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紫電一閃
合格と不合格
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紫電一閃2
彗は厚底のスニーカーでフロアをトタトタと歩き回り、猫の前にしゃがみ込む。立て膝で酒瓶を傾ける閻魔。
「あなたはすごくガラが悪いね」
「あ?俺よか燈瑩の方がガラ悪いぜ」
「えぇ?嘘だぁ!」
隣を親指で示してホントホントと猫が嗤い、掌を振りながらウソウソと燈瑩が微笑う。
「でも、2人共オッケーかな」
「んだよオッケーって」
片眉を上げる猫にクルリと背を向け、彗は匠に歩み寄るとニット帽の下を覗き込む。匠は視線を合わせたまま煙草を口に運び、ひとくち吸って、唇を曲げ煙を横に吹いた。数回ゆっくりと瞬き。もうひとくち吸って、同じ様に煙を吹き、まだジッと見詰めてくる彗に訊いた。
「…合格?」
「うん」
「基準なんなん」
「まずぽっちゃりはアウト」
匠の問いに肯き、上の問いに即答する彗。秒速で‘アウト’を賜り悲痛な表情の饅頭。猫がウヒャヒャと悪魔じみた笑い声をあげ、東はこっそり自分の腹をつまんだ。贅肉は無い、セーフ…の前に‘モサいメガネ’なので不合格ではあったが、別に眼鏡自体のせいでは無さそう。猫だって丸眼鏡だし、髪と服の問題かしら…顔かしら…。
「ウチはお前が太っちまっても構わないよ」
藍漣が東の頬を手の甲で撫でる。見咎めた彗がこれでもかというほど口をへの字にし、大地が真似をした。恐らく同じ位の年齢──彗は本人曰く‘姐姐の妹分’とのこと──だ、表情豊かなティーンエイジャー。
猫はククッと喉を鳴らす。
「饅頭にゃメチャクチャ良い女が居るぜ」
「そうなの!?」
上を眺め、考える彗。
「クマさんみたいといえば…クマさんみたいかな…」
褒められたのだろうか、今のは。複雑な心境の上の後ろから大地が声を飛ばす。
「藍漣達また【東風】に泊まるの?」
「いや?何日か適当に宿とって、そんで家、借りるよ。中流階級のゾーンあたりに。クマさんとご近所になるかもな」
「え!?ほんと!?」
やったぁとハシャぎ両手を上げる大地。別に【東風】泊まったらいいのにと首を傾げる樹へ、藍漣は‘ウチはいいけど彗も居るから’と返す。年頃の女子への配慮。
良かったら家の場所教えてくれよと尋ねる藍漣に上は通路名を伝えた。
「燈瑩さん家もちょいちょい近いで」
「へぇ、そりゃ安心だね」
「何で?」
藍漣の発言に彗が疑問を呈しつつその顔を見上げ、藍漣は指でマルの形を作る。
「燈瑩は強ぇからな。あと金持ちだ」
九龍においての武力と財力は、他国と比較にならないくらいに物を言う。街全体が裏社会で無法地帯で治外法権。当然の節理。下顎に指を当てて皆を見回す彗。
「誰が1番強いの?」
「樹だろ」
「じゃ誰が1番弱」
「東だな」
食い気味に答える藍漣。は?駄目じゃん!!と彗が声を張る。
「弱いしモサいし良いとこないじゃん」
「あるよ、いっぱい。なぁ?」
話を振ってくる藍漣に東はあやふやな表情。いっぱいあるか?料理が得意とか?医療や薬──違法ドラッグだけじゃありません──の知識はそれなりとか?そうそう、最近は線香花火も作れるようになりましたよ、お客様。
「あるといいけど…てか、家借りるってことはこれからは九龍にいるってこと?」
「んー、居たり居なかったりかな。上海でもやることあるし」
「あ、そうなの」
「なんだよ?期待外れだったか?」
東の口振りを揶揄う藍漣。
そりゃ、まぁ、ずっと居るのかと内心喜びはしましたが。若干。いや、嘘です、かなり。だからといって期待ハズれではないが…東が思ったことを隠さず吐露すると、藍漣は東の額に軽く唇をつけて‘お前のそーゆー素直な所好きだぜ’と言った。彗は再度への字口、大地がまた真似をすると今度は樹も真似をした。ティーンエイジャー。
「もぉ、いいから東は姐姐から離れてよ!!早く彗にもお粥持ってきて!!」
「目の敵にしなくてもいいじゃない!お粥は持ってくるけどさ」
「おっ、じゃあウチも茶でも淹れてやるよ。キッチン行こうぜ東♪」
「はぁ!?やだ行かないで姐姐、モサメガネと何する気ぃ!?」
大声を出す彗に、‘茶ぁ淹れるだけだって’と意味深に笑う藍漣。東の腕を取り店の奥へと引っ込む後ろ姿を彗が慌てて追った。
「なんか…あの…賑やかだな」
呟く匠に樹は再び頷き、お粥のおかわりを強請ろうと空のどんぶりを片手に椅子から腰をあげ、彗の悲鳴が響き渡る台所へと足を向けた。
彗は厚底のスニーカーでフロアをトタトタと歩き回り、猫の前にしゃがみ込む。立て膝で酒瓶を傾ける閻魔。
「あなたはすごくガラが悪いね」
「あ?俺よか燈瑩の方がガラ悪いぜ」
「えぇ?嘘だぁ!」
隣を親指で示してホントホントと猫が嗤い、掌を振りながらウソウソと燈瑩が微笑う。
「でも、2人共オッケーかな」
「んだよオッケーって」
片眉を上げる猫にクルリと背を向け、彗は匠に歩み寄るとニット帽の下を覗き込む。匠は視線を合わせたまま煙草を口に運び、ひとくち吸って、唇を曲げ煙を横に吹いた。数回ゆっくりと瞬き。もうひとくち吸って、同じ様に煙を吹き、まだジッと見詰めてくる彗に訊いた。
「…合格?」
「うん」
「基準なんなん」
「まずぽっちゃりはアウト」
匠の問いに肯き、上の問いに即答する彗。秒速で‘アウト’を賜り悲痛な表情の饅頭。猫がウヒャヒャと悪魔じみた笑い声をあげ、東はこっそり自分の腹をつまんだ。贅肉は無い、セーフ…の前に‘モサいメガネ’なので不合格ではあったが、別に眼鏡自体のせいでは無さそう。猫だって丸眼鏡だし、髪と服の問題かしら…顔かしら…。
「ウチはお前が太っちまっても構わないよ」
藍漣が東の頬を手の甲で撫でる。見咎めた彗がこれでもかというほど口をへの字にし、大地が真似をした。恐らく同じ位の年齢──彗は本人曰く‘姐姐の妹分’とのこと──だ、表情豊かなティーンエイジャー。
猫はククッと喉を鳴らす。
「饅頭にゃメチャクチャ良い女が居るぜ」
「そうなの!?」
上を眺め、考える彗。
「クマさんみたいといえば…クマさんみたいかな…」
褒められたのだろうか、今のは。複雑な心境の上の後ろから大地が声を飛ばす。
「藍漣達また【東風】に泊まるの?」
「いや?何日か適当に宿とって、そんで家、借りるよ。中流階級のゾーンあたりに。クマさんとご近所になるかもな」
「え!?ほんと!?」
やったぁとハシャぎ両手を上げる大地。別に【東風】泊まったらいいのにと首を傾げる樹へ、藍漣は‘ウチはいいけど彗も居るから’と返す。年頃の女子への配慮。
良かったら家の場所教えてくれよと尋ねる藍漣に上は通路名を伝えた。
「燈瑩さん家もちょいちょい近いで」
「へぇ、そりゃ安心だね」
「何で?」
藍漣の発言に彗が疑問を呈しつつその顔を見上げ、藍漣は指でマルの形を作る。
「燈瑩は強ぇからな。あと金持ちだ」
九龍においての武力と財力は、他国と比較にならないくらいに物を言う。街全体が裏社会で無法地帯で治外法権。当然の節理。下顎に指を当てて皆を見回す彗。
「誰が1番強いの?」
「樹だろ」
「じゃ誰が1番弱」
「東だな」
食い気味に答える藍漣。は?駄目じゃん!!と彗が声を張る。
「弱いしモサいし良いとこないじゃん」
「あるよ、いっぱい。なぁ?」
話を振ってくる藍漣に東はあやふやな表情。いっぱいあるか?料理が得意とか?医療や薬──違法ドラッグだけじゃありません──の知識はそれなりとか?そうそう、最近は線香花火も作れるようになりましたよ、お客様。
「あるといいけど…てか、家借りるってことはこれからは九龍にいるってこと?」
「んー、居たり居なかったりかな。上海でもやることあるし」
「あ、そうなの」
「なんだよ?期待外れだったか?」
東の口振りを揶揄う藍漣。
そりゃ、まぁ、ずっと居るのかと内心喜びはしましたが。若干。いや、嘘です、かなり。だからといって期待ハズれではないが…東が思ったことを隠さず吐露すると、藍漣は東の額に軽く唇をつけて‘お前のそーゆー素直な所好きだぜ’と言った。彗は再度への字口、大地がまた真似をすると今度は樹も真似をした。ティーンエイジャー。
「もぉ、いいから東は姐姐から離れてよ!!早く彗にもお粥持ってきて!!」
「目の敵にしなくてもいいじゃない!お粥は持ってくるけどさ」
「おっ、じゃあウチも茶でも淹れてやるよ。キッチン行こうぜ東♪」
「はぁ!?やだ行かないで姐姐、モサメガネと何する気ぃ!?」
大声を出す彗に、‘茶ぁ淹れるだけだって’と意味深に笑う藍漣。東の腕を取り店の奥へと引っ込む後ろ姿を彗が慌てて追った。
「なんか…あの…賑やかだな」
呟く匠に樹は再び頷き、お粥のおかわりを強請ろうと空のどんぶりを片手に椅子から腰をあげ、彗の悲鳴が響き渡る台所へと足を向けた。
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