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光輝燦然・上
麗人と熊・後
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光輝燦然3
花街、中流階級区域。途中休憩で行きつけの鶏蛋仔屋に寄ると陽の姿を見た店主は飛び跳ねて喜び、皆に鶏蛋仔を無料でプレゼントしてくれた。
陽はお返しにサインを書き記念写真を撮り、ニコニコと店主と長話。ファンサービスが手厚い、人柄が好かれるのも頷けた。
「ところで兄ちゃん、次の試合はいつやるんだよ?ギャラリーがずぅっと待ってるぜ」
「へ?やらんやらん!もうやらんて!」
唐突な店主の質問に上は慌てて首をふる。気になったらしい陽も会話に入ってきた。
「上君なにかの選手なの?」
「あぁ、格闘技のな。この兄ちゃん人気のファイターなんだよ」
「へぇ!じゃあ強いんだ!」
「全っ然強ない。めっちゃ弱い、ホンマに」
なぜか得意げな店主の言にキラキラした目を向けてくる陽へ、シワクチャな顔で返事をする上。期待に応えられず申し訳ないが、見栄を張るつもりも尾鰭をつけるつもりも無い。弱いのだから弱いと言ったまで。
ところがそんな上の愚直さが、逆に陽を感心させたらしい。
「なのに試合に出てるの?勇敢なんだね」
「そんなんちゃうよ、成り行きで…」
「でも人気なのよね?」
そうだぜ、兄ちゃんの食らいつく姿がカッコいいんだなどと店主が騒ぎ立てる。
陽は胸の前で両手を組むと、屈んで上の顔を覗き込み言った。
「みんなの心を動かしてるってことでしょ。それって、とってもすごいことよ」
上目遣いにノックアウトされそうになる上。試合終了、勝者陽。これは駄目だ、誰しもが夢中になる。わかる。
だが愛らしさにトキめいたのはさておき、陽が口にした言葉が上は純粋に嬉しかった。
‘みんなの心を動かしている、それは、とてもすごいこと’なのだと。
店主はやたらと誉めてくれているが、どうにも格好のつかない一戦だった。けれどやってみた価値はあったのだろうか。
次の試合は応援に行くから!と笑い、再び店主と話しはじめる陽の背中を上は眺めた。
その視界にうつる、相変わらず優しく陽を見詰める燈瑩。
「燈瑩って何でこの仕事受けたんだろ」
横で鶏蛋仔をかじる樹がふいに口を開く。上は軽く首をかしげた。
「そりゃ、あのマネージャーさんと知り合いやからちゃうん」
「それはそうなんだけど…それだけじゃない気がする」
「え?樹も思っててん?」
「ひや、へんへんわはんはいへほ」
「急に頬張るやん」
上はまた陽と燈瑩へ視線を向けた。
樹から見てもそうなのであれば、上が感じていたことは気のせいではなかったらしい。
…聞いてみようか。ヤボだろうか。
そして夕暮れ、撤収直前にマネージャーから新たな打診。これからしばらく九龍で撮影を行いたいので、引き続き案内係を務めてもらえないかとのこと。
燈瑩はもちろんオーケーを出し樹も同意、なんとか緊張をほぐした上も頷いた。
「わぁ、また明日からもみんなと一緒なの?嬉しい!」
陽がしなやかな黒髪をなびかせ屈託のない顔で笑う。詳細は追って連絡しますと告げるマネージャーに連れられ、車に乗り込む姿を見送り3人も家路へとついた。
「これ、東には言わないでおく?」
樹の言葉にどっちでもいいよと燈瑩は微笑む。樹はわかったと返すも、正直元から言うつもりはあまりなかった。面倒なことになりそうだからだ。
各々自分の家へ帰宅したが、樹は【東風】へ。明日も街の中流階級側に集合するなら自宅よりも【東風】の方が距離が近かったので、泊まってしまおうと思った為である。
東は店内の生活スペースにベッドや椅子をまた何台か増やしていた。以前よりも色々な人間が入り浸るようになったせいだ。
もう自分家引き払っちゃおうかなぁ、と樹は考えていた。どうせロクに戻ってないし荷物もさして置いてない。
【東風】に住んじゃったらいいんじゃないかなぁ?みんなも来るし。
「ただいま」
「おう、おかえり」
一応は他人の家だというのに特に連絡もせず普通に帰ってくる樹に、これまた普通に対応する東。
やっぱりここに住もう。そう思いながら上着を脱ぐ樹に東が嬉々として問い掛ける。
「ねぇねぇ、要人って誰だった?」
「ヨ……」
「よ?」
「……要人の情報は機密事項なので、契約が終了するまでは他言出来ません」
危ない。違うことを考えていたので、ポロッと‘陽’と言ってしまうところだった。
「あれ?バイト今日だけじゃなかったの?」
「気に入ってもらえたみたい。暫くやる」
「そっか、じゃあ楽しみにしとくわ」
あっさりと引き下がる東。まさか陽だとは思っていないからだろう。
樹は、仕事が終わるまでに東宛てのサインくらいは貰っておいてあげようと、こっそり心に決めた。
花街、中流階級区域。途中休憩で行きつけの鶏蛋仔屋に寄ると陽の姿を見た店主は飛び跳ねて喜び、皆に鶏蛋仔を無料でプレゼントしてくれた。
陽はお返しにサインを書き記念写真を撮り、ニコニコと店主と長話。ファンサービスが手厚い、人柄が好かれるのも頷けた。
「ところで兄ちゃん、次の試合はいつやるんだよ?ギャラリーがずぅっと待ってるぜ」
「へ?やらんやらん!もうやらんて!」
唐突な店主の質問に上は慌てて首をふる。気になったらしい陽も会話に入ってきた。
「上君なにかの選手なの?」
「あぁ、格闘技のな。この兄ちゃん人気のファイターなんだよ」
「へぇ!じゃあ強いんだ!」
「全っ然強ない。めっちゃ弱い、ホンマに」
なぜか得意げな店主の言にキラキラした目を向けてくる陽へ、シワクチャな顔で返事をする上。期待に応えられず申し訳ないが、見栄を張るつもりも尾鰭をつけるつもりも無い。弱いのだから弱いと言ったまで。
ところがそんな上の愚直さが、逆に陽を感心させたらしい。
「なのに試合に出てるの?勇敢なんだね」
「そんなんちゃうよ、成り行きで…」
「でも人気なのよね?」
そうだぜ、兄ちゃんの食らいつく姿がカッコいいんだなどと店主が騒ぎ立てる。
陽は胸の前で両手を組むと、屈んで上の顔を覗き込み言った。
「みんなの心を動かしてるってことでしょ。それって、とってもすごいことよ」
上目遣いにノックアウトされそうになる上。試合終了、勝者陽。これは駄目だ、誰しもが夢中になる。わかる。
だが愛らしさにトキめいたのはさておき、陽が口にした言葉が上は純粋に嬉しかった。
‘みんなの心を動かしている、それは、とてもすごいこと’なのだと。
店主はやたらと誉めてくれているが、どうにも格好のつかない一戦だった。けれどやってみた価値はあったのだろうか。
次の試合は応援に行くから!と笑い、再び店主と話しはじめる陽の背中を上は眺めた。
その視界にうつる、相変わらず優しく陽を見詰める燈瑩。
「燈瑩って何でこの仕事受けたんだろ」
横で鶏蛋仔をかじる樹がふいに口を開く。上は軽く首をかしげた。
「そりゃ、あのマネージャーさんと知り合いやからちゃうん」
「それはそうなんだけど…それだけじゃない気がする」
「え?樹も思っててん?」
「ひや、へんへんわはんはいへほ」
「急に頬張るやん」
上はまた陽と燈瑩へ視線を向けた。
樹から見てもそうなのであれば、上が感じていたことは気のせいではなかったらしい。
…聞いてみようか。ヤボだろうか。
そして夕暮れ、撤収直前にマネージャーから新たな打診。これからしばらく九龍で撮影を行いたいので、引き続き案内係を務めてもらえないかとのこと。
燈瑩はもちろんオーケーを出し樹も同意、なんとか緊張をほぐした上も頷いた。
「わぁ、また明日からもみんなと一緒なの?嬉しい!」
陽がしなやかな黒髪をなびかせ屈託のない顔で笑う。詳細は追って連絡しますと告げるマネージャーに連れられ、車に乗り込む姿を見送り3人も家路へとついた。
「これ、東には言わないでおく?」
樹の言葉にどっちでもいいよと燈瑩は微笑む。樹はわかったと返すも、正直元から言うつもりはあまりなかった。面倒なことになりそうだからだ。
各々自分の家へ帰宅したが、樹は【東風】へ。明日も街の中流階級側に集合するなら自宅よりも【東風】の方が距離が近かったので、泊まってしまおうと思った為である。
東は店内の生活スペースにベッドや椅子をまた何台か増やしていた。以前よりも色々な人間が入り浸るようになったせいだ。
もう自分家引き払っちゃおうかなぁ、と樹は考えていた。どうせロクに戻ってないし荷物もさして置いてない。
【東風】に住んじゃったらいいんじゃないかなぁ?みんなも来るし。
「ただいま」
「おう、おかえり」
一応は他人の家だというのに特に連絡もせず普通に帰ってくる樹に、これまた普通に対応する東。
やっぱりここに住もう。そう思いながら上着を脱ぐ樹に東が嬉々として問い掛ける。
「ねぇねぇ、要人って誰だった?」
「ヨ……」
「よ?」
「……要人の情報は機密事項なので、契約が終了するまでは他言出来ません」
危ない。違うことを考えていたので、ポロッと‘陽’と言ってしまうところだった。
「あれ?バイト今日だけじゃなかったの?」
「気に入ってもらえたみたい。暫くやる」
「そっか、じゃあ楽しみにしとくわ」
あっさりと引き下がる東。まさか陽だとは思っていないからだろう。
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