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光輝燦然・下
クランクアップと魔女の城
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光輝燦然11
「ほんまですか、よかった…!はい、待っとりますね!ほな…」
電話を終えると上は樹へ向けて力強く首を縦にふった。
「燈瑩さんと猫、上手いことやってくれた。もう五顏六色は陽さんに手ぇ出さへんって…あと怪我人もでやんかったみたい」
「え、そうなんだ」
上の言葉に樹は予想外といった表情を見せる。どれだけポジティブに考えても、死人の1人や2人は絶対に出ると思っていた様子。
「向こうも殺す気で来よったわけちゃうしな。九龍のマフィア相手やったら話違たかも知れんけど」
マフィアと繋がっているにしても、五顏六色の人間自体は完全な黒社会の住人というわけではない。若社長にしろ側近たちにしろヤンチャな半グレといったところ。
基本的に香港の表社会での活動がメインの奴らだ、それなりの刃傷沙汰はあっても‘殺し合い’という選択肢は取らないのである。
撮影の休憩時間、上はさっそく陽とマネージャーに結果報告。陽が感嘆の声を漏らす。
「すごい!!燈瑩君…と猫さん?やってくれたんだ!!」
「あの2人は頼れるねんな。これで五顏六色の件は大丈夫やと思うけど、この仕事終わるまでは樹もついとるから心配せんといて」
笑いかける上の顔を陽はジッと見た。
「どしたん?」
「上君だって頼れるよ」
「え?いや、俺は…」
上はモゴモゴと口ごもる。
だが、陽の黒曜石のように輝く双眸は、恥ずかしがらずに素直な言葉を伝えようと上に思わせるには十分な光を持っていた。
「俺は……頼れる奴ちゃうよ。でも、なれるように頑張るから。少しずつかもせんけど」
力が足りていないことはわかっている。過大評価する気もない。決意を表明するのは照れくさいが、曇のない陽の眼を見て、自分もそうありたいと感じた────その気持ちが上の背中を押した。
上の頬を陽はプニッとつまむ。もはやお決まりのパターン、上も若干だが慣れてきた。
「やっぱりカッコ良いじゃん」
「…買い被りやって」
相変わらず顔は真っ赤で心臓はドキドキうるさく、今にも倒れてしまいそうだったが。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それから数日が経過し、ついにショートフィルムの撮影は全行程終了。
不審な事故もなく、五顏六色にも動きはなく、順風満帆のままクランクアップをした。
「お疲れ様でした!」
スタッフ達の声が響き、陽が満面の笑みで樹と上、燈瑩に駆け寄る。
「みんなお疲れ様!」
「陽もお疲れ。最後のシーン良かった。陽、すごい綺麗だった」
「おっ…俺もそう思ったで!!」
サラリと褒める樹に便乗し上も賛辞を述べる。が、どうしても気恥ずかしくなり、誤魔化すためにペットボトルの東特製ハーブティーをゴクゴクと飲み干した。
その様子を微笑ましく見ていた燈瑩が陽へ握手を差し出す。
「俺達の仕事はここまでだね。ありがとう」
陽はその手を握り返し、それから残念そうに呟いた。
「寂しくなっちゃうね」
樹はハイタッチのポーズをし、陽もそれに応える。パンッと小気味良い音が鳴った。
「上君も…」
「あ…せやな…」
笑顔の陽と視線が合わさり、上手いアクションが思い付かない上がオロオロする。
しかしどうやら陽も同じだったらしい。お互いが、言葉に詰まってしまっていた。
燈瑩とマネージャーが何か相談しはじめる。それを聞いていた樹も頷き、話がまとまると陽へと声を掛けた。
「陽、俺たちまだ現場の片付けとか手伝うから。上に街案内してもらっててよ」
「え?」
その樹の声に陽が振り返れば、ヒラヒラと手を振る燈瑩とその横で頷くマネージャーが目に入る。パアッと表情を明るくする陽とみるみる頬を染めて慌てる上。
「やった!上君、行こ!」
「えっ、ちょぉ待っ…」
言うが早いか上の手を引いて駆け出す陽の背中に、1時間くらいで帰ってきて下さいねとマネージャーが声を飛ばした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「1時間かぁ、短いね…どうしようか?」
フードをかぶり少し顔を隠した陽が笑う。
「上君のオススメの場所は?」
「えっ、え!?おっオススメ!?」
上は繋がれたままの手と陽の顔を交互に見た。すっかりキャパオーバーでオススメスポットどころの話ではないが、なんとか脳みそをフル回転させる。
「っと…九龍が見渡せる丘とか…」
「いいじゃない!そこにしよう!」
「あ、やけど片道30分近くかかるで?行って帰ってくるだけんなってまうかも…」
「行くまでの道も楽しもうよ」
フフッとはにかむ陽に、上の心臓が高鳴る。
俺、好きなんやな、陽さんのこと。
自覚すると同時に、身の程をわきまえろと上は自分を諫める。
美女とぽっちゃり。そんな映画はどうあがいても売れそうにない。
他愛もない話をしながら迷路のような街を通り抜け、高台にたどり着いた頃にはちょうど夕陽が九龍を照らしている頃だった。
「わぁ……綺麗ね……」
黄金色の光を浴びた違法建築の街並みは魔法がかかったように輝いている。大犯罪都市改め、魔女達が住んでいる城、なんて言えないこともなさそうだった。
「車やったらこっちの道から九龍の外回ってすぐ戻れんねん。徒歩やと逆に1時間はかかるけどな」
上は街のそこここを指差して、陽にあれやこれやと説明をする。でなければ間が持たなかったし、眩し過ぎた。
上にとってはキラキラと燦めく街より何十倍、いや何百倍、陽が綺麗に見えていた。
あっという間に時間は流れる。帰るのが惜しい、出来たらこのままここに居たい…馬鹿みたいな望みをチラつかせる心に蓋をして、上は陽を振り返る。
「陽さん、そろそろ──…」
「上君。あのね」
遮るように陽が言葉を発する。
その瞳は真っ直ぐ上を捉えていて、上は身動きが取れなくなった。
「私───…」
しかし、その続きは、突如辺りに響いた品のない笑い声に掻き消される。
「ほんまですか、よかった…!はい、待っとりますね!ほな…」
電話を終えると上は樹へ向けて力強く首を縦にふった。
「燈瑩さんと猫、上手いことやってくれた。もう五顏六色は陽さんに手ぇ出さへんって…あと怪我人もでやんかったみたい」
「え、そうなんだ」
上の言葉に樹は予想外といった表情を見せる。どれだけポジティブに考えても、死人の1人や2人は絶対に出ると思っていた様子。
「向こうも殺す気で来よったわけちゃうしな。九龍のマフィア相手やったら話違たかも知れんけど」
マフィアと繋がっているにしても、五顏六色の人間自体は完全な黒社会の住人というわけではない。若社長にしろ側近たちにしろヤンチャな半グレといったところ。
基本的に香港の表社会での活動がメインの奴らだ、それなりの刃傷沙汰はあっても‘殺し合い’という選択肢は取らないのである。
撮影の休憩時間、上はさっそく陽とマネージャーに結果報告。陽が感嘆の声を漏らす。
「すごい!!燈瑩君…と猫さん?やってくれたんだ!!」
「あの2人は頼れるねんな。これで五顏六色の件は大丈夫やと思うけど、この仕事終わるまでは樹もついとるから心配せんといて」
笑いかける上の顔を陽はジッと見た。
「どしたん?」
「上君だって頼れるよ」
「え?いや、俺は…」
上はモゴモゴと口ごもる。
だが、陽の黒曜石のように輝く双眸は、恥ずかしがらずに素直な言葉を伝えようと上に思わせるには十分な光を持っていた。
「俺は……頼れる奴ちゃうよ。でも、なれるように頑張るから。少しずつかもせんけど」
力が足りていないことはわかっている。過大評価する気もない。決意を表明するのは照れくさいが、曇のない陽の眼を見て、自分もそうありたいと感じた────その気持ちが上の背中を押した。
上の頬を陽はプニッとつまむ。もはやお決まりのパターン、上も若干だが慣れてきた。
「やっぱりカッコ良いじゃん」
「…買い被りやって」
相変わらず顔は真っ赤で心臓はドキドキうるさく、今にも倒れてしまいそうだったが。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それから数日が経過し、ついにショートフィルムの撮影は全行程終了。
不審な事故もなく、五顏六色にも動きはなく、順風満帆のままクランクアップをした。
「お疲れ様でした!」
スタッフ達の声が響き、陽が満面の笑みで樹と上、燈瑩に駆け寄る。
「みんなお疲れ様!」
「陽もお疲れ。最後のシーン良かった。陽、すごい綺麗だった」
「おっ…俺もそう思ったで!!」
サラリと褒める樹に便乗し上も賛辞を述べる。が、どうしても気恥ずかしくなり、誤魔化すためにペットボトルの東特製ハーブティーをゴクゴクと飲み干した。
その様子を微笑ましく見ていた燈瑩が陽へ握手を差し出す。
「俺達の仕事はここまでだね。ありがとう」
陽はその手を握り返し、それから残念そうに呟いた。
「寂しくなっちゃうね」
樹はハイタッチのポーズをし、陽もそれに応える。パンッと小気味良い音が鳴った。
「上君も…」
「あ…せやな…」
笑顔の陽と視線が合わさり、上手いアクションが思い付かない上がオロオロする。
しかしどうやら陽も同じだったらしい。お互いが、言葉に詰まってしまっていた。
燈瑩とマネージャーが何か相談しはじめる。それを聞いていた樹も頷き、話がまとまると陽へと声を掛けた。
「陽、俺たちまだ現場の片付けとか手伝うから。上に街案内してもらっててよ」
「え?」
その樹の声に陽が振り返れば、ヒラヒラと手を振る燈瑩とその横で頷くマネージャーが目に入る。パアッと表情を明るくする陽とみるみる頬を染めて慌てる上。
「やった!上君、行こ!」
「えっ、ちょぉ待っ…」
言うが早いか上の手を引いて駆け出す陽の背中に、1時間くらいで帰ってきて下さいねとマネージャーが声を飛ばした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「1時間かぁ、短いね…どうしようか?」
フードをかぶり少し顔を隠した陽が笑う。
「上君のオススメの場所は?」
「えっ、え!?おっオススメ!?」
上は繋がれたままの手と陽の顔を交互に見た。すっかりキャパオーバーでオススメスポットどころの話ではないが、なんとか脳みそをフル回転させる。
「っと…九龍が見渡せる丘とか…」
「いいじゃない!そこにしよう!」
「あ、やけど片道30分近くかかるで?行って帰ってくるだけんなってまうかも…」
「行くまでの道も楽しもうよ」
フフッとはにかむ陽に、上の心臓が高鳴る。
俺、好きなんやな、陽さんのこと。
自覚すると同時に、身の程をわきまえろと上は自分を諫める。
美女とぽっちゃり。そんな映画はどうあがいても売れそうにない。
他愛もない話をしながら迷路のような街を通り抜け、高台にたどり着いた頃にはちょうど夕陽が九龍を照らしている頃だった。
「わぁ……綺麗ね……」
黄金色の光を浴びた違法建築の街並みは魔法がかかったように輝いている。大犯罪都市改め、魔女達が住んでいる城、なんて言えないこともなさそうだった。
「車やったらこっちの道から九龍の外回ってすぐ戻れんねん。徒歩やと逆に1時間はかかるけどな」
上は街のそこここを指差して、陽にあれやこれやと説明をする。でなければ間が持たなかったし、眩し過ぎた。
上にとってはキラキラと燦めく街より何十倍、いや何百倍、陽が綺麗に見えていた。
あっという間に時間は流れる。帰るのが惜しい、出来たらこのままここに居たい…馬鹿みたいな望みをチラつかせる心に蓋をして、上は陽を振り返る。
「陽さん、そろそろ──…」
「上君。あのね」
遮るように陽が言葉を発する。
その瞳は真っ直ぐ上を捉えていて、上は身動きが取れなくなった。
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