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倶会一処
挽歌と一処
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倉庫街での抗争は特に勝者も出ないまま幕を閉じた。
集まったマフィア達は潰し合い、それぞれのチームの結末は芳しくなく…全滅や敗走と様々。最後まで残ったグループが勝者といえば勝者ではあるが、それでも各々相当に人数を減らしている。再建にはそれなりの時間を費やさざるを得ないだろう。
今回の一件で生じたいくらかのゴタゴタは燈瑩が収めてくれるらしい。謝る樹に‘結果が結果なので手もかからない、気にしなくていい’と返答していたが、そういう燈瑩のほうがどうも負い目を感じている様に見え、樹は‘燈瑩のせいじゃない’と改めて伝えた。あまり伝わっている気がしなかったが。
宗のことは一旦城砦まで連れて帰ったあと───たくさんの献花と共に見送った。
大地が九龍中から掻き集めてきてくれた紫荊花。綠の1件に折り合いをつけた寧や蓮も花を供えてくれ、皆、申し訳無さそうに瞼を伏せる樹の手を握った。
そして、数日経った晴れた午後。
倶会一処21
残った遺灰の包みを抱えた樹、綠の頼みを最後まで聞くと言う匠、気を揉んで付いてきた上──帰りは運転を代わってくれるらしい──を乗せ、東は桑塔納を滑らせる。
街を抜け山を越えて小1時間ばかり転がしたのち辿り着いた海岸。赤柱。
東に車を任せ、樹は袋を片手に浜辺の砂を踏む。横を歩く匠が煙草に火を点け上もそれを受け取った。
あの日──宗と2人で出掛けた日──と同じく海は青く冴え、空には白い雲が浮かぶ。目を細めキラキラ光る眩しい水面を眺めた。
樹はゆっくり包みを解き、中身を少し手に取った。胸の辺りに掲げる。灰はサラサラと風に舞いすぐに掌から消えていった。もう少し手に取った。また風に舞っていく。何回か繰り返して、そのうち、ついに灰は全て掌を離れ空気に溶けていった。
‘海に撒いてもらうのもいいかもね’
‘俺もそうしよっかな’
‘そうしよ!約束!’
約束を交わした小指に鈍い痛みが走る。拳を握り、開いた。また握って、開く。両手を眦にあてた。暫くそうしていた。
数秒か数分かわからなかったが、腕を下ろし、隣に座る匠へ目を向けると───その足元に積もる煙草の吸い殻。どうやら数十分経っていたらしい。ごめんと樹が詫びれば匠は微笑み、後ろに立つ上も軽く頷いた。
樹は海に視線を戻す。夕陽が反射し、赤く染まる景色。
「また」
会えたら、と言いかけて、やめた。馬鹿な事を考えている…出来る訳ないのに。けれど。
匠が小さく呟いた。
「会えるよ。また」
新しい煙草に火を点け煙を流す。続けた。
「したら、また仲間になったらいいじゃん」
自分自身に言い聞かせている様にも感じられたが───樹も、そして上も、夕焼けを映す波間を見詰めた。
また会った時は。
車に戻ると東がコンビニで買った雪糕を皆に手渡してきた。やや溶けかけたそれは口に含むとシャリッと涼し気な音を立て、すぐに舌の上から喉へと落ちていく。雪糕をシャクシャク齧り、樹は後部座席のシートに身体を預けた。
助手席の匠がミックステープをかける。曲のアレンジに使われているのは、軽快で柔らかでどこか懐かしいカントリーミュージック。綠のギターの音。
それに合わせて、上が運転しつつ歌を口ずさんでいる。全く音程が合っていない…本当にひとつも。下手なのだ。本人もそれを知っている、けれど唄ってくれている。
カーブを曲がる際、東が食べ終わったアイスの袋と棒を窓から投げた。樹のぶんと2つ。両方とも綺麗に道路沿いのゴミ箱に吸い込まれ、匠がヒュウと口笛を鳴らす。ガタゴトと揺れて九龍城を目指す桑塔納。
優しいギターの響きと不格好な歌声をBGMに瞳を閉じる樹の頬を、再びそっとぬるいそよ風が撫でる。
────お兄ちゃん。
遠くで。そう、声が聴こえた気がした。
集まったマフィア達は潰し合い、それぞれのチームの結末は芳しくなく…全滅や敗走と様々。最後まで残ったグループが勝者といえば勝者ではあるが、それでも各々相当に人数を減らしている。再建にはそれなりの時間を費やさざるを得ないだろう。
今回の一件で生じたいくらかのゴタゴタは燈瑩が収めてくれるらしい。謝る樹に‘結果が結果なので手もかからない、気にしなくていい’と返答していたが、そういう燈瑩のほうがどうも負い目を感じている様に見え、樹は‘燈瑩のせいじゃない’と改めて伝えた。あまり伝わっている気がしなかったが。
宗のことは一旦城砦まで連れて帰ったあと───たくさんの献花と共に見送った。
大地が九龍中から掻き集めてきてくれた紫荊花。綠の1件に折り合いをつけた寧や蓮も花を供えてくれ、皆、申し訳無さそうに瞼を伏せる樹の手を握った。
そして、数日経った晴れた午後。
倶会一処21
残った遺灰の包みを抱えた樹、綠の頼みを最後まで聞くと言う匠、気を揉んで付いてきた上──帰りは運転を代わってくれるらしい──を乗せ、東は桑塔納を滑らせる。
街を抜け山を越えて小1時間ばかり転がしたのち辿り着いた海岸。赤柱。
東に車を任せ、樹は袋を片手に浜辺の砂を踏む。横を歩く匠が煙草に火を点け上もそれを受け取った。
あの日──宗と2人で出掛けた日──と同じく海は青く冴え、空には白い雲が浮かぶ。目を細めキラキラ光る眩しい水面を眺めた。
樹はゆっくり包みを解き、中身を少し手に取った。胸の辺りに掲げる。灰はサラサラと風に舞いすぐに掌から消えていった。もう少し手に取った。また風に舞っていく。何回か繰り返して、そのうち、ついに灰は全て掌を離れ空気に溶けていった。
‘海に撒いてもらうのもいいかもね’
‘俺もそうしよっかな’
‘そうしよ!約束!’
約束を交わした小指に鈍い痛みが走る。拳を握り、開いた。また握って、開く。両手を眦にあてた。暫くそうしていた。
数秒か数分かわからなかったが、腕を下ろし、隣に座る匠へ目を向けると───その足元に積もる煙草の吸い殻。どうやら数十分経っていたらしい。ごめんと樹が詫びれば匠は微笑み、後ろに立つ上も軽く頷いた。
樹は海に視線を戻す。夕陽が反射し、赤く染まる景色。
「また」
会えたら、と言いかけて、やめた。馬鹿な事を考えている…出来る訳ないのに。けれど。
匠が小さく呟いた。
「会えるよ。また」
新しい煙草に火を点け煙を流す。続けた。
「したら、また仲間になったらいいじゃん」
自分自身に言い聞かせている様にも感じられたが───樹も、そして上も、夕焼けを映す波間を見詰めた。
また会った時は。
車に戻ると東がコンビニで買った雪糕を皆に手渡してきた。やや溶けかけたそれは口に含むとシャリッと涼し気な音を立て、すぐに舌の上から喉へと落ちていく。雪糕をシャクシャク齧り、樹は後部座席のシートに身体を預けた。
助手席の匠がミックステープをかける。曲のアレンジに使われているのは、軽快で柔らかでどこか懐かしいカントリーミュージック。綠のギターの音。
それに合わせて、上が運転しつつ歌を口ずさんでいる。全く音程が合っていない…本当にひとつも。下手なのだ。本人もそれを知っている、けれど唄ってくれている。
カーブを曲がる際、東が食べ終わったアイスの袋と棒を窓から投げた。樹のぶんと2つ。両方とも綺麗に道路沿いのゴミ箱に吸い込まれ、匠がヒュウと口笛を鳴らす。ガタゴトと揺れて九龍城を目指す桑塔納。
優しいギターの響きと不格好な歌声をBGMに瞳を閉じる樹の頬を、再びそっとぬるいそよ風が撫でる。
────お兄ちゃん。
遠くで。そう、声が聴こえた気がした。
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