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光輝燦然・上
仕事依頼と鴛鴦茶
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光輝燦然1
《疲れた時に、ホッと一息!いつもあなたのお側に…鴛鴦茶♡》
「あぁー…陽ちゃん可愛い…」
東がコマーシャルを見ながら呟く。
画面に映るのは売り出し中の若手女優陽。
鴛鴦茶のペットボトルを片手にウインク、長い黒髪がふんわり揺れる。整った顔とスタイル、可憐という言葉が似合うだろうか?
しかしそれでいて芯の強さも感じさせる雰囲気、加えて性格も良いらしく老若男女問わず人気が高い。これからの世代を担うであろう女優の1人だ。
「東ってもっと…アメリカン?なお姉さんが好きじゃなかったっけ?」
「それはそれ、これはこれだ。全ての女性は美しい」
「ふぅん」
質問を振っておいて答えには興味が無さそうな樹に、東は冷たくしないでと哀願した。
別に興味が無かったという訳ではない。ちょっと、返答の言葉のチョイスが鬱陶しかっただけである。
ピーピー言う東を樹があしらっているとふいに【東風】の扉が開き、甘く芳ばしい匂いが店内に漂った。
「お疲れさん」
「上!焼き芋?」
両手に紙袋を抱えた上が現れ、樹の興味も美味しい香りを放つその袋へと一瞬で移る。
「上お前なぁ、食い物で樹釣ってんじゃねぇよ!!汚ねぇぞ!!」
「何なん、また樹に冷たくされててん?自業自得ちゃうん?」
東を一刀両断しながらテーブルにゴロゴロと焼き芋を広げる上。
白い湯気をたたえた紫の塊はほくほくと柔かそうに仕上がっていて、ボリュームもある。今日のランチに決定だ。
「樹、燈瑩さんから話聞いたやろ」
「うん。あひゃってでひょ?行くほ」
腰を下ろし皮をむきはじめる上に、既に席について芋を2つに割り真ん中からかぶりついている樹が頷く。口の中をハホハホさせ、ギリギリ解読可能な言葉を喋った。
燈瑩の話とは護衛のバイト。
近々仕事で香港から九龍に来る要人…所謂VIPの警備をして欲しいとのことだ。
といっても危険が差し迫っているわけではない、どちらかといえば案内役。九龍に詳しい人間に助力してほしい旨、香港の知人から燈瑩に依頼がきたのだった。
そこで手伝わないかと声が掛かったのが樹と上。報酬はなかなか高額。
「しかし燈瑩さん、色々よぉわからんツテ持っとるよな」
「ほへは、バイホはらはんへほひい」
「こっちもよぉわからんな」
焼き芋を頬張り過ぎてもはや何を言っているかわからない樹に上がツッコみ、その横から小振りの芋を頂戴しつつ東が口を挟む。
「つうか護衛なのによく行く気になったな上。心境の変化?」
上は地下格闘技に出てから若干身体を鍛え始めたなどという噂もある。
腹周りの具合を見るに噂の域を全く出ないが、それでも熱く拳をふるってリングで闘ったのだ、何か思うところが────
「いや今月家計赤字やねん」
ただの金欠だった。
「でもボディーガードだろ一応」
「俺は身の回りのお世話係やから、戦闘は燈瑩さんと樹にお任せ。なんもあらへんと思うけどな」
ないない!と手をパタパタさせる上。
確かにそんなに危ない仕事なら燈瑩とて、樹はまだしも上には持ってこないだろう。
「で、依頼人は誰なの? 」
「わからん。当日まで内緒なんやって」
「芸能人だったらサイン貰ってきてよ」
「ミーハーかい」
東の軽口に上はため息をつく。
けれど実際、相手が誰だかは上も気になるところではあった。現時点でわかっているのは職種や性格を含め悪い人間ではないということくらい。
裏社会の輩の警護など燈瑩がするはずもないし上にさせるはずもない。性格の良くない人間もそうだ、まず客として選ばない。
安全で感じもいい人物。且つVIP。
だが、誰であるかは伏せられているにせよ、上からすれば文句のつけようがないバイトだった。
金持ちというとなんとなく嫌味なタイプが目に付きがちで、偉そうにし周りをヘコヘコさせるといったイメージがある。
しかし今回の依頼人はそういったこともないのだろう。ストレスフリーな上に報酬も高い、なんとも有り難い話だ。
「燈瑩、俺の事も誘ってくれていいのに」
「信用無いんとちゃうか」
ぶーたれる東を上が切って捨てる。
とはいえ東はプライベートはダメダメだが、仕事に関しては口が固いしいざとなったら踏ん張る男気もそれなりにある。
東でも別に良かったような気もするけど。俺が金に困ってたから案件を回してくれたのかな、と上は焼き芋を剥きつつ思った。
《疲れた時に、ホッと一息!いつもあなたのお側に…鴛鴦茶♡》
CMが流れる。画面の中で笑う少女。
実は燈瑩が東を選ばなかった理由は他にもあったのだが、この時の上はまだそれを知らない。
そして、これから起こる、にわかには信じられないような素敵な物語のことも。
《疲れた時に、ホッと一息!いつもあなたのお側に…鴛鴦茶♡》
「あぁー…陽ちゃん可愛い…」
東がコマーシャルを見ながら呟く。
画面に映るのは売り出し中の若手女優陽。
鴛鴦茶のペットボトルを片手にウインク、長い黒髪がふんわり揺れる。整った顔とスタイル、可憐という言葉が似合うだろうか?
しかしそれでいて芯の強さも感じさせる雰囲気、加えて性格も良いらしく老若男女問わず人気が高い。これからの世代を担うであろう女優の1人だ。
「東ってもっと…アメリカン?なお姉さんが好きじゃなかったっけ?」
「それはそれ、これはこれだ。全ての女性は美しい」
「ふぅん」
質問を振っておいて答えには興味が無さそうな樹に、東は冷たくしないでと哀願した。
別に興味が無かったという訳ではない。ちょっと、返答の言葉のチョイスが鬱陶しかっただけである。
ピーピー言う東を樹があしらっているとふいに【東風】の扉が開き、甘く芳ばしい匂いが店内に漂った。
「お疲れさん」
「上!焼き芋?」
両手に紙袋を抱えた上が現れ、樹の興味も美味しい香りを放つその袋へと一瞬で移る。
「上お前なぁ、食い物で樹釣ってんじゃねぇよ!!汚ねぇぞ!!」
「何なん、また樹に冷たくされててん?自業自得ちゃうん?」
東を一刀両断しながらテーブルにゴロゴロと焼き芋を広げる上。
白い湯気をたたえた紫の塊はほくほくと柔かそうに仕上がっていて、ボリュームもある。今日のランチに決定だ。
「樹、燈瑩さんから話聞いたやろ」
「うん。あひゃってでひょ?行くほ」
腰を下ろし皮をむきはじめる上に、既に席について芋を2つに割り真ん中からかぶりついている樹が頷く。口の中をハホハホさせ、ギリギリ解読可能な言葉を喋った。
燈瑩の話とは護衛のバイト。
近々仕事で香港から九龍に来る要人…所謂VIPの警備をして欲しいとのことだ。
といっても危険が差し迫っているわけではない、どちらかといえば案内役。九龍に詳しい人間に助力してほしい旨、香港の知人から燈瑩に依頼がきたのだった。
そこで手伝わないかと声が掛かったのが樹と上。報酬はなかなか高額。
「しかし燈瑩さん、色々よぉわからんツテ持っとるよな」
「ほへは、バイホはらはんへほひい」
「こっちもよぉわからんな」
焼き芋を頬張り過ぎてもはや何を言っているかわからない樹に上がツッコみ、その横から小振りの芋を頂戴しつつ東が口を挟む。
「つうか護衛なのによく行く気になったな上。心境の変化?」
上は地下格闘技に出てから若干身体を鍛え始めたなどという噂もある。
腹周りの具合を見るに噂の域を全く出ないが、それでも熱く拳をふるってリングで闘ったのだ、何か思うところが────
「いや今月家計赤字やねん」
ただの金欠だった。
「でもボディーガードだろ一応」
「俺は身の回りのお世話係やから、戦闘は燈瑩さんと樹にお任せ。なんもあらへんと思うけどな」
ないない!と手をパタパタさせる上。
確かにそんなに危ない仕事なら燈瑩とて、樹はまだしも上には持ってこないだろう。
「で、依頼人は誰なの? 」
「わからん。当日まで内緒なんやって」
「芸能人だったらサイン貰ってきてよ」
「ミーハーかい」
東の軽口に上はため息をつく。
けれど実際、相手が誰だかは上も気になるところではあった。現時点でわかっているのは職種や性格を含め悪い人間ではないということくらい。
裏社会の輩の警護など燈瑩がするはずもないし上にさせるはずもない。性格の良くない人間もそうだ、まず客として選ばない。
安全で感じもいい人物。且つVIP。
だが、誰であるかは伏せられているにせよ、上からすれば文句のつけようがないバイトだった。
金持ちというとなんとなく嫌味なタイプが目に付きがちで、偉そうにし周りをヘコヘコさせるといったイメージがある。
しかし今回の依頼人はそういったこともないのだろう。ストレスフリーな上に報酬も高い、なんとも有り難い話だ。
「燈瑩、俺の事も誘ってくれていいのに」
「信用無いんとちゃうか」
ぶーたれる東を上が切って捨てる。
とはいえ東はプライベートはダメダメだが、仕事に関しては口が固いしいざとなったら踏ん張る男気もそれなりにある。
東でも別に良かったような気もするけど。俺が金に困ってたから案件を回してくれたのかな、と上は焼き芋を剥きつつ思った。
《疲れた時に、ホッと一息!いつもあなたのお側に…鴛鴦茶♡》
CMが流れる。画面の中で笑う少女。
実は燈瑩が東を選ばなかった理由は他にもあったのだが、この時の上はまだそれを知らない。
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