220 / 409
倶会一処
兄と弟
しおりを挟む
何かひとつ掛け違っていただけで出会えず。何かひとつ擦れ違っただけで交わらず。
それでも、ほんのひとときだけでも、指先にだけでも、触れることが出来たのであれば。
人はそれを運命と呼ぶのだろう。例え───どんな結末を迎えたとしても。
倶会一処0
「あ、ラストだ」
おやつ時の【東風】、大地が熊猫曲奇をつまみかけた手を止める。先程開封したばかりの曲奇は雑談中にいつの間にやら数を減らしていたらしく、気付けば最後の1匹に。
樹は普洱茶を啜りながら、殿を務めている熊猫を容れ物ごと大地の方へ押しやった。
「大地が食べて」
「え!いいの?」
「うん」
わぁい!と喜び颯爽と齧りつく大地。討ち取ったり。だが口に入れた直後、はたと思い付き‘半分こしたら良かったな’と呟く。樹が‘俺いっぱい食べたし平気だよ’と返せば隣で見ていた上が肩を竦めた。
「すまんな、毎度毎度」
「全然」
ヒラヒラと掌を振る樹。
基本的に、年齢の関係で──大食いなことも手伝い──皆から分けてもらう側の樹だが、大地や寧に関しては年下だ。譲って然るべきである。空になった箱を覗き、また東に買って貰おうと決める。これも然るべきである。
上が大地の髪をポンポン撫でた。
「貰てばっかなんやから礼せんと駄目やで」
「またお花摘んでくるもん」
その言葉にヒュッと喉を鳴らす東を横目に、樹は仲睦まじく会話をする兄弟を眺めた。
上ってしっかりしてるよな。しっかり、というか過保護なきらいもあるが、年下の扱いが上手い。東も世話焼きなものの‘兄’とは違う。樹は自分の兄弟を少し思い返した。
弟か。兄は居た──といっても居ないに等しかった──けれど、弟は居なかった。自分より幼い存在とはあまり関わった試しが無い。
そういえば、子供と接する時のコツみたいなものを以前上に訊こうとした事があった。紅花と一緒に過ごしていた頃だ。あの時は、バタバタ続きでそのまま忘れてしまったが…またの機会に尋ねてみよう、‘上のお兄ちゃん講座’。
「せや大地、なんや蓮が新作食いに食肆こい言うとったで」
「え?ペースやば!アイデアマンじゃん」
「店のBGM変わってから前より調子ええんやって。みんなで行こか」
なぁ?と上は東と樹を誘う。時計を見た樹は夕飯までに合流すると言って立ち上がった。
「バイトなん?」
「うん。荷物届けに行く」
今日は配達の仕事を頼まれていた。上が気ぃ付けてなと声を掛け、大地は行ってらっしゃいと無邪気な笑顔。先に食肆向かって──食材の仕込みを手伝って──るからとの東の言葉に指でオーケーサインを作り、樹は鞄を抱えて【東風】をあとにした。
それでも、ほんのひとときだけでも、指先にだけでも、触れることが出来たのであれば。
人はそれを運命と呼ぶのだろう。例え───どんな結末を迎えたとしても。
倶会一処0
「あ、ラストだ」
おやつ時の【東風】、大地が熊猫曲奇をつまみかけた手を止める。先程開封したばかりの曲奇は雑談中にいつの間にやら数を減らしていたらしく、気付けば最後の1匹に。
樹は普洱茶を啜りながら、殿を務めている熊猫を容れ物ごと大地の方へ押しやった。
「大地が食べて」
「え!いいの?」
「うん」
わぁい!と喜び颯爽と齧りつく大地。討ち取ったり。だが口に入れた直後、はたと思い付き‘半分こしたら良かったな’と呟く。樹が‘俺いっぱい食べたし平気だよ’と返せば隣で見ていた上が肩を竦めた。
「すまんな、毎度毎度」
「全然」
ヒラヒラと掌を振る樹。
基本的に、年齢の関係で──大食いなことも手伝い──皆から分けてもらう側の樹だが、大地や寧に関しては年下だ。譲って然るべきである。空になった箱を覗き、また東に買って貰おうと決める。これも然るべきである。
上が大地の髪をポンポン撫でた。
「貰てばっかなんやから礼せんと駄目やで」
「またお花摘んでくるもん」
その言葉にヒュッと喉を鳴らす東を横目に、樹は仲睦まじく会話をする兄弟を眺めた。
上ってしっかりしてるよな。しっかり、というか過保護なきらいもあるが、年下の扱いが上手い。東も世話焼きなものの‘兄’とは違う。樹は自分の兄弟を少し思い返した。
弟か。兄は居た──といっても居ないに等しかった──けれど、弟は居なかった。自分より幼い存在とはあまり関わった試しが無い。
そういえば、子供と接する時のコツみたいなものを以前上に訊こうとした事があった。紅花と一緒に過ごしていた頃だ。あの時は、バタバタ続きでそのまま忘れてしまったが…またの機会に尋ねてみよう、‘上のお兄ちゃん講座’。
「せや大地、なんや蓮が新作食いに食肆こい言うとったで」
「え?ペースやば!アイデアマンじゃん」
「店のBGM変わってから前より調子ええんやって。みんなで行こか」
なぁ?と上は東と樹を誘う。時計を見た樹は夕飯までに合流すると言って立ち上がった。
「バイトなん?」
「うん。荷物届けに行く」
今日は配達の仕事を頼まれていた。上が気ぃ付けてなと声を掛け、大地は行ってらっしゃいと無邪気な笑顔。先に食肆向かって──食材の仕込みを手伝って──るからとの東の言葉に指でオーケーサインを作り、樹は鞄を抱えて【東風】をあとにした。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ルナール古書店の秘密
志波 連
キャラ文芸
両親を事故で亡くした松本聡志は、海のきれいな田舎町に住む祖母の家へとやってきた。
その事故によって顔に酷い傷痕が残ってしまった聡志に友人はいない。
それでもこの町にいるしかないと知っている聡志は、可愛がってくれる祖母を悲しませないために、毎日を懸命に生きていこうと努力していた。
そして、この町に来て五年目の夏、聡志は海の家で人生初のバイトに挑戦した。
先輩たちに無視されつつも、休むことなく頑張る聡志は、海岸への階段にある「ルナール古書店」の店主や、バイト先である「海の家」の店長らとかかわっていくうちに、自分が何ものだったのかを知ることになるのだった。
表紙は写真ACより引用しています
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
下っ端妃は逃げ出したい
都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー
庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。
そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。
しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる