九龍懐古

好迪士尼

米奇老鼠と遊園地・中

好迪士尼２





パークでの１日はまさに矢の如し、食べたり飲んだり騒いだりしているうちに進む時間。世界各地にある系列の中でも香港ここのものはかなり小規模…それでもやはり見処みどころは多く、あっという間に時計の針は正午を飛び越しておやつどき。

大地ダイチに幾度もジェットコースターに乗せられグロッキーな上プーは、覚束おぼつかない足取りで陽ヨウ、及び子供達をアフタヌーンティーへご招待。折角のデート──そうデート──だ。弱っている場合ではない。三半規管に喝を入れ、予約しておいた人気の限定カフェへ３名様をエスコート。運ばれてくるデザートの数々に瞳を輝かせる面々を見てホッと一息ひといき。

「このキャラプリントのマカロン、全部柄が違うんだ！上カムラ君のやつはどんなの？」
「え？っと…なんや…なんか…犬やな」

小首をかしげる陽ヨウへ、マカロンを抓つまむ上カムラは頓珍漢とんちんかんな回答。犬なのは一目瞭然だ…訊ねているのは詳細である。キャラものに疎うとく、さっぱりわからずにオロオロする上カムラへ大地ダイチが助け舟。スラスラと全キャラクターの名前を列挙し、ついでに各々のバックグラウンドや豆知識も披露。こういったジャンルに非常に強いティーンエイジャー、寧ネイも興味津々しんしんで大地ダイチの説明を聞いている。

だ、大地ダイチ…話は面白おもろいわ寧ネイにちゃんと料理も取り分けとるわで…もはや俺よか遥かに出来る男・・・・やんか…？感心と淋しさと悲しさを同居させながら、弟をボケッと眺める兄。そんな兄の頬を人気女優がつつく。

「私はプーさんが１番好きだよ？」

クスッと笑えんでウインク、その仕草になぜか上プーと一緒に赤くなる寧ネイ。デキる弟はスイーツを撮る振りでシャッターチャンスをこっそり携帯におさめた、ナイスショット。和やかに過ぎるティータイム。



一方いっぽう。



「あ、居た」
「んでわかったんだよここ居んの…」
「お酒があるのここだけだから」

サンドイッチにクッキー、点心やハンバーガーと一通ひととおりのフードを恐ろしいスピードで食べ尽くした樹イツキは呑んだくれの城主をお迎えに。コーナーカフェで酒を呷あおる猫マオ、帰ってしまうという選択肢も取れるだろうに…結局こうして滞在してくれているあたり、とても律儀。

「アトラクションなら乗んねぇぞ」
「じゃあミニゲームしに行こう」

飲み屋から連れ出され眉間に皺シワを寄せる猫マオへ、樹イツキはカラフルなスラッシュをゴクゴク喉に流しつつ提案。とは言ってもゴリ押せば乗り物にも乗ってくれるのだろうが。あれやこれやと文句をつけても最終的に樹イツキや大地ダイチの要望は断らない…面倒見の良い城主。なので────樹イツキは猫マオにチロッと視線を寄越して、発した。

「耳買おうよ。みんなで」


このワガママも多分、通る。


路肩に止まるワゴンの販売車から、動物の耳を模したカチューシャを２つ手に取り即座に購入。１つを猫マオに渡す、三毛のネコミミ。
猫マオはカチューシャを半目はんめで見詰めた。無言で差し出され続けるカチューシャ、恐らく受け取るまで腕が引っ込むことはない。とりあえず貰い受けた。突き刺さる樹イツキからの期待の眼差し、恐らく着けるまで視線が逸らされることはない。再度猫マオはカチューシャを半目はんめで見詰めた。暫しばらくの間まの後のち、しぶしぶ装着。満足げな樹イツキは匠タクミへと振り返る。

「匠タクミもこれどう？」
「えぇ？いや…俺は…」

困り顔の匠タクミ。断るのか？断るなら俺も便乗して耳これを外せるか？成り行きが気になる猫マオが横から覗き込む。匠タクミはワゴンの端の一角いっかくを指差した。

「そっちの帽子がいいな」

そこはかとなく嬉しそうに、派手めな耳付き帽子をご所望。いや欲しいのかよ…ウキウキかこいつら…思いながらゲンナリと眉尻を下げる猫マオ。三毛猫の嘆きを意にも介さず、樹イツキは続けて東アズマに被り物──恐竜のフォルム──をチョイス、次いで燈瑩トウエイの分を選んでいると三毛マオがフザケたデザインのサングラスを指に引っ掛け燈瑩トウエイに投げる。ネズミ型のレンズ。

「オメェはこれでもかけてろ」
「なんで俺だけサングラスなの」
「マフィアっぽいじゃねーか」
「この形で？」

どうみてもキュートな鼠。そもそもマフィアはサングラスというイメージもどうだろう…燈瑩トウエイは疑問を呈ていすも、ネズミグラスをお買い上げして着用。が、割と普通に似合ったので猫マオにどつかれた。要求に応えたにも関わらずこれである。理不尽。


ファンサービスに精を出すキャラクター達の着ぐるみを横目にミニゲームのコーナーへ。所狭しと並ぶ多彩なゲームの数々、成功すればピンバッチ等のプライズが貰える仕様だ。ダーツと射的でバカスカ景品を獲りはじめる東メガネと燈瑩グラサンにワクワクの樹イツキ、ピンバッチ全種類揃うかも。10種類？12種類？何種類でもいけそうだ。
見ていた猫マオが燈瑩トウエイの手から銃を奪い、的に向けて撃った。明後日の方向に飛ぶ弾丸。

「全っ然当たんねぇな」
「猫は鉄砲あんまり上手くないもんね」

笑う燈瑩トウエイに猫マオは銃口を向け、返事の代わりにコルク弾をブチ込む。サッと東アズマを盾にして避ける燈瑩トウエイ、放たれた銃弾は東アズマの顔面に２発ほどヒット。

「痛っっっったぁ！！！！」
「んだよ何してんだ眼鏡、どけ。邪魔くせぇ野郎だな」
「俺のせいなの！？」

なんでこんな時ばかり命中率が上がるんだと喚く東アズマの鼻っ柱へ向けてもう１発、こちらもしっかり鼻骨びこつにヒット。‘鉄砲あんまり上手くない’の汚名返上。
声を殺して爆笑している燈瑩トウエイを庇うように、いささかプンスカした樹イツキが前に立った。先日鉛玉で開いた風穴を気にしている様子。

「猫マオ、燈瑩トウエイ撃たないで」
「あ？東アズマしか当たってねんだからいいだろ」
「それならいいけど」
「よくないよ！？」

ピィピィ鳴く東アズマ。被り物のＲＥＸが主人の味方をしユラユラ揺れる。と、その後ろ───ゲームコーナー入り口で手を振る大地ダイチが見えた。アフタヌーンティーを食べ終え、これから始まるパレード鑑賞の為の場所取りをしてきたらしい。樹イツキは集めたピンバッチをジャラジャラ大地ダイチにプレゼント、喜ぶ大地ダイチが樹イツキの袖を無邪気に引っ張る。

「樹イツキはパレード見ない？」
「んー…俺はお土産買いに行く」
「猫マオは？」
「やだよ、人混みなんざ。代わりに燈瑩コイツで我慢しろ。ほら行けマフィア」
「呼び方」
「じゃ猫マオもお土産探し行こ。空すいてる内うちに」

言うが早いか樹イツキは猫マオの腕を掴みズリズリと土産物屋へ引きずっていった。匠タクミと東アズマも買い物に付き合ってやるようだ。派遣された燈瑩マフィアを引き連れ、来た道をテクテク戻る大地ダイチ。バッチを寧ネイにもわけてあげるんだとご満悦、まだ何もグッズを買っていない模様。

「大地ダイチ達は欲しい物なかったの？」
「んーん、いっぱいあって迷っちゃってさ！どれがいいか決められなかったんだよね…寧ネイも何か欲しそうだったけど…」

下唇に親指を当てて唸うなる大地ダイチの視界に、ふと映ったショーウィンドウのティアラ。大地ダイチは足を止めガラス越しにそれを眺める。

「あーゆーの喜ぶかな」
「素敵だね。いいんじゃない？」

大地ダイチの問いに微笑む燈瑩トウエイ。今は理由わけもあってボーイッシュな格好をしている寧ネイだが、もともとは可愛いもの好ずきだ。ティアラなど普段使う機会はないにせよ、今日の思い出の品にはいいかも知れない…大地ダイチは店に入り、透明なビジューの散りばめられた小振りなひとつを選んで包んでもらった。