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十大奇祭
大食戦と争奪戦・後
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十大奇祭2
一方、別の広場で饅頭を見上げている上。こちらは食べる為ではなく登る為のタワーだったが。
「高ぁ…」
ビルで言えば、5階建てを優に超える。想像よりもかなり高い。なんでこないなとこよじ登って饅頭取らなアカンねん…なんなんこの大会…?思いながら半目で塔を見詰める上だが、後には引けない。
鶏蛋仔屋の名前が書かれたゼッケンを胸に、スタートラインへ移動。周りを取り囲むのは運動が得意そうな体型の人々ばかり、ぽっちゃりなど皆無だった。
まぁいい…出来る限りのことはしてみよう…罷り間違ってのワンチャンス!ってのもあるかも知れないしな。と、屈伸をする上の耳にスピーカーから大音量で流れるナレーションが飛び込んだ。
「さぁ!!始まる平安饅頭争奪戦!!今宵、栄光を手にするのは果たして!?」
───いや、知っとるなこの声。上は実況席に顔を向ける。マイクを握り大興奮して捲し立てていたのは皆様ご存知鶏蛋仔屋。このお祭り男…出られへんくなったからって実況やっとるんかい…。目が合うと鶏蛋仔屋はバチコーンと微塵も可愛くないウインクを飛ばしてきたので、上はゲンナリとした表情をお返しした。
そして始まるカウントダウン。夜を裂く空砲の合図で、タワーをめがけて一斉に走り出す参加者達。
上もどうにかスタートダッシュを決め塔に張り付き上を目指す。やってみると意外に登れることに自分でも驚く、どうやら瞬発力は無いが筋力はそこそこあるようだ。手当たり次第に饅頭をもいでは背負った袋に詰めていく、数も大切だがこの饅頭、頂上に近いほど高得点。勝つ為にはもっと良い位置のモノが欲しい。もいでは詰め、もいでは詰め。ライバルと押し合い圧し合い天辺へ。
最終的な狙いは、タワー先端にたったひとつだけ輝くスペシャルな饅頭。手中に収めれば段違いにポイントが貰える。上は幾人もを躱して最上部へと指をかけた。
もう少し、あと少し、あの饅頭を取れば─────…その時。
隣の選手がタワーから足を滑らせた。
一瞬の出来事。考えるより先に手を伸ばして落ちていくその身体をギリギリで捕まえる上。一応命綱があるとはいえ、ヘタに落下すればそれなりの怪我は免れない。間に合ったことにホッとするも、姿勢が斜めになったせいで自分の背中の袋から饅頭がバラバラと溢れゆくのが見えた。次から次へと遥か下方へ逃げていく饅頭達、マズい…待ってくれ、これでは得点が…けれどもはや仕方がない。
掴んだ腕を引っ張り上げてタワーへとしがみつかせると、体勢を立て直し礼を言う選手。上は‘おおきに’と笑った。
ほどなくして、再び響く空砲。レース終了のお知らせ。モゾモゾと塔から降りてもぎ取った饅頭を数えるが、上の袋に入っていたのは残り物の数個だけ。数える意味もなかった。こりゃドベやな、スロット大会と同じ結果。フゥと息を吐く上に、鶏蛋仔屋が実況席から駆け寄ってくる。
「すまんオッチャン。全然───…」
「いいんだよ!!見てたよさっきの活躍!!やっぱりヒーローはこうでないと!!」
鶏蛋仔屋は勝敗の行方など気にした様子もなく、上の手を取りブンブン揺さぶった。褒められようとしたつもりはないので気恥ずかしく感じている上、その心情を全く読まず、さすが人気のファイターだなどと称えながら再度ウインクを飛ばしてくる鶏蛋仔屋。負けたというのにやたらめったら盛りあがるお祭り男に、上もクスリとして眉を下げた。
「上!ナイスファイト!」
ゼッケンを脱いで戻ってきた上を大地がお出迎え、横で燈瑩も小さく拍手をしている。大会の成り行きを見守っていてくれたらしい。カッコ良かったよ!との大地の感想に上は苦笑い、撤収されるタワーを背景に兄弟仲良く記念写真を撮っていると路地の向こうから歩いてくる樹と東の姿。
「お疲れ、どうだった?饅頭レース」
「見ての通りやわ。せっかくやし、賞状でも欲しかったんやけどな」
「ね!ちょっと悔しいね」
東の質問に上は首をフルフル振り、大地も明るく同意。すると樹が手に持っていた何かを大地へと渡した。
「これでよかったらあるけど」
代わりになるかなぁと言いながら差し出されたのは、大食い大会優勝のトロフィー。平安饅頭を模した真ん丸フォルムが可愛らしい。
「えっ!?樹、勝ったの!?」
「うん」
「勝ったもなにもブッちぎり」
驚く大地に頷く樹。東が自分の手柄かのごとくピースサイン。
大会開始後、瞬く間に饅頭を10個消化した樹は追加を注文。すぐに片付け更に追加、それも平らげもう1度追加。あれよあれよと50個を腹に収め、そこから先の追加は他の参加者の分から補うという状況に。その時点で樹以外は全員20個程しか食べ終えていなかったので全く問題は無かったが、どんどん饅頭を吸い込んだ結果、試合終了時の樹の完食個数はまさかの3桁。
1人で50個以上を喰らう人間が居ることを想定していなかった運営側は唖然としつつも大絶賛、観客からも止めどない歓声の嵐。樹は巻き起こる【東風】コール──【東風】の名前で出場していたので──を背に、優勝トロフィーと余った平安饅頭をいただき広場をあとにしたのだった。
「すごいすごい!!でも、俺が貰っちゃったらなんか悪くない?」
「じゃあ鶏蛋仔屋さんにあげる?」
ハシャギつつも悩む大地に、樹が提案。上もそれええなと同意、満場一致でトロフィーを鶏蛋仔屋に贈呈。店主は大袈裟に喜び‘店に飾る’と満面の笑みで親指を立てた。
それから、猫が居座っている屋台──こちらもこちらで恐ろしい量の酒瓶が転がっていたが──で夕飯をとり、海風に包まれた和やかな雰囲気の中、饅頭祭りは幕を下ろす。
後日。
今年の騒動で、大食い大会に用意される饅頭の上限は次回から引き上げを検討され。
優勝インタビューで上手く笑顔を作れなかった樹は、なにやらムンッとした表情でローカル新聞の一面に載り、その記事は【東風】の壁に堂々と貼られることになった。
一方、別の広場で饅頭を見上げている上。こちらは食べる為ではなく登る為のタワーだったが。
「高ぁ…」
ビルで言えば、5階建てを優に超える。想像よりもかなり高い。なんでこないなとこよじ登って饅頭取らなアカンねん…なんなんこの大会…?思いながら半目で塔を見詰める上だが、後には引けない。
鶏蛋仔屋の名前が書かれたゼッケンを胸に、スタートラインへ移動。周りを取り囲むのは運動が得意そうな体型の人々ばかり、ぽっちゃりなど皆無だった。
まぁいい…出来る限りのことはしてみよう…罷り間違ってのワンチャンス!ってのもあるかも知れないしな。と、屈伸をする上の耳にスピーカーから大音量で流れるナレーションが飛び込んだ。
「さぁ!!始まる平安饅頭争奪戦!!今宵、栄光を手にするのは果たして!?」
───いや、知っとるなこの声。上は実況席に顔を向ける。マイクを握り大興奮して捲し立てていたのは皆様ご存知鶏蛋仔屋。このお祭り男…出られへんくなったからって実況やっとるんかい…。目が合うと鶏蛋仔屋はバチコーンと微塵も可愛くないウインクを飛ばしてきたので、上はゲンナリとした表情をお返しした。
そして始まるカウントダウン。夜を裂く空砲の合図で、タワーをめがけて一斉に走り出す参加者達。
上もどうにかスタートダッシュを決め塔に張り付き上を目指す。やってみると意外に登れることに自分でも驚く、どうやら瞬発力は無いが筋力はそこそこあるようだ。手当たり次第に饅頭をもいでは背負った袋に詰めていく、数も大切だがこの饅頭、頂上に近いほど高得点。勝つ為にはもっと良い位置のモノが欲しい。もいでは詰め、もいでは詰め。ライバルと押し合い圧し合い天辺へ。
最終的な狙いは、タワー先端にたったひとつだけ輝くスペシャルな饅頭。手中に収めれば段違いにポイントが貰える。上は幾人もを躱して最上部へと指をかけた。
もう少し、あと少し、あの饅頭を取れば─────…その時。
隣の選手がタワーから足を滑らせた。
一瞬の出来事。考えるより先に手を伸ばして落ちていくその身体をギリギリで捕まえる上。一応命綱があるとはいえ、ヘタに落下すればそれなりの怪我は免れない。間に合ったことにホッとするも、姿勢が斜めになったせいで自分の背中の袋から饅頭がバラバラと溢れゆくのが見えた。次から次へと遥か下方へ逃げていく饅頭達、マズい…待ってくれ、これでは得点が…けれどもはや仕方がない。
掴んだ腕を引っ張り上げてタワーへとしがみつかせると、体勢を立て直し礼を言う選手。上は‘おおきに’と笑った。
ほどなくして、再び響く空砲。レース終了のお知らせ。モゾモゾと塔から降りてもぎ取った饅頭を数えるが、上の袋に入っていたのは残り物の数個だけ。数える意味もなかった。こりゃドベやな、スロット大会と同じ結果。フゥと息を吐く上に、鶏蛋仔屋が実況席から駆け寄ってくる。
「すまんオッチャン。全然───…」
「いいんだよ!!見てたよさっきの活躍!!やっぱりヒーローはこうでないと!!」
鶏蛋仔屋は勝敗の行方など気にした様子もなく、上の手を取りブンブン揺さぶった。褒められようとしたつもりはないので気恥ずかしく感じている上、その心情を全く読まず、さすが人気のファイターだなどと称えながら再度ウインクを飛ばしてくる鶏蛋仔屋。負けたというのにやたらめったら盛りあがるお祭り男に、上もクスリとして眉を下げた。
「上!ナイスファイト!」
ゼッケンを脱いで戻ってきた上を大地がお出迎え、横で燈瑩も小さく拍手をしている。大会の成り行きを見守っていてくれたらしい。カッコ良かったよ!との大地の感想に上は苦笑い、撤収されるタワーを背景に兄弟仲良く記念写真を撮っていると路地の向こうから歩いてくる樹と東の姿。
「お疲れ、どうだった?饅頭レース」
「見ての通りやわ。せっかくやし、賞状でも欲しかったんやけどな」
「ね!ちょっと悔しいね」
東の質問に上は首をフルフル振り、大地も明るく同意。すると樹が手に持っていた何かを大地へと渡した。
「これでよかったらあるけど」
代わりになるかなぁと言いながら差し出されたのは、大食い大会優勝のトロフィー。平安饅頭を模した真ん丸フォルムが可愛らしい。
「えっ!?樹、勝ったの!?」
「うん」
「勝ったもなにもブッちぎり」
驚く大地に頷く樹。東が自分の手柄かのごとくピースサイン。
大会開始後、瞬く間に饅頭を10個消化した樹は追加を注文。すぐに片付け更に追加、それも平らげもう1度追加。あれよあれよと50個を腹に収め、そこから先の追加は他の参加者の分から補うという状況に。その時点で樹以外は全員20個程しか食べ終えていなかったので全く問題は無かったが、どんどん饅頭を吸い込んだ結果、試合終了時の樹の完食個数はまさかの3桁。
1人で50個以上を喰らう人間が居ることを想定していなかった運営側は唖然としつつも大絶賛、観客からも止めどない歓声の嵐。樹は巻き起こる【東風】コール──【東風】の名前で出場していたので──を背に、優勝トロフィーと余った平安饅頭をいただき広場をあとにしたのだった。
「すごいすごい!!でも、俺が貰っちゃったらなんか悪くない?」
「じゃあ鶏蛋仔屋さんにあげる?」
ハシャギつつも悩む大地に、樹が提案。上もそれええなと同意、満場一致でトロフィーを鶏蛋仔屋に贈呈。店主は大袈裟に喜び‘店に飾る’と満面の笑みで親指を立てた。
それから、猫が居座っている屋台──こちらもこちらで恐ろしい量の酒瓶が転がっていたが──で夕飯をとり、海風に包まれた和やかな雰囲気の中、饅頭祭りは幕を下ろす。
後日。
今年の騒動で、大食い大会に用意される饅頭の上限は次回から引き上げを検討され。
優勝インタビューで上手く笑顔を作れなかった樹は、なにやらムンッとした表情でローカル新聞の一面に載り、その記事は【東風】の壁に堂々と貼られることになった。
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