい」

スイがまたしても感嘆の声をあげ、レンはまたしてもマオにデコをはたかれた。愉快なお茶会、深まっていく親交。







その頃【東風】では、アズマを迎えに来た藍漣アイランがカウンターで煙草をくゆらせていた。部屋に広がる懐かしい茉莉花ジャスミンの香り。

「今日はイツキ居ねぇんだ?」
「何でも屋のバイト。夕飯までには帰るって言ってたから食肆レストランに呼んじゃおうかしら」

店内を見渡す藍漣アイランに、支度を整えながら返事をするアズマスイが来てからこっち──今までも割とそうだけど──アズマは連日食肆レストランの厨房を手伝いに行っていた。

「折角2人っきりなんだからさ?もうちょい【東風ここ】でゆっくりしたっていいのに」
「待ってるでしょ!スイちゃんが!」

悪戯に藍漣アイランアズマは保護者よろしく答えたものの…‘そうしたい気持ちもあるね’と、やはり素直に補足。藍漣アイランは煙草を揉み消してアズマに近寄り首に腕を回す。

「ちょっと藍漣アイラン…」
「いいじゃねーか、5分くらいなら。変わんねぇだろ」

良くないのよ諸々もろもろ。こちとら、それなりに健康──薬物ドラッグの事は置いておいてくれ──な男子なのよ。アズマは思ったが、さりとて制止は出来ない。嬉しいものは嬉しいのだ。不甲斐なし。マオとかに見られたら死ぬわぁ…え、カメラ無い?大丈夫?

椅子に腰を降ろすアズマの足をまたいで、その上に向かい合って座る藍漣アイラン。フードをパサパサといじると‘あのモサメガネ、いつもパーカーだから服装カブってやだ!ってスイがボヤいてた’と朗笑ろうしょう

スイちゃん、ずいぶん藍漣おまえのこと好きね」
「知り合った当初はツンツンしてたけどな。あいつ、上海のストリートで暴れ回っててさ。けど世話してるうちに懐いてくれて」
「それからずっと藍漣おまえと一緒に居るの?」
「んー…あいつも身寄りがねぇし、あんまり…上手く行かねぇんだ、人と。気が強くてな」

‘父ちゃんが武道家だったせいもあるかも’と言いつつ藍漣アイランアズマの頬を撫でる。アズマは視線を合わせたままてのひらを重ね、細い指先に口付けて話の続きを促した。

小さな頃から親の仕事について回って香港と中国を往来していたスイだが───数年前、乗っていたバスが山道の走行中に崖から転落。その事故で両親を亡くしてしまう。
スイは何とか生き残ったものの、遺産目当ての親族に死亡者扱いをされた挙句、身元不明の孤児として施設に収容される羽目に。そこでの扱いは酷いもので、ストリートのほうがマシだと抜け出してきたらしい。

「台灣の一件いっけんのあとバタバタしたけど、結構みんな仕事先とか受け入れ先を見付けて落ち着いたんだよ。でも…スイは‘どこにも行かない’って言い張って。相性の良い引き受け人や雇い主も居なかったし…親戚の所に戻る気も、当然だけどサラサラ無いみたいで」

言いながら、藍漣アイランは反対の手でアズマの眼鏡をとる。額にキス。

「だから九龍城ここに連れてきたんだ。お前らもいるし、居場所があるかなってさ」

そっかと呟くアズマ。少しだけ、ロクのことを思い出していた。シュウの居場所にはなれなかったが───今回は、九龍ここスイの居場所になれるのだろうか。出来ればなってやりたい。って俺が思っても、スイはご不満かしら。そんな様なことをつまんで言葉にする。

「やっぱり優しいな?おまえは」

藍漣アイランは頬をゆるめて、アズマの唇を強めに噛んだ。うわぁーやめてー…そういうの嫌いじゃないのよ、困る困る…思考をグルグルさせるアズマの首へ再び腕を回す藍漣アイラン。相変わらず揶揄からかわれているとわかってはいても為す術も無く、アズマ藍漣アイランの華奢な腰に手を添えた。

と。

リンロンリリリンロンリンロンリリンロン。響き渡る、連続した機械音。藍漣アイランのスマホがひたすら連チャンで鳴った。微信チャット、10件…送信元はひとつ。

スイちゃんでしょ」
「だな」

目線だけをカウンターの携帯に落とし、液晶に表示されている名前に2人で笑う。
藍漣アイランは‘しゃーない!行くか!’と言って残念そうに身体を離し、しかし、すぐさま悪戯な表情を戻すとアズマへ問い掛けた。

「で、次はいつなんだ?」
「へ?」
「決まってんだろ」

パーカーの紐を掴み頭を引き寄せ、もう1度唇をくっつけて囁く。

イツキのバイトの日だよ♡」

ちくしょう、藍漣こいつったら…期待させるのが上手うま過ぎる…。思いつつその顔を見上げ、アズマは、‘訊いておきます’と肩を竦めた。
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