九龍懐古

カロン

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有害無益

情報収集と右往左往

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有害無益6





「よ、大哥おにいさん山茶花カメリア売ってくれない?」



開口一番。



ヘラヘラした態度で話しかけるアズマに、DJは露骨に苛立ち顔をしかめた。

「誰だお前、俺の客じゃねぇだろ」
「九龍のしがない薬師ですぅ。前は香港の【黑龍】に居たけど」
「は?デケェくち叩くんじゃねーぞ眼鏡」

すごまれたアズマは眉毛を下げる。やだみんなして眼鏡眼鏡って…俺、他に特徴ないのかしら…あっ藍漣アイランがつけてきたアダ名はノッポだったな。眼鏡とどっちがいいかとなると微妙だな。アズマがそんな事を思い返しているのが表情にあらわれたのか、DJはますます機嫌を損ねトイレから出ていこうとした。トンッと壁に腕をついて行く手をはばアズマ

ぁーってよ!山茶花カメリアのお話ししたいの!言い値で買うから譲ってくれない?」
「やだよ、どけ。素性も知らねぇのに」
「【黑龍】の薬師だってば!【天堂會】のもやったけど。結構評判良かったのよ?大哥おにいさんにも悪くない出会いじゃない?」

嘘ではない。‘評判いい’のくだりをほんのりっただけ。アズマはパーカーのポケットから、カムラにわけた物とは違う煙草を取り出す。

「俺、山茶花カメリアの成分当てられるよ。ベースは【白蛇】と【一角】あたりで【宝々珠】にも寄ってるけど、もっと出来がいいから大陸の製薬会社が噛んでる。俺もドラッグ作ってるからわかるんだわ…で、これオリジナル配合のハーブなんだけどちょっと吸ってみない?草だからってあなどっちゃ駄目よ。山茶花カメリアが好きならお気に召すと思うなぁ」

DJは、流暢にプレゼンをするアズマと煙草を交互に見比べ───渋い表情のままではあるものの申し出を承諾。アズマの薬剤の分析は正しい、実力を表明するには十二分。そして、実力者が精製した新作とあらば気になるのは売人のさがだ。
2人は一旦いったんクラブを抜け、路地裏で煙草に火を点ける。1本吸い終わる頃にはDJの態度は急変、満足そうに‘上物じゃん’との賛辞。そこからドラッグについてポツポツと漏らしはじめた。

「俺は言われた通りにバラ撒いてるだけだよ。その前の事もその後の事も聞いてない」
「九龍での胴元は誰なわけ?面通ししてみたいんだけど。俺いいルート持ってるよ?」
「詳しくねぇけど、チェンウーって男。あいだに何人か挟まってっから俺も直接は…でもお前が九龍ここのルートあんならどっかで繋がんじゃねーの?知り合い居ねぇのかよ」
「んー…そうね…」

知り合い、かなりバタバタ死んだんだよな。アズマは靴底で吸い殻を踏みつけ言葉を濁す。

このプッシャーは【宵城】方面にちょっかいをかけてはいなさそう。シロだ。話から推察するに、やはり根回しをしているのは胴元、チェンウー。名前を聞き出すことに成功したのはデカい、あとはカムラにバトンタッチだな。
DJは‘数個ならタダでわけてやる’と山茶花カメリアを大盤振る舞い。アズマは礼を兼ねボックスごと特製煙草を贈呈した。

二言三言ふたことみことの無駄話をしてDJと別れ、店内に入りテーブルへと戻るアズマ。席ではカムラ燈瑩トウエイがスナックをかじっている。あのどうしたのと尋ねるアズマに、だいぶ酔った・・・みたいだからお店の人に迎えに来てもらったと燈瑩トウエイ。ピッと支配人の名刺を掲げアズマに投げる。キャッチしたアズマはそれを一瞥してカムラに弾き、カムラも文字を読んだだけでまた燈瑩トウエイに返す。その行動に燈瑩トウエイは卓へ伏して爆笑。いい歳をした男達が揃って夜總會キャバクラオーナーの名刺を突っ返してくるとは…カムラはまだしもアズマまで何時いつからそんな一途に…。肩を震わす燈瑩トウエイに、笑わないでんといて下さいと2人の声がハモって聞こえた。

「てかアズマ山茶花カメリア本物ほんもんかどうか見ただけでようわかるな」

感心するカムラへ、アズマは唇の端を吊りあげる。

「見ただけじゃ90パーってとこよ。今は100パーだけど」
「ん?見る以外に何かしたん?」
「喰った」

この感じ絶対そう、と言いつつケロッとしているアズマ。そういえば燈瑩トウエイがテーブルに持って来た際に確認したっきりで、そのまま錠剤は姿を消していた。片付けたかと思いきや試していたのか…胃袋に片付けたといえばそれはそうなのだが、この違法薬師は…。いぶかしげに見詰めるカムラを意に介さず、アズマはDJに譲ってもらった山茶花カメリアのパケットを‘食べる?’と燈瑩トウエイの前に置いた。それをスパァンとカムラがはたく。
ギャッと悲鳴をあげたアズマは普段の反射神経から掛け離れた速度で手を伸ばし、袋が彼方へ飛んでいく寸前ギリギリでおさえこんだ。スーパーセーブ。

「やめて!?高価たかいのよコレ!?」
燈瑩トウエイさんに変なもん薦めんといて!!」

オカンが怒鳴ると‘別に燈瑩おまえ平気だろ’とのたまうアズマ燈瑩トウエイは笑って‘ケミカルはどうかなぁ’と答える。なんだそれ。ボタニカルならいいのか。カムラは目の前の悪徳商人2人よりも、いちいち右往左往している自分のほうが間違っているような錯覚に陥るのだった。
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