九龍懐古

旧雨今雨・上

好奇心と寝物語

旧雨今雨７





深夜、【宵城】最上階、朱塗りの天守。
天蓋付きのベッドにゴロンと転がり大地ダイチは息を吐く。

上カムラから急に‘猫マオの所に泊まりに行ってくれ’とメッセージが入り、寺子屋へ迎えに来た猫マオにいくらか事情を聞いた。
お泊りはいつだってワクワクするが【東風】の面々は何やら大変そうにしており、呑気な事も言っていられない。大地ダイチはムゥと天井を睨んだ。

「哥ゴーたち大丈夫かなぁ…」
「大地おまえ、そこは‘上カムラたち’って言ってやらねぇとあのブラコン泣くぞ」
「だって哥ゴーがケガしたっていうから」
「燈瑩あいつはしぶてぇから平気だよ」

横でパイプをふかす猫マオが、早く寝ねぇと明日寺子屋遅刻すんぞと大地ダイチにブランケットをかける。

「寝れないよ、蓮レン君の仲間の事も襲ってきた人の事も気になるし」
「蓮レンの方は俺が何とかするから心配すんな。襲ってきた奴は上カムラが調べつけんだろ、伊達だてに情報屋やってねぇよあの饅頭も」

唇を尖とがらす大地ダイチの髪を撫でながら答える猫マオ。口調は素っ気無いが、気を回してくれている様子がわかる。
大地ダイチは猫マオを黙ったまま上目遣いに見やり、暫しばらくしてから、あのさぁと口を開いた。

「猫マオって【黃刀】？の１番偉い人なの？」
「あ？んだよいきなり」
「蓮レン君が言ってたじゃん」
「よく覚えてんな。偉くねぇよただの剣術の流派だし、それに【黃刀】は俺が終わらせちまったからもう無ねぇ」
「なんで？」
「ほんっと好奇心の塊だな大地おまえは」

普通遠慮して訊かねぇもんだぜ？と笑う猫マオを、ブランケットから半分だけ顔を出した大地ダイチはジッと見詰めた。
猫マオはフゥと煙を吐いて、それからもう一度大地ダイチの頭を撫でる。

「しゃあねぇな。まぁ、寝物語くらいにはなるか…聞いたら良い子に寝ろよ」



そしてポツポツと語りはじめた。
九龍城砦、花街一の店主の、昔話を。