九龍懐古

カロン

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愛及屋烏

怯懦と愛烏・中

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愛及屋烏9





「で、タクミさんがミックステープとか作ってくれて。レンさんもギターに挑戦したり…私も歌、やってはみてるんですけど…あとマオさんが馬頭琴ばとうきんと、燈瑩トウエイさんが二胡にこと、えっと」
「みんな色々出来るのね」

音楽の話題になり、普段よりも饒舌なネイへ相槌を打つ美麗メイリイ。雨雲にやられいつにも増してジメジメと薄暗い城塞、そんな中でも花咲くガールズトーク。

「あ、でも大地ダイチはトライアングルです」
「ふふっ!」

スンッ、と真顔になるネイ美麗メイリイが吹き出す。同じ‘叩く系’ならドラムやせめて鉄琴をやって欲しいと漏らすネイへ、美麗メイリイは内緒話をするように言った。

ネイちゃんは大地ダイチ君が好きなんでしょう」
「えっ!?」

唐突な指摘に驚きネイは大声をあげた。誰にも教えてないのにどうして?顔に出てたかな?話し方?声の高さ?もしかして本人にもバレてる?赤くなった頬をアワアワと両手で押さえるネイ婀娜あだやかに美麗メイリイ

「想える相手が居るのは素晴らしいことよ」

ネイは頭から湯気を出しながら、上目遣いで美麗メイリイを見た。

美麗メイリイさんは好きな人居ますか?」
「うーん…私は事情があったから…」

躾や交友関係の制限、両親の事業の手伝い、政略により度々組まれた縁談、借金のカタの奉公、返済する為の仕事・・。恋をする機会に恵まれなかったなと眉尻を下げる美麗メイリイへ、ネイは申し訳なさそうな声音。

美麗メイリイさん…強いんですね」

少しののち美麗メイリイは静かに語る。

「違うわ。弱いの。だから考えることも逆らうこともしないで、黙って目の前に積まれた課題を片付けるしか無かった。他にはなにも出来なくて」

視線を地面に落とす。

「友達の家族を手助けしたいなんて考えてるのも…自分の為なのかも。私だって、自分で道を選べる!って証明して、自己満足したいだけなのかも。…最低ね」

そう言って儚げに笑った。頭を横にフルフルさせて否定するネイ美麗メイリイは表情を明るくし場の空気をつくろう。

「でもね、ネイちゃん達を見てると元気が出るの。私もそんな風に歩けたらいいなって」

ネイはまた頭を横にフルフルさせ、たどたどしく紡いだ。

「えっと…美麗メイリイさんは、優しくて、綺麗で…あの、私のほうです。そうなれたらいいな、って思ってるのは」

その言葉に美麗メイリイが応えかけた時───耳に入った砂を踏む音。路地から男達が向かって来る。美麗メイリイの前で立ち止まると1人が顎をシャクった。

美麗メイリイだろ?老虎ラオフーから‘連れて帰って来い’っつう依頼でな」

いぶかしげな顔をする美麗メイリイ、不穏な気配を感じたネイが彼女の前に立ちバッと腕を広げる。男はネイ一瞥いちべつしピストルを構えた。

「駄目、ネイちゃん!!」

叫んだ美麗メイリイネイの身体を抱き締める。響く銃声───男の顳顬こめかみに穴があいた。続けざまにもう1度パンッと音がし、後ろにいた輩の額からも血が噴き出す。

倒れ込む襲撃者を押し退けて駆け寄ったレン美麗メイリイネイの腕を掴む。物陰へ誘導し‘ここに隠れていて下さい’と声を潜めた。背後でにこやかに手──に持った銃──を振る燈瑩トウエイ、状況を把握した美麗メイリイは小さく頷く。レンは死体に目をやった。単なる物取りや誘拐か?浮かんだ疑問符を察した美麗メイリイが口を開いた。

「私を連れに来たみたいで…でも、老虎ラオフー?がどうとか…」

老虎ラオフー。その単語に燈瑩トウエイは瞳を細め、しかし同時に通路の奥に数人の新手を認めてそちらへ足を向ける。一斉に拳銃を構え撃ち込んでくるも、燈瑩トウエイは相手の弾道を微塵も気にせず撃ち返しながらスタスタ前に進んだ。
こんなもん、躍起やっきになってけても当たる時は当たるしツラさらしていても当たらない時は当たらないのだ。ていうか───どっちでもいいし。
頭、胸腹、腹腹と弾をプレゼントして全員沈める。死体をまたぎ突き当りまで行って、左右の路地に敵の影が無いことを確認するときびすを返し来た道を戻った。物陰にうずくまる美麗メイリイネイに近付く。気がついたネイが顔を覗かせた、その時、燈瑩トウエイの視界の端で再び何かが動いた。

銃を持ち上げつつ目線を投げた先の小道でネイに照準を定めている男、燈瑩トウエイは射線をさえぎるように身体を入れる。数回の発砲音、交差する弾丸、男の頭蓋が弾けて飛び出た眼球が壁にペチャッと張り付いた。短い静寂。

「怪我は?」

振り返って訊ねる燈瑩トウエイネイかぶりを振る。食肆レストランの方角を偵察したレンが他の追手はいなさそうだと合図、さしあたり、今のが最後の1人か。

レン君、ネイちゃんと美麗メイリイさんを食肆レストランに避難させてあげて。そしたら戻ってきてもらってもいいかな」

微笑む燈瑩トウエイレンは力強く了解。ここからなら店までは急げば数分もかからない、2人の手を引いてすぐさま走り出す。
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