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光輝燦然・下
魔法の終わりと夢の始まり・後
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光輝燦然13
次の瞬間、地面に横たわっていたのは上……ではなく拳銃を取り出した男の方だった。
ヒュンッと小柄な影が横切り、最後の1人も地に伏せる。
「大丈夫?」
言葉と共に振り返った小柄な影は樹。その向こう、停まっているバイクにまたがり銃を構えているのは燈瑩のようだ。
「ナイスタイミング樹、燈瑩さん…!!」
上は安心してその場にへたり込み、話が掴めていない陽に説明。
男達に絡まれはじめた時点で、上はこっそり携帯の通話ボタンを押していた。相手先は燈瑩、そして会話の中に地名や状況を織り交ぜ窮地を伝えていたのだ。
「いうて、めっちゃすぐ来てくれましたね」
「車が入れる場所だったから。徒歩だと厳しかったかな、いいデートスポット選んだね」
「やからデートやなくって…」
燈瑩の返答に上は俯く。デートだとしたら酷いありさま…目の前で倒れ込んでいる男を見やる。ピクリとも動かない、樹が一瞬のうちに首を折ったのだろう。
拳銃を抜いていた男も地面に突っ伏している。身体の下に広がる血溜まり、さっき聞こえた銃声は燈瑩のものだったということ。
「上、陽連れてバイクでマネージャーさんのとこ戻れる?バイクはそのまま現場置いといていいから。俺たち後始末しないと」
言いながら燈瑩は上にヘルメットを投げた。樹はまだ息のある男達の骨をゴキゴキと折って回っている。
「せやけど、他にも陽さん狙っとる奴おったら俺守れる自信あれへんすよ…」
「猫来るよ。九龍外までついてきてくれる」
「へ?ホンマに?また猫が腰上げてくれはったんですか」
義理堅いんだよ猫は、と笑う燈瑩からバイクをもらい、上は陽を後ろに乗せヘルメットを被せた。ちゅうかバイクどないしたんすかと上が訊くと、借りたと肩を竦める燈瑩。樹の‘でもお金払ったよ’という声がする。
「すんません…ほんなら、あとよろしく頼んます。行くで陽さん?準備ええか?」
「うん」
陽が頷くと上はバイクを発進させた。丘をくだり元の撮影現場を目指す、さっき陽に説明したルートだ。まさかこんなにすぐ使うことになるとは思わなかったが。
「すまん、最後に物騒な事んなってしもて」
「んーん。ていうか、何にも見てないよ」
「自分エラい話早いな」
上がバックミラー越しに視線をやると、陽はペロッと舌を出し、私だって綺麗な世界ばっかり歩いてきた訳じゃないからと呟く。
それはそうなんだろうが…にしたって今のはなかなかヘビーな出来事だったはずだ。
けれど陽が何も言わないのであれば詮索するのも不粋か。
今度、ゆっくり話をしたいと上は思った。そんな機会がいつかあれば。
撮影現場に舞い戻ると、すっかり片付けを終わらせてにこやかなマネージャーに出迎えられた。いわく、燈瑩と樹は五顏六色の件で急用が入ったため、九龍を出るまでの最後の付き添いは代わりの人物に任せると。
2人はスタッフ達に心配をさせまいととりあえず説明を省いたのだろう。いくらか死人が出ると予想したというのも恐らくある。
少しするとワイシャツの上に着物を羽織った猫がやってきた。無造作におろした髪。
いやどうなっとんねんその着こなし…スタイリッシュか…上は唇を噛みつつ、先刻のドタバタで土埃のついた自分のスーツをパタパタはたく。
「猫さん、お話は聞いてるわ。力を貸してくれてありがとう」
陽は何食わぬ顔で猫に挨拶をし五顏六色の件の礼を口にすると、先刻の襲撃に関しての理解も暗に仄めかした。
猫はほんのわずか目を見開いて、それから軽く微笑みどういたしましてと答える。
「え…猫そんな顔で笑うことあるん…?」
「うるせぇよ。んなことよりオメェには勿体なさすぎる女だな」
驚く上に猫が言葉の豪速球を投げ付ける。
陽の容姿はさることながら、状況に即座に対応出来る柔軟さや頭の回転の速さ、その肝の座った性格に感心しての台詞だ。
「そっちこそうっさいわ。俺が1番わかっとんねん…てか勝手に好きなだけやし…」
「へぇ、好きなんだ?」
「うっさいって!!」
からかう猫を一喝しつつ、陽に聞かれていないかソワソワする上。伝えるつもりなどない───再度心に蓋をして、撤収する撮影陣の後ろを追った。
あとは九龍の外まで送るだけ。そこで魔法はとけてしまう。けれど、それでいいんだ、きっと。そう思い上は言葉少なに街の端まで陽と歩いた。先で待機していた高級車のドアを開ける。
「陽さん、ありがとうな。気ぃつけてや」
陽が乗り込むとバタンと扉が閉まる。だが、なかなか発車しない。上が不思議な顔で見詰めていると、ふいにウインドウが下がり陽に手招きされた。
「ねぇ上君。さっき言いかけたことなんだけど…」
陽が口の横に掌を当てて、ナイショ話の仕草をする。上が何事かと耳を寄せるといつものように頬をつままれ─────
かすかに、唇と唇が触れた。
「!!!!」
「─────またね♡」
それだけ言うと、ウインドウを上げて陽は運転手に合図。車は滑るように消えていった。
車体が見えなくなってからしばらくしても、なお固まって動けない上。その襟元に刺さったメモ用紙を猫が引き抜く。
「見ーちゃった。んで?こいつは何だ?あ、連絡先か」
そこには可愛らしい字で書かれた数字の列。携帯番号だ、これを準備していたのか。
「お前のどこが良かったっつーんだろうな?まぁでもこんな大チャンス金輪際ねぇだろ。気に入ってもらえたからにゃぁ死ぬ気で───…上?」
猫がペシペシと上の頬を叩く。無反応。
「マジかよこいつ息してねぇ!!!!おい上!!上!!」
ペシペシからバシバシへと音が変わる。
その音と猫の呼ぶ声を遠くで聞きながら、上は長いこと生死の境を彷徨った。
次の瞬間、地面に横たわっていたのは上……ではなく拳銃を取り出した男の方だった。
ヒュンッと小柄な影が横切り、最後の1人も地に伏せる。
「大丈夫?」
言葉と共に振り返った小柄な影は樹。その向こう、停まっているバイクにまたがり銃を構えているのは燈瑩のようだ。
「ナイスタイミング樹、燈瑩さん…!!」
上は安心してその場にへたり込み、話が掴めていない陽に説明。
男達に絡まれはじめた時点で、上はこっそり携帯の通話ボタンを押していた。相手先は燈瑩、そして会話の中に地名や状況を織り交ぜ窮地を伝えていたのだ。
「いうて、めっちゃすぐ来てくれましたね」
「車が入れる場所だったから。徒歩だと厳しかったかな、いいデートスポット選んだね」
「やからデートやなくって…」
燈瑩の返答に上は俯く。デートだとしたら酷いありさま…目の前で倒れ込んでいる男を見やる。ピクリとも動かない、樹が一瞬のうちに首を折ったのだろう。
拳銃を抜いていた男も地面に突っ伏している。身体の下に広がる血溜まり、さっき聞こえた銃声は燈瑩のものだったということ。
「上、陽連れてバイクでマネージャーさんのとこ戻れる?バイクはそのまま現場置いといていいから。俺たち後始末しないと」
言いながら燈瑩は上にヘルメットを投げた。樹はまだ息のある男達の骨をゴキゴキと折って回っている。
「せやけど、他にも陽さん狙っとる奴おったら俺守れる自信あれへんすよ…」
「猫来るよ。九龍外までついてきてくれる」
「へ?ホンマに?また猫が腰上げてくれはったんですか」
義理堅いんだよ猫は、と笑う燈瑩からバイクをもらい、上は陽を後ろに乗せヘルメットを被せた。ちゅうかバイクどないしたんすかと上が訊くと、借りたと肩を竦める燈瑩。樹の‘でもお金払ったよ’という声がする。
「すんません…ほんなら、あとよろしく頼んます。行くで陽さん?準備ええか?」
「うん」
陽が頷くと上はバイクを発進させた。丘をくだり元の撮影現場を目指す、さっき陽に説明したルートだ。まさかこんなにすぐ使うことになるとは思わなかったが。
「すまん、最後に物騒な事んなってしもて」
「んーん。ていうか、何にも見てないよ」
「自分エラい話早いな」
上がバックミラー越しに視線をやると、陽はペロッと舌を出し、私だって綺麗な世界ばっかり歩いてきた訳じゃないからと呟く。
それはそうなんだろうが…にしたって今のはなかなかヘビーな出来事だったはずだ。
けれど陽が何も言わないのであれば詮索するのも不粋か。
今度、ゆっくり話をしたいと上は思った。そんな機会がいつかあれば。
撮影現場に舞い戻ると、すっかり片付けを終わらせてにこやかなマネージャーに出迎えられた。いわく、燈瑩と樹は五顏六色の件で急用が入ったため、九龍を出るまでの最後の付き添いは代わりの人物に任せると。
2人はスタッフ達に心配をさせまいととりあえず説明を省いたのだろう。いくらか死人が出ると予想したというのも恐らくある。
少しするとワイシャツの上に着物を羽織った猫がやってきた。無造作におろした髪。
いやどうなっとんねんその着こなし…スタイリッシュか…上は唇を噛みつつ、先刻のドタバタで土埃のついた自分のスーツをパタパタはたく。
「猫さん、お話は聞いてるわ。力を貸してくれてありがとう」
陽は何食わぬ顔で猫に挨拶をし五顏六色の件の礼を口にすると、先刻の襲撃に関しての理解も暗に仄めかした。
猫はほんのわずか目を見開いて、それから軽く微笑みどういたしましてと答える。
「え…猫そんな顔で笑うことあるん…?」
「うるせぇよ。んなことよりオメェには勿体なさすぎる女だな」
驚く上に猫が言葉の豪速球を投げ付ける。
陽の容姿はさることながら、状況に即座に対応出来る柔軟さや頭の回転の速さ、その肝の座った性格に感心しての台詞だ。
「そっちこそうっさいわ。俺が1番わかっとんねん…てか勝手に好きなだけやし…」
「へぇ、好きなんだ?」
「うっさいって!!」
からかう猫を一喝しつつ、陽に聞かれていないかソワソワする上。伝えるつもりなどない───再度心に蓋をして、撤収する撮影陣の後ろを追った。
あとは九龍の外まで送るだけ。そこで魔法はとけてしまう。けれど、それでいいんだ、きっと。そう思い上は言葉少なに街の端まで陽と歩いた。先で待機していた高級車のドアを開ける。
「陽さん、ありがとうな。気ぃつけてや」
陽が乗り込むとバタンと扉が閉まる。だが、なかなか発車しない。上が不思議な顔で見詰めていると、ふいにウインドウが下がり陽に手招きされた。
「ねぇ上君。さっき言いかけたことなんだけど…」
陽が口の横に掌を当てて、ナイショ話の仕草をする。上が何事かと耳を寄せるといつものように頬をつままれ─────
かすかに、唇と唇が触れた。
「!!!!」
「─────またね♡」
それだけ言うと、ウインドウを上げて陽は運転手に合図。車は滑るように消えていった。
車体が見えなくなってからしばらくしても、なお固まって動けない上。その襟元に刺さったメモ用紙を猫が引き抜く。
「見ーちゃった。んで?こいつは何だ?あ、連絡先か」
そこには可愛らしい字で書かれた数字の列。携帯番号だ、これを準備していたのか。
「お前のどこが良かったっつーんだろうな?まぁでもこんな大チャンス金輪際ねぇだろ。気に入ってもらえたからにゃぁ死ぬ気で───…上?」
猫がペシペシと上の頬を叩く。無反応。
「マジかよこいつ息してねぇ!!!!おい上!!上!!」
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