九龍懐古

カロン

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幽霊騒動

噂話と仲介屋・前

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幽霊騒動1





子どもは怪談が好きだ。





ある日の昼下り、寺子屋。

「昨日また出たって!老人ローヤン街の幽霊!」
「え、誰が見たの?」
「声だけっぽいけど…扉とか窓もガターン!って動いてさぁ」
大地ダイチ知ってる?」

話を振られ、机にして教科書を眺めていた大地ダイチは身体を起こして首をかしげる。

「幽霊の話は。けど昨日の事はわかんない」
「お兄ちゃんは何か言ってないの?」
「んー、カムラはそういう系はあんまりかなぁ…幽霊ダメだし」

カムラが情報屋、とまでは聞かされていないが街の噂話に詳しいと知っているクラスメイトに質問されたが、口をへの字に曲げる大地ダイチ
与太話とて、ここ九龍ではなかなか馬鹿には出来ず。有益な代物しろものが混ざっている可能性は否定できないのでそれなりに耳を傾けてくれるカムラだが、心霊現象のたぐいには滅法めっぽう弱かった。
ちなみにアズマもオバケは苦手だ。

最近、老人ローヤン街には幽霊が出るとの噂がある。姿を確認した者は居ないが、廃墟のはずなのにガタガタ音がするだの赤ん坊の泣き声が聞こえるだの。
その建物は中流階級側から寺子屋までの近道にもなっており、これまでそこを抜けて通学していた生徒たちはオバケ騒動よりこっち、回り道を強いられてしまっていた。

「あそこ怖くて通れないから…」

肩を落とす面々に、大地ダイチは提案する。

「俺が調べてこよっか?」
「え?大地ダイチ怖くないの?」
「怖いけど、それよりも気になる」

好奇心。大地ダイチの構成要素を占めるほとんど。

気を付けてね、報告楽しみにしてる、などと口々に言うクラスメイトに頷きつつ考える。
1人だとカムラがうるさいかな?といってもこの件に関してカムラは役に立たない。アズマも同じ。
オバケ探しでゴーを呼ぶのはちょっとなぁ…となると、イツキかな。

放課後、大地ダイチイツキに付き添いを打診する為に携帯を開いた。そして。







「なんで俺を選ぶんだよ…」

マオの大きなため息が部屋を包む。

イツキでいいじゃねぇかイツキで」

【宵城】最上階。コキコキと首を鳴らすマオと、曲奇クッキーを口に運びながら答える大地ダイチ

「だってアズマが‘イツキが幽霊連れて帰ってきちゃう’って騒ぐんだもん」
「バカかあの眼鏡は」

イツキに相談したものの、電話口で一緒に話を聞いていたアズマの盛大な妨害にあい承諾を得られなかった大地ダイチは、その足で【宵城】までやってきた。
マオが面倒くさがるのは承知していたが他に頼める人物が居なかったのだ。

「ちょっとだけでいいから!お願いマオ!」
「ったくよ…どこつった?老人ローヤン街?」
「やった!ありがとう!」
「お前、俺が断わんねぇのわかってんだろ」

マオの言葉にえへへ、と大地ダイチははにかんだ笑顔を見せる。
大地ダイチ子供・・身内・・マオに優しくされる条件が2つも揃っているし、当人もそれを知っているのでちょこちょこ厚意に甘えていた。

「行くんならとっとと行こうぜ。日ぃ暮れちまう」

言うとマオは羽織を肩にかけ下駄をつっかけた。大地ダイチ曲奇クッキー片手にその後を追う。

目的地までの道中、オバケについての情報を話す大地ダイチ。ふーんと生返事を返すマオ、そういった関係の物は一切信じていない様子だ。いや、信じてはいるが恐れてはいないのか。

「またアズマの待ち受けでも変えとくか…」
「え?なんのこと?」

呟くマオ大地ダイチがパチパチとまばたきをする。

【天堂會】事件中、マオアズマのパソコンを勝手にイジり画面に幽霊の画像を設定しておいたら、帰宅したアズマが電源をつけた際にビビってひっくり返ったらしい。それをイツキに聞いた時のことを思い出し、マオは愉しげにククッと笑った。

しばらく歩いて老人ローヤン街の例の建物に到着。見るからに廃墟、利用している人間は長いあいだ居なさそうだ。
2人で中に入る。夜が近付き内部にはあまり光が差し込んでいない、目を凝らして奥へと進んでいく。
ひと部屋、ふた部屋、反対側へと抜けられる通路を調べていると──────



どこかから、けたたましい赤ん坊の泣き声が聞こえた。
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