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倶会一処
成り行きと不自然
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倶会一処14
煙草の灰を落としつつポツポツ話す匠。
まず、食肆に誘おうと寧が綠へ電話をかけたら宗が出て、訃報を知らされた。
匠がかけてもやはり宗が出たのでそのまま詳細を尋ねれば、数日前の事件当時、宗は家に携帯を忘れて行った綠を探している最中だったらしい。そして綠が抗争で承豐道倉庫街に居ることと、そこで火事が発生したとの情報を得る。宗はすぐに現場へ向かったが炎の勢いは激しく、到着した頃には既に木造の倉庫は跡形もなく燃えてしまっていた…というのが成り行き。その火災の噂は匠も耳にしていたが。
宗は落ち着き払った口調で淡々と状況説明をし、‘ゴタゴタが収まったら連絡を入れるとお兄ちゃんに伝えて欲しい’との言付けを匠に預けた。匠はとりあえず寧を食肆まで送り、蓮に世話を任せるとギターを取って【東風】へ。それがここまでの流れ。
東も樹も無言で匠を見詰める。
樹は微信を開いた。宗からの通知は無し。迷って、〈待ってる〉とだけ、メッセージを送った。その手で上にコール。あらましを告げると、上は事実関係を調べ折り返すとの返答。
宗の所へ駆け付けるべきか?いや、‘連絡する’と言われたんだから待っているべきか。その為にメッセージを送ったんだろ?でも、そうはいっても、アクションを起こした方がいいのかな。迷惑か。参った、わからない。樹は頬杖をつく。
わからないんだ、こういうとき…どうすればいいのかが。猫ならどうするんだろう。燈瑩ならどうするんだろう。綠なら───どうしたんだろう。
難しい顔をしている樹の肩を東が叩いた。
「待っててあげたらいいんじゃない」
柔らかく言って、首を傾ける。正解はわからない。だったら、確かに相手の要望に応えることが最善だろう。樹は液晶のスクリーンに視線を落としたまま、小さく頷いた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
夜になり、珍しく家主達以外に誰も居ない【東風】。
樹の携帯が鳴った。表示は上。ツテを使い色々と確認したところ、倉庫街の喧嘩はやはり綠…火事での焼失も匠が聞いた通り。抗争相手は最近、界隈で規模が縮小していたグループ。人数はそれなりに居たらしいが。まだいくつか気になる点があるので、纏まり次第また報告するとの話だった。
電話を切った樹は東に仔細を伝える。東は‘そっか’と悲しげに答えたあと、しかし、腕を組んで少し唸った。
敵側に人数がいたとて、なんとなく…真っ向勝負で綠が負けたとは考えにくかったからである。ならば、火災が原因で命を落とした?それもしっくりこない。別の何かではないのか?綠が、油断をするような───何か。と、続けざまに樹の液晶画面が光る。微信。
宗だ。
予想より早い連絡。〈お兄ちゃんどこ?誰かと一緒?〉とのメッセージに、樹は急いで〈家。東だけ。〉と返した。返してから端的過ぎたかと一瞬悩むも、そんな事は全く気にしていない宗より〈今から行っていい?〉とレスポンス。〈待ってる〉と返信したあと、先程も同じ文面を送ったのを思い出し文言のバリエーションの乏しさを若干反省する樹。もっと上手く喋れたらいいのに…申し訳程度の絵文字をプラスした。
程なくしてやってきた宗の手にはテイクアウェイの紙袋。‘新しいお店オープンしてた’と言いテーブルに食べ物を並べる。
態度は普通。至って、普通。
茶を淹れようとした東を制し樹がキッチンへ立った。宗に気を遣っているようだ、世話を焼いてやりたいらしい。料理のパックを開ける宗へ控え目に声を掛ける東。
「あの…聞いたけど。綠のこと」
「あぁ、うん。そうなんだよね。みんな何か言ってた?」
「え?えっと…宗どうしてる?とか…」
ふぅんと答える宗。
いや、というか、‘そうなんだよね。’とは?あまりにもサラリとしている反応に、思わず疑問が東の口をついた。
「平気なの?宗ちゃん」
「ん?うーん。結果が見えてたっていうか。ちょっと、甘いとこあったから…綠は」
───ちょっと、やり過ぎるとこあるから…宗は。
綠の台詞がフラッシュバックし、東は僅かに息を呑んだ。宗がどうしたの東さんと屈託なく笑う。
屈託なく?笑う?
─────この状況で?
台所から樹がお茶を運んできた。宗の横に腰を下ろす、会話は聞こえていなかった模様。宗は‘ありがとお兄ちゃん’と礼を言い、綠の話題には触れずに黙々と夕飯を食べた。樹も踏み込みはしない。1度だけ、大丈夫かと訊ねたが、宗が首を縦に振ったので以降その話題が出ることはなかった。
食事を終えいくらか時間を潰し、夜更けに宗は帰宅していった。送ろうかと申し出た樹を悪いからいいよと笑顔で断りテクテク去りゆく背中。適当に店を掃除しながら、東がポツリと発する。
「宗ちゃん普通だったわね」
「そう、だね…」
答える樹も歯切れが良くない。
綠の一件から日が浅いのに様子が不自然…逆だ。自然過ぎた。それが不自然だった。
東が言うには‘結果が見えていたから’と宗は語ったらしいが───そういう問題でもないはず。根本的に何かが違う。理屈はどうあれ通常、‘失ったこと’に対する感情が先に来るのではないのだろうか。
東は重たそうに唇を開いた。
「あのさ。樹の弟なのにこんな風に言うのもアレなんだけど。あの子、ちょっと危ない…んじゃないかしら」
樹は湯呑を持ち上げる手を止め東を見た。バツの悪そうな表情の東にそんな顔しないでと告げて、普洱茶を啜る。
それについては、樹も思う所があったのだ。宗はどこか───ズレている。
再び樹の携帯が鳴った。宗からの微信、〈明日もご飯食べようね!お兄ちゃん〉。樹は長らく画面を見詰めて、それから、〈いつでも呼んで〉と返信を飛ばした。
煙草の灰を落としつつポツポツ話す匠。
まず、食肆に誘おうと寧が綠へ電話をかけたら宗が出て、訃報を知らされた。
匠がかけてもやはり宗が出たのでそのまま詳細を尋ねれば、数日前の事件当時、宗は家に携帯を忘れて行った綠を探している最中だったらしい。そして綠が抗争で承豐道倉庫街に居ることと、そこで火事が発生したとの情報を得る。宗はすぐに現場へ向かったが炎の勢いは激しく、到着した頃には既に木造の倉庫は跡形もなく燃えてしまっていた…というのが成り行き。その火災の噂は匠も耳にしていたが。
宗は落ち着き払った口調で淡々と状況説明をし、‘ゴタゴタが収まったら連絡を入れるとお兄ちゃんに伝えて欲しい’との言付けを匠に預けた。匠はとりあえず寧を食肆まで送り、蓮に世話を任せるとギターを取って【東風】へ。それがここまでの流れ。
東も樹も無言で匠を見詰める。
樹は微信を開いた。宗からの通知は無し。迷って、〈待ってる〉とだけ、メッセージを送った。その手で上にコール。あらましを告げると、上は事実関係を調べ折り返すとの返答。
宗の所へ駆け付けるべきか?いや、‘連絡する’と言われたんだから待っているべきか。その為にメッセージを送ったんだろ?でも、そうはいっても、アクションを起こした方がいいのかな。迷惑か。参った、わからない。樹は頬杖をつく。
わからないんだ、こういうとき…どうすればいいのかが。猫ならどうするんだろう。燈瑩ならどうするんだろう。綠なら───どうしたんだろう。
難しい顔をしている樹の肩を東が叩いた。
「待っててあげたらいいんじゃない」
柔らかく言って、首を傾ける。正解はわからない。だったら、確かに相手の要望に応えることが最善だろう。樹は液晶のスクリーンに視線を落としたまま、小さく頷いた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
夜になり、珍しく家主達以外に誰も居ない【東風】。
樹の携帯が鳴った。表示は上。ツテを使い色々と確認したところ、倉庫街の喧嘩はやはり綠…火事での焼失も匠が聞いた通り。抗争相手は最近、界隈で規模が縮小していたグループ。人数はそれなりに居たらしいが。まだいくつか気になる点があるので、纏まり次第また報告するとの話だった。
電話を切った樹は東に仔細を伝える。東は‘そっか’と悲しげに答えたあと、しかし、腕を組んで少し唸った。
敵側に人数がいたとて、なんとなく…真っ向勝負で綠が負けたとは考えにくかったからである。ならば、火災が原因で命を落とした?それもしっくりこない。別の何かではないのか?綠が、油断をするような───何か。と、続けざまに樹の液晶画面が光る。微信。
宗だ。
予想より早い連絡。〈お兄ちゃんどこ?誰かと一緒?〉とのメッセージに、樹は急いで〈家。東だけ。〉と返した。返してから端的過ぎたかと一瞬悩むも、そんな事は全く気にしていない宗より〈今から行っていい?〉とレスポンス。〈待ってる〉と返信したあと、先程も同じ文面を送ったのを思い出し文言のバリエーションの乏しさを若干反省する樹。もっと上手く喋れたらいいのに…申し訳程度の絵文字をプラスした。
程なくしてやってきた宗の手にはテイクアウェイの紙袋。‘新しいお店オープンしてた’と言いテーブルに食べ物を並べる。
態度は普通。至って、普通。
茶を淹れようとした東を制し樹がキッチンへ立った。宗に気を遣っているようだ、世話を焼いてやりたいらしい。料理のパックを開ける宗へ控え目に声を掛ける東。
「あの…聞いたけど。綠のこと」
「あぁ、うん。そうなんだよね。みんな何か言ってた?」
「え?えっと…宗どうしてる?とか…」
ふぅんと答える宗。
いや、というか、‘そうなんだよね。’とは?あまりにもサラリとしている反応に、思わず疑問が東の口をついた。
「平気なの?宗ちゃん」
「ん?うーん。結果が見えてたっていうか。ちょっと、甘いとこあったから…綠は」
───ちょっと、やり過ぎるとこあるから…宗は。
綠の台詞がフラッシュバックし、東は僅かに息を呑んだ。宗がどうしたの東さんと屈託なく笑う。
屈託なく?笑う?
─────この状況で?
台所から樹がお茶を運んできた。宗の横に腰を下ろす、会話は聞こえていなかった模様。宗は‘ありがとお兄ちゃん’と礼を言い、綠の話題には触れずに黙々と夕飯を食べた。樹も踏み込みはしない。1度だけ、大丈夫かと訊ねたが、宗が首を縦に振ったので以降その話題が出ることはなかった。
食事を終えいくらか時間を潰し、夜更けに宗は帰宅していった。送ろうかと申し出た樹を悪いからいいよと笑顔で断りテクテク去りゆく背中。適当に店を掃除しながら、東がポツリと発する。
「宗ちゃん普通だったわね」
「そう、だね…」
答える樹も歯切れが良くない。
綠の一件から日が浅いのに様子が不自然…逆だ。自然過ぎた。それが不自然だった。
東が言うには‘結果が見えていたから’と宗は語ったらしいが───そういう問題でもないはず。根本的に何かが違う。理屈はどうあれ通常、‘失ったこと’に対する感情が先に来るのではないのだろうか。
東は重たそうに唇を開いた。
「あのさ。樹の弟なのにこんな風に言うのもアレなんだけど。あの子、ちょっと危ない…んじゃないかしら」
樹は湯呑を持ち上げる手を止め東を見た。バツの悪そうな表情の東にそんな顔しないでと告げて、普洱茶を啜る。
それについては、樹も思う所があったのだ。宗はどこか───ズレている。
再び樹の携帯が鳴った。宗からの微信、〈明日もご飯食べようね!お兄ちゃん〉。樹は長らく画面を見詰めて、それから、〈いつでも呼んで〉と返信を飛ばした。
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