九龍懐古

カロン

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光輝燦然・下

五顏六色と謎の小袋

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光輝燦然6





それから【酔蝶】のオーナーは店を畳み、ヨウの居る孤児院へと素性を隠して転職。そのオーナーを通し、燈瑩トウエイユエと同じく名乗りはせずにヨウへ仕送りをしていたとの事。
ヨウと二人三脚でやってきて保護者代わりでもあるマネージャーは全てを知っており、燈瑩トウエイと仲が良いのはそのせいだった。



「ごめんね、聞いてもらっちゃって。ヨウには内緒にしておいてくれると助か…うわっ」

振り返ったカムラの妖怪のような泣き顔に、燈瑩トウエイはビクッと肩を震わせる。

「と、燈瑩《トウエイ》ざぁん…ずんまぜっ、俺…なんも知らんでぇ…」
「泣かないでよ、カムラが知らなかったんじゃなくて俺が話してなかっただけだし」

えぐえぐと涙を流すカムラの背中をさする燈瑩トウエイ

これで燈瑩トウエイの視線の意味やマネージャーとの関係、ついでに頬の傷の理由まで全ての謎が解けた。
長かった髪を数年前にバッサリ切ったのも、ヨウの独り立ちを見届けて、自分の役目が一旦終了したという区切りだったからだろう。

ユエさんの事があったすぐあとやのに…俺達兄弟おれらを助けてくれて…」
「いや、助けられたのは俺の方だから。助けさせてくれて本当に助かった」

なんかわかりづらいね、と燈瑩トウエイは笑う。
けれど言わんとしている内容は伝わったので、カムラは鼻をすすりつつ頷いた。

燈瑩トウエイユエを救えなかったことをいていて、そこに現れたカムラ大地ダイチを今度こそは救いたかった。
ユエの替わりなどというわけでは勿論無い。だが2人の存在、そして誰かに手を差し伸べ力になれたことがあの時の燈瑩トウエイを助けたのは事実だった。

俺はカムラからも大地ダイチからも、色んな物をもらってる。だからこれからも俺を支えてよ───そう燈瑩トウエイは言っていた。
これまでカムラはその真意がわからなかったが、今ならわかる。

「あれっ燈瑩トウエイ君、カムラ君泣かせてるの?」

テイクの合間、小休憩を取ろうと裏手へ歩いてきたヨウが驚いた声をあげた。

ヨウざんっ…アンタんことは、何があっても俺が絶対守ったるからな…!!」
「やだ、どうしたの」

振り返ったカムラの妖怪のような泣き顔に、ヨウはビクッと肩を震わせる。

ヨウさん、メイク直しいいですか?こちらにお願いします」
「あっ!はぁい!」

メイク係に呼ばれ、ヨウは行ってくるねと言い残しワゴン車の中へと消えた。
それを確認すると燈瑩トウエイが声のトーンを落として再び話し始める。

「本題なんだけど…カムラ五顏六色カラフルって事務所知ってるかな」
五顏六色カラフル?あ、アイドルグループとかよう出しとる清楚系なとこですよね」
「うん。で、ヨウの事務所とライバル関係でヨウを引退させたがってるって噂がある」
「引退?どうやって…」
「‘マフィアとの繋がりを使って’みたい」
「あの品行方正を売りにしとる会社が?」

カムラは目を丸くした。
華やかな世界と裏社会との縁は切っても切れない物だ。そんな中でもブラックな事は全く無く、笑顔とハートで勝負します…等と売り出していた爽やかな五顏六色カラフルの若社長。
テレビにもたびたび出演していて、その信念を熱く語る姿勢は好感が持てたが。

「あの竹の足場のロープ…細工された跡があった。手を貸してる人間がいそうだね」

燈瑩トウエイの言葉に、カムラは朝の場面を思い返す。何かを確認していたのはこれだったのか。

社長が直接工作をしに表に出てくることはまず無いはずだ、おそらく裏社会の繋がりへ‘ヨウを引退させてほしい’旨の依頼をかけ、それを受けた何者かが動いている。
さすがに殺してくれなどといった最終手段ではなく、事故に見せ掛けた復帰出来ない程度の怪我でも頼んだのだろうというところ。
だとしても十二分に物騒ではあるけれど。

「ちょっと調べ物、頼まれてくれる?」
「任して下さい」

燈瑩トウエイの言葉にカムラは胸を叩くジェスチャーをし、なるほどと納得する。
アズマじゃない理由はここにもあった。警護要員としてのイツキと、情報屋としてのカムラ

「何もなければいいと思ってたんだけど…」

ごめんね、最初に伝えておくべきだった。
そう謝る燈瑩トウエイカムラは頭を横にブンブン振る。

「なんも起こらんかったら話す必要なかったんやし。俺こそ立ち入った話聞いてもうて」
「そんなことないよ。俺も…」

燈瑩トウエイはフウッと煙を吹いて遠くを見詰めた。

「ちゃんと話さないとね。イツキみたいに」

自分に言い聞かせるように呟く。今はみんなが家族だからと、隠さず過去を語ったイツキ燈瑩トウエイはその姿に少し感銘を受けていた。

「別に話さなくてもいいと思う」

いつの間にか後ろで聞いていたらしいイツキが顔を出す。

燈瑩トウエイの過去は燈瑩トウエイの物だし。それに俺は俺1人だけの問題だったけど、そっちは何か違うみたいだし」

話したくなったらでいいんじゃない?話さなくても過去がどうでも燈瑩トウエイ燈瑩トウエイだよ、ねぇカムラ?とイツキ鴛鴦茶ユンヨンチャーすする。
イツキがみんなに過去を話した時にカムラが言った台詞。カムラは頭を、今度は縦にブンブン振る。

その仕草に口元を押さえつつ、燈瑩トウエイはありがとうと柔らかく微笑んだ。





撮影は順調に進み、夕方頃に終了し解散の声がかかる。香港へと帰っていくヨウの車を眺めて一同はとりあえず一安心。
事故に見せかけるにしろなんにしろ、やるなら無法地帯で治外法権‘九龍城砦’の方が都合がいいはずだ。香港に戻ればひとまず危険は回避できるだろう。

帰り際、3人はヨウに内緒でマネージャーへと軽く事情を説明した。だが五顏六色カラフルについては以前から良くない噂があったらしく、話の内容を聞いたマネージャーは逆に納得した様子だった。
撮影の方は、現時点ではまだ五顏六色カラフルやマフィアとの関連性がハッキリしない事、ヨウは性格的に一度引き受けた仕事は絶対に途中で投げ出さない事から、様子を見ながら慎重に続行させる意向。
イツキ燈瑩トウエイカムラも同時進行で裏社会や今朝の事件との事実関係を調べておくと約束した。
無論明日以降の警護も継続。しばらくは昼も夜も忙しくなりそうだ。



そしてそれぞれ家路についたが、イツキは今夜も【東風】へ。扉を開けるとすでに良い香り、相変わらずアズマが夕飯を作っている。

「おかえりー、洗濯物あったら出しといて」

キッチンからアズマの声が飛んできた。母親ってこんな感じかなぁとイツキは思うも、上手くイメージ出来なかったのでカムラに置き換える。
大地ダイチの話がよく理解わかった。


「あら、危機一髪だったのね」
「うん。でさ、何か朝にスッキリ目が覚めるようなお茶とか漢方ない?」
「それは違法」
「じゃないやつ」

夕飯中、イツキが今朝の事故についてアズマに話すと、アズマは薬棚をゴソゴソやって手の平サイズの布製の小袋を出してきた。朱色の巾着に金糸の刺繍で‘福’の文字、旧正月の飾りみたいで可愛らしい。

「なにこれ」
アズマ特製ハーブバッグ。嗅いでみて」

イツキは袋に鼻をつけ軽く吸い込んだ。スウッとする目が覚める香り。中にはドライハーブや茶葉、緑茶粉末が入っているらしい。
水やお湯に混ぜて飲んでもシャキッとしますよお客さん、と違法薬師はニヤリとする。急に危ない植物に思えてくる。

イツキ、使ったら感想聞かせてよ。新商品にしようかと思ってるから」
「表の?裏の?」
「両方の」

表の店先へと並べるのは特製ハーブ合法ミックス、裏の路地で流すのは特製ハーブ違法ミックス。アズマは割と仕事熱心──良い言い方をすれば──で、常に新商品開発にいとまがない。

「ありがと。持ってく」
「まいど、これからもご贔屓に」

礼を言うイツキアズマがシシッと笑う。

そういえば今日カムラから鴛鴦茶ユンヨンチャーを奪ってしまったな…あとでもう一袋拝借してカムラにもわけてあげよう…と、イツキは小袋をニギニギしつつ思った。
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