九龍懐古

カロン

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和気藹々

イメージチェンジとリスタート

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和気藹々10





「うわ何これ、真っ赤」
「新作の士多啤梨イチゴデザートでしゅっ」

小鉢に入って提供されたドロドロのなにがしかを眺めて驚く大地ダイチに、レンがドヤ顔を決める。
でも味は美味しいと感想を述べるイツキの口元はゾンビさながらになっていた。テーブルの上に積みあがっている空の皿、一気に大量にカッ込み過ぎである。


一晩ひとばん明け、レン食肆レストランへ遅めの午餐ランチを食べに来たイツキと寺子屋の帰りに顔を出した大地ダイチ。昨夜の出来事についてはだんだんと話が広がっていくだろう、カムラにもチマチマネイに関する噂を流してもらい、あとは全てが終息するのを待つのみ。
 ‘最後の作戦’ も無事終わった様子、残るは、その出来を確認するだけなのだが…はたしてどう仕上がって・・・・・いるか。

その時。

「お疲れ様です…」

おそるおそる、といった声音と共に入り口の扉が開き、2人はそちらへ視線を向けた。

「ど、どう…かな…?」

モジモジしながら立っていたのはネイ。しかしその容貌は様変わりしていた。
ショートに切った髪。前は目元にかかるくらいを残して顔が少し隠れるようにしてあり、色も赤茶けた明るいカラーになっていた。
服装は限りなくボーイッシュ。コロンとしたスニーカーにオーバーサイズのパンツ、大きめのフードがついたパーカーがお洒落だ。

「いいじゃん!すっごい似合う!」

大地ダイチの台詞にネイは頬を染めた。

最後の作戦とは、簡単に言えばイメージチェンジ。ネイの見た目は裏社会でも知れ渡っているので、大地ダイチソラに扮するがごとくネイも別人になってしまおうというもの。
そして結果は上々だ、これで元のネイとは全く違う少年・・に見える。

「ったりめーだろ俺がやってんだから。腕がちげぇのよ腕が」

パイプをふかしつつマオも店内に入ってきた。服は僕も選んだんでしゅよイイ感じでしょうとレンが割り込んで声を張ると、マオはそーだなオメェ意外にセンスあるもんなと投げやりに褒める。思いがけない称賛に吉娃娃チワワは喜び尻尾をブンブン振った。
ネイの外見を変化させたのはマオだ、普段から常に【宵城】で働くスタッフ達の身なりを整えるのに手を貸している為プロデュースを任せて間違いはない。ちなみにソラのメイクを担当しているのもマオである。

「部屋も空けといたから。お前ら荷物運ぶの手伝ってやれよ」

マオの言葉に大地ダイチがはぁいと返事をし、イツキも唇の血──もとい士多啤梨イチゴソース──をぬぐいオーケーを出す。

ネイレンの店の従業員の寮にお邪魔することにしたのだ。職場が近くてスタッフの仲も良い、マオの計らいで家賃も安くしてもらった。この上ない好条件。

マオはこれカギなとテーブルの上にキーを置くと厨房へ消えた。間髪入れずガシャァンと調理器具が引っくり返る音と隠れていたアズマの悲鳴が聞こえてくる。何やら赤い液体が飛び散るのが見えたが士多啤梨イチゴソースだろう、まぁ、多分。
面食らうネイにいつもだから平気、アズマどうせ飲み代のツケ返してないんでしょとイツキは言い、立ち上がって大地ダイチの肩を叩く。その合図に大地ダイチも腰を上げネイの腕をとった。

「行こ、ネイ!日が暮れる前に終わらせよう」

ネイは頷いたものの…店を出た所ではたと足を止め大地ダイチの袖を引いた。まごまごと呟く。

「あの、えっと…引っ越しちゃっても…またそっちに遊びに行ってもいいかな…?」

一瞬の間があって、それから大地ダイチが弾けるように笑った。

「当たり前じゃん!ていうか、遊びにじゃなくてさ。ウチもネイの家だから。いつでも好きなときに帰ってきていいんだよ」

屈託のない笑顔にネイの表情もほころぶ。和やかな空気の中に店の奥から助けを求めるアズマの声が風情ふぜいなく轟いたので、イツキは入り口のドアをパンッと閉めた。



仲睦まじく話しながら九龍を歩く少年・・達。燦々としたの光りが、その道の先に明るく降り注いでいた。
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