九龍懐古

カロン

文字の大きさ
上 下
116 / 389
一雁高空

月夜と鏖

しおりを挟む
一雁高空4





真夜中。時計の短針が頂上を越すか越さないか、そんな時刻。

マオは本家の門前に立った。番をしていた眠そうな男が2人、暗闇でおぼろげにその姿を見る。

「ん?貴様、何か用───」

1人が口を開いたが、次の瞬間ふいに上顎から頭のてっぺんまでが消失し、深紅の液体が噴き出した。続いて急な出来事で固まるもう1人の顔面が縦に真っ二つになる。マオの納刀の動作とともにつばさやを叩く音が微かに聞こえ、勢いよく飛び散る血液が髪にかかり月明かりに光る金糸を赤く染めた。
そのまま扉を抜けて庭先へスタスタと歩を進めるマオに、玄関のあたりから誰かが近寄ってきた。その男が言葉を発する前に袈裟斬りに。返り血を浴びる。
下駄を脱ぐこともせず室内へ、スパァンと思い切り襖を開けば見知った顔が女を相手にしていた。こいつは確か…本家の次男か。呑気なもんだ。
次男は一瞬不思議そうな表情をしたが、マオが身にまとう赤黒いものが血だとわかると声を震わせた。

「なんだお前は…!?」

なんだもクソもねぇよ、一応は知ってんだろ俺のこと。いや、誰だかわかってないのか?どっちでもいいけど。マオは返答をした。



「【黃刀】次代当主、マオ



継ぐ気は無い─────ここで、終わらせるつもりで来た。その為の名乗りだ。



次男が刀に手を伸ばす、より先に、マオがその右腕を根本から切り飛ばした。悲鳴と血しぶきが上がりマオは軽く耳をふさぎながら言う。

「うるせぇな。テメェだろ、親父オヤジったの」

次男はヒィヒィ喚くだけで質問に答えないので、右耳もピッと削いでやる。また悲鳴。奇襲ししかけておいて、自分が奇襲さやられたらコレだ…情けねぇ…マオは本家の醜態にため息をつき、振り返りもせず刀を肩越しに背中へ回す。キンッと金属がぶつかる音が響いた。
背後から斬りかかってきた何者かの刀とマオの刀が衝突したのだ。入ると思った死角からの一撃をガードされ、襲撃者はたじろぐ。マオはフッと腰を落として相手のバランスを崩させると、低い体勢で回転しつつ刀を振った。両足首が胴体とサヨナラをし敵はゴロンと後ろにひっくり返る。再三の悲鳴。

「うるせぇって」

ドンと心臓に一突き。静かになった。次男に視線を戻すと青白い顔でグッタリしている、出血多量か?腕一本で大袈裟な…サービスで左も切り飛ばすか?考えながら次男の刀を拾っていると、廊下から2人、新手あらてがやってきた。マオは振り向きざまに居合で片方の首を跳ねる。

「なんだこりゃ、使いづれぇな」

独り言が漏れた。抜刀したのは今しがた拾った次男の打刀うちがたな、手入れを怠っているとみえる。首を無くした仲間を見てもう1人は怯んだがそれでもどうにかこらえ斬りかかってきたので、マオは返す刀で男の腹のあたりを横一文字にさばいた。デロッとこぼれ落ちる内臓。倒れ込む男の背中に打刀うちがたなを突き刺して捨てると、横で小さくなっている女に声を掛ける。

「おい。他の家族はどこだよ」
「え!?あっ、お、奥のお部屋に…」
「あっそ。どーも。オメェは帰れよ、もう金貰ったんだろ」

女には目もくれず、出口を指差し言うと自身は隣の部屋へ。誰も居ない。もうひとつ隣へ。誰か居た。でもこいつじゃないな、まぁこいつもだとは思うが…斬りかかってくる刀を弾き首元を剣先で撫でるマオ。相手は床に突っ伏した。
まだ奥か。木製の扉を開けようとしたが、鍵がかかっている。思い切り蹴りを入れた。蝶番ちょうつがいごとふっ飛んで、中に居た男が目を見開く。

「よぉ。テメェが首謀者だろ」

そう口にするマオの視線の先には、本家の長男。こいつも何度か見たことがある…剣を向けて言葉を続けた。

「自分らに才能がねぇからってよ、親父オヤジ潰しゃぁ脅威は無くなるとでも思ったか?」

そこで男はマオに向かって短く‘息子か’と言った。そーだよお早い到着だろ?とマオは笑う。

「ろくに家にも帰らない放蕩息子だと聞いていたが…復讐にでるとは思わなかったな」
「べつに、ムカついたから来ただけだ。まぁせめて死体はどっかに隠しておくべきだったんじゃねーか」

言いながらおもむろに立ち上がって長刀を抜く男に、マオは肩をすくめて答えた。

騒ぎを聞きつけた人間が新たに5人ほどやってきてマオを取り囲む。なんだ、手勢てぜいはこれだけか?まだ他にもいくらかは居るのだろうが…親父オヤジが結構な数連れてった・・・・・のかな。そう思い、マオはククッと喉を鳴らすと言った。

「おめーら、親父オヤジって安心してんなら残念なお知らせがあるぜ」

そしてゆるく刀を構える。刀身が鈍く光り、いくらか重たくなったマオの声が響いた。

「【黃刀】で1番つぇえのは親父オヤジじゃねぇ…────俺だ」

その台詞を合図に、全員が一斉にマオへと斬りかかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

小児科医、姪を引き取ることになりました。

sao miyui
キャラ文芸
おひさまこどもクリニックで働く小児科医の深沢太陽はある日事故死してしまった妹夫婦の小学1年生の娘日菜を引き取る事になった。 慣れない子育てだけど必死に向き合う太陽となかなか心を開こうとしない日菜の毎日の奮闘を描いたハートフルストーリー。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

処理中です...