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光輝燦然・下
お話し合いと春一番
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光輝燦然10
────同時刻、香港、とあるビルの一室。
「こちらの書類、確認してもらえます?」
殺気立った雰囲気のなか、燈瑩が笑顔でアタッシュケースを開く。
五顏六色の事務所へ赴いた燈瑩と猫は、受け付けに着くやいなや社長と裏社会との繋がりの証拠の数々を見せ付けた。
プリントアウトしたメールのやり取りに、カメラの映像、写真、証言や会話の音声などなど内容は盛りだくさん。
受付嬢は慌ててどこかへ連絡し、不在だったはずの社長はガタイのいい男達を連れて現れ2人を取り囲んだ。
そのまま建物上階のVIPルームへと御案内されたのがついさっき。そこには更に数人、ガラの悪い人間が待ち構えていた。
「色々調べさせてもらいまして…社長さん、けっこう顔が広いみたいですね」
ニッコリと微笑む燈瑩を睨み付ける社長。テーブルを挟み革張りのソファで向かい合わせ、間には一触即発の空気が流れている。
「お前ら…どこの奴だ?目的は?」
「どこでもないけど。これはちょっとやり過ぎなんじゃないかなぁって思ってね」
言いながら燈瑩は、最近九龍で起こっている撮影中の事故に関しての資料を指でトントン叩いた。横に立つ猫が気怠そうに欠伸。
と、態度が気に食わなかったのか状況が悪いと思ったのか、隣にいた男の1人が猫に銃口を突き付けた。猫は眉を上げ体勢を変える。
瞬間────
キンッとかすかな金属音がして、その銃身が半分に割れた。
燈瑩は社長を見据えたままゆっくりと煙草に火を点け言う。
「あんまり物騒な事はしたくないんだよね」
一体何が起こったのかと事態が飲み込めない男達。懲りずにもう1人、また銃を構える。
キンッ。再び真っ二つになる銃身。猫の羽織がフワリと風をはらんだ。
「おい…俺達ぁ話し合いに来てんだよ、お前らの為にな。頭足りてねぇのか?」
そう吐き捨てると猫はおもむろに脇差の切っ先を社長へと向ける。そこで五顏六色側の人間全員が気が付いた。
拳銃は、この男によって斬られていたのだ。
はたから見れば僅かに動いただけの神速の抜刀。目にも止まらぬとはまさにこのこと。
「お前らの為、だぜ」
凄む猫。横目に煙草をふかしていた燈瑩も、自分の傍らで銃を片手にオロオロしている男へ笑いかけその銃身にそっと掌を添えた。
カシュンッ。
まばたきする間に、部品がバラッと落下する。持ち主は床へ散らばった鉄の塊をアタフタと拾い集めた。
乗り込んできたのはたった2人────だが戦力は圧倒的に上回っている。いや、だからこそ2人だけでも乗り込んできたのか。
たじろぐ五顏六色の面々に猫が詰め寄る。
「九龍に女流してイイ商売してんだろ?それをどうこう言うつもりぁねぇけどよ、表で品行方正を売りにしてんなら面の皮剥がれた時は大変だなぁ?」
あからさまに社長の目が泳ぎはじめた。九龍の風俗店に女性を売っているという情報はあったものの、どの店かまでは押えきれておらず裏取りは完璧ではなかったが…どうやら、カマかけは成功したようだ。
「五顏六色潰そうとしてるんじゃねんだよ、これ以上ここには手ぇ出すなっつーこった。欲張り過ぎんなってことだよ」
ボカシはしたが、つまり陽から手を引くなら裏社会との繋がりについては黙っておくということ。そうすればこれからも表舞台で何食わぬ顔でやっていけるだろう…二兎を追う者は一兎をも得ない。
もちろん全てを暴露して五顏六色を追い込むことも出来る。だがこういう場合、徹底して叩くよりも、弱みを握ってコントロールしておくほうがのちのち都合が良いのだ。
「お前ら…こんな脅しをかけて、これが表に出れば彩虹もただでは済まないぞ…」
「先に仕掛けてきたのはお宅でしょ?それに俺たちは事実上、彩虹と関係ないからね。表沙汰になって困るのはどっちかよく考えた方がいいよ」
社長の呟きに、煙草の煙を流しつつ落ち着き払った様子で答える燈瑩。
彩虹とは陽の事務所だが、黒社会と直接の繋がりがある訳ではないしブラックなことをしている訳でもない。燈瑩や樹はただの雇われバイト、猫に至っては誰とも面通しすらしておらず。正直彩虹側は裏社会については‘知らない’と言ったって嘘ではないのだ、突っつかれてもそこまで困らなかった。
逆に、もし彩虹と揉めてその原因を明るみに出されれば、痛い目をみるのは証拠の揃っている五顏六色である。簡単なお話。
考えたのち社長は話を渋々承諾し、その場でマフィアへと連絡して金輪際彩虹には手を出さないことを誓った。
猫と燈瑩も、五顏六色とマフィアの関係性については公表しない旨を伝える。
持参した品々はアタッシュケースごと全て社長へプレゼントした。もちろん原本のデータは手元にあるからなんの問題もない。
身軽になった2人は、振り返りもせず五顏六色のビルを後にする。
「んだよ、けっこうアッサリじゃねーか。骨ねぇなあの社長も」
「まぁ…現時点で損にならない方を取ったんじゃない?別に俺達も彩虹以外をどうこうする事には言及してないしね」
ひと仕事終え、維多利亞港で紫煙をくゆらせる猫と燈瑩。
猫はアッサリと評したが社長のほうはだいぶ腸が煮えくり返った顔をしていた。
そして燈瑩の言う通り、全てのイザコザから手を引けと忠告したのではない。彩虹へとちょっかいを出せなくなったぶんシワ寄せが他にいくことは十分考えられる。
けれどそれは正直預かり知らぬ所なのだ。
‘正義’なんてのは九龍の住人は持ち合わせていない。そんなものを心に宿している人間ならば、魔窟には籠もらず香港警察あたりで大活躍しているだろう。
「とにかくありがと猫、助かったよ。ガラが悪過ぎたけど」
「あぁ?そりゃ五顏六色だろが。つうかすぐチャカぶっ放すおめぇに言われたかねぇよ」
「今回はぶっ放してないじゃない」
「俺が抜刀したからだろ」
「あははっ」
軽口を叩き合いながら一服し終わると、燈瑩は上に連絡を入れた。
話し合いは穏便に進み、五顏六色はマフィアに通達を出したこと。恐らくこれ以降事故は起きないこと、夕方頃には現場に合流出来ること。
「で、お前あの妹とはどうなんだよ」
通話を切って携帯を畳む燈瑩を猫が茶化す。
「俺?俺は何もないよ」
「あっそ。一途だな。…ん?‘俺は’?」
「上があるかも」
「はぁ!?」
その返答に猫は爆笑。いいじゃねぇか、ついにあのブラコンにも春が来たか!と楽しそうに手を叩く姿に燈瑩も頬を緩めた。
────この冗談半分で口にされた言葉は、のちに、夢の様な形で現実になっていく。
────同時刻、香港、とあるビルの一室。
「こちらの書類、確認してもらえます?」
殺気立った雰囲気のなか、燈瑩が笑顔でアタッシュケースを開く。
五顏六色の事務所へ赴いた燈瑩と猫は、受け付けに着くやいなや社長と裏社会との繋がりの証拠の数々を見せ付けた。
プリントアウトしたメールのやり取りに、カメラの映像、写真、証言や会話の音声などなど内容は盛りだくさん。
受付嬢は慌ててどこかへ連絡し、不在だったはずの社長はガタイのいい男達を連れて現れ2人を取り囲んだ。
そのまま建物上階のVIPルームへと御案内されたのがついさっき。そこには更に数人、ガラの悪い人間が待ち構えていた。
「色々調べさせてもらいまして…社長さん、けっこう顔が広いみたいですね」
ニッコリと微笑む燈瑩を睨み付ける社長。テーブルを挟み革張りのソファで向かい合わせ、間には一触即発の空気が流れている。
「お前ら…どこの奴だ?目的は?」
「どこでもないけど。これはちょっとやり過ぎなんじゃないかなぁって思ってね」
言いながら燈瑩は、最近九龍で起こっている撮影中の事故に関しての資料を指でトントン叩いた。横に立つ猫が気怠そうに欠伸。
と、態度が気に食わなかったのか状況が悪いと思ったのか、隣にいた男の1人が猫に銃口を突き付けた。猫は眉を上げ体勢を変える。
瞬間────
キンッとかすかな金属音がして、その銃身が半分に割れた。
燈瑩は社長を見据えたままゆっくりと煙草に火を点け言う。
「あんまり物騒な事はしたくないんだよね」
一体何が起こったのかと事態が飲み込めない男達。懲りずにもう1人、また銃を構える。
キンッ。再び真っ二つになる銃身。猫の羽織がフワリと風をはらんだ。
「おい…俺達ぁ話し合いに来てんだよ、お前らの為にな。頭足りてねぇのか?」
そう吐き捨てると猫はおもむろに脇差の切っ先を社長へと向ける。そこで五顏六色側の人間全員が気が付いた。
拳銃は、この男によって斬られていたのだ。
はたから見れば僅かに動いただけの神速の抜刀。目にも止まらぬとはまさにこのこと。
「お前らの為、だぜ」
凄む猫。横目に煙草をふかしていた燈瑩も、自分の傍らで銃を片手にオロオロしている男へ笑いかけその銃身にそっと掌を添えた。
カシュンッ。
まばたきする間に、部品がバラッと落下する。持ち主は床へ散らばった鉄の塊をアタフタと拾い集めた。
乗り込んできたのはたった2人────だが戦力は圧倒的に上回っている。いや、だからこそ2人だけでも乗り込んできたのか。
たじろぐ五顏六色の面々に猫が詰め寄る。
「九龍に女流してイイ商売してんだろ?それをどうこう言うつもりぁねぇけどよ、表で品行方正を売りにしてんなら面の皮剥がれた時は大変だなぁ?」
あからさまに社長の目が泳ぎはじめた。九龍の風俗店に女性を売っているという情報はあったものの、どの店かまでは押えきれておらず裏取りは完璧ではなかったが…どうやら、カマかけは成功したようだ。
「五顏六色潰そうとしてるんじゃねんだよ、これ以上ここには手ぇ出すなっつーこった。欲張り過ぎんなってことだよ」
ボカシはしたが、つまり陽から手を引くなら裏社会との繋がりについては黙っておくということ。そうすればこれからも表舞台で何食わぬ顔でやっていけるだろう…二兎を追う者は一兎をも得ない。
もちろん全てを暴露して五顏六色を追い込むことも出来る。だがこういう場合、徹底して叩くよりも、弱みを握ってコントロールしておくほうがのちのち都合が良いのだ。
「お前ら…こんな脅しをかけて、これが表に出れば彩虹もただでは済まないぞ…」
「先に仕掛けてきたのはお宅でしょ?それに俺たちは事実上、彩虹と関係ないからね。表沙汰になって困るのはどっちかよく考えた方がいいよ」
社長の呟きに、煙草の煙を流しつつ落ち着き払った様子で答える燈瑩。
彩虹とは陽の事務所だが、黒社会と直接の繋がりがある訳ではないしブラックなことをしている訳でもない。燈瑩や樹はただの雇われバイト、猫に至っては誰とも面通しすらしておらず。正直彩虹側は裏社会については‘知らない’と言ったって嘘ではないのだ、突っつかれてもそこまで困らなかった。
逆に、もし彩虹と揉めてその原因を明るみに出されれば、痛い目をみるのは証拠の揃っている五顏六色である。簡単なお話。
考えたのち社長は話を渋々承諾し、その場でマフィアへと連絡して金輪際彩虹には手を出さないことを誓った。
猫と燈瑩も、五顏六色とマフィアの関係性については公表しない旨を伝える。
持参した品々はアタッシュケースごと全て社長へプレゼントした。もちろん原本のデータは手元にあるからなんの問題もない。
身軽になった2人は、振り返りもせず五顏六色のビルを後にする。
「んだよ、けっこうアッサリじゃねーか。骨ねぇなあの社長も」
「まぁ…現時点で損にならない方を取ったんじゃない?別に俺達も彩虹以外をどうこうする事には言及してないしね」
ひと仕事終え、維多利亞港で紫煙をくゆらせる猫と燈瑩。
猫はアッサリと評したが社長のほうはだいぶ腸が煮えくり返った顔をしていた。
そして燈瑩の言う通り、全てのイザコザから手を引けと忠告したのではない。彩虹へとちょっかいを出せなくなったぶんシワ寄せが他にいくことは十分考えられる。
けれどそれは正直預かり知らぬ所なのだ。
‘正義’なんてのは九龍の住人は持ち合わせていない。そんなものを心に宿している人間ならば、魔窟には籠もらず香港警察あたりで大活躍しているだろう。
「とにかくありがと猫、助かったよ。ガラが悪過ぎたけど」
「あぁ?そりゃ五顏六色だろが。つうかすぐチャカぶっ放すおめぇに言われたかねぇよ」
「今回はぶっ放してないじゃない」
「俺が抜刀したからだろ」
「あははっ」
軽口を叩き合いながら一服し終わると、燈瑩は上に連絡を入れた。
話し合いは穏便に進み、五顏六色はマフィアに通達を出したこと。恐らくこれ以降事故は起きないこと、夕方頃には現場に合流出来ること。
「で、お前あの妹とはどうなんだよ」
通話を切って携帯を畳む燈瑩を猫が茶化す。
「俺?俺は何もないよ」
「あっそ。一途だな。…ん?‘俺は’?」
「上があるかも」
「はぁ!?」
その返答に猫は爆笑。いいじゃねぇか、ついにあのブラコンにも春が来たか!と楽しそうに手を叩く姿に燈瑩も頬を緩めた。
────この冗談半分で口にされた言葉は、のちに、夢の様な形で現実になっていく。
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