九龍懐古

カロン

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香港麻雀

殴り合いと一文無し・後

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香港麻雀 2





九張落地カウチェンロックテイ

言って、アズマは牌を9枚倒す。

通常ポンやチーをし9枚の手札が表になった時点で宣言するもの…だが、今回のアズマは配牌された段階での唐突な手牌の公開。何の意味も成さないし、ルール外もいいところ。

しかしその9枚はもちろん揃っている。最初から集めてましたと言わんばかりの手持ち。イカサマをさらしたうえに待ちも一目瞭然、メリットなどひとつもない。


そう。ただの煽りだ。


「舐めてんなぁ?眼鏡よぉ」

言って、マオも手牌を9枚倒す。揃っている。燈瑩トウエイも倒した。やはり揃っている。
4人中3人が意味もなく初手から9枚を積み込んでいるという事実含めさらす事態、そして全員既に聴牌テンパイ


空気がヒリつく。試合が始まり、その直後────


「あ、和了あがり」

ふいにイツキが呟く。全員が手を止め注目する中、イツキはパタンと手牌を倒した。



清老頭チンロウトウ



なんのことはない、イツキも初手からテンパっていたのだ。特にイカサマ無しに。

しかもこの役満、統計上の出現率が恐ろしく低い。実戦では10万局に2回ほどとも言われている。


「はぁあ!?マジかよ!?」

驚いて叫ぶマオ、破顔する燈瑩トウエイアズマはなぜか、ヤダ何それすごい!!とオネェ風。

「もうこれイツキの勝ちで終わりでしょ」
「だな。めだめ」

燈瑩トウエイはお手上げのポーズをし、マオもガシャッと手牌を崩す。
どんなイカサマにもまさる豪運に脱力したのだった。どのみち最終局だ、キリもいい。

と────イツキアズマに手を差し出した。てのひらを上に向けた、ちょうだいの仕草。

アズマ、払って」
「え?」

何を払うのかわからずキョトンとするアズマに、イツキは捨て牌を指さす。アズマは青ざめた。


この和了あがりはツモではなかった。
食糊ロンだ、アズマからの。


てっきりイツキ自摸ツモったものだと思っていたが、アズマの放銃だった。
役満直撃、青天井なのでついでに人和レンホー上乗せ。どマイナスである。

「え…待って、イツキ…」
「払って」

掌は引っ込むことはなく、よりいっそうアズマへ近付けられた。

アズマは焦る。問題はレートだった。

カムラから巻き上げてやろうなどと企んでいたため初めからいくらか高額だったのに加え、メンツが燈瑩トウエイに代わった際にさらに高値に引き上げられていた。

みんなを見回すアズマだがカムラは無表情で拍手しており、燈瑩トウエイは顔を隠して爆笑、マオには自業自得だ払えバカと一蹴された。
イツキに視線を戻す。

「…分割はききますか…?」
「きかない」
「ですよね!!」

問答無用で財布ごと持っていかれ、アズマはまたみんなを見回した。

「もう一局、もう一局やらない!?お願いだから!!イカサマしないから!!」

少しでも手持ちを取り戻したい泣きの一回。
当然だが誰も聞く耳を持たず、興味はとっくに財布の中身に移っていた。

「あれ、けっこう入ってる」

中の札束を目にしたイツキが意外そうな声を出す。マオはパイプをくゆらせククッと笑った。

こいつ昨日競馬勝ってるからな。欲かくからこうなるんだよ」
「このお金でみんなでご飯行く?」
「俺はパス、もうすぐ【宵城みせ】開けるし。かわりに大地ダイチに食わせてやれよ」
「わかった。カムラ大地ダイチ呼びなよ」
「え?ええの?」

イツキが頷くとカムラ大地ダイチにメッセージを打った。すぐさま嬉しそうな絵文字が返ってくる。

大地ダイチ学校でしょ?みんなで迎えに行こうか」
「あ、じゃあその近くに新しく出来たお店の雲吞麵ワンタンメン食べたい」
イツキホンマによぉ知っとるな、食い物の情報俺より早いやん」

燈瑩トウエイの提案に新店が気になるイツキが二つ返事で賛成。カムラはその情報収集能力に感心している。

大地ダイチが最近ちょこちょこ通い始めた学校、というか九龍独自の寺子屋は中流階級地域にある。
あの辺りは飲食店も小綺麗で美味しいものが多い。新店が開店したとなれば食道楽のイツキとしては放っておけないのだ。

「あの…みんな、無視しないで…」

か細い声のアズマの訴えを意に介さず、一同部屋を出て行く。マオは立ち上がらないアズマの首根っこを掴み外へ引きずり出すと、ガチャンと鍵を閉めた。

「待ってマオ、閉めないで!!イツキも待って!!ねぇ!!みんな!!」



哀れなイカサマ師の悲痛な叫びが、昼下がりの九龍に響き渡った。
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