九龍懐古

カロン

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紫電一閃

百日紅と喋々喃々・前

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紫電一閃3





とある午下、レン食肆レストラン



「すっごい綺麗に咲くわね!」

お湯が注がれたガラスのティーポット、中でフワフワと揺れる工芸茶。咲き誇る千日紅をマジマジ眺めるスイ

「こちらはですね、美麗メイリイしゃんが送ってきてくれた茶葉っヴェァ」
「泣くな鬱陶しい」

顔をクシャクシャにして泣き出すレンのデコをマオが紙扇子ではたく。レンは運んできたデザートをスイ大地ダイチの前に置き、ヒンッと鼻をすすりながら‘ごぢぁ、じんざぐのばぁんぢぅごぅでしゅ’と告げた。全然わからない。大地ダイチが‘おいしそうだね’と早速パクッといった。スイもフォークを手に‘ばぁんぢぅごぅ’をプニプニつつき、横から覗き込むマオは【宵城みせ】で出すスイーツにするか検討している模様。

アズマが作った粥はスイに好評で、ならばレン食肆レストランも気に入るはずだから行ってみようとなり来店したところ───提供される料理の数々はスイの胃袋をガッチリ掴んだ。厨房担当のアズマの評価は龍鬚糖ロンソートンくらい薄っすら上昇、食肆レストランで食事をとるのはスイの日課に。

大地ダイチ、今日は学校どうだった?」
「算数?数学?やったんだけど…あんまり。俺、計算苦手なんだよねぇ…宗教学とかの方が面白いかな」

スイの言葉にうな大地ダイチスイはどうやら九龍の学校事情が気になるらしい。

城塞の寺子屋は教会を併設しており、週末は礼拝堂へと様変わりする。方々ほうぼうの慈善団体の助力で成り立っているボランティア校。九龍城は香港政庁の管轄外なので、寺子屋を卒業したとて認定試験は受けられなかったり政府管轄の学校へは進学出来なかったりするが…それでも‘なにかを学んでみたい’‘友人と共に過ごしたい’と足を運ぶ子供は多い。

「あんた宗教信仰してんの」
「んーん?授業の一環なだけ。あっ、けど【天堂會】には行ったことある!マスコットキャラが可愛くて!ほら」

大地ダイチはポケットからキーホルダーを取り出した。天仔てんちゃん&ぽっちゃり天仔てんちゃん、ぽっちゃりのほうはもどき・・・だが。スイことほか良い反応を見せる。

「ヤバ!可愛い!」
ウチにぬいぐるみもあるよ、おっきいやつ。イツキがくれたから。1個しか無くてめっちゃレアでさぁ」
「何でそんなレアなの持ってんの?イツキ、教祖なわけ?」

教祖じゃないけどと大地ダイチが笑い、キーホルダーまだ余ってるから欲しかったらあげると提案。キャラ物きなスイはコクコクと首を縦に振る。その時、入り口のドアの開く音。

「お疲れ様です。藍漣アイランさん居ま…すか…」

扉を引いたのはネイだ。反応したスイにジイッと見詰められ、硬直。人見知り。
スイは席を立って、入り口から動かないネイへと近付き顔を寄せた。ネイはオドオドと自分の服の裾を握る、スイの堂々とした態度に気圧されているのか。

「あなたも食肆ここの仲間?」
「え、あ…そう、だけど…えっと…」
ネイだよ!いつも系列のバーの手伝いとかしてくれてるんだよ」
ネイ?ふぅん、スイと似てるね」

口を挟む大地ダイチに振り返るスイ。またネイに視線を戻すと、ネイは依然として服の裾を握り締めていたが…俯いて少し赤くなっていた。スイは唇を尖らせ、‘ネイもデザート食べよう’と手を引いて卓に誘う。オロオロするネイに、藍漣アイランスイの関係を説明する大地ダイチ。‘藍漣アイランあとでアズマと来ると思うよ’と付け足した。

ネイ姐姐ジェジェに会いに来たの?」
「あ、うん…帰ってきた、って、聞いて…」

藍漣アイランと過ごした想い出をたどたどしく語るネイスイは楽しそうに、そしてどこか得意気に耳を傾ける。強くてカッコいい藍漣アイランは、スイにとっていつだって自慢の‘姉’なのだ。

他愛もない会話が続き、デザートをいくつも平らげ、打ち解けていく子供達。
トイレに立つ大地ダイチスイが‘ついでにレンにお茶のおかわり貰ってきてよ’と頼み、OKOKと軽い返事の大地ダイチはバックヤードへ。

ふと、脚を組み替えるスイの太腿に目を留めるネイ。ベルトで巻き付けられたホルスターに収まっている、3本の細身で短い棒。武器…なのか?見慣れない形状。眼差しに気付いたスイは‘イケてるでしょ’と誇らしい雰囲気。

爸爸パパからのプレゼントなの。スイ爸爸パパ、武道家で超強かったんだから」

かった・・・。その過去形にネイが逡巡する間に、スイは、‘もう死んじゃったけどね。媽媽ママも’と続けた。
返答に迷い眉尻を下げるネイ、しかし、スイは特段気にした様子もなく唐突な話題を持ってくる。

「ってゆーかさぁ。ネイ大地ダイチが好きなんだ?いいんじゃない?」
「え!?」

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