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日常茶飯
ラムネと紫荊花・後
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日常茶飯8
チョロチョロと近況報告や情報交換をし、プッシャーと別れると花街の方へ足を向ける東。遊びに行こうというわけでは無い、【宵城】に漢方を届ける為だ。ついでに、今入った金で昨日のツケを払っちまって猫を驚かしてやろう。
店に着いて部屋に上がり、漢方をテーブルに置く。猫はまだ眠そうな表情をしていた。東が商品の代金を差し引いた飲み代の残りを聞いて残高を全て支払うと、眠そうな顔が怪訝そうな顔へと変わる。金を返して怪しまれるなんて…そんなに日頃、胡散臭いかしら…東は口を尖らせた。
「喜んでよ猫にゃん」
「喜ばせたいならまずツケんなよ」
「ごもっとも」
当然な言い分。納得する東に、テメェにしちゃ精算早ぇなと一応の賛辞──これは猫にとっては賛辞である──を述べる猫の肩越しに見える、紹興酒のミニボトル。黄色い花が1輪ささっていた。
「あれか。樹が言ってたの」
「あ?うん、そうそう」
花瓶を指で示しながら問う東へ、札束を数える猫が生返事。
今朝──というか午後──東が目を覚ますと、樹がクリュッグの瓶をシャカシャカ洗っていた。箱の方にはお菓子を詰めて満足げにしており、怒られる事はなさそうと東は胸を撫で下ろすも、活ける為の花が無いと首を捻る樹。本当に花瓶探してたんだな、でも何でだろうと不思議に思う東だったが。
「なんなのあの花?可愛いじゃん」
「大地が摘んできたんだよ」
「猫に似てんね」
「全員それ言ってんな」
東の感想に猫が舌打ち。けれどその反応とは裏腹に、なんだかんだで気に入っているように見える。
樹は何を飾るつもりだろう…え、まさか、同じ花摘んできたりする…?無理無理!!常に猫に見張られてるみたいになっちゃう!!ヒュンッと背筋に冷たいものが走り、慌てて煙草を揉み消し立ち上がる東。どこか花屋で花を買って帰ろう。急いだ方がよさそうだ。
いきなり帰り支度をはじめる東を猫は不審そうに見詰めたが、そんな視線を気にしている場合ではない。樹に微信を飛ばしながら【宵城】を出る。
中流階級側の商店街へ行き、花屋を物色。無難なやつはなにかな。玫瑰、向日葵、んー繡球花も悪くないけど。
ところで樹から全然返信が来ない。既読もつかない。やだぁ…頼むから猫を摘んでくるのだけはやめてぇ…?
ソワソワしつつ【東風】へ帰り着くも、樹の姿は見当たらず。何でも屋のバイトで荷物の配達をするとは言っていたが、もう帰宅していてもいいはず。寄り道か?どこに?花を摘みに?参ったな…。手持無沙汰な東が茶を淹れていると、入り口の扉が開く音。
「あれ?東早かったね」
「おかえり!!花買ったからソッコー帰ってきました!!」
「え、俺も買った」
東が即座に台所から出て樹に花を見せると、樹も東へ花を見せた。
お互い紫荊花。
「あれ、カブっ…た!!良かったぁ!!」
喜ぶ東に、カブって良かったの?と樹が首を傾げる。‘良かった’はカブったことに対しての言葉ではなかったのだが、それは置いておいて。
「いいじゃんいいじゃん、飾ろう」
「どこ飾る?」
「どこでもいいよ、紫荊花なら」
紫荊花じゃなかったら位置が決まっていたのかと疑問を口にする樹。例の黄色い花であればなるべく目につかない所に置こうとしていた東だったが、そうとは伝えず笑って誤魔化した。
かくて2輪の紫荊花は寝室窓際──【東風】の中ではベストだとおぼしきポジション──に堂々たる風格で陣取る運びに。
後日、樹も花瓶を手に入れたと耳にした大地が良かれと思って花を摘んでくる事を、この時はまだ誰も知らない。
チョロチョロと近況報告や情報交換をし、プッシャーと別れると花街の方へ足を向ける東。遊びに行こうというわけでは無い、【宵城】に漢方を届ける為だ。ついでに、今入った金で昨日のツケを払っちまって猫を驚かしてやろう。
店に着いて部屋に上がり、漢方をテーブルに置く。猫はまだ眠そうな表情をしていた。東が商品の代金を差し引いた飲み代の残りを聞いて残高を全て支払うと、眠そうな顔が怪訝そうな顔へと変わる。金を返して怪しまれるなんて…そんなに日頃、胡散臭いかしら…東は口を尖らせた。
「喜んでよ猫にゃん」
「喜ばせたいならまずツケんなよ」
「ごもっとも」
当然な言い分。納得する東に、テメェにしちゃ精算早ぇなと一応の賛辞──これは猫にとっては賛辞である──を述べる猫の肩越しに見える、紹興酒のミニボトル。黄色い花が1輪ささっていた。
「あれか。樹が言ってたの」
「あ?うん、そうそう」
花瓶を指で示しながら問う東へ、札束を数える猫が生返事。
今朝──というか午後──東が目を覚ますと、樹がクリュッグの瓶をシャカシャカ洗っていた。箱の方にはお菓子を詰めて満足げにしており、怒られる事はなさそうと東は胸を撫で下ろすも、活ける為の花が無いと首を捻る樹。本当に花瓶探してたんだな、でも何でだろうと不思議に思う東だったが。
「なんなのあの花?可愛いじゃん」
「大地が摘んできたんだよ」
「猫に似てんね」
「全員それ言ってんな」
東の感想に猫が舌打ち。けれどその反応とは裏腹に、なんだかんだで気に入っているように見える。
樹は何を飾るつもりだろう…え、まさか、同じ花摘んできたりする…?無理無理!!常に猫に見張られてるみたいになっちゃう!!ヒュンッと背筋に冷たいものが走り、慌てて煙草を揉み消し立ち上がる東。どこか花屋で花を買って帰ろう。急いだ方がよさそうだ。
いきなり帰り支度をはじめる東を猫は不審そうに見詰めたが、そんな視線を気にしている場合ではない。樹に微信を飛ばしながら【宵城】を出る。
中流階級側の商店街へ行き、花屋を物色。無難なやつはなにかな。玫瑰、向日葵、んー繡球花も悪くないけど。
ところで樹から全然返信が来ない。既読もつかない。やだぁ…頼むから猫を摘んでくるのだけはやめてぇ…?
ソワソワしつつ【東風】へ帰り着くも、樹の姿は見当たらず。何でも屋のバイトで荷物の配達をするとは言っていたが、もう帰宅していてもいいはず。寄り道か?どこに?花を摘みに?参ったな…。手持無沙汰な東が茶を淹れていると、入り口の扉が開く音。
「あれ?東早かったね」
「おかえり!!花買ったからソッコー帰ってきました!!」
「え、俺も買った」
東が即座に台所から出て樹に花を見せると、樹も東へ花を見せた。
お互い紫荊花。
「あれ、カブっ…た!!良かったぁ!!」
喜ぶ東に、カブって良かったの?と樹が首を傾げる。‘良かった’はカブったことに対しての言葉ではなかったのだが、それは置いておいて。
「いいじゃんいいじゃん、飾ろう」
「どこ飾る?」
「どこでもいいよ、紫荊花なら」
紫荊花じゃなかったら位置が決まっていたのかと疑問を口にする樹。例の黄色い花であればなるべく目につかない所に置こうとしていた東だったが、そうとは伝えず笑って誤魔化した。
かくて2輪の紫荊花は寝室窓際──【東風】の中ではベストだとおぼしきポジション──に堂々たる風格で陣取る運びに。
後日、樹も花瓶を手に入れたと耳にした大地が良かれと思って花を摘んでくる事を、この時はまだ誰も知らない。
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