九龍懐古

カロン

文字の大きさ
上 下
116 / 404
一雁高空

月夜と鏖

しおりを挟む
一雁高空4





真夜中。時計の短針が頂上を越すか越さないか、そんな時刻。

マオは本家の門前に立った。番をしていた眠そうな男が2人、暗闇でおぼろげにその姿を見る。

「ん?貴様、何か用───」

1人が口を開いたが、次の瞬間ふいに上顎から頭のてっぺんまでが消失し、深紅の液体が噴き出した。続いて急な出来事で固まるもう1人の顔面が縦に真っ二つになる。マオの納刀の動作とともにつばさやを叩く音が微かに聞こえ、勢いよく飛び散る血液が髪にかかり月明かりに光る金糸を赤く染めた。
そのまま扉を抜けて庭先へスタスタと歩を進めるマオに、玄関のあたりから誰かが近寄ってきた。その男が言葉を発する前に袈裟斬りに。返り血を浴びる。
下駄を脱ぐこともせず室内へ、スパァンと思い切り襖を開けば見知った顔が女を相手にしていた。こいつは確か…本家の次男か。呑気なもんだ。
次男は一瞬不思議そうな表情をしたが、マオが身にまとう赤黒いものが血だとわかると声を震わせた。

「なんだお前は…!?」

なんだもクソもねぇよ、一応は知ってんだろ俺のこと。いや、誰だかわかってないのか?どっちでもいいけど。マオは返答をした。



「【黃刀】次代当主、マオ



継ぐ気は無い─────ここで、終わらせるつもりで来た。その為の名乗りだ。



次男が刀に手を伸ばす、より先に、マオがその右腕を根本から切り飛ばした。悲鳴と血しぶきが上がりマオは軽く耳をふさぎながら言う。

「うるせぇな。テメェだろ、親父オヤジったの」

次男はヒィヒィ喚くだけで質問に答えないので、右耳もピッと削いでやる。また悲鳴。奇襲ししかけておいて、自分が奇襲さやられたらコレだ…情けねぇ…マオは本家の醜態にため息をつき、振り返りもせず刀を肩越しに背中へ回す。キンッと金属がぶつかる音が響いた。
背後から斬りかかってきた何者かの刀とマオの刀が衝突したのだ。入ると思った死角からの一撃をガードされ、襲撃者はたじろぐ。マオはフッと腰を落として相手のバランスを崩させると、低い体勢で回転しつつ刀を振った。両足首が胴体とサヨナラをし敵はゴロンと後ろにひっくり返る。再三の悲鳴。

「うるせぇって」

ドンと心臓に一突き。静かになった。次男に視線を戻すと青白い顔でグッタリしている、出血多量か?腕一本で大袈裟な…サービスで左も切り飛ばすか?考えながら次男の刀を拾っていると、廊下から2人、新手あらてがやってきた。マオは振り向きざまに居合で片方の首を跳ねる。

「なんだこりゃ、使いづれぇな」

独り言が漏れた。抜刀したのは今しがた拾った次男の打刀うちがたな、手入れを怠っているとみえる。首を無くした仲間を見てもう1人は怯んだがそれでもどうにかこらえ斬りかかってきたので、マオは返す刀で男の腹のあたりを横一文字にさばいた。デロッとこぼれ落ちる内臓。倒れ込む男の背中に打刀うちがたなを突き刺して捨てると、横で小さくなっている女に声を掛ける。

「おい。他の家族はどこだよ」
「え!?あっ、お、奥のお部屋に…」
「あっそ。どーも。オメェは帰れよ、もう金貰ったんだろ」

女には目もくれず、出口を指差し言うと自身は隣の部屋へ。誰も居ない。もうひとつ隣へ。誰か居た。でもこいつじゃないな、まぁこいつもだとは思うが…斬りかかってくる刀を弾き首元を剣先で撫でるマオ。相手は床に突っ伏した。
まだ奥か。木製の扉を開けようとしたが、鍵がかかっている。思い切り蹴りを入れた。蝶番ちょうつがいごとふっ飛んで、中に居た男が目を見開く。

「よぉ。テメェが首謀者だろ」

そう口にするマオの視線の先には、本家の長男。こいつも何度か見たことがある…剣を向けて言葉を続けた。

「自分らに才能がねぇからってよ、親父オヤジ潰しゃぁ脅威は無くなるとでも思ったか?」

そこで男はマオに向かって短く‘息子か’と言った。そーだよお早い到着だろ?とマオは笑う。

「ろくに家にも帰らない放蕩息子だと聞いていたが…復讐にでるとは思わなかったな」
「べつに、ムカついたから来ただけだ。まぁせめて死体はどっかに隠しておくべきだったんじゃねーか」

言いながらおもむろに立ち上がって長刀を抜く男に、マオは肩をすくめて答えた。

騒ぎを聞きつけた人間が新たに5人ほどやってきてマオを取り囲む。なんだ、手勢てぜいはこれだけか?まだ他にもいくらかは居るのだろうが…親父オヤジが結構な数連れてった・・・・・のかな。そう思い、マオはククッと喉を鳴らすと言った。

「おめーら、親父オヤジって安心してんなら残念なお知らせがあるぜ」

そしてゆるく刀を構える。刀身が鈍く光り、いくらか重たくなったマオの声が響いた。

「【黃刀】で1番つぇえのは親父オヤジじゃねぇ…────俺だ」

その台詞を合図に、全員が一斉にマオへと斬りかかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない

めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」 村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。 戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。 穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。 夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。

処理中です...