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旧雨今雨・下
ビデオ会議と晴天前夜
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旧雨今雨11
「来たぜ、連絡。日曜に閩だってよ」
画面に向かって猫が笑う。【宵城】自室、情報交換、【東風】とのビデオ通話。
スクリーンの先で頷く上、その隣で樹と蓮も顔を出している。勝手に使われる東のデスクトップ、もはや公共物。
皇家の行き先は閩───福建省。妥当な距離感、厦门なんかは経済特区で金がある上に台灣も近い。表でも裏でも、ビジネスの狙いとしては良いところ。
あまり遠くないのは有り難い。ルートが特定出来れば網も張りやすい、安心して警察に漁を任せられる。
「こっちも調べついたで。襲ってきよった奴らのいつもの集合場所と…あとこいつら、なんやみんなナイフ使うみたいやな。ツテとか金とか無いんとちゃうか」
上が冷笑。刃物にこだわりでもあるのか銃が手に入らないのか知らない──上は後者だと予想している──が、どちらにしろ儲け話に吸い寄せられただけの思慮に欠けるグループ。無計画に蓮を襲ってきたあたりからもそれが窺えた。
皇家が取り引きを行うのは次の日曜。店舗の半グレ達は総出で、といっても大した人数ではないけれど、とにかく女性を船で新天地へ運ぶ。それに合わせてこちらも計画を実行に移す予定だが、皇家ともう1つのチンピラ集団、2つとも潰すにはどう動くのが最良か。
「同時にやったほうがいいだろ、ひとつずつだともう片っぽが隠れちまうんじゃねーの」
画角の端、カウンターで頬杖をつく東が煙草の煙と共に言葉を吐く。噂は回るのが早い、澳門から似たような時期に来た連中が叩かれたとあらば他のグループも警戒して行方をくらますだろう。やるなら同時しかない。
「誰がどっちに行くかだね」
樹の背後、フレーム外から燈瑩の声がし、続けて質問。
「東、船動かせる?」
「試したことはねぇな」
東がうーんと難しい顔をする。
皇家の人身売買に同行するのに【宵城】も船を出す。そこに商品を乗せ、皇家に連れ添い買い取り先へ運ぶのだ。
船を準備するのは燈瑩。なら操縦もしたらいい話だが、思惑通りに行けば皇家側では戦闘は起こらない…つまり安全圏のはず。なので、出来れば非戦闘員はそちらに割きたいのである。
樹が背を反らせて後ろに声を飛ばした。
「いいよ、燈瑩ケガしてるし。猫のほう手伝ってあげて」
別にもう全然平気だと燈瑩は答えたが、樹は東を指差して言う。
「チンピラの方は俺達が行くよ。10人とかでしょ?武器もナイフなら、俺と東で何とかなるから」
「ならないよ俺は!?」
情けない反応の東に、2人くらいは倒してよと樹。上が携帯の地図をひらいて画面に映しトンッと叩いた。
「アジトにしとるんはこことここやねん。ただ、日曜にどっちに集まるんかがわからん」
毎回ランダムに場所を変えているらしい。樹がマップを一瞥しオーケーの仕草。
「分かれて1箇所ずつ見張っとく。俺の方が当たりならそれでいいし、東の方ならすぐ向かうから」
「お願いね…」
弱々しく呟く東。樹はわずかに悔しそうな表情をしている上のほうを向いた。
「上の情報のおかげだよ。だから次は俺達の番。大地と一緒に待ってて、いい報告持って帰ってくるから」
皆それぞれ適した役割がある。わかってはいても、やはり自分が現場で敵を倒せるような力を持たないことをもどかしく思う上の気持ちを察しての言葉だった。
だがお世辞でもなんでもなく、これは樹の本心。上が樹のように戦えないのと同じで、樹は上のように情報収集は出来ない。補って手助けして。それが仲間なのだ。
「上は死んだら大地と陽が困んだろ。ステイだステイ」
「俺が死んでも誰も困らないみたいな言い方はやめてぇ?」
手のひらを上下に動かし、上に座っとけと促す猫を東が悲しげに見詰める。
スッと拳を差し出した樹に上は眉をさげて笑い、宜しく頼むわと言ってコツンと自分の拳を合わせた。
「よし、んじゃチンピラは樹と東。皇家は俺と燈瑩と蓮でカタつけんぜ。いいな?」
猫がニッと口角を上げ確認すると、蓮は唇を結んで首を縦に振った。
────そして約束の日時、九龍灣。
「来たぜ、連絡。日曜に閩だってよ」
画面に向かって猫が笑う。【宵城】自室、情報交換、【東風】とのビデオ通話。
スクリーンの先で頷く上、その隣で樹と蓮も顔を出している。勝手に使われる東のデスクトップ、もはや公共物。
皇家の行き先は閩───福建省。妥当な距離感、厦门なんかは経済特区で金がある上に台灣も近い。表でも裏でも、ビジネスの狙いとしては良いところ。
あまり遠くないのは有り難い。ルートが特定出来れば網も張りやすい、安心して警察に漁を任せられる。
「こっちも調べついたで。襲ってきよった奴らのいつもの集合場所と…あとこいつら、なんやみんなナイフ使うみたいやな。ツテとか金とか無いんとちゃうか」
上が冷笑。刃物にこだわりでもあるのか銃が手に入らないのか知らない──上は後者だと予想している──が、どちらにしろ儲け話に吸い寄せられただけの思慮に欠けるグループ。無計画に蓮を襲ってきたあたりからもそれが窺えた。
皇家が取り引きを行うのは次の日曜。店舗の半グレ達は総出で、といっても大した人数ではないけれど、とにかく女性を船で新天地へ運ぶ。それに合わせてこちらも計画を実行に移す予定だが、皇家ともう1つのチンピラ集団、2つとも潰すにはどう動くのが最良か。
「同時にやったほうがいいだろ、ひとつずつだともう片っぽが隠れちまうんじゃねーの」
画角の端、カウンターで頬杖をつく東が煙草の煙と共に言葉を吐く。噂は回るのが早い、澳門から似たような時期に来た連中が叩かれたとあらば他のグループも警戒して行方をくらますだろう。やるなら同時しかない。
「誰がどっちに行くかだね」
樹の背後、フレーム外から燈瑩の声がし、続けて質問。
「東、船動かせる?」
「試したことはねぇな」
東がうーんと難しい顔をする。
皇家の人身売買に同行するのに【宵城】も船を出す。そこに商品を乗せ、皇家に連れ添い買い取り先へ運ぶのだ。
船を準備するのは燈瑩。なら操縦もしたらいい話だが、思惑通りに行けば皇家側では戦闘は起こらない…つまり安全圏のはず。なので、出来れば非戦闘員はそちらに割きたいのである。
樹が背を反らせて後ろに声を飛ばした。
「いいよ、燈瑩ケガしてるし。猫のほう手伝ってあげて」
別にもう全然平気だと燈瑩は答えたが、樹は東を指差して言う。
「チンピラの方は俺達が行くよ。10人とかでしょ?武器もナイフなら、俺と東で何とかなるから」
「ならないよ俺は!?」
情けない反応の東に、2人くらいは倒してよと樹。上が携帯の地図をひらいて画面に映しトンッと叩いた。
「アジトにしとるんはこことここやねん。ただ、日曜にどっちに集まるんかがわからん」
毎回ランダムに場所を変えているらしい。樹がマップを一瞥しオーケーの仕草。
「分かれて1箇所ずつ見張っとく。俺の方が当たりならそれでいいし、東の方ならすぐ向かうから」
「お願いね…」
弱々しく呟く東。樹はわずかに悔しそうな表情をしている上のほうを向いた。
「上の情報のおかげだよ。だから次は俺達の番。大地と一緒に待ってて、いい報告持って帰ってくるから」
皆それぞれ適した役割がある。わかってはいても、やはり自分が現場で敵を倒せるような力を持たないことをもどかしく思う上の気持ちを察しての言葉だった。
だがお世辞でもなんでもなく、これは樹の本心。上が樹のように戦えないのと同じで、樹は上のように情報収集は出来ない。補って手助けして。それが仲間なのだ。
「上は死んだら大地と陽が困んだろ。ステイだステイ」
「俺が死んでも誰も困らないみたいな言い方はやめてぇ?」
手のひらを上下に動かし、上に座っとけと促す猫を東が悲しげに見詰める。
スッと拳を差し出した樹に上は眉をさげて笑い、宜しく頼むわと言ってコツンと自分の拳を合わせた。
「よし、んじゃチンピラは樹と東。皇家は俺と燈瑩と蓮でカタつけんぜ。いいな?」
猫がニッと口角を上げ確認すると、蓮は唇を結んで首を縦に振った。
────そして約束の日時、九龍灣。
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