九龍懐古

カロン

文字の大きさ
上 下
155 / 409
千錯万綜

ベッドとブレックファースト

しおりを挟む
千錯万綜3





「B&Bかなんかか?ここは」

こないだまで飯屋だった気がするけど、とアズマを踏みつけながらマオが吐き捨てた。実際は薬屋なのだが。

「違うよ?ウチ金払ってないもん」
「そういう意味じゃありません…」

燈瑩トウエイに煙草をわけながらあっけらかんと答える藍漣アイランアズママオの足の下からうっすら反論するも無視をされ、イツキは煙草足りなかったらもう一箱あるよと戸棚の隠し扉を引く。アズマがギャッと小さく鳴いた。


今日は【東風みせ】は閉めておくと朝から言い張っていたアズマだったが、聞く耳を持たない藍漣アイランが開けねぇと湿気こもるぞ九龍ここジメジメしてんだからとシャッターを上げると、正に丁度アズマが閉めたがっていた理由──マオ──が借金の取り立てにやってきたところだった。

それから寺子屋終わりの大地ダイチと合流したカムラレンの店で食べ物を買ってきた燈瑩トウエイも加わり、結局本日も【東風】はいつもの面子めんつ

藍漣アイランを見た大地ダイチがカッコいいねと褒めると、そういうお前は随分可愛いなと藍漣アイランは笑った。実はもっと可愛くなれるんだよと大地ダイチは悪戯な顔をし【宵城】で撮った写真を披露、そこからどんどん盛り上がる会話にカムラは複雑な心境だ。

藍漣おまえは九龍に何しにきたわけ?」
「え?なにも?ここ面白いって聞いたから」
「えらい適当やな」

マオが首を傾げて質問すると藍漣アイランも同じ動作。カムラが横で呆れた声を出す。

「いつもこうだよ。計画立てたことない」
「俺も!」
大地おまえは立てやんと駄目やろ」

藍漣アイランの言葉に大地ダイチが素早く同意。それを見咎みとがめ、そういえば宿題やったんか、勉強も計画性が大事やでなどと父親感丸出しの発言をするカムラ

「過保護だなぁカムラは!お前彼女とかにもそうなの?」
「え!?いやカノっ…カノジョ、は…」

カカッと笑って疑問を投げた藍漣アイランカムラはオタオタと慌てる。大地ダイチ藍漣アイランを引き寄せコソコソと耳打ちをしだし、饅頭はやめろやめろと手をブンブン振った。

「つうか饅頭、光榮楼の店タタいた奴ら何で死んだんだよ」
「あ!それ!カムラリンちゃん今どこグェッ」

マオの言葉にカムラは眉間にシワを寄せ、った犯人はわからん、店の権利も宙ぶらりんのままやしとへの字口をつくる。アズマ五月蝿うるさいのでもう一度踏まれた。

店を襲撃した人間は台灣からきた少人数のグループで、その辺りに縄張りを広げようとしたようだが───数日後の朝には全員揃って死体が裏通りに転がっていた。
親族や同胞のマフィアからの復讐とも言われているが真相は解明されずに、次の経営者はまだ名乗り出ない。浮いた経営権というオイシイ話にも関わらず誰も手を出さないのは、不穏な雰囲気が拭えないからだろう。

九龍ではそんな事件など取るに足らないが、街中至る所で抗争が爆発的に起きている現状人々が慎重になるのは至極当然。この件も単純にチンピラ同士のいさかいではあるはずだけれど、警戒するに越したことはない。

舌打ちをして思案するマオ。面倒なのは、オーナーではなく風俗店自体が襲われたという点。【宵城】は敵が乗り込んでくるには少々規模が大き過ぎるが…可能性が無い、ということも無い。既に光榮楼のみならず、同様のニュースは何件も耳に入っていた。
狙うなら個人的に狙ってほしい、その方が色々と楽だし、店の修繕費だって高いのだ。
こっちから餌をまくか?【宵城】城主の事は誰だって知っている。出来るだけ大きな魚が釣れると有り難いが───…

「てかこの飯旨いな、マオ食肆レストランなの?」

レンの料理を称賛する藍漣アイランの台詞が聞こえて、マオは思考を中断させた。

「あ?そーだよ、気に入ったなら食いに行ってやると吉娃娃チワワ喜ぶぜ」
吉娃娃チワワ?」
「へんがはひははひひへふはら」
イツキ、なんて?」

吉娃娃チワワが何のことだか知らない藍漣アイランが訊き返すも、イツキが口に食べ物を詰めたまま答えたせいで余計にわからなくなる。

レン君っていう子が廚師コックやってるんだけど、イメージ的に吉娃娃チワワって感じなんだよね」

微笑んで代弁した燈瑩トウエイの顔を藍漣アイランはジッと見た。そこそこの至近距離…不思議に思った燈瑩トウエイが眉を上げる。

「どうしたの」
「いや…お前が1番ツラが良いな」
「そう?」

藍漣アイランの言葉にどうもと軽く礼を述べる燈瑩トウエイへ、カムラがスンとした表情で視線を向けた。

藍漣アイランもやっぱ燈瑩トウエイさんみたいな感じが好きなん?」
「ウチ?やだよ、こいつはモテるだろ。ウチは3枚目くらいが丁度いーかな」

言って、藍漣アイランは床に転がるアズマを見やる。

ん?3枚目って俺のこと…?アズマは褒められたのかけなされたのかを判断しかねたが、とりあえず、ありがとうと答えた。

「お前ら、暇ならレンのとこで夕飯食えよ。最近街が物騒で出歩く住人減ったつってな、アイツ売上表とにらめっこしてたぜ」

マオアズマをフミフミしつつ提案する。

確かにここのところ夜の魔窟は以前に比べて静かだ。みな自衛し、暗くなってからの外出は控えている様子。飲食店の売上は落ち込んでいるのだろう…イツキは二つ返事で了解、他のメニューに興味を持った藍漣アイランも同意。アズマは弱々しく指でオーケーを作った。

燈瑩おまえはついでに【宵城みせ】にも寄れよ。俺は飲み歩く・・・・から」

マオがパイプの先で燈瑩トウエイを指す。短いあと燈瑩トウエイがわずかに低い声で答えた。

「俺も飲み歩いて・・・・・もいいよ?」
「いいから黙って高額伝票こさえてろ」
「カツアゲだね」

追い払うような仕草をみせるマオに笑って頷く燈瑩トウエイ

やり取りを眺めていた藍漣アイランが、口元を覆う掌の下でこっそりと、ゆるく口角を上げた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ルナール古書店の秘密

志波 連
キャラ文芸
両親を事故で亡くした松本聡志は、海のきれいな田舎町に住む祖母の家へとやってきた。  その事故によって顔に酷い傷痕が残ってしまった聡志に友人はいない。  それでもこの町にいるしかないと知っている聡志は、可愛がってくれる祖母を悲しませないために、毎日を懸命に生きていこうと努力していた。  そして、この町に来て五年目の夏、聡志は海の家で人生初のバイトに挑戦した。  先輩たちに無視されつつも、休むことなく頑張る聡志は、海岸への階段にある「ルナール古書店」の店主や、バイト先である「海の家」の店長らとかかわっていくうちに、自分が何ものだったのかを知ることになるのだった。  表紙は写真ACより引用しています

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜

逢汲彼方
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】  姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。  だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。  夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。

CODE:HEXA

青出 風太
キャラ文芸
舞台は近未来の日本。 AI技術の発展によってAIを搭載したロボットの社会進出が進む中、発展の陰に隠された事故は多くの孤児を生んでいた。 孤児である主人公の吹雪六花はAIの暴走を阻止する組織の一員として暗躍する。 ※「小説家になろう」「カクヨム」の方にも投稿しています。 ※毎週金曜日の投稿を予定しています。変更の可能性があります。

処理中です...