九龍懐古

カロン

文字の大きさ
上 下
99 / 426
光輝燦然・下

魔法の終わりと夢の始まり・後

しおりを挟む
光輝燦然13





次の瞬間、地面に横たわっていたのはカムラ……ではなく拳銃を取り出した男の方だった。
ヒュンッと小柄な影が横切り、最後の1人も地に伏せる。

「大丈夫?」

言葉と共に振り返った小柄な影はイツキ。その向こう、停まっているバイクにまたがり銃を構えているのは燈瑩トウエイのようだ。

「ナイスタイミングイツキ燈瑩トウエイさん…!!」

カムラは安心してその場にへたり込み、話が掴めていないヨウに説明。
男達に絡まれはじめた時点で、カムラはこっそり携帯の通話ボタンを押していた。相手先は燈瑩トウエイ、そして会話の中に地名や状況を織り交ぜ窮地を伝えていたのだ。

「いうて、めっちゃすぐ来てくれましたね」
「車が入れる場所だったから。徒歩だと厳しかったかな、いいデートスポット選んだね」
「やからデートやなくって…」

燈瑩トウエイの返答にカムラうつむく。デートだとしたら酷いありさま…目の前で倒れ込んでいる男を見やる。ピクリとも動かない、イツキが一瞬のうちに首を折ったのだろう。
拳銃を抜いていた男も地面に突っ伏している。身体の下に広がる血溜まり、さっき聞こえた銃声は燈瑩トウエイのものだったということ。

カムラヨウ連れてバイクこれでマネージャーさんのとこ戻れる?バイクはそのまま現場置いといていいから。俺たち後始末しないと」

言いながら燈瑩トウエイカムラにヘルメットを投げた。イツキはまだ息のある男達の骨をゴキゴキと折って回っている。

「せやけど、他にもヨウさん狙っとる奴おったら俺守れる自信あれへんすよ…」
マオ来るよ。九龍外そとまでついてきてくれる」
「へ?ホンマに?またマオが腰上げてくれはったんですか」

義理堅いんだよマオは、と笑う燈瑩トウエイからバイクをもらい、カムラヨウを後ろに乗せヘルメットを被せた。ちゅうかバイクこれどないしたんすかとカムラが訊くと、借りた・・・と肩をすくめる燈瑩トウエイイツキの‘でもお金払ったよ’という声がする。

「すんません…ほんなら、あとよろしく頼んます。行くでヨウさん?準備ええか?」
「うん」

ヨウが頷くとカムラはバイクを発進させた。丘をくだり元の撮影現場を目指す、さっきヨウに説明したルートだ。まさかこんなにすぐ使うことになるとは思わなかったが。

「すまん、最後に物騒な事んなってしもて」
「んーん。ていうか、何にも見てないよ」
「自分エラい話早いな」

カムラがバックミラー越しに視線をやると、ヨウはペロッと舌を出し、私だって綺麗な世界ばっかり歩いてきた訳じゃないからと呟く。
それはそうなんだろうが…にしたって今のはなかなかヘビーな出来事だったはずだ。
けれどヨウが何も言わないのであれば詮索するのも不粋か。

今度、ゆっくり話をしたいとカムラは思った。そんな機会がいつかあれば。

撮影現場に舞い戻ると、すっかり片付けを終わらせてにこやかなマネージャーに出迎えられた。いわく、燈瑩トウエイイツキ五顏六色カラフルの件で急用が入ったため、九龍を出るまでの最後の付き添いは代わりの人物に任せると。
2人はスタッフ達に心配をさせまいととりあえず説明を省いたのだろう。いくらか死人が出ると予想したというのも恐らくある。

少しするとワイシャツの上に着物を羽織ったマオがやってきた。無造作におろした髪。
いやどうなっとんねんその着こなし…スタイリッシュか…カムラは唇を噛みつつ、先刻のドタバタで土埃のついた自分のスーツをパタパタはたく。

マオさん、お話は聞いてる・・・・・・・わ。力を貸してくれてありがとう」

ヨウは何食わぬ顔でマオに挨拶をし五顏六色カラフルの件の礼を口にすると、先刻の襲撃に関しての理解もあんほのめかした。
マオはほんのわずか目を見開いて、それから軽く微笑みどういたしましてと答える。

「え…マオそんな顔で笑うことあるん…?」
「うるせぇよ。んなことよりオメェには勿体なさすぎる女だな」

驚くカムラマオが言葉の豪速球を投げ付ける。
ヨウの容姿はさることながら、状況に即座に対応出来る柔軟さや頭の回転の速さ、その肝の座った性格に感心しての台詞だ。

「そっちこそうっさいわ。俺が1番わかっとんねん…てか勝手に好きなだけやし…」
「へぇ、好きなんだ?」
「うっさいって!!」

からかうマオを一喝しつつ、ヨウに聞かれていないかソワソワするカムラ。伝えるつもりなどない───再度心に蓋をして、撤収する撮影陣の後ろを追った。

あとは九龍の外まで送るだけ。そこで魔法はとけてしまう。けれど、それでいいんだ、きっと。そう思いカムラは言葉少なに街の端までヨウと歩いた。先で待機していた高級車のドアを開ける。

ヨウさん、ありがとうな。気ぃつけてや」

ヨウが乗り込むとバタンと扉が閉まる。だが、なかなか発車しない。カムラが不思議な顔で見詰めていると、ふいにウインドウが下がりヨウに手招きされた。

「ねぇカムラ君。さっき言いかけたことなんだけど…」

ヨウが口の横に掌を当てて、ナイショ話の仕草をする。カムラが何事かと耳を寄せるといつものように頬をつままれ─────



かすかに、唇と唇が触れた。



「!!!!」
「─────またね♡」


それだけ言うと、ウインドウを上げてヨウは運転手に合図。車は滑るように消えていった。
車体が見えなくなってからしばらくしても、なお固まって動けないカムラ。その襟元に刺さったメモ用紙をマオが引き抜く。

「見ーちゃった。んで?こいつは何だ?あ、連絡先か」

そこには可愛らしい字で書かれた数字の列。携帯番号だ、これを準備していたのか。

「お前のどこが良かったっつーんだろうな?まぁでもこんな大チャンス金輪際ねぇだろ。気に入ってもらえたからにゃぁ死ぬ気で───…カムラ?」

マオがペシペシとカムラの頬を叩く。無反応。

「マジかよこいつ息してねぇ!!!!おいカムラ!!カムラ!!」

ペシペシからバシバシへと音が変わる。

その音とマオの呼ぶ声を遠くで聞きながら、カムラは長いこと生死の境を彷徨った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夜に駆ける乙女は今日も明日も明後日も仕事です

ぺきぺき
キャラ文芸
東京のとある会社でOLとして働く常盤卯の(ときわ・うの)は仕事も早くて有能で、おまけに美人なできる女である。しかし、定時と共に退社し、会社の飲み会にも決して参加しない。そのプライベートは謎に包まれている。 相思相愛の恋人と同棲中?門限に厳しい実家住まい?実は古くから日本を支えてきた名家のお嬢様? 同僚たちが毎日のように噂をするが、その実は…。 彼氏なし28歳独身で二匹の猫を飼い、親友とルームシェアをしながら、夜は不思議の術を駆使して人々を襲う怪異と戦う国家公務員であった。 ーーーー 章をかき上げれたら追加していくつもりですが、とりあえず第一章大東京で爆走編をお届けします。 全6話。 第一章終了後、一度完結表記にします。 第二章の内容は決まっていますが、まだ書いていないのでいつになることやら…。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

下っ端妃は逃げ出したい

都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー 庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。 そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。 しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……

処理中です...