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枯樹生華
嘘と切り札・後
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枯樹生華8
「俺の知り合いにアンバーって人居たよ。伯父さんが探してたんでしょ?」
「えっ?凄い!樹はお友達が多いのね!」
思いがけない発言に紅花がハシャぐ。
事後報告になるが燈瑩は許してくれるだろう。それにここ数日で調べをつけた内容はあの時【東風】でたてた推測と遜色なく、遅かれ早かれ伯父との衝突は避けられない事態だった。
「アンバーの事も含めて、伯父さんと話したいことがある。今度九龍湾に呼んでくれないかな?」
樹のお願いに、わかったと頷く紅花。アンバーの情報を得る──伯父の機嫌をとる──ことが出来そうで、いくらか安心したようだ。
これでさしあたり紅花が殴られる事はない。【黑龍】との繋がりを得る打診ができて伯父は気分がいいだろう。
その際に何をどう話すかを考え、紅花の今後の為の準備もしなければ。
普段通り好き勝手に動いていいのであれば正直そんなに難しくは無いが、紅花の立場や心情を鑑みると慎重に事を運ばざるを得ない。
雨が上がり、茶餐廳でお茶を楽しんだあと紅花を見送る。
アンバーについて伝えた事と顔合わせを申し入れた事で、状況は大きく変わるだろう。明日紅花と会ったら伯父から何らかの返答があるはず。
樹が【東風】に戻ると、東と猫がイカサマ大小で白熱しているところだった。
早々に抜けたらしい燈瑩が横で掛け金の管理を請け負っている。第三者が勘定しないと東はサイコロだけでなく札束にすら小細工を仕掛け誤魔化すからだ。
「おー、おかえり。ガキどうだった?」
猫がテーブルから目を離さないままぶっきらぼうに言った。口は悪いが、紅花を気にして【東風】に顔を出してくれているのである。
「痣だらけだった」
「は?」
樹の返答に視線をこちらに向けた猫の隙を突き、東がイカサマをしようと動いた。
そんなもの織り込み済みだった猫は一瞥もせず扇子を東の顔面に飛ばす。音もなく放たれた小型の鉄扇は見事に鼻っ柱をとらえ、東は呻き声と共に椅子から転がり落ちた。
「伯父、虐待までしてんのかよ」
詳細を聞いた猫が眉間にシワを寄せる。流れを説明する中で、樹がアンバーについて独断で話した事を謝罪すると、燈瑩は何の問題もないと笑って言葉を続けた。
「もう殆ど情報も集まってるから。伯父が黒幕なのは間違いないかな、馮さんの件も」
裏社会での伯父のルートをさぐり、売人や客のデータからもともとそれを持っていた人物を割り出し、さらに死亡原因や状況まで特定した。予想通り、辿っていく先には全ての事件で伯父の姿がチラつき、完全に名前が出ているものも。もはや疑いようはない。
燈瑩が煙草に火をつけながら質問をする。
「樹、どうしたい?」
どうしたい…か。樹は悩んだ。
個人的には紅花と伯父を切り離し、紅花が安心して暮らせる環境を作りたい。田舎に居るという祖母の元へ預けるのが最善だろう。
だが、どう切り離すのか。伯父が紅花を手放すような条件をこちらが出せる訳では無い。というより、燈瑩や樹が狙われている以上、丸く収める方法など本当は存在しないのだ。
流れによっては…紅花に失望される結末を迎えることになる。このままいけば伯父を片付ける方向になってしまうからだ。
「伯父さんと会ったら、話してみる。多分駄目だと思うけど」
この件からは手を引いてもらい、紅花は祖母と暮らせるように。無理筋だということはわかっている、伯父には何のメリットも無いのだから。
しかしこっちも、通常なら問答無用で葬る──そもそもそれが物騒なのだが──ところ、紅花が居るが故に最大限の譲歩を試みている。
これでカタがつかなければ仕方無い。
「じゃあ俺はそれ用に準備するよ」
燈瑩が穏やかな声音とは裏腹な意味合いのこもった台詞を口にする。
願ったような結果になる可能性は限り無く低い事をわかっているからだ。その上で、どう転んでもいいように色々と手を回してくれるのだろう。
「ありがとう」
「ん?どっちかって言うと俺の問題でしょ」
感謝を述べる樹に、お礼を言うような話ではないと笑う燈瑩。
確かに現状で、的にかけられ早急に対応する必要に迫られているのは燈瑩だ。
だがそれは‘どちらかと言えばそう’なだけ。伯父には樹を取り込む画策もある。
加えて紅花の件については完全に色々と私情が挟まっており、燈瑩1人で動くのであれば伯父を早々に殺して終いなのに、ややこしいことになっているのは樹も承知していた。
「俺も紅花ちゃんの事は気になるし。みんなそうだよ、だから猫もこうやって来てるんだもんね」
「るせぇな。まぁ…やれる事ありゃ言えよ」
燈瑩の言葉に猫は気怠そうに舌打ちしたが、態度と反対に台詞は優しいものだった。
樹はもう一度ありがとうと言って、窓の外へと目を向ける。
いつの間にかまた降り出した雨は街を濡らし、九龍に深く立ち込めた霧はまるで、これからの先行きに思いを巡らせる各々の心の内を表しているかのようだった。
「俺の知り合いにアンバーって人居たよ。伯父さんが探してたんでしょ?」
「えっ?凄い!樹はお友達が多いのね!」
思いがけない発言に紅花がハシャぐ。
事後報告になるが燈瑩は許してくれるだろう。それにここ数日で調べをつけた内容はあの時【東風】でたてた推測と遜色なく、遅かれ早かれ伯父との衝突は避けられない事態だった。
「アンバーの事も含めて、伯父さんと話したいことがある。今度九龍湾に呼んでくれないかな?」
樹のお願いに、わかったと頷く紅花。アンバーの情報を得る──伯父の機嫌をとる──ことが出来そうで、いくらか安心したようだ。
これでさしあたり紅花が殴られる事はない。【黑龍】との繋がりを得る打診ができて伯父は気分がいいだろう。
その際に何をどう話すかを考え、紅花の今後の為の準備もしなければ。
普段通り好き勝手に動いていいのであれば正直そんなに難しくは無いが、紅花の立場や心情を鑑みると慎重に事を運ばざるを得ない。
雨が上がり、茶餐廳でお茶を楽しんだあと紅花を見送る。
アンバーについて伝えた事と顔合わせを申し入れた事で、状況は大きく変わるだろう。明日紅花と会ったら伯父から何らかの返答があるはず。
樹が【東風】に戻ると、東と猫がイカサマ大小で白熱しているところだった。
早々に抜けたらしい燈瑩が横で掛け金の管理を請け負っている。第三者が勘定しないと東はサイコロだけでなく札束にすら小細工を仕掛け誤魔化すからだ。
「おー、おかえり。ガキどうだった?」
猫がテーブルから目を離さないままぶっきらぼうに言った。口は悪いが、紅花を気にして【東風】に顔を出してくれているのである。
「痣だらけだった」
「は?」
樹の返答に視線をこちらに向けた猫の隙を突き、東がイカサマをしようと動いた。
そんなもの織り込み済みだった猫は一瞥もせず扇子を東の顔面に飛ばす。音もなく放たれた小型の鉄扇は見事に鼻っ柱をとらえ、東は呻き声と共に椅子から転がり落ちた。
「伯父、虐待までしてんのかよ」
詳細を聞いた猫が眉間にシワを寄せる。流れを説明する中で、樹がアンバーについて独断で話した事を謝罪すると、燈瑩は何の問題もないと笑って言葉を続けた。
「もう殆ど情報も集まってるから。伯父が黒幕なのは間違いないかな、馮さんの件も」
裏社会での伯父のルートをさぐり、売人や客のデータからもともとそれを持っていた人物を割り出し、さらに死亡原因や状況まで特定した。予想通り、辿っていく先には全ての事件で伯父の姿がチラつき、完全に名前が出ているものも。もはや疑いようはない。
燈瑩が煙草に火をつけながら質問をする。
「樹、どうしたい?」
どうしたい…か。樹は悩んだ。
個人的には紅花と伯父を切り離し、紅花が安心して暮らせる環境を作りたい。田舎に居るという祖母の元へ預けるのが最善だろう。
だが、どう切り離すのか。伯父が紅花を手放すような条件をこちらが出せる訳では無い。というより、燈瑩や樹が狙われている以上、丸く収める方法など本当は存在しないのだ。
流れによっては…紅花に失望される結末を迎えることになる。このままいけば伯父を片付ける方向になってしまうからだ。
「伯父さんと会ったら、話してみる。多分駄目だと思うけど」
この件からは手を引いてもらい、紅花は祖母と暮らせるように。無理筋だということはわかっている、伯父には何のメリットも無いのだから。
しかしこっちも、通常なら問答無用で葬る──そもそもそれが物騒なのだが──ところ、紅花が居るが故に最大限の譲歩を試みている。
これでカタがつかなければ仕方無い。
「じゃあ俺はそれ用に準備するよ」
燈瑩が穏やかな声音とは裏腹な意味合いのこもった台詞を口にする。
願ったような結果になる可能性は限り無く低い事をわかっているからだ。その上で、どう転んでもいいように色々と手を回してくれるのだろう。
「ありがとう」
「ん?どっちかって言うと俺の問題でしょ」
感謝を述べる樹に、お礼を言うような話ではないと笑う燈瑩。
確かに現状で、的にかけられ早急に対応する必要に迫られているのは燈瑩だ。
だがそれは‘どちらかと言えばそう’なだけ。伯父には樹を取り込む画策もある。
加えて紅花の件については完全に色々と私情が挟まっており、燈瑩1人で動くのであれば伯父を早々に殺して終いなのに、ややこしいことになっているのは樹も承知していた。
「俺も紅花ちゃんの事は気になるし。みんなそうだよ、だから猫もこうやって来てるんだもんね」
「るせぇな。まぁ…やれる事ありゃ言えよ」
燈瑩の言葉に猫は気怠そうに舌打ちしたが、態度と反対に台詞は優しいものだった。
樹はもう一度ありがとうと言って、窓の外へと目を向ける。
いつの間にかまた降り出した雨は街を濡らし、九龍に深く立ち込めた霧はまるで、これからの先行きに思いを巡らせる各々の心の内を表しているかのようだった。
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