九龍懐古

カロン

文字の大きさ
上 下
270 / 409
紫電一閃

合格と不合格

しおりを挟む
紫電一閃2





スイは厚底のスニーカーでフロアをトタトタと歩き回り、マオの前にしゃがみ込む。立て膝で酒瓶をかたむける閻魔。

「あなたはすごくガラが悪いね」
「あ?俺よか燈瑩こいつの方がガラ悪いぜ」
「えぇ?嘘だぁ!」

隣を親指で示してホントホントとマオわらい、てのひらを振りながらウソウソと燈瑩トウエイ微笑わらう。

「でも、2人共オッケーかな」
「んだよオッケーって」

片眉を上げるマオにクルリと背を向け、スイタクミに歩み寄るとニット帽の下を覗き込む。タクミは視線を合わせたまま煙草を口に運び、ひとくち吸って、唇を曲げ煙を横に吹いた。数回ゆっくりとまばたき。もうひとくち吸って、同じ様に煙を吹き、まだジッと見詰めてくるスイに訊いた。

「…合格?」
「うん」
「基準なんなん」
「まずぽっちゃりはアウト」

タクミの問いに肯き、カムラの問いに即答するスイ。秒速で‘アウト’をたまわり悲痛な表情の饅頭。マオがウヒャヒャと悪魔じみた笑い声をあげ、アズマはこっそり自分の腹をつまんだ。贅肉は無い、セーフ…の前に‘モサいメガネ’なので不合格ではあったが、別に眼鏡自体のせいでは無さそう。マオだって丸眼鏡だし、髪と服の問題かしら…顔かしら…。

「ウチはお前が太っちまっても構わないよ」

藍漣アイランアズマの頬を手の甲で撫でる。見咎めたスイがこれでもかというほど口をへの字にし、大地ダイチが真似をした。恐らく同じ位の年齢──スイは本人いわく‘姐姐ジェジェの妹分’とのこと──だ、表情豊かなティーンエイジャー。

マオはククッと喉を鳴らす。

饅頭そいつにゃメチャクチャ良い女が居るぜ」
「そうなの!?」

カムラを眺め、考えるスイ

「クマさんみたいといえば…クマさんみたいかな…」

褒められたのだろうか、今のは。複雑な心境のカムラの後ろから大地ダイチが声を飛ばす。

藍漣アイラン達また【東風ここ】に泊まるの?」
「いや?何日か適当に宿とって、そんで家、借りるよ。中流階級のゾーンあたりに。クマさんとご近所になるかもな」
「え!?ほんと!?」

やったぁとハシャぎ両手を上げる大地ダイチ。別に【東風】泊まったらいいのにと首を傾げるイツキへ、藍漣アイランは‘ウチはいいけどスイも居るから’と返す。年頃の女子への配慮。
良かったら家の場所教えてくれよと尋ねる藍漣アイランカムラは通路名を伝えた。

燈瑩トウエイさんもちょいちょい近いで」
「へぇ、そりゃ安心だね」
「何で?」

藍漣アイランの発言にスイが疑問をていしつつその顔を見上げ、藍漣アイランは指でマルの形を作る。

燈瑩トウエイつえぇからな。あと金持ちだ」

九龍においての武力と財力は、他国よそと比較にならないくらいに物を言う。街全体が裏社会で無法地帯で治外法権。当然の節理。下顎に指を当てて皆を見回すスイ

「誰が1番強いの?」
イツキだろ」
「じゃ誰が1番よわ
アズマだな」

食い気味に答える藍漣アイラン。は?駄目じゃん!!とスイが声を張る。

「弱いしモサいし良いとこないじゃん」
「あるよ、いっぱい。なぁ?」

話を振ってくる藍漣アイランアズマはあやふやな表情。いっぱいあるか?料理が得意とか?医療や薬──違法ドラッグだけじゃありません──の知識はそれなりとか?そうそう、最近は線香花火も作れるようになりましたよ、お客様。

「あるといいけど…てか、家借りるってことはこれからは九龍にいるってこと?」
「んー、居たり居なかったりかな。上海でもやることあるし」
「あ、そうなの」
「なんだよ?期待外れだったか?」

アズマの口振りを揶揄からか藍漣アイラン

そりゃ、まぁ、ずっと居るのかと内心喜びはしましたが。若干。いや、嘘です、かなり。だからといって期待ハズれではないが…アズマが思ったことを隠さず吐露すると、藍漣アイランアズマの額に軽く唇をつけて‘お前のそーゆー素直な所好きだぜ’と言った。スイは再度への字口、大地ダイチがまた真似をすると今度はイツキも真似をした。ティーンエイジャー。

「もぉ、いいからアズマ姐姐ジェジェから離れてよ!!早くスイにもお粥持ってきて!!」
「目のかたきにしなくてもいいじゃない!お粥は持ってくるけどさ」
「おっ、じゃあウチも茶でも淹れてやるよ。キッチン行こうぜアズマ♪」
「はぁ!?やだ行かないで姐姐ジェジェ、モサメガネと何する気ぃ!?」

大声を出すスイに、‘茶ぁ淹れるだけだって’と意味深に笑う藍漣アイランアズマの腕を取り店の奥へと引っ込む後ろ姿をスイが慌てて追った。

「なんか…あの…賑やかだな」

呟くタクミイツキは再び頷き、お粥のおかわりを強請ねだろうと空のどんぶりを片手に椅子から腰をあげ、スイの悲鳴が響き渡る台所へと足を向けた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ルナール古書店の秘密

志波 連
キャラ文芸
両親を事故で亡くした松本聡志は、海のきれいな田舎町に住む祖母の家へとやってきた。  その事故によって顔に酷い傷痕が残ってしまった聡志に友人はいない。  それでもこの町にいるしかないと知っている聡志は、可愛がってくれる祖母を悲しませないために、毎日を懸命に生きていこうと努力していた。  そして、この町に来て五年目の夏、聡志は海の家で人生初のバイトに挑戦した。  先輩たちに無視されつつも、休むことなく頑張る聡志は、海岸への階段にある「ルナール古書店」の店主や、バイト先である「海の家」の店長らとかかわっていくうちに、自分が何ものだったのかを知ることになるのだった。  表紙は写真ACより引用しています

後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜

逢汲彼方
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】  姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。  だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。  夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

下っ端妃は逃げ出したい

都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー 庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。 そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。 しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...