九龍懐古

カロン

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光輝燦然・下

決意と急上昇・後

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光輝燦然8





ヨウさん、ケガあらへんかった?」
「うん。お医者様は大袈裟だったけどね」

2人で笑うと、一呼吸おいてカムラは爆発前のヨウの質問に答えはじめた。
ライバル会社がヨウを狙っているらしいこと、先日の事故も故意だろうということ、真相を突き止める為に自分達が動いていること、ピリついて見えたのはそのせいだということ。ヨウは黙って聞いていた。

「でも、俺らが絶対守ったるから」

話し終えたあと、カムラヨウの目を見て言うとヨウもまた凛とした表情でカムラを見詰め返し頷く。怯えるでもなく嘆くでもなく、何か決意を新たにした様子。その瞳には変わらず光が宿っている。

─────強い女性ひとだな、とカムラは思った。

カムラ君、ごめんね」
「え?」
「助けてくれて。いくらお仕事だって言ったって大変でしょう」
「あ、いやええんよそれは…」

申し訳無さそうな笑顔のヨウに、カムラは迷ったが、自分の話をすることにした。

カズラの事だ。

数ヶ月前に友人を亡くしてしまった。どうしようもない事態だったが、自分の力不足だという面が大いにあった。助けたかったその命は指の間をすり抜けてしまい、不甲斐なくてやり切れなくて涙が出た。
そして誓ったのだ、次は必ずその手を掴むと。あれから成長出来たかどうかはわからないけれど今度こそは護りたいのだと。

燈瑩トウエイとの関係も少しだけ口にした。出会った時からこれまで、その背中を追うばかりなこと。どうにか恩を返して力になりたいと思っていること。
ユエについてはもちろん伏せておいた。妹だと知っているから護りたいと思っているというのもあったけれど…それは自分が語る事じゃない。

「まぁ、せやからヨウさんが気にせんでええんて。なんかもう俺の問題やねん」

表情を崩し笑うカムラヨウはその手をそっと握って言った。

「話してくれてありがとう、カムラ君」

真っ直ぐな視線にカムラはたじろぐ。なにもせずとも心拍数が急上昇しているのに、手まで握られ顔が真っ赤になっているのが自分でもわかった。

「私ね、孤児院で育ったのよ。悔しい思いもいっぱいしてきた…だけど周りの人達に沢山支えてもらってここまで来れたの。みんなになにか返したい、っていつも思ってる。私ももっと頑張るね」

噛みしめるようなヨウの言葉には揺るぎのない意志がこめられている。
その眼差しに、カムラも何か心の底から湧き上がる力を感じた。

「この撮影も、最後までやり通す。迷惑かけちゃうけど頼りにしてるね」
「迷惑やないよ。ヨウなら絶対出来る」

昂ぶる想いに気を取られつい呼び捨てにしてしまいカムラは動揺したが、ヨウは大輪の華のような笑顔を咲かせた。


イツキと互いに状況説明をしたマネージャーが戻ってきて、カムラは部屋を出る。無駄な動揺を広げないためにこの騒動はさしあたり ‘ガス漏れ’ が原因だとしておくらしい。

廊下で一息つくカムラ燈瑩トウエイからの電話。

爆弾の写真見た感じ、既製品の安いやつっぽいかな…輸入ルートあたってみるよ」
「爆発の威力自体はつよなかったですからね、床がボロいから抜けてもうただけで」
「殺すつもりじゃないはずだから妥当だと思うけど…ごめんね、こんな時に居なくて…」

イツキヨウに続き燈瑩トウエイにも謝られてしまった。誰も彼も自分より人の心配をするのだ、九龍の裏社会の人間とは思えないほど───まぁヨウは香港の表社会なのだが、とにかく。
そしてまた、気にかけさせてしまう己の力の無さを情けなく感じるカムラもいた。

燈瑩トウエイさんは色々動いてくれとるやないですか。俺も、俺に出来ること精一杯やらしてもらいますよ」

ダサくてもカッコ悪くても、やる価値が無い訳ではない。きっと何かの役には立てる。

その台詞に礼を言う燈瑩トウエイに、別にお礼を言われることではない、そんなもの当然だし自分自身の為でもあるから…などと真面目に切り返すカムラ。しばし問答が続く。

数分後、カムラが通話を終えて振り返るとヨウが壁際から覗き込んでいた。足早にカムラへと近寄り、その頬を初めて会った時のようにプニッとつまむ。

「カッコ良いじゃん」
「へっ!?あ…お、おおきに…」

カムラの声が裏返った。相変わらず真っ赤になった顔としどろもどろな返答で全く格好はついていなかったが、そんなカムラを見やり、ヨウは満足そうにニッコリ微笑んだ。
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