九龍懐古

カロン

文字の大きさ
上 下
98 / 404
光輝燦然・下

魔法の終わりと夢の始まり・前

しおりを挟む
光輝燦然12





「呑気にデートか?」

そう言って笑いながら、数人の男達が近付いてくる。

「…デートやないよ。アンタらこそ何なん、魔鬼山炮台こないなとこまで来よって?大ファンかい」

低い声で返しつつカムラヨウと男達の間に身体を入れた。男の1人がため息まじりに答える。

「女ケガさせれば報酬、って話が無くなってな。まぁ売り飛ばしたほうが儲かるからそうしようかと」

五顏六色カラフルが依頼をかけていたマフィアたち…ではないな。その下っ端?半グレ程度か?
けれど、五顏六色カラフルヨウから手を引いたのは確実なはず。となるとこいつらは指示もなく独自で動いている。黙って勝手に荒稼ぎしようという魂胆。

「えらい杜撰ずさんなご計画やな。そない上手いこといかへんやろ」

カムラは眼球だけを動かして周りを確認した。相手は5人。こりゃ無理とちゃうか?小さく舌打ちをする。
だがどうやら全員素手のようだ。商品に傷を付けない為にという事なのかも知れないが、カムラにとっては好都合だった。

1人…あわよくば、2人倒したい。ヨウが逃げる隙をつくれればそれでいい。

ヨウさん。俺がなんとか時間稼ぐから後ろの道から逃げぇや」
「でも、カムラ君…」
「ええから。今度こそは絶対に守るって決めとんねん」

カムラの頭の中にカズラの顔と、それからユエの話がチラついた。もう二度と───指をすり抜けさせたくない。

男が殴りかかってきた。カムラはそのパンチを躱し、自身も右ストレートを繰り出す。威力はあまり無いがとりあえず当たった。
男がすかさず反撃してきたので腕を掴んで引っ張り顔面に頭突きをかます。よろめいて後ずさる男、その横から別の1人が蹴りをお見舞いしてきた。が、カムラはそれも躱しお返しの前蹴りを食らわせる。当たった。

ん?なんでこんなに避けれるし当たるん?

カムラの頭に疑問符が浮かぶ。その間も男達は攻撃をしてくるが、躱す、躱す、躱す。一発としてカムラを捉えることはない。

身体が軽い。見える。イケる。

最近不思議と調子がいい気はしていた。もしかして自分、成長したんとちゃうん?
カムラの口元に笑みが浮かぶ。ちょっと何だかテンションがあがってきた。

「なんだこのデブ、ちょこまかと…」
「誰がデブじゃ!!」

カムラは素早くポケットから小袋──アズマ特製ハーブバッグ──を取り出し男に向けて投げ付ける。バスン!と顔に命中し、葉っぱや粉が風に舞ってブワッと散らばった。

「うわっ、何だコレ…ゲホ!ゲホッ!」
ヨウさん!!逃げ!!」

一瞬の目眩まし。

ヨウは既に走り出しており、ヒールが地面を叩く音が遠ざかっていく。カムラは敵を引き付ける為に珍しく挑発的な仕草をしてみせた。

「ほら、来てみぃや。こないなデブ・・に負けとったらカッコぉつかへんやろ。な?」

怒り心頭の男が襲い掛かってくる。その拳を避けようとしたカムラの耳に、今度は段々大きくなるヒールの音が飛び込んだ。

ゴンッ。

そして最後に鈍い音。男が地面に倒れ込む。カムラの視界に入ったのは、小心地滑てんとうちゅういの文字───が書かれた看板を持ったヨウ。看板で男をブン殴ったのだ。

「え!?ちょぉ、何で…」
「1人だけ逃げるなんて出来ないよ」

どこかから武器を奪って戻ってきたのである。ごめんね、と、ヨウは凛とした瞳でカムラを見据えた。
謝られるような話ではないが、ヨウを守り切る自信がないカムラは焦った。いくら普段よりやれる・・・とはいえ、そもそもが強くはないのだから正直たかが知れている。

だけど、やるんだ。やってやる。
絶対に守る。

カムラヨウから看板を受け取り、目の前の男をひっぱたく。残るは3人、だが1人は先程のカムラの頭突きがまだ効いている様子。鼻が折れたのかも知れない。実質あと2人か。

その時、後方にいた男の1人が上着から拳銃を取り出した。マズい────…!!商品は傷付けないだろうと思っていたが。
カムラヨウの前に再び立ち、庇う体勢をとる。

カムラ君!!」



銃声とヨウの叫び声が夜を貫いた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない

めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」 村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。 戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。 穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。 夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。

処理中です...