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旧雨今雨・下
VIPとロリータ
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旧雨今雨9
【宵城】VIPルーム。談笑する声。
猫は、やって来た皇家の男を特別室に招き入れ最上級の酒を用意。なんてことのない会話と共に数杯グラスを空け、場が温まってきたところで本題を問う。
「で、何か用事があって来たんだろ」
男は薄い笑みを浮かべて頷く。
「皇家はそろそろ閉店だ。それで…繋ぎの仕事の話なんだが」
──────きた。
猫はわざとらしいくらいの──いや普段の猫を知らない付き合いの浅い人間にとってはわざとらしいということもないが──笑顔をつくる。
「有り難いね。俺は人身売買には疎くてな」
「九龍一の店舗の店主なのに?」
「一だからだよ。出ねぇんだわ城塞から」
なるほど、と男は笑う。そして手順を話し始めた。
近日中には店を畳み、また新たに富裕層地域側で店を開く。スタッフは九龍で雇った何名かを入れ替え。名前を聞くと、猫も数回酌をしてもらった美人達だ。
その時に【宵城】からも取引先へ女性を紹介してみないかというお誘い。猫はふぅんと納得したような様子をみせる。
「中継ぎしてくれるってわけか」
「あぁ。しかしマージンで2割はもらうぞ」
「おい、見くびんなよ」
険しい顔での返答に一触即発の雰囲気が漂ったが、猫は即座に指をピッと3本立てて微笑。
「3割やる」
その言葉に男は破顔。太っ腹だな、と猫のグラスに酒をついで訊いた。
「何人くらい用意出来る?」
「まぁ…じゃあこっちも同じ人数で」
「スペックは」
「上の下」
「上の上は?」
「初手からAA出してどうすんだよ。セカンドでもウチの女は充分可愛いぜ?」
ニヤける猫を男がねめつける。猫はグラスをかたむけコニャックを啜りつつ言った。
「けどそうだな、もし見てぇっつーなら…」
ウェイターを呼び小声で何か呟く。暫くして、扉が開き1人の少女が姿を現した。
フリルのついたドレスで着飾った身体は華奢で色白。まだあどけない顔に大きな瞳、けぶるようなまつ毛が頬に影を落としている。微笑んで軽くお辞儀をすると長い黒髪が揺れ、紅く染まる唇が動き‘はじめまして’と柔らかい声が響いた。
男の目が輝く。猫は少女に座れと合図。
「上の上ってんなら、これだ。一見さんはお断りだけどな」
少女は男の隣に着席し、酒を作りはじめる。胸や腰のラインがハッキリするセクシーな服装ではないが、純白のふんわりとした衣装は可憐さを引き立て非常に愛らしい。どうぞ、と無邪気そうにニッコリしてグラスを差し出す。純真無垢。
頭頂部から爪先まで全身を舐め回すような男の視線を掻い潜り───少女はチラッ、と猫を見た。猫も目を合わせすぐに口を開く。
「下がれ、空」
少女は席を立ち、また軽くお辞儀をして去っていく。男はレベルの高さに納得したようだ。気に入ったんならアンタ専用にしてもいいぜと猫が耳打ちすると、男はますます顔を綻せる。
そして取引の日時や詳細等は追って連絡すると約束し、喜色満面で退店して行った。
出口まで男に付き添った猫がVIPルームへ戻ると、先刻の少女がソファでオレンジジュースを飲んでいる。その横に腰をかけ煙草を口にくわえる猫に、少女はスッとライターを差し出した。客の煙草に火を点けるのは女性従業員の仕事の基本。
「物覚えが良過ぎるだろ」
愉快そうに笑い、会計が高くつきそうだと呟きながら火種を頂戴する猫。少女はその顔を下から覗き込んで質問。
「どうだった?」
「完璧。上がひっくり返っちまうな」
ウイッグをかぶった頭をワシャワシャ撫でられ、空────大地がはにかむ。
皇家の男を唸らせた上玉は大地だった。メイクをし、カツラをつけて、ドレスをまとえばどこから見てもいたいけな美少女。姫とアダ名をつけられたり澳門に売り飛ばされかけたりするだけのことはある。
ストローを噛む大地が小首を傾げた。
「でも、もっと綺麗なお姉さんいっぱいいるのに」
「あいつロリコンっぽかったからな」
猫の返答に大地は男のねっとりとした眼差しを思い出す。いわれてみれば、確かに。
【宵城】は合法なのだ、ロリータ趣味向けの子供など雇ってはいない。これは大地にしか出来ない役目である。
「ねぇ猫っ、写真撮ろ写真!紅花ちゃんに送るの!」
「あぁ?俺も写んのかよ」
変装と作戦が上手くいったことにハシャぐ大地が、猫の腕を掴みツーショットを撮りはじめた。インカメラ、ネコ耳のフィルター。1枚2枚3枚。
どんどん増えていく写真を眺めながら、後で全部上に売りつけようと猫は思った。
【宵城】VIPルーム。談笑する声。
猫は、やって来た皇家の男を特別室に招き入れ最上級の酒を用意。なんてことのない会話と共に数杯グラスを空け、場が温まってきたところで本題を問う。
「で、何か用事があって来たんだろ」
男は薄い笑みを浮かべて頷く。
「皇家はそろそろ閉店だ。それで…繋ぎの仕事の話なんだが」
──────きた。
猫はわざとらしいくらいの──いや普段の猫を知らない付き合いの浅い人間にとってはわざとらしいということもないが──笑顔をつくる。
「有り難いね。俺は人身売買には疎くてな」
「九龍一の店舗の店主なのに?」
「一だからだよ。出ねぇんだわ城塞から」
なるほど、と男は笑う。そして手順を話し始めた。
近日中には店を畳み、また新たに富裕層地域側で店を開く。スタッフは九龍で雇った何名かを入れ替え。名前を聞くと、猫も数回酌をしてもらった美人達だ。
その時に【宵城】からも取引先へ女性を紹介してみないかというお誘い。猫はふぅんと納得したような様子をみせる。
「中継ぎしてくれるってわけか」
「あぁ。しかしマージンで2割はもらうぞ」
「おい、見くびんなよ」
険しい顔での返答に一触即発の雰囲気が漂ったが、猫は即座に指をピッと3本立てて微笑。
「3割やる」
その言葉に男は破顔。太っ腹だな、と猫のグラスに酒をついで訊いた。
「何人くらい用意出来る?」
「まぁ…じゃあこっちも同じ人数で」
「スペックは」
「上の下」
「上の上は?」
「初手からAA出してどうすんだよ。セカンドでもウチの女は充分可愛いぜ?」
ニヤける猫を男がねめつける。猫はグラスをかたむけコニャックを啜りつつ言った。
「けどそうだな、もし見てぇっつーなら…」
ウェイターを呼び小声で何か呟く。暫くして、扉が開き1人の少女が姿を現した。
フリルのついたドレスで着飾った身体は華奢で色白。まだあどけない顔に大きな瞳、けぶるようなまつ毛が頬に影を落としている。微笑んで軽くお辞儀をすると長い黒髪が揺れ、紅く染まる唇が動き‘はじめまして’と柔らかい声が響いた。
男の目が輝く。猫は少女に座れと合図。
「上の上ってんなら、これだ。一見さんはお断りだけどな」
少女は男の隣に着席し、酒を作りはじめる。胸や腰のラインがハッキリするセクシーな服装ではないが、純白のふんわりとした衣装は可憐さを引き立て非常に愛らしい。どうぞ、と無邪気そうにニッコリしてグラスを差し出す。純真無垢。
頭頂部から爪先まで全身を舐め回すような男の視線を掻い潜り───少女はチラッ、と猫を見た。猫も目を合わせすぐに口を開く。
「下がれ、空」
少女は席を立ち、また軽くお辞儀をして去っていく。男はレベルの高さに納得したようだ。気に入ったんならアンタ専用にしてもいいぜと猫が耳打ちすると、男はますます顔を綻せる。
そして取引の日時や詳細等は追って連絡すると約束し、喜色満面で退店して行った。
出口まで男に付き添った猫がVIPルームへ戻ると、先刻の少女がソファでオレンジジュースを飲んでいる。その横に腰をかけ煙草を口にくわえる猫に、少女はスッとライターを差し出した。客の煙草に火を点けるのは女性従業員の仕事の基本。
「物覚えが良過ぎるだろ」
愉快そうに笑い、会計が高くつきそうだと呟きながら火種を頂戴する猫。少女はその顔を下から覗き込んで質問。
「どうだった?」
「完璧。上がひっくり返っちまうな」
ウイッグをかぶった頭をワシャワシャ撫でられ、空────大地がはにかむ。
皇家の男を唸らせた上玉は大地だった。メイクをし、カツラをつけて、ドレスをまとえばどこから見てもいたいけな美少女。姫とアダ名をつけられたり澳門に売り飛ばされかけたりするだけのことはある。
ストローを噛む大地が小首を傾げた。
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「あいつロリコンっぽかったからな」
猫の返答に大地は男のねっとりとした眼差しを思い出す。いわれてみれば、確かに。
【宵城】は合法なのだ、ロリータ趣味向けの子供など雇ってはいない。これは大地にしか出来ない役目である。
「ねぇ猫っ、写真撮ろ写真!紅花ちゃんに送るの!」
「あぁ?俺も写んのかよ」
変装と作戦が上手くいったことにハシャぐ大地が、猫の腕を掴みツーショットを撮りはじめた。インカメラ、ネコ耳のフィルター。1枚2枚3枚。
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