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有害無益
談論と閑話休題
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有害無益2
「で、何人居なくなっちゃってるの?」
「【宵城】は2人だけ。周りだわ、バカスカいかれてんのは」
【宵城】VIPルーム、真紅いベロア生地のソファに雑に腰掛けた猫が、隣に座る燈瑩の質問へと答えつつ溜め息。
ここのところ猫は自店他店問わず従業員やスタッフに話を聞いて回っており、失踪したキャストの行方は以前不明だがなんとなくの構図は見えてきていた。
失踪自体はさほど珍しい事ではないものの、そこに至る経緯を辿ると例の薬、山茶花の存在がチラつく。しかしどうもルートがいまいち掴めない。
「こいつの知り合いがソレっぽいのやってるみたいでよ」
猫が促すと、一緒に卓に付いてグラスへ酒を注ぐ女性スタッフがおずおずと口を開いた。
「私の友達は別のお店の娘なんですけど、お薬買うお金稼ぐ為にもっと給料のいい店舗に移るみたいで…でも、どこだとか誰の紹介だとかは教えてくれなかったんです」
彼女の友人は違法ドラッグの常習者、ついでに売買にも関わっているようで、その薬剤が山茶花なのではとのことだ。ポーチの中から見えた錠剤に花柄の刻印があったらしい。
アンタも薬やるなら教えてあげる、信用してる相手にしか言ってないんだよ?と話を持ち掛けられた。あまり嬉しくはない信用。仲間を作って売り先を増やせば自分の買い値が安くなったりするのだろうか、とんだネズミ講である。
このスタッフは躊躇し断ったそうだが、そこから友人に微信も電話もブロックをされてしまい疎遠になったと。けれど誘いに乗る女性だって数多くいる、薬物だけでなく高待遇の働き先はいつでもキャストの注目の的だ。
「誰が薬やってよーが売ってよーがいいけど、【宵城】の女に手え出すなっつうこと」
「居なくなった娘は‘高級店’に行った訳?」
「知らねぇ。いきなり消えた」
ウイスキー片手に首を傾げる燈瑩、猫は指をマドラーがわりに手元のグラスの丸氷を混ぜ舌打ち。
「私、あの2人とはそこまで仲良くなくて…ごめんなさい…」
申し訳無さそうに小さくなる女性スタッフに燈瑩は謝る事ないと微笑み、好きな物頼んでとドリンクメニューを渡した。猫が1番高ぇのイけと口を挟む。
行方知れずの2人は勤務態度も別段おかしくはなかった。これが山茶花の厄介なところ、ジャンキーの兆候が見えないので周りが気付くのがどうしても遅れる。
使用していてもわからない、中毒になってからでは手の施しようがない、ならば元を絶ちたい。こちらに薬が流れてこないようにするには入手経路を突き止める必要がある。
初期の四方八方バラまく手法と異なり、今はプッシャーもルートを絞っている。効果が触れ回り顧客も増え値段も高騰した、ここからはコンスタントに金を落とす上客選びだ。
加えて、恐らくかなりマニアックな風俗業と人身売買とも関連しはじめた…割のいい仕事とはそういうこと。消えた2人もそちら──店かその他かは判断がつかない──に行ったのだろう。まぁ店だとしても、風営法の存在しない九龍ですら表立ってやれない風俗がどういうものかは想像したくないけれど。上客と判断されなかった者の末路。
このスタッフの友人とやらも‘給料がいい店’の打診を受けているあたり、そっちへと送られる可能性をたぶんにはらんでいた。
それはさておき。
「とりあえず、友達の店に行ってみようか。まだ店舗移動してないんだよね?」
燈瑩の言葉に、そのはずだと頷く女性。猫がウイスキーを呷りククッと喉を鳴らす。
「燈瑩は話が早くていいよな」
「その為に俺呼んだんでしょ」
グラスを揺らしつつ燈瑩も口角を上げた。
猫は近隣、ひいては花街一帯で顔が割れている。伊達に【宵城】の店主をやっていない。堂々と聞きまわるのには適しているが秘密裏に動くことは難しいのだ。その点、燈瑩が訪れるのは【宵城】周辺の店ばかり。全体的に名が知られているということもない。
方向性がまとまったので、燈瑩は蓮の食肆で食事を摂っている上に連絡を入れた。1人より連れが居た方がやりやすい。一緒に飲みに行ってくれないかとの燈瑩の誘いに、上は場所が場所なせいで緊張した様子を見せるも了承。上いつまでこうなんだよと猫が肩を竦めた。
時刻は22時を過ぎた頃。東はどうしているだろう…プッシャーの足取りは追えたのか?微信を飛ばそうかと猫が携帯を開くと、ピコンとタイミングよくメッセージが届いた。東のアイコン、目映い画面、そこに書かれていた文字は。
〈死亡〉
「で、何人居なくなっちゃってるの?」
「【宵城】は2人だけ。周りだわ、バカスカいかれてんのは」
【宵城】VIPルーム、真紅いベロア生地のソファに雑に腰掛けた猫が、隣に座る燈瑩の質問へと答えつつ溜め息。
ここのところ猫は自店他店問わず従業員やスタッフに話を聞いて回っており、失踪したキャストの行方は以前不明だがなんとなくの構図は見えてきていた。
失踪自体はさほど珍しい事ではないものの、そこに至る経緯を辿ると例の薬、山茶花の存在がチラつく。しかしどうもルートがいまいち掴めない。
「こいつの知り合いがソレっぽいのやってるみたいでよ」
猫が促すと、一緒に卓に付いてグラスへ酒を注ぐ女性スタッフがおずおずと口を開いた。
「私の友達は別のお店の娘なんですけど、お薬買うお金稼ぐ為にもっと給料のいい店舗に移るみたいで…でも、どこだとか誰の紹介だとかは教えてくれなかったんです」
彼女の友人は違法ドラッグの常習者、ついでに売買にも関わっているようで、その薬剤が山茶花なのではとのことだ。ポーチの中から見えた錠剤に花柄の刻印があったらしい。
アンタも薬やるなら教えてあげる、信用してる相手にしか言ってないんだよ?と話を持ち掛けられた。あまり嬉しくはない信用。仲間を作って売り先を増やせば自分の買い値が安くなったりするのだろうか、とんだネズミ講である。
このスタッフは躊躇し断ったそうだが、そこから友人に微信も電話もブロックをされてしまい疎遠になったと。けれど誘いに乗る女性だって数多くいる、薬物だけでなく高待遇の働き先はいつでもキャストの注目の的だ。
「誰が薬やってよーが売ってよーがいいけど、【宵城】の女に手え出すなっつうこと」
「居なくなった娘は‘高級店’に行った訳?」
「知らねぇ。いきなり消えた」
ウイスキー片手に首を傾げる燈瑩、猫は指をマドラーがわりに手元のグラスの丸氷を混ぜ舌打ち。
「私、あの2人とはそこまで仲良くなくて…ごめんなさい…」
申し訳無さそうに小さくなる女性スタッフに燈瑩は謝る事ないと微笑み、好きな物頼んでとドリンクメニューを渡した。猫が1番高ぇのイけと口を挟む。
行方知れずの2人は勤務態度も別段おかしくはなかった。これが山茶花の厄介なところ、ジャンキーの兆候が見えないので周りが気付くのがどうしても遅れる。
使用していてもわからない、中毒になってからでは手の施しようがない、ならば元を絶ちたい。こちらに薬が流れてこないようにするには入手経路を突き止める必要がある。
初期の四方八方バラまく手法と異なり、今はプッシャーもルートを絞っている。効果が触れ回り顧客も増え値段も高騰した、ここからはコンスタントに金を落とす上客選びだ。
加えて、恐らくかなりマニアックな風俗業と人身売買とも関連しはじめた…割のいい仕事とはそういうこと。消えた2人もそちら──店かその他かは判断がつかない──に行ったのだろう。まぁ店だとしても、風営法の存在しない九龍ですら表立ってやれない風俗がどういうものかは想像したくないけれど。上客と判断されなかった者の末路。
このスタッフの友人とやらも‘給料がいい店’の打診を受けているあたり、そっちへと送られる可能性をたぶんにはらんでいた。
それはさておき。
「とりあえず、友達の店に行ってみようか。まだ店舗移動してないんだよね?」
燈瑩の言葉に、そのはずだと頷く女性。猫がウイスキーを呷りククッと喉を鳴らす。
「燈瑩は話が早くていいよな」
「その為に俺呼んだんでしょ」
グラスを揺らしつつ燈瑩も口角を上げた。
猫は近隣、ひいては花街一帯で顔が割れている。伊達に【宵城】の店主をやっていない。堂々と聞きまわるのには適しているが秘密裏に動くことは難しいのだ。その点、燈瑩が訪れるのは【宵城】周辺の店ばかり。全体的に名が知られているということもない。
方向性がまとまったので、燈瑩は蓮の食肆で食事を摂っている上に連絡を入れた。1人より連れが居た方がやりやすい。一緒に飲みに行ってくれないかとの燈瑩の誘いに、上は場所が場所なせいで緊張した様子を見せるも了承。上いつまでこうなんだよと猫が肩を竦めた。
時刻は22時を過ぎた頃。東はどうしているだろう…プッシャーの足取りは追えたのか?微信を飛ばそうかと猫が携帯を開くと、ピコンとタイミングよくメッセージが届いた。東のアイコン、目映い画面、そこに書かれていた文字は。
〈死亡〉
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