九龍懐古

カロン

文字の大きさ
上 下
121 / 404
旧雨今雨・下

ビデオ会議と晴天前夜

しおりを挟む
旧雨今雨11






「来たぜ、連絡。日曜にビンだってよ」

画面に向かってマオが笑う。【宵城】自室、情報交換、【東風】とのビデオ通話。
スクリーンの先で頷くカムラ、その隣でイツキレンも顔を出している。勝手に使われるアズマのデスクトップ、もはや公共物。

皇家ロイヤルの行き先はビン───福建省。妥当な距離感、厦门アモイなんかは経済特区で金がある上に台灣も近い。表でも裏でも、ビジネスの狙いとしては良いところ。
あまり遠くないのは有り難い。ルートが特定出来れば網も張りやすい、安心して警察にを任せられる。

「こっちも調べついたで。襲ってきよった奴らのいつもの集合場所と…あとこいつら、なんやみんなナイフ使うみたいやな。ツテとか金とか無いんとちゃうか」

カムラが冷笑。刃物にこだわりでもあるのかチャカが手に入らないのか知らない──カムラは後者だと予想している──が、どちらにしろ儲け話に吸い寄せられただけの思慮に欠けるグループ。無計画にレンを襲ってきたあたりからもそれが窺えた。

皇家ロイヤルが取り引きを行うのは次の日曜。店舗の半グレ達は総出で、といっても大した人数ではないけれど、とにかく女性を船で新天地へ運ぶ。それに合わせてこちらも計画を実行に移す予定だが、皇家ロイヤルともう1つのチンピラ集団、2つとも潰すにはどう動くのが最良か。

「同時にやったほうがいいだろ、ひとつずつだともうかたっぽが隠れちまうんじゃねーの」

画角の端、カウンターで頬杖をつくアズマが煙草の煙と共に言葉を吐く。噂は回るのが早い、澳門マカオから似たような時期に来た連中が叩かれたとあらば他のグループも警戒して行方をくらますだろう。やるなら同時しかない。

「誰がどっちに行くかだね」

イツキの背後、フレーム外から燈瑩トウエイの声がし、続けて質問。

アズマ、船動かせる?」
「試したことはねぇな」

アズマがうーんと難しい顔をする。

皇家ロイヤル人身売買とりひきに同行するのに【宵城】も船を出す。そこに商品を乗せ、皇家ロイヤルに連れ添い買い取り先へ運ぶのだ。
船を準備するのは燈瑩トウエイ。なら操縦もしたらいい話だが、思惑通りに行けば皇家ロイヤル側では戦闘は起こらない…つまり安全圏のはず。なので、出来れば非戦闘員はそちらに割きたいのである。

イツキが背を反らせて後ろに声を飛ばした。

「いいよ、燈瑩トウエイケガしてるし。マオのほう手伝ってあげて」

別にもう全然平気だと燈瑩トウエイは答えたが、イツキアズマを指差して言う。

「チンピラの方は俺達が行くよ。10人とかでしょ?武器もナイフなら、俺とアズマで何とかなるから」
「ならないよ俺は!?」

情けない反応のアズマに、2人くらいは倒してよとイツキカムラが携帯の地図をひらいて画面に映しトンッと叩いた。

「アジトにしとるんはこことここやねん。ただ、日曜このひにどっちに集まるんかがわからん」

毎回ランダムに場所を変えているらしい。イツキがマップを一瞥しオーケーの仕草。

「分かれて1箇所ずつ見張っとく。俺の方が当たりならそれでいいし、アズマの方ならすぐ向かうから」
「お願いね…」

弱々しく呟くアズマイツキはわずかに悔しそうな表情をしているカムラのほうを向いた。

カムラの情報のおかげだよ。だから次は俺達の番。大地ダイチと一緒に待ってて、いい報告持って帰ってくるから」

皆それぞれ適した役割がある。わかってはいても、やはり自分が現場で敵を倒せるような力を持たないことをもどかしく思うカムラの気持ちを察しての言葉だった。

だがお世辞でもなんでもなく、これはイツキの本心。カムライツキのように戦えないのと同じで、イツキカムラのように情報収集は出来ない。おぎなって手助けして。それが仲間なのだ。

テメェは死んだら大地ダイチヨウが困んだろ。ステイだステイ」
「俺が死んでも誰も困らないみたいな言い方はやめてぇ?」

手のひらを上下に動かし、カムラに座っとけとうながマオアズマが悲しげに見詰める。
スッと拳を差し出したイツキカムラは眉をさげて笑い、宜しく頼むわと言ってコツンと自分の拳を合わせた。

「よし、んじゃチンピラはイツキアズマ皇家ロイヤルは俺と燈瑩トウエイレンでカタつけんぜ。いいな?」

マオがニッと口角を上げ確認すると、レンは唇を結んで首を縦に振った。








────そして約束の日時、九龍灣。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない

めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」 村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。 戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。 穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。 夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。

処理中です...