九龍懐古

カロン

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倶会一処

ブラコンと見掛け倒し・前

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倶会一処2





夕飯時。約束通りに食肆レストランへやってきたイツキ…及び、見知らぬ人物2名。すぐさま‘いらっしゃいませ!ご新規様でしゅか!’と追加の席を用意し接客をはじめるレン、人懐っこい吉娃娃チワワイツキ経緯いきさつを説明しつつ自分も椅子へ腰を下ろした。

イツキ、弟居たっけ…?」
「いや…俺も自分が1番下だと思ってたんだけど…」

首を傾げるアズマ──イツキが‘折角だから’と土産に持ってきた麻薬ドラッグの塊を抱え嬉しそう──を見て、イツキもまた首を傾げる。2人の知るところでは【黑龍】の家でイツキより後に産まれた人間は居なかったはずだ。

「僕は本家に認知されてないんですよ。阿爸おとうさんが遊びで寝てた相手との子供だもん。まぁ、阿媽おかあさんももう居ないけど」

イツキの弟───シュウが、テーブルの幸運曲奇フォーチュンクッキーを割りながら笑う。
父親がで作った子供か…そうなると存在を把握しておらずとも不思議は無い。他にもまだ兄弟がいる可能性もあるし、そもそも【黑龍】を出てからの内情は全くわからない、もしかしたら外とは限らず本家の中でも人数が増えているかも。

ロクは違うんだよね?」
「全然。アタイ、島の出だもの」

イツキの質問にゆるく煙草を振るもう1人の青年───ロク此方こちらは【黑龍】と関連は無く、シュウと知り合ったのも偶然との事。もともと裏社会と繋がりがあった父が、嫁を亡くした際にロクを連れ離島から香港へ来たらしい。

2人がイツキに気付いたのはほんの最近。台湾の角頭の件で界隈が揺れた頃、‘【黑龍】の息子が九龍に居る’との情報を聞きつけた。そしてこのたび、それを頼りに香港から探しに訪れたのだとシュウは語る。

「また紅花の伯父アイツ大元おおもとかしら」
「そうじゃない?」

推察するアズマイツキは呆れ気味に返答。どこまでもはた迷惑な伯父おじ。しかし、今回ばかりは迷惑とも言えないか。なにせお互い面識のなかった家族と出会えたのだ、伯父おじ功績・・、といってやってもいいかも知れない。

夕飯を食べながら雑談を交わす。内容からすると、どうやらシュウは香港のストリートでそれなりに力をつけているようだった。この歳にしていくつものグループを軍門に下らせている。腕っぷしが立つということではない、様々な取り引きや人間を言葉巧みに操作して裏側から手中に収めていくスタイル。会話の中でも垣間みえる知識の豊富さや語彙力の高さからそのクレバーな面が伺えた。

関心したイツキが呟く。

シュウ、すごいね。俺はそういうの全然駄目だから」
「お兄ちゃんは喧嘩が強いでしょ!さっきも見たし、色々噂も聞いてるし。僕はそっちは得意じゃなくて…ロクに助けてもらってるよ」

話を振られたロクが、持ちつ持たれつねと口角を上げる。シュウアズマを見やり、アズマさんも強いの?と期待に満ちた眼差しで訊いた。イツキのツレでこのガタイとあらばそう思うのも当然である。シュウの目を見返しニッコリするアズマ

「俺は死ぬほど弱いよ」
「マジか、見掛け倒しじゃん」

くはっと吹き出しケラケラ笑うロク、歯に衣着せない男。イジけるアズマなだめる姿は嫌味もなく爽やかだ。

「2人はしばらく九龍にいるの?」
「ずっといる!お兄ちゃんと会えたし!」

イツキの問いに満面の笑顔で答えるシュウに、ロクが口を挟む。

「ずっと?シュウちゃん、香港のグループやつらはどうすんのよ」
「適当にやっといてもらうからいい、僕ここに居たいもん。連絡とかもロクに任せる」

悪戯な表情で舌を出す。‘さいですか’と了承するロクは慣れた様子、普段から振り回されているのだろうか。シュウイツキに向き直る。

「お兄ちゃん、九龍まちのこと案内してよ」
「え?俺べつに案内出来るほどじゃ…」
「たくさん知ってるでしょ!秘密の裏道とか美味しいお店とか!何でもいいから!」

割と押しが強め。

確かに裏道や美味しい店なら詳しいが、そんな物の紹介でいいのか…なにかもっと実になることのほうが…思案しつつパチパチと目をしばたたかせるイツキをよそにシュウはニコニコし、明日からいっぱい探検しようねと上機嫌。
大地ダイチ曲奇クッキーを分け合う様子を眺めていたイツキカムラに脇腹をつつかれた。

「なんや、可愛かわええやん」
「ん…そうだね…」

対面したばかりで実感が沸かないものの、弟なんだろう。イツキは‘あのさぁ’とカムラの脇腹をつつき返しヒッソリと問う。指先がポヨンとした。

「お兄ちゃんのコツ、教えて」
「ムズいこと訊きよるな」

考え込むカムラ

長年やっているんだから簡単じゃないのか…いや、今‘案内して’と頼まれて、長年九龍このまちの住人をやっている自分も困ったばっかりだった。意識してないことって改めて訊かれると難しいんだな。イツキはそんな風に思いつつカムラの腹をポヨポヨつつく。
やめぇや、と、カムラが悲しそうな声をだした。
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